まさかあの時、隠し撮りされていたなんて…。
その時のがこの写真だ。
唯「あの時、みんなが私に協力してくれることになったんだよね。これもあずにゃんのお陰だね。ありがとう、あずにゃん」
私は写真の中のあずにゃんにお礼を言った。
思えばこの時のことで直接お礼を言ったことがないや。
いつかまた会う時、必ずお礼を言うからね。
思い出に浸り足りない私は、すぐに次のページをめくった。
これをめくる度に、私の大事な何かが甦る。そんな気がしたから。
そして次の写真に目をやった。
唯「……」
これはあまりいい思い出ではない。なぜなら、この写真は全ての結果を思い出させるから。
その写真には、泣いている私とムギちゃんが写っていた。
……
律「いいか?たまにはお前がムギにお茶を入れてやるんだ」
澪「ムギに唯の愛情がこもったお茶を飲ませてやりたいだろ?」
梓「いいですか?慎重に入れるんですよ…」
唯「…もう!わかったから!気が散っちゃうよ!」
その日、私はムギちゃんの為にお茶を入れる練習をしていた。
これはりっちゃんの提案で、女の子は尽くされると弱いらしい。
本当かどうかしらないけど、りっちゃんがそういうタイプだってのは分かったよ。
唯「すごく意外…」
律「あ?なんかいったか?」
唯「別に何も~」
紬「あら?みんな一ヶ所に集まって何をしてるの?」
唯「…!」
律「ム、ムギ!?いつからそこに!?」
紬「今来たばかりよ。あら?唯ちゃんお茶を入れてるの?」
唯「そ、そうだよ!」
紬「なら言ってくれれば入れたのに…」
澪「違うんだムギ!唯のやつはな…」
梓「まって下さい澪先輩!唯先輩、誰の為にお茶を入れてるんでしたっけ?」
唯「そ…それは…」モジモジ
梓「先輩…!」
唯「…ムギちゃんの、為だよ」
紬「え?私の為?」
唯「そうだよ。だから…ムギちゃんは座って待ってて!」
紬「わかったわ♪なら楽しみにしているわね」
唯「うん!きっと美味しいよ!」
梓「先輩…なかなかいい感じですよ、その調子です…」ゴニョゴニョ
唯「えへへ…そうかな…」ゴニョゴニョ
そして何とかお茶が入れ終わった。
ムギちゃんのと比べると、色もなんだか濃いし、明らかにしぶそうだ。
お茶を入れるのにもコツや腕が問われるんだなぁ…。
なんて考えてる場合じゃない!せっかくの入れたてを飲んでもらわくちゃ意味がないじゃん!
そう…あとは運ぶだけ…の筈なのに…
律「唯ー!もっと真っすぐ歩けー!」
唯「うわわわ…これってすごく難しいねぇ…」
澪「ならなんでトレーなんて使ったんだよ…」
唯「だって~、このほうが雰囲気出るじゃん」
梓「でも運べなきゃ意味がないじゃないですか…」
唯「うぅ…計算外だ…」
…私はムギちゃんにお茶を運べないでいた。
紬「大丈夫?私から取りに行くから…」
唯「ダメ!ムギちゃんは座ってて!」
紬「え…?でも…」
唯「いいから!ムギちゃんは座ってるだけでいいから!」
だって、これをムギちゃんの所に運んで初めて、私の努力は報われるんだもん!
なら全部自分の手でやらなくちゃ意味がない!
唯「…でも辿り着けないよぉ!」
律「あ、唯!足元!」
唯「…えっ?」
ツルッ
何か踏んだ、と思った瞬間私の体は宙に浮いた。
全てがスローモーションに見える。トレーの上のお茶はゆっくりと中身をまき散らしながら空を飛んでいた。
ああ…私のお茶…!せっかく頑張って入れたのに…
ドン!
唯「痛っ!」
どうやら私の体は背中から床に叩き付けられたみたい…
背中が少し痛い…
唯「いたたたた…」
律「唯!お茶ー!」
梓「先輩危なーい!」
…そうだ!私のお茶!
私はお茶を探そうと目を開けた。
でも探す必要はなかった。なぜならお茶は目の前に…
ばしゃっ!
唯「……」
そうか…あずにゃんの言う危ないの意味がわかったよ。
確かにこれは危ない。
唯「…あっつ~~~~~い!!!」
結果、りっちゃんのお茶作戦は失敗に終わりました。
この作戦で失ったものはありません。ただ、得たものはいっぱいあります。
それは私にお茶運びなど出来る筈がないということ。これは憂と純ちゃんが部室に見学に来た時に証明済みの筈なのに、私は同じ過ちを繰り返しました。
次に得たもの、それは火傷です。まだ全身がヒリヒリするのでお風呂は大変です。
そして最後に得たもの、それは、ものをちゃんと管理するという教訓です。
なぜなら、今回私が踏んで滑ったもの、それはギー太のストラップだからです。
そういえば床に置きっぱなしなのを忘れてました。
私は相変らずです。大人になってもゴミを床に捨てるようなまねをしている様な気がします。
唯「今回の作戦での失敗を次回の作戦に生かし、見事成功させたいと思います!
以上!報告を終わります!」
律「うむ!御苦労、唯隊員!」
澪「…なにやってんだよ」
―それから数日後
次は澪ちゃんの作戦で詩を書くことになった。
なんでも、自分のことを歌われて悪い気がする人はいないらしい。
たしかにそうかもしれない、この作戦は澪ちゃんらしいや。
澪「どうだ唯、できたか?」
唯「だめだよぉ、全くできない…私って才能ないのかな?」
澪「途中まで見せてみろよ」
唯「あっ!まだタイトルしかできてないのに…」
澪「どれどれ…」
澪「…沢庵に…首ったけ…?」
澪「…唯、お前って本当にムギが好きなのか?」
唯「そ…それはその…大好きだよ」
澪「…そうか、ならこのタイトルはやめろ。これはムギに対する冒涜だ」
唯「えぇ!?そんなぁ…」
澪「いいか唯、詩っていうのはその人の好きなところを書いたりするんだ。私のふわふわ時間もそうだからな」
唯「えっ!?澪ちゃんの好きな人って誰!?」
澪「あっ…それは…言えない」
唯「え~?なんで~?」
澪「なんでもだっ!大体唯はムギのどこを好きになったんだよ?」
唯「ん~っと…ムギちゃんの好きなところはねぇ…」
唯「好きなところは…」
…あれ?どこだろう?
その前にどうして、いつから好きになったんだっけ?
唯「好きな…ところは…」
どうしてだろう、こんなにも好きなのに。
なのに好きな理由が見付からない。
…なら、この気持ちは嘘なの?
唯「……」
澪「唯?」
唯「…わからない」
唯「分からないよ…どうして私はムギちゃんが好きなんだろう?」
澪「唯…」
唯「どうしよう澪ちゃん…この気持ちが嘘になっちゃうよ…」
唯「こんなにも好きなのに…理由が見付からない…」
澪「大丈夫だよ。好きになるっていうのはそうことなんだ」
唯「え…?よくわかんないよ…」
澪「唯はムギが好きな気持ちに嘘はないんだろ?」
唯「…わからない」
澪「嘘じゃないよ。それだけ悩んでるんだからさ」
唯「でも…理由が…」
澪「理由なんていいじゃないか、気が付いたら好きになってたでさ」
唯「でも、それじゃ詩が書けないよ…」
澪「…詩を書くのってさ、簡単なことじゃないんだ」
澪「好きな人の好きな部分を探す、それはちゃんと自分の気持ちに向き合うってことなんだ」
唯「……」
澪「それでさ、書きあがる度に相手の好きな部分が見付かって、もっと好きになる」
澪「そこが、詩を書く醍醐味だと私は思ってるよ。だから唯もこれから探せばいいんだよ」
唯「澪ちゃん…ありがとう」
澪「いいんだよ、それで唯がムギのことをもっと好きになってくれればさ」
唯「うん!本当にありがとう澪ちゃん、なんだか心が軽くなったよ」
澪「そ、そうか…なんだか照れくさいな///」
澪ちゃんは顔を真っ赤にして私に微笑みかけてくれた。
私はこの高校で、この部に入部して本当によかった。
だって、こんな素敵な友達なかなかいないよ。
澪「? なに笑ってるんだ?」
唯「ん~?なんでもないよ。ただやる気が出てきたなぁって!」
澪「おっ、そうか!なら今いったことを生かしてなんか書いてみろよ」
唯「うん!」
私は澪ちゃんが言っていたことを軸に、新たに詩を書いた。
今回のことで分かったことがある。それはムギちゃんの好きなところ。
私はムギちゃんの優しいところも、おっとりしたところも、沢庵なところも全部大好きなんだ! ありがとう澪ちゃん。私、自分の気持ちに向き合えた気がするよ。
唯「…できた!」
澪「おっどれどれ、見せてみろよ」
唯「へっへ~ん!今度は自信作だよ!」
澪「まずはタイトルからだな…」
澪「……」
澪「Dear…My…Takuan…?」
唯「ど、どうかな…?」
澪「…だめだ」
唯「えぇ!?まだ詩も見てないのに!?」
澪「いや…沢庵からまず離れろよ」
唯「だって、私はムギちゃんの沢庵も含めた全部が好きなんだもん!」
澪「…言っておくが、あれは眉毛だぞ」
唯「…え?」
澪「え?」
それから澪ちゃんの指摘もあって、何とか詩は完成した。
確かに新しい詩は沢庵からコンセプトは離れているけど、私は何か物足りないと思う。
澪『いいか!とにかく沢庵はダメだ!それじゃムギが不快な思いをしてしまうかもしれない』
唯『そうかな…?』
澪『そうなの!』
それでもムギちゃんに嫌われるよりはずっとましだ。
澪ちゃんは三年間も作詞してきたんだから、ここは澪ちゃんの言う通りにしよう。
そして数日後、この詩をムギちゃんに渡す日がついに来た。
紬「こんにちわー、あら?唯ちゃんだけ?」
唯「う、うんそうだよ!今日はみんなこれないってさ」
紬「そうなの…残念ね」
唯「あはは…そうだね」
紬「なら私達も帰りましょうか」
唯「ま…まって!これ、受け取ってください!」
紬「これは…手紙?あらあら♪もしかして私にラブレター?」
唯「…あ」
…確かにこれはラブレターだ。なんていったって私のムギちゃんへの対する思いがその紙に凝縮されているんだから。
だからここでラブレターだって言ってしまえばいい。それが一番の近道なのに…
唯「ち…違うよ!とにかく読んでみて!」
私は遠回りの道を選んでしまった。
紬「そう…」
唯「え…?」
一瞬ムギちゃんが悲しそうな顔をした。
もしかして冗談じゃなく期待してたのかな?
紬「なら読むわね、どれどれ…」
唯「あ…うん…」
紬「Dear My Keys?これ…詩?」
唯「私が作ったんだ、読んでみてよ」
紬「え?えぇ」
この詩は私の好きな人を歌った詩。
ムギちゃんのキーボードはその優しい音で全てを包み込む。
あずにゃんのギターも、澪ちゃんのベースも、りっちゃんのドラムも、もちろん私のギターも、この音に包まれるから演奏の輝きが増すんだ。
だから私達は今でも部活を続けている。みんながその音に魅了されているから。
そう、それはまるで、鍵盤の魔法。~Dear My Keys~
唯「…ていう意味の詩なんだけど…」
紬「……」
唯「…どう、かな?」
紬「……」
ムギちゃんは急に顔を伏せて黙ってしまった。
もしかして、今回の作戦も失敗に終わるのかな?
…せっかく一生懸命書いたのに。
唯「……」
紬「…素晴らしいわ、感動しちゃった」
唯「…え?本当!?」
ムギちゃんと一緒に俯いていた私が顔をあげると、そこには本当に嬉しそうな顔をしたムギちゃんが、私を見て微笑んでいた。
…そうだ、この顔だ。私はこの笑顔に徐々に惹かれていったんだっけ。
紬「えぇ、本当よ。すごく嬉しい」
紬「こんなに友達として私を想っていてくれたなんて♪」
唯「え…?ち、ちが…」
違う。私は友達以上にムギちゃんのことが好きなんだよ。
でも、もしここで告白したらどうなっちゃうのかな?もし振られちゃったら?
肝心な時に私の頭はいい方向に働いてくれない。
そのせいで勇気が出せない。。
紬「私も唯ちゃんのこと大好きよ♪」
私はもっと好きなんだよ?この気持ちを伝えたい…こんなにも近くに近道があるのに…
もう遠回りは嫌だ。ここで勇気を出さなきゃ!全てを伝えるんだ!
唯「わ…私も、ムギちゃんが大好き!!!」
紬「え…?」
思わず叫んでしまった。ムギちゃんがびっくりしている。
でも、何か詰まっていたものが全部吐き出された様な、そんな気分だ。
後は私の素直な気持ちを相手に流し込むだけ。悩みや葛藤なんて全て吐き出してしまったから。
唯「私はね…ムギちゃんが大好きなんだよ」
紬「えぇ、分かっているわよ」
唯「違うよ!ムギちゃんの好きとは違う!私の好きは…」
ここまで来たんだ、ためらう必要はない。
唯「愛してるの方なの!!!」
唯「軽音部に入部した日、ムギちゃんは私に微笑んでくれた。軽音部へようこそって…」
紬「……」
唯「私さ、その笑顔を初めて見た時、なんかいいなぁって思ったんだ」
紬「……」
唯「それからその笑顔を見るたびに、いや、ムギちゃんと同じ時間を過ごすごとに、徐々に好きになっていった」
紬「……」
唯「…最初はさ、告白する気なんてなかったんだ。この関係を壊したくなかったから。一生このままでいいって思ってた」
紬「……」
唯「でもそれは無理だった。私はムギちゃんが好き!もっと一緒に二人でいたい!だから…!」
紬「…もういいわ」
唯「…え?」
紬「それ以上は言わないで…お願い」
紬「唯ちゃんの気持ちは分かったから…だから、もういい」
最終更新:2010年01月22日 17:35