唯「罰ゲーム……」

紬「唯ちゃん?」

唯「私が、憂のご褒美の罰ゲームを受けてないから、こんなのが貼られたのかな」

紬「憂ちゃんが権利放棄して、無かったことになったのよね」

唯「うん。憂は本当にできた子だよぅ」

梓「……」

紬「やったほうがいいんじゃないかしら? 罰ゲーム」

唯「ほえ?」

紬「だってこれは、そういうことだと思うわ」

唯「そうだよね。私が負けたんだし、罰受けないなんてずるいもんね……」

 ああ、やはりそういう展開か。
 神はそういう展開を御所望か。

唯「わかったよムギちゃん!今日帰ったら、憂にお願いしてみるねっ!」

紬「えらいわ、唯ちゃん」

 わしゃわしゃと唯先輩の頭を撫でるムギ先輩。
 私はその光景に、北の動物王国の主を重ねる。

 ちくしょう。せめてその役目は私に譲ってほしかtt――じゃなくて、

 二メートルの等身大ポーション高杉おそるべし。

 さしもの私も、このご都合主義的展開は読めなかった。

 ムギ先輩は、「それじゃあ、剥がすわね」といって、
 役目を終えたポーション高杉を元の筒へと戻した。

 いや、筒。
 筒持ってるのムギ先輩ですから!
 気付いてくださいよ唯先輩!!

唯「りっちゃん、紅茶冷めちゃうよー!」

律「おう、分かってるー!」

梓「……」

紬「……ね?」

梓「脱帽です」


 翌日の放課後。
 音楽室の扉を開けば、そこにはほら、昨日と同じくムギ先輩が一人だけ。

 なんてことは無く。
 先輩方は既に全員揃っていた。

梓「こんにちわー」

唯「やっほー、あずにゃん」

律「おーっす」

紬「ちょうど良かったわ。梓ちゃん、今週の土曜日空いてるかしら?」

 なんか、デジャヴ。
 また勉強会とか言い出すんじゃあるまいな。

梓「えーと、はい。大丈夫だと思いますけど」

律「遊園地いこうぜ!」

梓「……はぁ、いいですけど。なんでまた唐突に?」

律「部員同士の親睦を深めるためだ!」

澪「遊びたいからに決まってるだろ」

律「なんだよー、澪だってノリノリだったじゃんか」

澪「それは……、皆行くって言うから……」

 段々と、声のトーンが下がっていく澪先輩。
 なんとも可愛らしい。

ニヤニヤと頬を緩めていると、唯先輩が口を開く。

唯「実はね、憂が提案してくれたんだよ」

 憂が?
 遊園地?
 結びつかない。
 どうしてまた?

 唯先輩は、あまりテキパキとは言えない口調でゆっくりと、
 でも分かりやすく説明してくれた。

 昨日家に帰ってから、唯先輩は、憂に罰ゲームの話をした。
 すると憂は、『梓ちゃんがずっとカメラをまわすのは大変だから』、という理由で
 ”日中から夜まで”の間は、皆の前で罰をすればいい。
 皆で一緒に遊びながら罰をすればいい、と提案してくれたそうだ。

 確かに、ムギ先輩の前であれば、カメラで撮影しなくとも満足してくれるだろう。
 私も失念していたことだが、ムギ先輩が出したのご褒美&罰ゲームの内容は
 『勝者が”一日の間”、敗者を好きにしてかまわない』
 というものだった。
 一日というのは、つまるところ二十四時間。大目に見ても、夜寝るまでの間だ。
 確かに、私が一人で平沢家に行き、一日中カメラをまわし続けるというのは、
 なかなかに酷なもの。
 ともすれば、この憂の申し出は非常にありがたい。
 私としては、これを反対する理由は何一つ無い。

梓「なるほど。そういうことなら是非行かせてください」

 ていうか、今更だけどどうしてカメラ係とか引き受けたんだろう……。

律「やったな、唯!」

唯「やったね、りっちゃん!」

 律先輩と唯先輩が、両手を出し合って勝利のポーズ。
 最初は唯先輩の出した手のひらを、律先輩が上からパシン!
 続いて律先輩が出した手のひらを、唯先輩が上からパシン!
 最後に、二人とも右手でガシッ!と握り合う……かと思いきや、
 律先輩が、反対の手の人差し指で、唯先輩の頬っぺたをぷに。
 空を切る唯先輩の右手。

唯「あぁん、りっちゃんひどいっ!」

律「あはは、悪かった悪かった」

紬「相変わらず、二人は息が合うわね」

澪「あれをもう少し演奏に生かしてくれればいいんだけどな……」

梓「全くです。……ところで澪先輩」

澪「なんだ?」

梓「お化け屋敷とか、絶叫マシンとかありますけど、大丈夫なんですか?」

澪「……」

梓「……」

澪「……うん、だ、大丈夫」

梓「絶対嘘だ」

紬「梓ちゃん、口に出てるわよ」

唯「良い天気っ!」

律「見渡す限りの人、人、人っ!」

憂「そして今日もかわいいお姉ちゃんっ!」

梓「わー、遊園地だー……」

澪「梓、ムリに乗らなくてもいいんだぞ」

 上空には、雲一つ無い青い空が広がり、
 地上には、恐ろしい程の人が群がる。
 上空に輝く太陽は、止め処なく紫外線を照射し、
 地上に輝く太陽は、何処までも淀みの無い笑顔を振りまいている。

 私たちは電車に一時間ほど揺られ、某巨大遊園地へやってきていた。
 ちなみに、解散後は私のみ唯先輩の家に泊まりに行く予定となっている。
 もちろん、ムギ先輩に頼まれた罰ゲーム撮影のためである。

紬「……」

唯「あれ、ムギちゃんどうしたの?」

紬「いえ。ただ、友達同士で遊園地って初めてだったから……嬉しくて」

唯「そっかぁ。それじゃあ今日は一緒に楽しもうね!」

紬「そうねっ。ありがとう、唯ちゃん♪」

唯「えへへ」

 ムギ先輩はそう言って唯先輩の手を握った後、私の方へと振り向いてニコりと笑った。
 わざとやってやがんなこんちくしょう。

憂「それじゃあお姉ちゃん、最初のお願い」

唯「ほいほい、なんでもごじゃれ!」

憂「今日一日、皆で楽しく過ごすこと!」

唯「いえっさー!」

 ビシっと。
 なぜか敬礼する唯先輩だった。

紬「良いわねぇ。心洗われるようだわ……」

澪「ムギ?」

紬「うふふ、素敵な一日になりそうね、澪ちゃん」

澪「え、うん……」

 澪先輩は改めて、楽しそうに笑う律先輩や唯先輩を見つめて
 そうだな、と呟いた。

唯「……というわけでりっちゃん、まずは何から乗る!?」

律「そうだなー、やっぱり遊園地と言えば、まずは……アレだぁっ!!」

 律先輩の指差した先には、絶叫マシンの代名詞『ジェットコースター』
 その乗り込み口からは、長蛇の列が続いている。

澪「でも、凄い並んでるぞ?」 

律「こういうところにきたら、並ぶのも醍醐味ってな。待ち時間を有効に使えばいいのさ」

 そう言って、律先輩が取り出したのは、黒いカラーリングの携帯ゲーム機と、付属のタッチペン。
 それに呼応するように、ムギ先輩も白いカラーリングのそれをカバンから取り出していた。

紬「なるほど。それで持ってくるようにいってたのね」

 唯先輩はピンク、憂と澪先輩はライトブルー。 私は律先輩と同じくブラック。
 律先輩が親となり、他の五人がソフトをダウンロードする。
 これで、六人でも同時に対戦できるのだ。

梓「ちょ、誰ですかアイテムエリアに偽物置いた人!!」

律「ふはは、私だ!」

憂「梓ちゃんいた」

梓「あーっ、律先輩のせいで憂に抜かれたし!」

律「踏むのが悪い!」

澪「律、覚悟!」

唯「あ、なんか飛んでった」

紬「あら本当。りっちゃん気をつけてー」

律「いやいやいや、澪お前周回遅れなんだからそういうことを――うおおッ!?」

え、勝敗?会話から想像してみてください。

 ――。

梓「せっかくなんだからパート変えましょうよ」

律「えー、じゃあ私ドラム~」

澪「変わってないだろ」

律「ぷえー。じゃあベースやるー」

紬「なら私がドラムやろうかしら」

唯「澪ちゃんは?」

澪「そうだな……、それじゃあギターにしよう」

憂「私もギターかな。お姉ちゃんの」

澪「憂ちゃんリードやってみる?」

憂「は、はい。頑張ります」

唯「それじゃ私たちはピアノだね、あずにゃん」

梓「はい、唯先輩」

 曲目は『ふわふわ時間』 
 スコアはあらかじめ澪先輩が入力してきてくれたらしい。

 ――。

律「ふ、あははは、澪、なんて動きしてんだよ」

澪「し、仕方ないだろ。こういうの苦手なんだから!」

律「そんな動きしてると撃っちゃうぞー」

 ピュン

律「おわっ!?誰だよデトネーター撃ったの、顔に張り付いてんじゃん!!」

憂「……」

律「く、こうなったら澪も道連れだっ!」

澪「ば、馬鹿!それ点灯させたままこっちくんなっ!」

 カチリ。

澪・律「うおおおっ!?」

 どかーん!

憂「……ふふ」

律「うわ、憂ちゃんだったか……。やられたよ」

唯「一対一だね、あずにゃん!」

梓「負けませんよ!」

 唯先輩の武器はショットガン。対する私はサブマシンガンの二丁。
 至近距離で撃たれるとヘッドショットでなくても即死コースだが、
 一発撃つ毎に隙が生じる。
 先輩のニブさなら、多分掻い潜れる。……多分。

 バンッ!

梓「っ!!」

 ズガガガガガ

唯「――!!」

 バンッ!

梓「なっ!?」

唯「ふっ、甘くみたね、あずにゃ―」どかああああん!!

唯「……」

梓「……」

唯「……なんか、爆発した」

梓「……爆発しましたね」

 唯先輩と死闘を繰り広げていた矢先、
 なんらかの爆発物が飛んできた。
 憂は澪先輩と律先輩の方にいた筈だから、こんなことができるのは――。

紬「ふふっ」

唯「ムギちゃん後ろにいたのー!?」

紬「ダメよ、二人だけでイチャイチャしてちゃ!」

梓「し、してませんそんなこと!」

 ――。

 などとやってるうち、あっという間に私たちの番がやってきた。
 白熱しすぎて、危うく本来の目的を忘れるところだった。

 私達は係員に案内され、コースターの前に通された。
 二人席がずらっと一列に並んでいるので、必然、二人ずつのペアに別れる必要がある。

梓「席、どうするんですか?」

律「じゃあ私澪の隣ー!」

澪「……そういうことを平気で叫ぶなよ」

律「なに、嫌なの?」

澪「べ、別に嫌とは言ってないだろ!」

 ニヤニヤと嬉しそうな律先輩。
 律先輩は、唯先輩と気が合うくせに、こういう時は澪先輩を選ぶよなぁ。
 そしていつもの流れだと、ここで唯先輩が
 「あずにゃ~ん、一緒に乗ろう!」って言いながら私に抱きついて――

憂「あ、お姉ちゃん」

 む。

唯「どうしたの、うい?」

憂「一緒に乗ってもいいかな?」

唯「……」

 少し間を置く唯先輩。
 ……もしかして、考えてますか?

唯「ダメだよ」

憂「……え?」

梓「!」

 その発言に、思わずはっとする。
 まさか、私のため――?

唯「ふふ、そうじゃないでしょ、ういー。今日の私は憂の言いなりなんだから」

憂「……あ、そっか」

唯「ほら、ちゃんと言い直さなきゃ」

憂「命令します。お姉ちゃんは私の隣に座ること!」

唯「かしこまりましたっ!」

憂「えへへ~」

梓「……」

 むぅ。

紬「梓ちゃん?」

 ちょっと期待したのに。
 唯先輩のばか。
 ばかー。

梓「……」

紬「あーずーさーちゃーん?」

梓「ふぇっ!? な、なんですか?」

紬「妬いてる?」

梓「なっ!! そ、そんな事、あるわけないです!!大体ムギ先輩はいつもいつも私達をそういう風に」

紬「妬いてたのね」

梓「妬いてません」

紬「……ふ」

梓「……」

 鼻で笑われた。ちくしょう。

紬「そう、それじゃあ一緒に座りましょ♪」

梓「……ムギ先輩」

紬「なあに?」

梓「私、右側でいいですか?」

紬「ふふふ、もちろんよ」

梓「……どうもです」

紬「そこの位置なら、コースターがスピードに乗れば、唯ちゃんの匂いが嗅げるものね」

梓「そういう変態っぽい言い方しないでもらえますかね」

唯「澪ちゃん、大丈夫?」

澪「なにが?」

唯「うぇ、いや、こういうの苦手かなーって思ったんだけど」

澪「ああ、痛いのとかお化けとかはダメだけど、これは別に……」

唯「へぇー、そうなんだー。ちょっと意外かも」

澪「そうかな……。ていうかアニメ版の私はやりすぎだろ。
  あそこまで臆病だとマトモに生活できないじゃないか」

梓「……」
律「……」
唯「……」
紬「……」
憂「……」

澪「ん?」

律「いや、はっちゃけたなーと思って」

 シートベルトが下り、私達を乗せたコースターはレールの上を上昇していく。
 やがて、遊園地が一望できる高さまで……って、思ったより高いなコレ。
 ……いや、高すぎるでしょ。
 こっから一気に下りるの? まじで?

紬「まじです♪」

梓「わあ、声に出てましたっ!!」

 ―――。

梓「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

律「いやっほおおおい!!」

唯「おほぉぉぉっ!!」

憂「お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん」

 ―――。

澪「ひ、い、いいいいっ!!」

律「うおおおおおおっ!!」

憂「お姉ちゃん愛してる」

 ―――。

唯「おわぁぁぁぁぁっ!」

紬「わぁ、いい眺めよ梓ちゃん♪」

梓「う、ぐ……」

憂「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん」



梓「……」

紬「気持ちよかったわね、梓ちゃん」

梓「……ええ、まぁ。 余裕でした」

 三回くらい意識飛びそうになった。
 匂いがどうとか言ってる余裕ねーですよ。

律「なんだよ澪、結局怖がってたじゃん」

澪「いや、なんていうか……。あそこまで急だとは思ってなかった」

律「あはは、まぁ、私もちょっと怖かったしね。澪にしては頑張ったと思うぞ」

 そう言って、澪先輩の頭を撫でる律先輩。

澪「な、撫でるな!」

 身長的に、普通は逆だろうと思う。
 ほら、私と唯先輩みたいに――



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最終更新:2010年01月05日 01:13