恵「せ、先生……」

さわ子「嘘よ、嘘」

律「お、脅かすなよ~さわちゃん」ハァー…

さわ子「ちゃんと賞金は用意しといたから」

カラカラ

澪「え…なんでホワイトボード引っ張ってくるんですか?」

バンッ

律澪「え?」


さわ子「ここにね」ニヤ


和「メモ……みたいね」

  『おこそんいばきあか
   いめばとろすもみみ
   し    ・りたちどそ
   い      |   り』




さわ子「ここにちゃんと用意してあるから」ニコッ

さわ子「じゃあ私は疲れたから帰るわね。校舎のどこかに賞金が入った封筒を隠しておいたから」

さわ子「完全下校時刻まであと1時間の間に見つけられたら、そのまま持って帰ってもいいわよ」

さわ子「ただ1時間経っても見つけられなかったらすぐ帰るのよ?生活指導の先生が見回りしてるから、見つかったら部活動停止になるからね」

さわ子「あと、この暗号を解けないと絶対に見つからないような場所に隠してあるから」

さわ子「明日もそのままそこに封筒があったら、いらないってことでこっそり回収しておくわね」ニコッ

さわ子「じゃあ、帰りましょうか?曽我部さん」

恵「そうですね。今日は楽しかったわ。また会いましょうね~」


スタスタ  ガラガラ  バタン


他全員(何これ……)


紬「あ、ごめんなさい。私これから用事があるの。お先に失礼するわね」

憂「すいません、スーパーの特売が終わっちゃうのでそろそろ行かないと」

梓「私もそろそろ帰らないとお父さん達心配しちゃうので…」

唯「眠いから帰るよ~」


律「おいおい、観客席」

和「お開きみたいだし、私たちも帰りましょうか」

澪純「……」

澪「私は少し考えてから帰るよ。ここまでやったのに何か勿体ないし」

澪(この前楽器屋で見たあのアンプがどうしても欲しいんだ…)


律「……」

律「んじゃ私も残ってくわ」


純「私も残ります」

和「純まで…」


純「今日せっかく呼んで貰えて、和先輩とも知り合いになれたのに」

純「私……全然役に立ってなくて。あの……えっと」

純「私は今日遅くまで残れますし……それに和先輩にお礼がしたいんです」

和「ちょ、ちょっと。こんなもの山中先生が考えた適当な遊びなんだから、そこまで気負わないでも」

純「いえ……これは私の気持ちの問題なんです!」

和「ハァー…。分かったわ。私は生徒会室に用事があるから参加できないけど。じゃあお願いね」

純「はい!」

和「……」

和「それじゃあ…」

純「今日はありがとうございました!楽しかったです」

和「ええ……じゃあね」


ガラガラ  バタン


和(あんなもの山中先生の書いた適当なメモでしょうに…)

和(なんであんなに真剣に…お金が欲しいのかしら)

和(……違うわね。私のため……か)




律「いいのか?純ちゃん」

純「いいんです。今度は私が和先輩に恩返しする番ですから」

澪「なんて健気な子なんだ…どこかの誰かさんとは大違いだな」ウルウル

律「聞こえてますわよ~澪ちゃ~ん」



律「よし、じゃあ勝負だ。純ちゃん。どっちが先に解けるか!」

純「はい!」

澪「残り時間もあと50分しかないし、急ごう」



---律澪チーム---


律「純ちゃんには悪いがこっちは2人いるからな。それにしても和のやつ1人で行っちゃうなんてひどい奴だなぁ」

澪「仕方ないだろ?ただでさえ生徒会長で忙しいのにこんなゲームに巻き込まれてたんだから」

律「それもそうだな、っていうかここまで付き合ってくれただけでも人がいいか」

澪「それよりこの暗号だけど…」


  『おこそんいばきあか
   いめばとろすもみみ
   し    ・りたちどそ
   い      |   り』       


律「たしかにお米は美味しいけどなぁ」

澪「そばは分かるけど、【んと】ってなんだろう」

律「美味しい米、そば、んと?…って【・】ってなんだよ【・】って」

澪「囲炉裏とかバスターとかも全然意味が分からないし」

澪「気持ち、網戸、カミソリ…場所を表してるようには見えないな…」


律「横読みか?」

澪「横読みっていっても、どっちから読んでも意味不明だぞ」

律「うぅ~ん、全然わかんねー」ガクリ


律「仕方ねー、とりあえず米、そばから連想できる食堂辺りを探してみるか」

澪「安易だけど……今はそれしかないかな」

澪「行く前にとりあえずこれをメモしておこう。えーと…紙は」

律「おぉ、ご丁寧にメモ張が2つある」

澪「しっかりしてるんだか、適当なんだかよく分からない先生だな」


カキカキ


律「よっし、いこうぜー!」

澪「純ちゃんも頑張ってね」

純「は、はい」



---和純チーム---


純「米…そば…」

純「うぅ…全然分からない。これじゃあ何のために残ったんだろう…」


シーン


純「誰もいなくて凄く寂しいし…」

純「でも、ずっとお荷物だったし。今頑張らないと、梓や憂だってあんなに頑張ってたのに」

純「和先輩に迷惑かけて、私だけ馬鹿みたいじゃん…」ウ…

純「やだ…何涙目になってるのよ、あたし」ポロポロ

和「まったく……見てられないわね」

純「の、和先輩!いつからっ……ッ」ゴシゴシ

和「一回生徒会室まで行ったんだけど、どうしても気になってね」

和「さ。 さっさと解いて帰りましょう」

純「いいんですか?生徒会のお仕事があるんじゃ」

和「今日ぐらいはいいわよ。それに山中先生もああ言ってたしね、適当に言ったんでしょうけど」(校長にいって生徒会の仕事なし)

純「先輩!」ジーン


和「な、泣かないの!ほら。さっさと解くわよ」

純「はい!」


  『おこそんいばきあか
   いめばとろすもみみ
   し    ・りたちどそ
   い      |   り』

純「お米とかそばとか全然意味が分からなくて…」

和「……」

和「まぁ、米とかそばは関係ないでしょうね」

純「え?」

和「たぶん、これは折句なんじゃないかしら」

純「おりく?」

和「折句っていうのは、一つの文章の中に別の意味をもつ言葉が入ってる言葉遊びのことよ」

純「ほぇ~…」

和「ちょっと分かりづらいかな」クスクス

和「小説の一文字目だけを右から読むと、ある文章が浮かび上がるとかそんな感じ」

純「つまり、この文章だと横から読むってことですよね。 あれ?でもこれだと意味がわからない言葉になりますよ?」

和「こういうアクロスティック読み(折句)っていうのは、意味が通じないときは大体他の言葉に変換すると意味が通じる場合が多いの」

純「他の…?」

和「そうね……ローマ字とかどうかしら」

和「メモ張とかない?」

純「え、たしかに用意してありましたけど。なんでそのことを」

和「じゃあ私の考えはたぶん合ってるわね」クスクス

純「?」

和「つまり読んでても解けないってことよ。いろいろ書いて試してみろってこと」



和「【おこそんいばきあか】はローマ字に直すと【okosonibakiaka】になるわね…あぁ、なるほどね」

純「何か分かったんですか!?」

和「これ逆から読んでみて」

純「えーと…逆からだから………【akaikabinosoko】……あかいかびのそこ」

純「赤いカビ?」


和「たぶんローマ字読みじゃなくてローマ字打ちね。パソコンで入力した場合【ん】は【nn】になるから」

純「【akaikabinnosoko】……赤い花瓶の底!」

和「よくできました」ニコ

純「す、凄いです!和先輩。すぐに解けちゃうなんて」

純「それなのに私ったら、また全然お役に立てなくて…」

和「誤解しちゃだめよ?」

純「え?」

和「友人関係とかは信頼関係で成り立つの。だから役に立つとか立たないとか関係ないわ」

和「純は今日ずっと私を信頼して、信じてついてきてくれたでしょ。それだけでいいのよ」

純「先輩…」ジーン

和(何恥ずかしいこと言ってるのかしら…私。まさか、軽音部に毒されてきたんじゃ…)



---食堂---


律「うがぁあああ!見つからねぇ~」

澪「これだけ探しても見つからないってことは食堂は関係ないのかもな…」

律「くそー、米とそばは関係ないのか」

澪(米とそばが関係ないということは、普通に読めるあの文章は偽装…)

澪(ということは意味が分からないような文章にこそヒントが隠されているってことか)


律「横から読んでも逆から読んでも意味分からないしな~。いっそこれ全部英語にしてみっか!kome!とかsoba!とか」

澪「そりゃローマ字読みだろ……って」

澪(ちょっと待てよ……!?)

澪「横…逆…ローマ字…」

澪「ああっ……!」ピシャーン


---澪に電流走る---


カキカキカキ


律「ど、どうしたんだ?澪。急に慌てて何か書き出して」

澪「赤い花瓶だ……」

律「へ?」

澪「赤い花瓶の底に隠されてる!」

ダダダダダッ



澪「赤い花瓶ならたしか職員玄関のところにあったはず!」

律「なるほどな。ローマ字にして逆読みかよ。さわちゃんにしては手の込んだことを」

澪「急げ!たぶん和は戻って純ちゃんに協力してるはずだ。和ならもう解いてるかもしれない!」

律「うぉおおお」



和「あら」

純「あ、先輩方」


澪「ぎゃー」

律「ぎゃー」


和「ずいぶん遅かったわね」

澪「ううっ……まさか後から合流した和に先を越されるなんて…」

律「ぐぐ……かくなる上は実力こうs」

澪「落ち着け」

ゴチン

律「あぅ……」


和「何やってるのよ……それにまだ何かあるみたいよ」

律澪「へ?」


純「花瓶の底にこんな紙が入ってました」


『ウォーミングアップお疲れ様。さすがにこんな問題じゃすぐ解けちゃってつまらないでしょ?

 だから賞金は別の場所にちゃんと隠したわ。これがその場所の暗号。



                    
   鰹                       行
   粒          猿     蝉      方
   陰        富 と   鵲 し      は
   険   ←    士 乙 花 と ぐ   ←  定
   軽        の 女 の 柿 れ      家
   視        高 と 色          に
            嶺              問
            と              え                  
                   


 

 そしてこれがその場所のどこに隠してあるかの暗号。  


【jqc unafmtc rvospw zybkcef】


  ヒント「逆流する1/7のズレ」


 これで解けたら私もお手上げ。じゃあ頑張ってね。  』


澪「意味不明すぎる」

律「時間は……うわ!半分すぎてる。あと30分しかないぞ」

純「……せ、先輩」

和「……これは……少し時間がかかりそうね」

純(和先輩の余裕のない顔、今日初めて見た…)


10分経過---残り20分---


律「まずい!このままじゃ全員総倒れ、さわちゃんの1人勝ちじゃん!」

澪「というかそもそも解けるような問題を作ってない時点で、私たちにお金を渡す気はなかったんだろうな」ゲッソリ

純「さ、最後まで頑張りましょう!どこに隠してあるかの暗号はチンプンカンプンですが、場所さえ分かればそこを4人で探せますし、なんとかなるかも」

和「いえ…たぶん今までの問題から考えて2つ目の暗号も解かないと見つからない場所にあるでしょうね」

純「そんなぁ~…」

和「でも、たしかに場所が分からないと話にならないわね。まずは1つ目の暗号を何とかして解きましょう」


律「富士……猿……これはなんて読むんだ?」

澪「う…わかんない」

和「それは鵲【かささぎ】ね」

律「なんでも知ってるな、和は」

和「なんでもは知らないけど、ただその字は以前調べたことがあって」

純「鳥について調べてたんですか?」

和「ううん。百人一首の句でこの字が書いてある歌があってね。それで調べていたの」


和「…………っ!」ピシャーン


---このとき和に雷光に打ち抜かれたような衝撃…!圧倒的閃き…!---



和「そう!これ百人一首だわ!」

律澪純「百人一首?」

和「行方は定家に問え……ええ、そうよ。間違いない」


                    
                    
   鰹                       行
   粒          猿     蝉      方
   陰        富 と   鵲 し      は
   険   ←    士 乙 花 と ぐ   ←  定
   軽        の 女 の 柿 れ      家
   視        高 と 色          に
            嶺              問
            と              え             
                       
                         

 

和「和歌のような文章だと思ってたけど、これ小倉百人一首の歌人か、歌の一部分から成り立ってるわ」

律「ちょ…ちょっと待ってくれ。和。百人一首の歌人とか言われても良くわからん」

澪「あ、ああ。説明してくれないか?」

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最終更新:2010年05月03日 22:04