―エピローグ

唯「みんな久しぶりだね~!」

律「だな!お前携帯の番号変えたのなんで教えないんだよ!」

唯「え?そうだったっけ?」

梓「そうですよ!だから私達も番号が変わったの教えられなかったじゃないですか!」

唯「あはは…ごめん」

本当はみんなと連絡を取りたくなくてこっそり変えたんだけど…
まさかそのことが裏目に出るなんて…自分でも教えてないこと忘れてたし…

紬「まったく…唯ちゃんは変わらないわね…」

唯「あはは…みんなも相変らずだね!」

本当にみんな変わらないや…
ちょっと小じわが見えたりもするけれど、まぁそれはお互い様だよね。
本当にあの日からみんな変わらないなぁ…。…あれ?みんな…?

唯「…誰か足りなくない?」

律「あぁ、和と澪なら少し遅れるってさ」

そうだあの二人だ!なんで忘れてたんだ私の馬鹿!

憂「それじゃみなさん、家に移動しましょう」

律「そうだな!それじゃみんな、私のマイカーに乗り込め!」

りっちゃんがカギを指の先でくるくると回す。
…え?もしかしてりっちゃんが運転するの?

律「なんだよ唯、その顔は?」

唯「…もしかして、運転手って…」

律「私だよん☆」

唯「うわぁ…」

すごく…不安です。


―そして平沢家

律「とうちゃーく!」

唯「おえぇ…吐きそう…」

梓「律先輩の運転は…粗すぎます…」

律「はははっ!あぁそうだ、私達このまま買い出し行ってくるから唯と憂ちゃんの二人は準備頼むよ!」

憂「分かりました」

梓「えぇ…私達も行くんですか…?」

律「おう!それじゃしゅっぱーつ!」

梓「ぎゃあああああああ!!!」

ブロロロロロロロ…

唯「…いっちゃったね」

憂「うん、私達も準備しよっか」

がちゃっ

唯「ただいまぁー」

玄関のドアを開けると、とても懐かしいにおいがした。
なんでだろう。毎年帰ってきてるのに何年も帰ってなかったみたい。

唯「…この家も変わらないね」

憂「…そうだね。でも、お姉ちゃんはなんだか変わっちゃったね」

唯「そう…だね…」

憂「前に帰ってきた時はすごくつまらなそうな顔してたけど、今日はなんだか違う」

憂「お姉ちゃんはいい意味でまた変わったよ」ニコッ

唯「憂…ありがとう」

いつまでも変わらないものがそこにある。
それはとてもいいことなんだなぁ…って思った。

唯「ねぇ憂、どうして急にみんな集まったの?」

憂「急にじゃないよ。お姉ちゃんが知らないだけでみなさんよく家に来てたんだ」

唯「えっ?なんで?」

憂「みんな寂しかったんだよ、集まる場所がほしかったんだと思う」

唯「そうなんだ…」

私がいない間にこの家は集会所と化してたのか…
私がいないところでみんなが集まってるのを想像すると…

唯「…少しさびしいなぁ」

憂「それはみなさんも一緒だよ、やっぱりお姉ちゃんがいないから、いつもみんなどことなく寂しそうだったもん」

唯「…そうなの?」

憂「うん、特に律さんなんてお酒が入ると唯はどこだー!唯ー!なんて大声でよく言うし」

唯「なんだかその姿が目に浮かぶよ…」

唯「それじゃ…そろそろ準備しようか」

憂「あ、お姉ちゃんは座ってて」

唯「でも、私も何か手伝いたいな」

憂「大丈夫だよ、食器を出すだけだから私一人で十分」

唯「え?だってりっちゃんは二人で準備しろって言ってたから、結構やることがあるのかと」

憂「ないよ、きっと律さんは気を使ってくれたんだよ。私達二人が久しぶりにゆっくり話せるように」

唯「りっちゃん…」

りっちゃんも変わらないなぁ…
そういうさり気ない気使いができるところは、あの頃のままだ。


―そして夜

がちゃっ

律「たっだいまー!」

紬「今帰りましたー♪」

梓「はぁ…はぁ…吐きそう…」

憂「お帰りなさーい、お買いものご苦労様です」

唯「そういえば今晩の御馳走は?」

律「ふふーん!唯の為に奮発したんだぞー!じゃーん!」

唯「おぉ…!これは…!」

紬「唯ちゃんの好きなマシュマロ鍋よ♪」

唯「…おいしそう」ジュルリ

律「澪と和のやつまだこれないってさ、先に始めようぜ」

憂「そうですね、それじゃ今お酒持ってきますね」

律「いよーまってましたー!じゃんじゃん持ってきてねー!」

梓「まったく律先輩は…いつもそれですね…」

紬「そういえば唯ちゃんはお酒飲むの?」

唯「うーん、まぁたしなむ程度にかなぁ?あずにゃんとムギちゃんは?」

梓「まぁ私もたしなむ程度ですね…」

紬「私はお酒、結構自信あるわよ」

唯「えぇ!?なんか以外…」

憂「みなさんお待たせしましたー」

律「よし!酒も来たことだしそろそろ…」

律「かんぱーい!!!」

一同「かんぱーい!!!」

律「ゴクゴク…ぷはぁ!この一杯の為に生きてるんだよなぁ!」

唯「あはは♪りっちゃんオヤジ臭ーい!」

こんなどうでもいいことが今はこんなにも楽しいなんて
やっぱり仲間は素晴らしいな。あっちではこんな気持ち、絶対味わえないもん。

…でも、酔っ払いはどこでも同じだってことはわかる。

律「おーいゆいー!のんでるかぁー!?ひっく!」

唯「の、飲んでるよ。りっちゃんもう酔っぱらっちゃったの?」

梓「律先輩はいつもこうですよ…」

紬「ペースが速すぎるのよね…もっと考えて飲まなくちゃ…」

律「なんらぁー?なんのはなししってんらよぉー?」

梓「なんでもないですよ!お酒臭いので近寄らないで下さい!」

律「なんらよまったく…ひっく!」

律「……」

唯「…りっちゃん?どうしたの…?」

律「ゆいー!ゆいはどこだー!?ゆいー!!!」

梓「始まった…」

唯「これがさっき憂がいってた…」

憂「うん…ちょっとうるさいよね…」

梓「これはもう騒音レベルだよ…」

律「ゆいー!!!どこいったんだよー!!!」

…確かに、これは騒音レベルだ。
大体私は目の前にいるじゃん…

律「ゆい…うぅ…」グスッ

唯「え…?今度は何…?」

梓「見ててください…泣きますから」

律「うわあああん!!!ゆいどこにいっちゃったんだよぅ…!さびしいよぉ…!」ポロポロ

唯「りっちゃん…」

梓「…唯先輩がいなくなって一番寂しいのは律先輩なんですよ。私達の中で一番意地っ張りのくせに一番寂しがり屋ですからね…」

紬「普段は唯ちゃんがいなくなって寂しいなんて一言も言わないの…」

唯「りっちゃん…私はここにいるよ…」

私はりっちゃんの正面に座りこんだ。
りっちゃんはあの日から時間が止まったままなんだ。
…なら、私が何とかしてあげなくちゃ!

律「ゆいー!!!どなってごめんよぉ!!!だからかえってきてよー!!!うわあああああん!!!」ポロポロ

唯「…!」

…そうか、あの日のことをまだ気にしてるんだ。
普通は大切な仲間に怒鳴ったりなんかしたくないよね…
それなのに…りっちゃんは私の為だけを想ってあの日叱ってくれたんだ。

唯「ごめんねりっちゃん…ごめん…!」

私はりっちゃんを優しく包み込むように抱きしめた。
酒臭くたってかまわない。私はあの日のりっちゃんの言葉の意味がようやく分かったんだよ。

律「ゆいー!!!どこにもいかないでー!!!」ポロポロ

唯「どこにも行かないよ…だって、私達はいつだって仲間なんだから…」

律「…!」

りっちゃんの体がぴたりと止まった。
そして虚ろな眼で私をじっと見つめる。

律「…そう、か。あの日の言葉の意味が…ようやく分かったんだな…」

唯「うん、少し時間がかかっちゃったけどね…」

律「へへ…いいんだよ…私はその一言を…ずっと待ってたんだから…」

律「…お帰り、唯」

唯「…!」

心の中に何か熱いものが込み上げてくる。
そしてそれは私の眼から溢れ出た。

唯「…うん、ただいま…りっちゃん…!」ポロポロ

律「えへへ…唯は相変らず泣き虫だなぁ…」

唯「りっちゃんだってさっきまでずっと泣いてたじゃん…」グスッ

律「そうだっけ…?」

唯「えへへ…そうだよ」

私達は抱き合ったままお互いの顔を見つめた。
その顔は涙でボロボロで、でも二人ともあの頃に戻った様な笑顔をしていた。

律「…うっ!」

でも、突然りっちゃんの顔が青ざめた。
これは…もしかすると…

梓「あぶないせんぱーい!逃げてー!」

憂「おねえちゃーん!」

あぁ、間違いない、これは…

律「おええええええええええ!!!」びちゃびちゃ

唯「……」

紬「…遅かった」


……

唯「ふぅ…極楽極楽…」

りっちゃんの汚物まみれになった私は、お風呂に入って汚れを落としていた。
お酒をあまり飲んでいなくて正解だったと思う。

唯「…あー、生き返るなぁ」

梓「先輩、湯加減どうですか?」

突如脱衣所からあずにゃんの声が聞こえた。
…ちょっとからかってやろうかな?

唯「ちょうどいいよぉー、あずにゃんも一緒に入る?」

梓「そうですね、では失礼します」

がらっ

唯「…え?えぇ!?」

梓「? 何をそんなに驚いているんですか?」

唯「い、いやだってまさか本当に一緒に入るなんて…!」

梓「何言ってるんですか。ほら、私も湯船につかるので詰めてください」

唯「は…はい…」

梓「…ふぅ、生き返りますね…」

唯「……」

梓「……」

…気まずい。あずにゃんと二人っきりだと、どうしてもあの日のことを意識してしまう。

唯「……」

梓「…先輩、あの日のこと、謝らせてください」

唯「え…?」

あの日って…
どうやらあずにゃんも同じことを考えていたみたい。

梓「元々の原因は全て私です…私があの日、唯先輩にアピールなんかしたりするから…」

唯「……」

梓「私が余計な事をしたから…二人は別れてしまったんですよね…」

梓「…本当に、ごめんなさい!」

唯「…違うよ、あずにゃんは悪くないよ。本当に悪いのは私の方」

梓「え…?」

唯「…私はね、別れた理由を他人のせいにしたかっただけなんだ。これがあずにゃんに対する罪滅ぼしだって…」

梓「……」

唯「でもそんなのただのいい訳。私はあの日逃げたんだよ、自分の気持ちと仲間の気持ちから」

今になって分かったことだけどね…
それを気づかせてくれたのは仲間たちだ。


最終更新:2010年01月22日 17:57