いつからだろう、憂が私の学校でのこと、そして私の色々なことをあんまり聞かなくなったのは……
―――晩御飯
憂「お姉ちゃん、おいしい?」
唯「もちろん、憂の料理は世界一だね」
憂「お姉ちゃん、それは言い過ぎだよ」
―――
憂「そうだ、お姉ちゃん、梓ちゃんって軽音部でどんな感じ?」
唯「んー、真面目な感じかな、いつも練習練習言ってるし」
憂「お姉ちゃんや律さんが不真面目なだけじゃないの?」
唯「むー、失礼な、私だって真面目にやるときにはやるんだよ」
憂「ごめん、でも梓ちゃんと比べたら全然でしょ」
唯「当然」
憂「威張ることじゃないよ、お姉ちゃん」
唯「でもね、なんだかんだ言って、あずにゃんも私達と一緒にお茶飲んで、お菓子食べて、だらけてるんだよ」
憂「そうなんだ、梓ちゃん、私には『私は真面目にやってるのに、唯先輩達が遊んでばかりで困る』って言ってたのに」
唯「あずにゃんは嘘つきだねー」
憂「そうだね」
―――
そうだ……私達とあずにゃんが知り合ってからだんだんと憂が私のことをあんまり聞かなくなってなってきたんだ
―――唯の部屋
中野梓ちゃん
私の一年後輩で軽音部ただ一人の新入部員
あだ名はあずにゃん
私がつけたあだ名
猫耳をつけたあずにゃんを見て思いついた
唯「あんなに可愛いんだもん……憂とあずにゃんの話をたくさんするのも当然だよね」
唯「はぁー……」
なんでだろう……自然と溜め息が出た
―――
唯「ごめんね、ギー太……ちゃんとしゃべらせてあげられなくて」
一目で私が恋に落ちたギー太
そんな無口すぎるギー太を饒舌に変えてみせると練習するも最近は前みたいに集中できない
唯「もう寝ようかな……おやすみギー太」
ついこの間までは憂と話すことは私のことがほとんどだったな……そんなことを考えているうちに意識はなくなっていった
―――
憂「お姉ちゃん、そろそろ起きないと遅刻するよ」
いつも通りの朝だ
憂が私を起こしてる
最近私は起きているにも関わらず、自分でもなんでかはわからないけど憂のこの声が聞いていたくて寝たふりをしている
そして憂のこの言葉を合図に起き上がる
憂「もう、遅刻しても知らないよ……私行くからね」
唯「待って、憂、私をおいていっちゃ駄目」
憂「なら、早く準備して」
唯「ほーい」
―――
憂「お姉ちゃん、早く歩かないと遅刻するよ」
唯「待ってよ、ういー」
憂「もう、しょうがないなー」
(唯の手を握る憂)
憂「お姉ちゃん、急ご」
唯「うん」
なんだろ凄くドキドキする
今までは憂と手を握るなんてごく自然なことでこんなことなかったのに
憂「お姉ちゃん、どうしたの、顔が赤いよ」
唯「えっ」
憂「具合悪いの?」
唯「だ、大丈夫だよー、憂が手を繋いだから赤くなったんだよ、きっと」
憂「もう、お姉ちゃん、冗談言わないで」
唯「えへへ」
『冗談』そう憂が言ったとき、何か複雑な気持ちになった
―――放課後
梓「そういえば唯先輩、憂が『最近お姉ちゃんがなかなか起きてくれないから困る』って言ってましたよ」
律「なんだよ、唯、また憂ちゃんを困らせてるのか」
唯「起きようとは思ってるんだよー、でももうちょっとって気分になっちゃって……」
澪「唯らしいな」
律「本当に唯は寝坊助だな」
唯「えへへ」
このとき私が言ったもうちょっととみんなの思っているもうちょっとの意味は違っていた
でもみんなの思ってる意味で通した方がいい気がした
紬「でも憂ちゃんは口では困ってるって言っても毎朝唯ちゃんを起こすのを楽しみにしてるんじゃないかしら」
澪「まぁ、そうかもな」
律「憂ちゃんは唯が大好きだもんな」
唯「えへへ」
りっちゃんが言った『憂は私のことが大好き』聞き慣れた言葉なのにこのときは妙に嬉しかった
梓「……」
律「本当、憂ちゃんはできた子だよな」
澪「そうだな、家事は何でも任せろって感じだしな」
梓「勉強もすごくできるんですよ」
紬「それにすごく優しいものね」
律「本当、唯が羨ましいぜ」
唯「えっへん」
律「お前が威張るな」
憂が誉められて嬉しいはずなのに表面上はそのフリをしても今の私は素直に喜べなかった
憂を自慢するのは私の仕事なのに…そんな思いがあった
梓「でも憂は唯先輩に甘すぎです、だから唯先輩も部活でもすぐにだらけるし……」
唯「むー、あずにゃん、私もやる時にはやるんだよ」
梓「たまにじゃ意味ないです、いつも真面目にやってください!」
唯「りっちゃん隊員、あずにゃんがいつもより恐いです」
梓「これも憂が甘やかすからです」
律「ひょっとして梓、憂ちゃんに甘えられる唯に嫉妬してんのか」
梓「そ、そんなんじゃないです、な、何言ってるんですか、律先輩」
律「冗談で言ったのに、何そんなに慌ててるんだよ、まさか本当に……」
梓「ち、違います」
紬「うふふ、梓ちゃん顔が真っ赤よ」
唯「本当だー」
このときのあずにゃんは誰が見てもわかるくらい顔が真っ赤だった
そしてこのときから私は何か嫌な気持ちを感じ始めていた……
梓「べ、別に赤くなってません」
律「これを見てもそんなことが言えるのかな」
(手鏡を梓に向ける律)
梓「……」
律「んー、梓、どうした」
梓「……と、とにかく唯先輩に嫉妬なんかしてません、憂は私にも優しくしてくれます」
唯律澪紬「……」
梓「あっ……」
律「んー、それはどういう意味かな」
梓「それは……う、憂は私にも優しいし、誰にでも優しいっていう意味です」
律「その憂ちゃんに甘えられる唯が羨ましいんだろ」
(ニヤニヤした顔で梓を見る律)
梓「だから違います!!」
紬「じゃあ、言い方を変えて……梓ちゃんは憂ちゃんが好きなのね」
(ニコニコした顔で梓を見る紬)
梓「!!!」
(驚き、顔を真っ赤にする梓)
唯「えっ……」
ムギちゃんの問いに対するあずにゃんの答えはイエスだろう
誰が見てもまるわかりなほど顔を真っ赤にしているあずにゃんは
抱きしめたくなるほどかわいい
でもこのときから私の中で嫌な気持ちが一気に強くなっていった
梓「な、何言ってるんですか、ムギ先輩……憂のことは好きに決まってるじゃないですか、友達なんですから」
紬「あら、友達としてだけなの?」
梓「もちろんです……そりゃ、憂は優しいし、可愛いけど…別にそんな気持ちは……」
紬「梓ちゃん、別に恥ずかしがることじゃないわよ」
律「そうだぞ、梓」
澪「自分の気持ちに嘘ついても仕方ないしな」
梓「……そうです、私は憂のことが好きです……うぅっ、やっぱり恥ずかしいです」
そう言って顔を真っ赤にし手で隠しているあずにゃんは可愛いかった
みんな私と同じように可愛いって思ってるみたいだった
そしてりっちゃんはこう言った
律「梓可愛いな、憂ちゃんがうらやましいぜ」
紬「そうね」
澪「そうだな」
みんなりっちゃんの言ったことに同意していた
でも私は全くそういう風には思えなかった……
―――
律「そうだ、梓、今度の日曜日に憂ちゃんを遊びに誘ったらどうだ」
梓「えっ……」
律「そして憂ちゃんにアピールして、次の週にもう一回誘ってその時に告白するんだ」
梓「こ、告白……そんなのできないです……」
(顔を真っ赤にしてもじもじする梓)
律「こういうのははっきりさせた方がいいんだって、憂ちゃんきっと喜ぶぞ、なぁ、唯」
唯「えっ……あ、うん、憂すごく喜ぶと思うよ」
梓「本当ですか!?」
キラキラした目で私に尋ねるあずにゃん
唯「うん」
梓「そっか……私頑張ります」
律「私達もついてるからな」
梓「はい」
そう言ったあずにゃんは眩しかった
私は嘘は言っていない、憂はあずにゃんに告白されたら本当に喜ぶと思う
でもその喜んだ憂の顔を見ても私は喜べない
そんな気がした……
―――唯の家
――夕食
唯「ねぇ、憂」
憂「何、お姉ちゃん」
唯「憂はあずにゃんのことどう思ってるの」
憂「梓ちゃんか……うーん…可愛いよね」
唯「うん、特に猫耳つけたときなんて凄く可愛いんだよ」
憂「梓ちゃんの猫耳かぁ……見てみたいな」
唯「……って私が聞きたいのはそういうことじゃなくて」
憂「そうなの?」
これじゃあいつも憂と話してるあずにゃんの話と変わらない
私は今あずにゃんのために憂の気持ちを聞こうと思ってたんだ
唯「私が聞きたいのは、あずにゃんのことを好きかどうかってことなの」
憂「えっ……もちろん大好きだよ」
その憂の言葉を聞いたとき自分の中の時間が止まったような気がした
このとき私は自分がどんな気持ちでいたのかわからなかった
そして私の中の止まった時間を再び動かし始めたのも憂の言葉だった
憂「だって、私にとって梓ちゃんは親友だもん」
唯「えっ…親友……大好きってそういう意味なの?」
憂「そうだよ、それ以外にどんな意味があるの?」
唯「そうだよね、私、何言ってるんだら」
憂「もう、変なお姉ちゃん」
唯「えへへ」
今度の自分の気持ちははっきりとわかった
私はほっとしていた
あずにゃんのために悲しまないといけないはずなのに
なんでだろう……私は駄目な先輩だ
憂「そういえば最近お姉ちゃんと梓ちゃんの話ばっかりしてるね」
唯「……そうだね」
憂「でも考えたら当然だよね」
唯「えっ……」
憂「だって学校での私とお姉ちゃんの共通の話題って言ったら梓ちゃんくらいしかないもんね」
唯「そうだね」
さっき以上にほっとしている自分がここにいた
―――
唯「ういー、あいす食べたい」
憂「はい、お姉ちゃん」
唯「わーい」
憂「お姉ちゃん、機嫌いいね、何か嬉しいことあったの?」
唯「うーん、特にないかな」
私はなんで機嫌がいいんだろ
自分の駄目な先輩ぶりに落ち込まないといけないのに
でもそういくら思っても私の気分は落ち込まなかった
唯「憂、どうしたのそんなにニコニコして」
憂「えっ、その…アイスをおいしそうに食べてるお姉ちゃん可愛いなぁと思って」
唯「か、可愛い!?」
憂「うん、すごく可愛いよ」
唯「そ、そんなことないよ」
憂「どうしたのお姉ちゃん、顔真っ赤だよ」
唯「ほぇっ、私、顔赤い?」
憂「うん」
確かにすごいドキドキしてる
憂に可愛いって言われてこうなったのは明らかだ
それにしてもなんでこんなにドキドキしてるんだろう……
まぁ、直接可愛いなんて言われたら誰でもこうなるよね……気にすることじゃないよね
憂「あ、お姉ちゃん、顔にアイスついてる」
唯「本当?」
私がそういった瞬間憂の顔が近づいていた
―ペロッ
憂「おいしーい」
唯「う、うい……?」
憂「えへへ」
さっきとは比べものにならないくらいドキドキしてた
そしてこのときの憂は言葉で言い表せないくらい可愛いかった
ただ憂に向かって可愛いと言えなかった
憂みたいに気軽に言えばよかったのに……私の中の何かが邪魔したみたいだ
―――唯の部屋
まだドキドキが止まらない
いったい私はどうしたんだろうか
あのくらいの行為は小さい頃から何度もしてきたのに……今は全く違う気持ちを感じてる
この気持ちはひょっとしたら……
私はすぐに考えるのを止めた
唯「憂は妹だよ、妹にそんな気持ちになるわけないよね」
口に出して否定して自分に言い聞かせないと、この気持ちを認めてしまいそうだった
さっき憂に可愛いって言えなかった理由がわかった気がする
今の私は憂に気軽に可愛いなんて言えないんだ……それはつまり……
唯「だから違うんだってば」
認めるわけにはいかなかった
唯「起きてたら変なこと考えちゃう、寝よう」
その夜私がなかなか寝付けなかったのは言うまでもないよね
―――翌日
――放課後
律「それで梓、憂ちゃんを誘えたのか?」
梓「はい、来てくれるって」
澪「そうか、よかったな梓」
紬「やったわね、梓ちゃん」
このとき私はりっちゃんや澪ちゃんやムギちゃんとは全く違うことを考えていた
今は憂があずにゃんのことを親友としか思っていなくても、告白されたらどうなるかなんてわからない
って私は何を心配してるんだろ
憂とあずにゃんがそういう関係になったら凄く嬉しいことじゃない
そう思おうとした……けど、本心は明らかに違っていた
私はどうやら憂とあずにゃんがそういう関係にならないことを願っているらしい
どうしてそう願うのか……その答えを出すのは簡単だった
昨日の夜必死に否定しようとしていたことが真実だってこと……
でも私は梓ちゃんを応援するしかない
だって私と憂は姉妹なんだから
自分の気持ちに嘘をついていけないとかいう問題じゃないよね
―――帰り道
律「唯、日曜日は梓を尾行するぞ」
唯「えっ、そんなことしていいの」
律「だって気になるだろ」
唯「……うん」
律「決まりだな、詳しいことはまたメールするな」
唯「うん、尾行か……楽しみだね」
紬「ええ」
正直楽しみなんかではなかった
でも気になるのは事実だし
ごめんね、憂、あずにゃん
最終更新:2010年01月06日 01:35