和「まず定家は藤原定家(ふじわらのさだいえ)のこと。彼は宇都宮頼綱に依頼されて『小倉百人一首』を撰じた人物よ」

和「百人一首を念頭に置いて考えると、蝉はそのまま歌人の蝉丸、鵲は中納言家持の歌にでてくる」

和「柿は柿本人麻呂。花の色は小野小町の歌。猿は猿丸太夫。乙女は僧正遍昭の歌、富士の高嶺は山部赤人の歌」


律「す…すげぇ…」

澪「この文章にそんな意味が…」

純「で、でも最後の【鰹粒陰険軽視】なんて百人一首に関係ないんじゃないですか?」

和「たぶん…今出たこの情報を頼りにその【鰹粒陰険軽視】を解読すれば答えがでるってことじゃないかしら」

律「百人一首なのは分かったけど、これをどう当てはめればいいんだ?」

和「うーん……」


純「とりあえずひらがなにしてみたらいいんじゃないでしょうか?」

律澪和「え?」


純「あ……いえ、なんとなく…なんですけど。今までの問題も言葉を変換する問題がたくさんありましたし」

純「す、すいません!出過ぎたことを」オドオド

和「いえ…それはいい考えかもしれないわ」

澪「そうだな。考えたのがさわ子先生なら同じような出題傾向にあるのかもしれない」

律「よし!メモ張に書いてみようぜ」


【かつおつぶいんけんけいし】


律「とりあえず、そのまま訳して書いたけど」

澪「逆から読んでも意味不明だな」

純「ごめんなさい…変なこと言い出して」

和「気にしちゃだめよ。こうやって考えるのが正解かもしれないんだし」

律「だが時間がねー……」

澪「なぁ…これアナグラムなんじゃないか?」

和「!?」


律「アナグラムってあの意味不明の言葉の羅列を入れ替えて意味の通る文章にするあれか?」

澪「ああ、だってこの文で考えるとしたらそれしかないんじゃないか?」

純「でも文字数が多すぎてとてもじゃないですが、一々入れ替えて考えてる時間がないですよ」

澪「う…それもそうだな」ションボリ


和(たしかに時間が少なすぎる…)

和(仮にこの時間で答えられるように設定して問題を作ったのなら)

和(法則のようなものがあって、それを使えば一瞬で分かるような仕掛けがあってもいいはず)

和(入れ替えじゃない?……だとすると後考えられそうなものは……)

和(……抜き出し! 入れ替えじゃなくて言葉の抜き出しだとしたら!)


和「あぁ!!」ガタン

澪「ひぃ!」

律「うぉ!」

純「きゃぁ!」

和「ご、ごめん」

律「ど、どうしたんだよ。いきなり。びびった…」

澪「心臓止まるかと思った……」ドクンドクン



和「分かったわよ。宝の在り処が」チャッ

律「まじで!?」

澪「本当か?和」


和「ええ。言葉の入れ替えじゃなくて抜き出しを使うのよ」

純「言葉の抜き出し?でもそれだって順番が分からないと全然意味にならないような」

和「そう、順番。これが重要なの。さっき説明した百人一首を思い出して」

和「百人一首っていうのは、その名の通り男性79人、女性21人の計100人の歌で構成されていて」

和「その歌には1~100までの番号がふってあるの」

和「もしかしてと思って考えてみたけど、ずばりだったわ。」

和「【かつおつぶいんけんけいし】は12文字。さっきあげた歌人の歌番号もすべて12以下」

和「つまりこれを問題の和歌で登場する順番に歌人を並べて、その歌番号と同じ順番の文字を【かつおつぶいんけんけいし】から抜き出せばいいわけ」


和「蝉丸は10。中納言家持は6。柿本人麻呂は3。小野小町は9。猿丸太夫は5。僧正遍昭は12。山部赤人は4」


律「10…6…3…」


カキカキ


和「その順番に【かつおつぶいんけんけいし】から文字を抜き出してみて」

律「け い お ん ぶ し つ……軽音部室!私達の部室か!」

和「ビンゴ」チャッ


律「きたぁああああ!」

澪「なんて記憶力……」 


純「素敵です…先輩」ポッ

和「ゾクッ」



ダダダダダダッ



律「まだ15分ある!これでさわちゃんの鼻をあかせるな」

澪「でも、まだ2つ目の謎が」

律「余裕余裕!15分もあれば、4人で探して楽勝で見つけられるって!」

純「こんなところでしか役に立てませんが、探すのは得意なので頑張ります!」

和「そう、うまくはいかないと思うけど…」


ガラガラ



律「あと10分…。この部室のどこかにお宝が眠ってるわけだ。手分けして探そう」

和「待って。やっぱり2つ目の謎を解かないと見つからないと思うんだけど」

律「そうだな…。じゃあ私と澪と純ちゃんの3人で探してるから、和はその問題を考えててくれ」

和「分かったわ」



律「どこだどこだー!」バサバサ

澪「さわ子先生が隠しそうな場所は…」バサバサ

純「ファイルの間に挟んであるかも…」パラララ


和(澪たちには悪いけど、たぶんそれじゃ見つからないはず)

和(今までの問題が手が込みすぎてる…最後の最後で簡単に見つかるような場所に隠すはずもないし)

和(それに軽音部の部室を選んだってことはそれだけ見つからない自信があるってこと…)


和(つまり私がこの問題を解かないかぎり、私達の負けってことね)





【jqc unafmtc rvospw zybkcef】


  ヒント「逆流する1/7のズレ」



和(とりあえず、このままじゃ意味不明)

和(ヒントの逆流する1/7のズレっていうのがこの文章を解く鍵なんだろうけど…)

和(1/7…7等分して逆から読んでいけって意味かしら)

和(違う……まったく意味が通らない)

和(アナグラムは考えられない。普通に考えてこんな多くの文字を入れ変えて文章にするなんて不可能)

和(さっきの問題と同じように、何か抜き出しの法則でもあるのかしら……)

和(1/7のズレ……ズレ…ずらす…逆流…)

和(くっ……全然分からない……!)



---残り時間5分---




律「だめだ……」ボソッ

澪「お、おい律。何探すの止めてるんだよ」

律「澪だって薄々気づいてるだろ…?これは普通に探しても絶対見つからない場所にあるんだよ…」

律「たぶん和も初めから分かってたんだろ。だから探さないで考えることを選んだ」

律「でも、もうだめだ。時間もあと5分くらいしかないし」

律「和だってあんなに険しい顔してる…」

律「悔しいけど今回はさわちゃんの勝ちだよ。私達の負け……敗北」

律「っていうかこんなお遊びに何夢中になってるんだよ。馬鹿みたいじゃん」


澪「ばか律!」キッ

律「み、澪…」

澪「純ちゃんを見てみろ!あんなに必死に探し続けているのに何先輩である私達が弱音はいてるんだよ」

澪「私だって、普通に探して見つからないなんて、探してる最中に気づいたよ」

澪「それはきっと純ちゃんだって気づいてるはずだ」

澪「なのに、諦めもせず、ただひたすら和が問題を解くのを信じて探し続けている」

澪「和だってそうだ。私達のためにあんなに真剣に考えてるんだぞ!」

澪「もうお金がどうとかいう問題じゃない!アンプなんてどうでもいい」

澪「見つけるんだ……私達が今まで築きあげてきたものの成果を……!」

澪「信じるんだ……!和を」

澪「だから…諦めないで探そう!」


律「澪……」

律「どうかしてたよ。まったく諦めモードなんて私らしくもねー」

律「よっしゃあ!軽音部メンバーの意地を見せるぞ!澪」

澪「律……」


純「ハァ…ハァ…」

純(和先輩だって今苦しいんだ。私は頭がよくないから一緒に考えることができない)

純(だから……諦めることだけはしたくない!)

純(信じるんだ……和先輩を!)



和(痛いほどみんなの気持ちが伝わってくる)

和(初めのうちはお遊び半分でやってるんだと思って、適当に参加してたけど)

和(見つけたい。賞金云々じゃなく。彼女達の努力、矜持に報いるために…)キッ






和(集中……集中……極限まで意識を高める……!)

和(1/7………1/7………1/7……)

和(……え?1/7?)


和「り、律!メモ張貸して!」

律「何か分かったのか!和!」ヒュン

和「ちょっと待って!」パシッ


カキカキカキ


和「や…やっぱり」

純「先輩……」


和「1/7、つまり1÷7の解は割り切れないのよ」

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最終更新:2010年05月03日 22:09