目が覚めて
窓から外を眺めると
なんだか憂鬱な曇り空が広がっていて
ベッドの脇の目覚まし時計は午前7時を刻んでいた
「わぁいまだ七時だぁ・・・」
「・・・ふぇっ七時!?遅刻だよぉ」
確かにセットしておいたのに・・!
今日は早く起きて、学校で朝の練習しなきゃいけないんだけど・・
「あれ?」
その日の私は
少しいつもと違っていたよ
何段にも分かれたお腹
規則的に並ぶ斑模様
ゆらゆら蠢く無数の節足
「これは・・・」
まごうことなく むしさんっ!
「うわわわわわわわっ」
うーん
どうして虫になっちゃったのかなぁ
「お、起き上がれない・・!」
体がぎっちぎっちで
思うように動いてくれなくて
でも早く練習にいかないと みんな怒るかなぁ・・
ベッドで悪戦苦闘していると
部屋のドアが勢いよく開いて
憂が起こしに来てくれたよ
「憂~ 助けて~ 起き上がれないよぅ・・」
とりあえず肢をわさわさして必死さをアピールっ
「お、お姉ちゃん・・?」
「そうだよぉ」
大きな声を出してみると
なんだか不思議な 甲高い音しか出なくなった
これって昆虫語なのかな?
もうこれじゃあ私の言葉、聞き取れないかも・・・
「うぅ・・ 憂、私の言ってること わかんないよね・・?」
喉の奥からぎぃぎぃって音が出たよ
「うん?わかるけど・・ 一体何があったのお姉ちゃん?」
おぉ愛しの妹よぉっ!
「わかんない・・朝起きたらこんな姿で・・」
「これじゃああずにゃんに抱きつけないかもぉ」
「起きれないって・・・ っそうだ!お姉ちゃん、身体は痛くない!?熱は大丈夫!?」
憂がこれまでになく焦ってる
お姉ちゃん心配してくれて嬉しいなぁ
「どこも痛くないよっ でも・・ベッドから出られなくなっちゃった」
「・・・よかった・・・病気じゃないみたいだね」
憂はホッと胸を撫で下ろして
きゅっと腕まくりをする
「待っててね。今下ろしてあげるよ」
でも多分 前より重たくなっちゃったよこれは・・・
ダイエットしなくちゃマズイよぉ
「ふぅ 大丈夫、歩ける?」
20分ほどかけて憂がゆっくり下ろしてくれたよ
なんと感謝したらいいものか~
「ありがとう憂!」
「いいよ、お姉ちゃんの為だもん」
「じゃ、朝ごはん食べよっか」
時計はもう七時半
今から急いでも間に合わないね
「今日はみんなに悪いことしちゃったなぁ」
全員揃わないとちゃんとした練習にならないから
律っちゃん達怒ってるかも・・・
「お姉ちゃん、下で待ってるね」
憂に着いて床を歩いて行くと
大発見がありました
ベッドの上だとちっとも働いてくれなかった肢が
今では私の行きたい方向に
自動的に動いてくれてるっ!
「おぉ~ えらいよ肢ちゃんっ」
部屋から出る瞬間、携帯の着信音が部屋中に響く
きっと朝練を遅刻しちゃったから そのことだろうね
「ごめん憂~ 代わりに取ってくれるかな・・」
私の肢じゃ無理だよぉ
憂が代わりに電話に出ると
どうやら律っちゃんからだったみたい
「はい、お姉ちゃん」
電話を近づけてもらうと、いつもの元気な声が聞こえてきたよ
『お、唯か!?また寝坊したんだろー』
『起きる時間にモーニングコール何度もしたんだぞ』
え!?全然気付かなかったよ・・・!
「ご、ごめんね律っちゃん・・!目覚まし時計もかけたんだけど、動かなかったみたいで・・」
とりあえず言いわけしてみたり・・・
『・・・・?おーい唯ー』
聞こえなかったのかな?
「今日はごめんね律っちゃん!わたくしめがわるうございましたっ」
声をおっきくして謝罪
けど・・
『・・あれ?ノイズが入るな・・・ケータイの調子悪いのかも』
『とりあえず学校で話そうっ んじゃね!』
プツリと通話は切れちゃった
やっぱり私の声はぎぃぎぃっていう
雑音みたいな昆虫語になっちゃってるみたいだね
「うぅ・・みんなとお話したいよぅ・・・」
「ありゃ でも、憂には私の言葉伝わるんだよね?」
憂は少し得意げな顔をして
微笑みながら言ったよ
「以前からお姉ちゃんの喋る言葉は、口の動きと目さえ見ればわかるよ!」
我が妹は何時の間にそんな技術を・・!
「長年の努力の賜物ってところかな」
「憂~ 頼もしいよぉ~」
階段もなんなく降りて、香ばしい空気に満たされたリビングに入る
テーブルの上に憂の作ってくれた朝ごはんがある・・はずなんだけど
私の高さじゃ見れないんだよね・・
「憂~」
「あ、ごめんねお姉ちゃん 下ろすから」
憂がテーブルの上から白いごはんと卵焼きを取ってくれた
湯気が上がって、出来たてほやほや
いつもならむしゃぶりつきたいとこだけど
今日の私にはどうしても
その御馳走がおいしそうに見えなかった
「ぅ・・ ご、ごめんね憂 なんだか食欲が出ないんだよ・・・」
「あ、憂の料理がダメなんじゃないよ!」
お姉ちゃんがおかしいんだよ ごめんね憂
「大丈夫?やっぱり休んだ方がいいんじゃないかな?」
ぅーん 体調は問題無いハズなんだけど・・
結局食べられなくて時間切れ
憂は心配してたけど
私はみんなに会いたいから、登校することにしたよ
「荷物は持ってあげるね、お姉ちゃん」
「大丈夫だよ憂~ ギー太は結構重たいし、自分で背負っていくよ」
ギターケースを肢に掛けてみる
「き、器用だねお姉ちゃん・・」
私もびっくりの高性能な肉体・・!
まさか背負えるとは思わなかったよぉ
外は曇り空
少し冷たい風が吹いて
秋の訪れを感じさせる
近所のゴミ捨て場を漁るカラス達も
ちょっぴり肌寒そうな顔をして睨んでた
「とりゃ~」
この肢は凄いね! どんどん進むよ!
憂が少し後ろから早歩きで着いてくる
ごめんね憂
速度調整は難しいんだよぉ
「この身体だと、服着て無くても寒くないね」
少しの強めの風が吹いてきたけど
笑顔でやり過ごせる余裕があったよ
でもその風で
頭上の樹から葉っぱが舞い落ちると
無性に食欲が湧いてきた
「うぅ・・なんでだろう・・」
「葉っぱ・・・凄い美味しそう・・!」
「お、お姉ちゃん!?」
気が付けば平らげておりました
「あぁ そういえば・・・ダイエット・・・」
起きて決意したばっかなのにぃ・・
澪ちゃん達が言ってた
ダイエットが難しいっていうのは本当だったんだね
「澪さんも葉っぱは食べないと思うけど・・」
あー そっかー
賑やかな朝の教室に辿り着いて
律っちゃん達にあいさつをする
「おはよう!律っちゃん、ムギちゃん!」
「ごめんね、今日も寝坊しちゃって・・!」
多分言葉は理解できないよね
でも触角を動かして元気のアピールをしたよ
律っちゃんは私を見ると
少し納得したような
少し残念なような表情を作った
「おっはよう唯!」
「まぁ、お前も色々あるんだろうなぁ・・」
そうなんだよねぇ
ムギちゃんはいつも通りの笑顔であいさつしてくれたよ
「おはよう唯ちゃん。今日は寝過ごしちゃったのかしら・・?」
みんなお察しが早くて助かるね
「でも唯、最近遅刻が多いぞ。気を付けてくれよなー」
私は声で返事をしようとしたけど
やっぱりぎぃぎぃとしか出なかった
なんとかできないものかと悩んでいると
ホームルームが始まっちゃった
最終更新:2010年05月02日 20:49