梓「ニャンニャン…ニャーン……」
―夏の暮れ、日も落ちかけた部活帰り。
唯「みんなー!ばいば~い」
澪「またな~」
梓「またです」
先輩達と別れ、今日も私はあてもなく街をぶらつく。
梓「あ、でもまずはご飯を食べなくちゃね」テクテク
…
ピンポーン
梓「ママー。ただいま」
シーン…
ガチャ
梓「ただいm」
ガランッ
母「食べたらさっさと行きなさい」
バタン
梓「……」
ちゃんと顔を合わせてただいまも言わせてもらえない。まぁいつもの事だけど……
それでもただいまを言う私。
梓(だって自分の家だもん)
玄関先に突っ立っている私の足元に乱雑に置かれた猫用フードボウルには
ご飯とお味噌汁が一緒に盛られ、スプーンが刺し入れられている。
梓「…いただきまーす」
文字通りの「ねこまんま」、これが私の晩御飯。
梓「スプーン、全部中に入っちゃってるや」チュプ
梓「……」モグモグ
梓「わかめにあぶらあげ…あっ、ダシ取ったにぼしが入ってる。へへ」
猫「ニャーン」
梓「ん。にぼし?」
梓「だめだよこれは私のだよ」
猫「ニァアー」カリカリ
梓「だめだめ」モグモグ
梓「……ぷぅ」カチャ
ピンポーン
梓「ママ、食べ終わったよー」
それだけインターホンに言い残し、返事を待たずに玄関から離れる。
門を出て少ししたところで玄関の開く音がした。皿を回収したんだろうな。
梓「さて今日はどうしようかなぁ~。まだ7時前だ」テクテク
10時半から11時まで。この30分間だけ玄関の鍵が開くので、
それまでは何かして時間を潰す。これが私の平日の日課だ。
休日は一日中部屋にいるかどうかの選択が出来るんだ。
まぁ外に出たら最後、その日も夜中になるまで帰れないんだけど…
梓「……」テクテク
「はやくーはやくー」
梓「ん?」
梓(あれは確か近所の……)
父「たかしは何食べるか決めてるのかー?」
子「ハンバーグなのれす」
母「あらあらたかしちゃんったらはしゃいじゃって…」
アハハハ…
梓(一家でこれから外食かなぁ。歩いて行くんだ、なんか良いね)
梓「はんばーぐ。はんばーぐかぁ」ぐぅ~っ
梓「……」ゴソゴソ…パカッ
チャリチャリ
梓「……うまい棒ってハンバーグ味あったかなぁ」
…
ガーッ
店員「しゃっすえ」
梓「……」キョロキョロ
梓「めんたい、ポタージュとんかつソース…やっぱり無いかぁハンバーグなんて」
梓「はぁ。……ん、たこやき。たこやき味」
梓(そういえばいつだったか律先輩が…)
―律『たこやきっ!』
梓「……」
梓「どこが面白いんだろうね、あのギャグ」
梓「あ、そこが面白いのかな?一回りして。ププ」
梓「たこやき味にしよっと」
梓「ん?」
コンビニを出たところで誰かの視線を感じた。
ストーカーかなぁ。
梓「……」
でも多分知ってる人なので放っておきます。
梓「まぁいいか」
梓「どうしよう。すぐ食べてもいいけどどこかでぼーっとしながら食べたいな」
猫「ニャーン」
梓「ごめんこれもあげられないよ」
梓「……」テクテク
ヒタヒタ…
猫「ニャォオ」
梓「はぁ、しつこいなー別についてきてもいいけど絶対あげないよ~」
ちょっと大きめの声を出す。
梓(これは猫ちゃんと、あともう一人に言ってるんですよー)
律「……」コソコソ
律(バレてんのかなぁ……)
梓「……」ピタ
梓「結局ここに来ちゃった」
澪先輩のお気に入りスポット。の、一つ。
他にもいくつかあるみたいな事言っていたけど、私はここしか知らないからね……
梓「先輩は居ないね。違うとこに行ってるのかな」
梓「まぁいいや、やっと落ち着けるよ」ストン
梓「ふぅう~~~……」
梓「…………」ホゲー
梓「…あっ、あそこの部屋明かりがついた。帰ってきたのかなぁ」
梓「こっちも。あっちも。んん~じゃあ次は……あそこだ!」ピッ!
…パッ
梓「! うわー偶然、ついたよー。すごいやエスパーだね私」
梓「……あのマンション、あそこが電気つけば一段埋まるのになぁ…」
梓「えい!」ピッ
シーン…
梓「まぁそんなに都合良くはつかないか。はは」
大体はこんなどうでもいいことを考えたりしているうちに時間が過ぎていく。
猫「ニャーゴ」ガサガサ
梓「あ、こら。その棒は私が食べるんだよー」ペチ
猫「フシッ!」
梓「お、脅してもだめだよ。あげないから」ペリリ
梓「いただきまーす」モグ
梓「……」サフサフ
1センチほどの厚さを削り取るように少しずつ食べる。
梓「もぐもぐ」
梓「たこやきっていうかソースだね」
梓「もう半分食べちゃったよ」
梓「…あと半分はまた後で食べよう」ゴソッ
梓「なんだか更にお腹空いた気がするなぁ…」グゥ
梓「うまい棒買わなきゃよかったかな」
猫「ニャーン」
梓「だからってあげないよーん」
猫「ニャー」カリカリ
梓「だめだって」
梓「ふー……」
―――
律(梓のやつずっとああしてるつもりなのかな…)コソッ
律「うぅ、のどかわいた。何か買ってこよう」タッタッ
―――
澪「さぁて今日こそ歌詞完成させるぞぉー」
澪「やっぱり仕上げは“たそがれ坂”じゃないとなー… ってオイ!」
梓「…………」ホゲー
澪「な、なんでまた梓いるんだよ…もぉおおここで作るイメージ固まってたのにぃい」
澪「…くそっ、今日はがつんと言ってやるぞ!」
梓「…………」ポケー
澪「梓!」
梓「……はっ!?」ジュル
梓「あっ、澪先輩どうもですお邪魔してます」
澪「お、お邪魔してますじゃあーないんだよッ!」
梓「は?」
澪「は?じゃないっ!私は今からここで歌詞を仕上げるから今日は他行ってくれ!」
梓「えっ……私は別に気にしませんよ」
澪「私が気になるんだよぉおおお集中できないんだよぉお」
梓「でもこの他にあんまりいいとこ知らないです」
澪「な、なんだ?教えろっていうのか?だめだめ、教えないぞ!」
澪「せっかく部に復帰したんだから早いとこ完成させたいんだ!」
梓「……」じぃい
澪「だ、だめだだめだ!そんな目で見たってだめ!」
梓「……ケチ」
澪「いいよけちで!ほら、どいたどいた」グイッ
梓「あっ」ポテリ
グシャッ!
澪「わぁっ、なんだ!?何踏んだんだっ」ガサ
梓「わ、私のうまい棒……」
澪「え」
梓「半分残してたのあとで食べようと思ってたのに……」
澪「うっ……な、なんだよ私が悪いっていうのか?わざとじゃないぞ!」
梓「…いえ、別に……いいです、一度に食べなかった私が悪いですから…」
澪「……」
梓「じゃあ私行きます。ごめんなさいお気に入りの場所使っちゃって」テクテク
澪「お、おいちょっと待て!」
梓「」ピタ
梓「なんですか?」
澪「後味悪いだろ、ちょっと来い」
梓「はい」テクテク
澪「……」ゴソゴソ
澪「ほら」ポイ
梓「わっ」
梓「……チョコボール?」
澪「か、考えながら食べようと思って買ってたんだ。やるよ」
梓「えーっいいんですかぁ?」
澪(ワザとらしい言い方だなぁオイ)
澪「…いいよ。うまい棒じゃないけどうまい棒より高いしいいだろ」
梓「どうもです」パカ
梓「んむ。もぐもぐ」
澪(ここで食べるのかよ!他行けよ~…あぁ、私のチョコボール…)チラッチラッ
梓「……あれ、先輩も食べたいんですか?」
澪「…元々私のなのになんだその言い方」
梓「一緒に食べますか?」
澪「……うん」
梓「じゃあそこ座ってもいいですか~?」
澪「うぐっ」
澪「……しょうがないなぁああもぉお」
梓「どうもです」
律「ふぅ~、自販機意外と遠かったなぁ……んっ!?」
律「み、澪!なんで……」コソコソ
律「今日も偶然だってのか?こんな場所で偶然なんてあるかよ…」
律(待ち合わせとかしてたんだろうか…)
澪「ハァ。今日も完成お預けかぁ…」
梓「…食べたら行きますからそれから考えてくださいよ」
澪「あ、ホント?じゃさっさと食べよう、よこせよこせ」
梓「だっ、だめですよもう貰ったからんだからこれは私のです、私のペースで食べるです」
澪「なんだとこのっ!」グリグリ
梓「いたたたた」
澪「へへへ」
梓「あはは」
澪「ま、とりあえず分けてよ」
梓「どうぞ」コロコロッ
澪「もぐもぐ」ポリポリ
澪「やっぱりチョコボールはうまいな」モグモグ
梓「そうですね。私は普通のよりキャラメルの方が好きですけど」
澪「このやろ、貰っておいて…」
梓「スイマセーン」
澪「はぁ…」
…
律「な、何話してるんだろ…ちょっと楽しそうだ……」
律「澪ならいいってのか……?」
律「そもそも澪は梓の事知ってんのかな……」
律「……まぁ澪が一緒ならいいか。今日は帰るか…」テクテク
律(なんだこの気持ち…私は何がしたいんだよ…)
…
澪「……」モグモグ
澪「もいっこ頂戴」
梓「だめです」
澪「」
澪「な、なんでだよー。いいだろケチ」
梓「じゃああげたら他の場所教えてくれますか?」
澪「だからだめだって」
梓「だったら私もあげませんです」
澪「なっ…」
澪「……あっ!分かったぞ!」
梓「何がですか?」
澪「もうないんだろ!ははっ、だからだろー。だめだめ、あるフリして粘ろうったって」
梓「……」
澪「なくなったんなら約束通り他行ってくれよな、ほら立った立った!」グイッ
梓「うわっ、ちょっと待ってくださいよ!ほら…」
カラカラッ
澪「」
梓「この通りまだ入ってますよ~」カランカラン
澪「……あ、でも音からしてもうラス1だな」
梓「……」
澪「そうだろ!だから私にくれないんだろーなくなっちゃうから!」
梓「……」
澪「最後の一個だけ残せば全部食べたことにならないから居座れるなんて、そんな屁理屈通りませーん!残念っ!!ほら立って立って」グイグイ
梓「ちょちょ、分かりましたよもう…引っ張らないでくださいよ」
澪「っていうかもう9時過ぎたぞ、普通に家帰れって」
梓「せ、先輩だって」
澪「私は一旦帰ってからだもん。お前そのカッコ、帰ってないだろ」
梓「…………帰りました」
澪「嘘つけ」
梓「嘘じゃないです。制服すきなんです、女子高生ルック」
澪「ギターもかぁ?普通置いてくるだろ」
梓「ギターも好きなんです」
澪「…あ、そう。別にいいけどとりあえずここはもうだめだぞ、これからは私の時間だ」
澪「ほら行った行った」
梓「…ヒント」
澪「え?」
梓「ヒントくださいよー、他の場所の。そしたら自分で探しますから」
澪「ひ、ヒントもピントもだめに決まってるだろ!」
梓「うわぁっ!」
澪「…何」
梓「今のひょっとしてギャグですか?律先輩より寒いかも……意味わかんないし」ブルルッ
澪「」
澪「こらぁあああーーーッ!!!」ガバァ
梓「わぁあごめんなさーい行きます行きます~」タッタッタ
澪「たく……ナマイキ梓め」
澪「ふぁああやっと一人になれたぁ~。よし考えるぞ!」
澪「…………」
澪「だ、だめだ。もう一箱チョコボール買ってこよう」タッタッ
最終更新:2010年01月24日 01:49