―唯の部屋

唯「なんだよあいつ…急に帰ってきて訳の分かんないことばかり言ってるし…」

唯「それにいきなり父親面されてもな…」

唯「俺はこれからも一人でいいんだよ…他の奴なんて…知るか」

トントントントン…

唯「? だれか階段を上ってくる、憂か?」

トントントントン…

唯「……」

トントントントン…

唯「…さっきから何階段で足踏みしてんだよ、親父」

がちゃ

父「どうしてわかったんだ?」

唯「……」

唯「なんの用だよ、部屋に入ってくるなって言ったろうが」

父「そんなに睨むなよ、父さんと少しお話でもしようじゃないか」

唯「あぁ?あんたとする話なんかねーよ」

父「そうか、わかったよ…実は父さんはな…」

唯「おい!なんもわかってねえじゃねえか!!」

父「昔バンドを組んでいたんだ」

唯「へー、どうせけいおんとかいうアニメに感化されてだろ?」

父「そうだよ!悪いかバーカ!」

唯「…出てけよ」

父「まぁ冗談はさておき、父さんは確かにけいおんを見てギターを始めたんだ」

父「父さんは主人公の唯ちゃんが大好きでな、唯ちゃんのギー太と同じギー太を買う為に一生懸命お金を貯めたよ」

父「でな、やっとギー太が買えたんだ。俺は嬉しくて鏡の前でポーズの練習をいっぱいしたよ」

父「うおっミュージシャンぽい!ってな、あの時の父さんはまさに「ギー太に首ったけ」だったな!あははははっ!俺ってうまいね!」

唯「へー」

父「はははははっ!…どうした、笑えよ唯」

唯「えっ?ここ笑うとこなの?」

父「まぁそんなこんなで、当時高校生だったお父さんは買ったばかりのギー太を片手に軽音部まで走ったね」

父「軽音部に入部した父さんは、明日からギー太と一緒に頑張るぞ!って意気込んでたよ」

父「あの時は唯ちゃんと自分の姿を重ね合わせていたんだ。だから自分も当然ギターの腕がメキメキ上達すると思ってた」

父「…でも現実は違った」

唯「?」

父「ギターを始めたばかりの父さんよりも、昔からギターをやっていた人がいっぱいいたんだ。当然その人達に比べて父さんのギターは聞けたもんじゃなかったな」

唯「あんなに…その、うまいのに?」

父「ははっありがとう、でもあれは一生懸命練習したからさ。唯ちゃんに追いつきたくてね…」

唯「……」

父「でもな、現実は甘くない。そのうち自分の限界ってものが見えてきたんだ」

父「それでも父さんは諦めなかった。頑張ってずーっと練習したさ。中のいい3人の部員とバンドも組んだ」

父「その頃が一番楽しかったよ。仲間ってのはこいつらのことを言うんだろうなって」

唯「へぇー…」

父「もうその頃にはけいおんの真似事をしているつもりはなかった。純粋に音楽を楽しんでいたんだよ…ただ、あずにゃんの事だけはどうしても忘れられなかった」

唯「あずにゃん?」

父「アニメ見せたろ!梓ちゃんだ!」

父「父さん達がどんなにまってもあずにゃん的なポジションの後輩は入部しなかった」

父「そして迎えた卒業、父さん達は結局夢を叶えることができなかったんだ」

父「だから自分の子供に夢を叶えてほしい、そしてHTTとして頑張ってほしいと思ってつけた名前が…」

唯「…唯かよ」

父「そう!どうだ?父さんの気持ちを理解してくれた?」

唯「していないし、しようとも思わない」

父「そんなー…」

唯「ほら、話はもうすんだろ?出てけよ」

父「…こ、この親不孝者ー!ギー太に謝れー!」

唯「はぁ!?」


―次の日 軽音部

律「……」

紬「……」

澪「…くそ、最悪だ…私の名前の由来がアニメのキャラクターだったなんて…」

律「うん…私もショックだよ、だから親は昔からよく私に勝気になれって言ってたんだ…」

澪「私ももっとお淑やかになれって言われてたな…」

紬「…私の家に至っては貧乏、お金がほしい」

澪「…なぁ、もう軽音部辞めようか」

律「え…?でも高校でバンドを組むのは澪ちゃんの夢だったんじゃ…」

澪「いいんだよもう…親に与えられた夢なんて糞喰らえだ!もうやめだやめ!」

律「澪ちゃんがそういうなら…」

紬「そう…二人とも辞めてしまうの…」

澪「ムギはどうすんだよ?」

紬「私は辞めない…ここで新たに新入部員が来るのを待つ」

律「なんの為に…?」

紬「…私の夢の為」

澪「夢?」

紬「そう…プロになってお金を稼ぐの。そして親孝行をする。名前なんて関係ない、私は親に与えられたこのチャンスを生かす為にここにいるんだから」


―教室

唯「さーて、帰るかな…」

和「唯、軽音部はどうだった?」

唯「あ?つまんなかったよ、入部する気になんてならないね」

和「そう…なら私が代わりに入部するわ、ギターちょうだい」

唯「はぁ!?ダメに決まってんだろ!!」

和「どうして?あんたがギター持ってたって使わないなら意味ないじゃない」

唯「うぅ…それでもダメだ!!」

和「そう…残念」

唯「大体なんで和は軽音部に入りたいんだよ?」

和「決まってるじゃない、けいおんが好きだからよ」

唯「お前、一家そろってけいおん厨かよ…」

和「ふふ…最高の褒め言葉ね」

唯「でも俺の記憶が正しければ、確か作中の和っていうキャラクターは生徒会だったろ?」

和「それは「のどか」ね。私は「かず」だから」

唯「そうだっけ?漢字が同じだから間違えちまった」

和「ふふ…こればかりは私の名前の読みを間違えてつけた親に感謝するわ」

唯「…あれ?じゃぁお前って作中にも出てこないオリキャラってことになるのか?」

和「…!!!???」

和「私は…けいおんの世界には存在しない…!?」

和「なら…私は一体なんの為に生れたの!?」

唯「お、おい…落ちつけよ…」

和「うるさい!あなたは平沢唯でしょ!?立派な主人公じゃない!!」

和「それに比べて私は…真鍋かず…うふふ…あははははははっ!」

和「最高だわ!!私は所詮のどかを演じていたピエロにすぎないのよ!!」

唯「はぁ…?」

和「私はどんなに和(のどか)を演じていても所詮は和(かず)なのよ!!最高だわ!!あはははははっ!」

唯「おい!和!」

和「漢字で呼ばないで!!その気になっちゃうでしょ!!」

唯「あ、あぁ…ごめん」

和「…もういいわ、さようなら、主人公」

唯「あ!和!かずー!」


―平沢家

唯「ただいま…」

母「お帰りなさい唯、…なんだか元気がないわねぇ」

唯「…なんでもねぇよ」

母「嘘おっしゃい、顔に何かあったって書いてあるわよ」

唯「……」

母「さぁ、言ってみなさい」

唯「…実は今日、和と…」


母「…そう、そんなことがあったのね」

唯「うん…」

母「でも唯が気にすることないわ。だって、悪いのは読みを間違えた和ちゃんの御両親なんだから。その御両親はにわかなのよ」

唯「…そういう問題かなぁ?」

父「おう、お帰り唯」

唯「……」

父「なんだ?無視することないだろー?」

唯「…うるせぇな、軽音部には入部しないからな」

父「ガーン…」

唯「俺は部屋で休むから、飯ができたら教えろよ」

憂「わ、わかったよ…」


―唯の部屋

唯「ふぅ…疲れたなぁ…ん?机の上になんかあるぞ。これは…」


けいおん!のBD全巻セットだ!
暇な時に見ろ!   父


唯「あの糞親父…!部屋に勝手に入りやがって!」

唯「大体こんなもん見る訳ねえだろ!」

唯「はぁ…寝よ…」

唯「……」

唯「…眠れない」

唯「……」チラッ

唯「…けいおん!か…」

唯「結局全部見てしまった…」

唯「…なんだろう、子供の頃に見たときより面白かったな」

唯「…続きはないのかな?」

父「ないよ」

唯「そうか…って、うおおおおおおおお!?いつからそこに!?」

父「第六話、学園祭!からだ!」

唯「てことは残りの半分をあんたと一緒に見てたのかよ…」

父「そういうことだ、面白かったなー!さて、そろそろご飯を食べようか!」

憂「お父さんもお姉ちゃんも遅いよ!ご飯冷めちゃうよ?」

父「はははっ悪かったな憂!それより母さん、唯の奴…とうとう目覚めたよ」

母「まぁ!今からお赤飯を炊くわ♪」

憂「目覚めた?それにお赤飯って…まさか、お姉ちゃん今頃!?」

唯「なっ!?ち、ちげーよ!!///」

父「顔真っ赤にしちゃって~、可愛いなぁ唯は!」

唯「う、うるせー!!」

父「はははっ!それよりどうだ?軽音部に入部したくなったろ!?」

唯「あ、それは割り切ってるからないよ」

父母「ガーン…」

唯(…軽音部か、明日顔でも出してみるかな)

唯「い、言っておくがこれは軽音部に興味を持ったからじゃなくてだな!ただ暇つぶしに行ってみようと思っただけだぞ!?」

憂「? 何言ってるのお姉ちゃん」


―次の日 軽音部

澪「…それじゃな、ムギ」

律「またね…新しい部員見付かるといいね…」

紬「……」

澪「それじゃ…頑張れよ」

律「元気でね…」

ばたん

紬「……」

紬「……」

紬「……」

がちゃ

紬「…!」

唯「ちーっす…って紬だけか?」


紬「…平沢唯」

唯「他の二人は?」

紬「たった今辞めた…」

唯「はぁ!?なんで!?」

紬「名前のせい…二人とも貴方と同じコンプレックスを感じた」

唯「おいおい…奇跡や運命はどこに行ったんだよ…」

紬「…唯は、入部希望?」

唯「ちげーよ、ただ何となく来てみただけだ」

紬「…そう、残念」

唯「紬は辞めないのか?」

紬「……」コク

唯「ふーん、よっぽど軽音かけいおんが好きなんだな」

紬「どちらも好き…でも、それだけではない…」

唯「あぁ?」

紬「私には…夢があるから…」

唯「夢?」

紬「そう…私はプロになってお金持ちになる夢がある」

唯「うぉ…お前って見かけによらず意外としっかりしてるんだな」

紬「…それは、褒め言葉?」

唯「あー…まぁそうだな」

紬「…そう、ありがとう」

紬「唯には夢がある…?」

唯「俺の夢?そうだなー…うーん…」

紬「……」ジー

唯「…特にないな」

紬「…そう、なら私と一緒に同じ夢を叶えてほしい」

唯「プロか?ダメダメ!俺ってなんも弾けないからさー」

紬「ならこれから練習すればいい…」

唯「えー…?それはめんどくせ―なー…大体それをあの二人に言ってやればよかったじゃん」

紬「あの二人には言えなかった…でも唯には言えた…」

唯「どうして?」

紬「唯は話しやすい…お願い…」

唯「そんなこと言われてもな…」

紬「…どうしてもダメ?」

唯「…ダメだな」

紬「そう…」ショボーン

唯「そんな悲しそうな顔をするなって。他にも入部希望者はいっぱいいる筈だから、そいつらと頑張れよ」

紬「…それはダメ、できない」

唯「あぁ?どうして?」

紬「…私は他の人と喋ったことがない。その前に喋れない…」

唯「…お前ってもしかして…極度の人見知りなのか?」

紬「……」コク

唯「そうだったのか…俺はてっきりそういうキャラなのかと思ってたよ」

紬「違う…本当はいろんな人といっぱい喋りたい…でも、勇気が出ない…」

紬「だからお願い…助けて…」

唯「…悪いが俺には関係ないんでね、もう帰らせてもらうよ」

紬「……わかった」

唯「…まぁ、たまには遊びに来てやるよ」

紬「…うん、待ってる」

唯「おう、悪かったな…それじゃ」

ばたん

紬「……」

紬「……」

紬「……」

紬「……」


3
最終更新:2010年01月23日 11:41