「あ、もうこんな時間…寝なきゃ」
時刻はam2:00。澪は来るべきテストのためにテスト勉強に励んでいた。
「まぁ、こんな時間までかかったのもこいつのせいなんだけど」
ベッドで幸せそうに眠る律を横目に澪は溜め息をついた。
私はこんな時間まで律のためにやっているというのにこいつときたら…。
まあいつものことなので起こす気もしないけど。
「ったく、テストの度に私に頼るとかこいつは私がいなくなったらどうなるんだか」
そういいつつもお腹をだして寝ている律に布団をかけてやる。つくづく私は律に甘い。
それにしても…
「なんて幸せそうな顔で寝ているんだろう」
律は人様のベッドでこの上なく幸せそうな顔をして眠っている。
「…起きない…よな?」
澪はそう呟くと長い前髪を手でかきあげ、そっと口づけた。
「律…ごめん…私、律のことが…」
『好き』
それから何事もなかったかのように澪はベッドの横に布団を敷き、
いつもより遅い就寝についた。
翌朝
「―お!澪!」
…声が聞こえる。私とは違う、明るくて弾んだ声。私が一番好きな──。
「って、はっ!?」ガバッ
「遅いぞ!澪。早く支度しないと遅刻しちまうぞー?」
時計を見ると7:40。やばい、完全に遅刻じゃん。
「何でお前はそんなにのんびりしてるんだ?パジャマのままじゃないか!」
「…ぷっ。澪、まだ寝ぼけてるな。今日は土よーび!休みだよん♪」
「──…っ」
そうだった。だからこんなにゆっくりしているのか、こいつは。
「何かさー、おばさんたち用事があるとかで朝から出かけたんだよ。…今この家にいるのは私
と澪だけ…。さあ愛の営みでm」
「調子にのるな!」ゴッ
「いってー!冗談だっての!!まあそれはともかく早く下降りようぜ」
そう言うやいなや律は私の手をひいて階段を下りだす。
…昨日のこと、バレてないよな?あ、朝食作んなきゃ。
「みおー。何作ってくれんのー?」
「お前も少しは手伝え」
「えー。私は昼作るから朝は澪が作ってよ!」
「まあいいけど…。じゃあちょっと待ってろ」
……せっかくなら2人で作りたかったのにな。
とりあえずサラダでも作ろうと冷蔵庫から野菜を取り出す。……よく考えたら料理が出来るって結構好ポイントだよな。よーし、ここは張り切って…!…って
「痛っ!」
痛さに手を見てみると人差し指から血がでていた。
「うー…痛い」
「澪!?どうしたんだ!??」「ちょっと包丁できっちゃって…」
切れた人差し指を見せると律は慌てて我が家の救急箱を持ってきた。
「ほら、指かしてみ。消毒するから」
私が右手を律に出すと律はけがをした人差し指を口にくわえた。
「ふへっ!?律!??」
律は人差し指をチロチロと舐めてくる。
「~!もういいから//」ドキドキ
今の私の顔はさながらトマトみたいに真っ赤なんだろう。
だってほら、律がニヤニヤして私を見てる。
「もう!何でこんなことするんだよ!」
一応消毒?してくれたことだしいつものように殴らないでいると
「だって消毒液がなかったんだもん。それに昔から言うじゃん、なめときゃ治るって!」
「そ、そうだけど…」
「そんなに真っ赤になんなくても~。やっぱり澪はかわいいな~♪」
そう満面の笑みで言いながら私の指に絆創膏を貼ってくれた。…かわいいのはどっちだよ。
「気をつけろよ?指は演奏者にとって命だかな!私が作るから澪はリビングで待ってろよ」
律は私のエプロンを装着し、キャベツをきざみはじめた。
バカ律…。お前がなめたせいで絆創膏、すぐ剥がれちゃうじゃないか。今にも剥がれそうな絆創膏を剥がし新しいのを張ろうとした。……この指じゃあ張ってもさっきの二の舞だ。
「…このくらい、いいよね」ドキドキ
そうだ、これは濡れた自分の指を乾かす為の行為。
「ほんの少しだけ」パクッ
チロチロ
律の、律の味。さっきのは為の言い訳だ。だってほら、さっきより濡れてる。
「澪ー!」
律の声で我に帰った私は反射的に指をかくした。
律の声はキッチンからだった。
「ど、どうしたんだ?律」「胡椒の場所変えた?いつもの場所にないんだけど~」
「あ、ああ今行くから待ってろ」
…良かった、ばれなくて。
名残惜しいけど濡れた指をティッシュで軽く拭き、絆創膏を張り直した。
キッチンに行くと律が上にある戸棚に懸命に手を伸ばしている。
「あ、澪。ついでにこの中から大皿とってくんない?」
律の家とは違い少し高めに作られているので律には届かなかったらしい。
「これか?」
「サンキュー。あ、胡椒はどこにあるんだ?」
チラリとキッチンを見渡すと卵が2つに。目玉焼きを作るのであろう。
「ああ、それなら床下にはいってるよ」
「おーわかった。じゃ楽しみに待ってろよ」
律は鼻歌なんか歌いながら料理を再開した。
そういえば律の料理なんて久しぶりだな。楽しみだ。
「おっまたせー!」
「うわっ、すごいな!!」
サラダにスープに目玉焼きにパン。どこから見ても立派な朝食だった。
「すごいだろー。私だってやれば出来るんだぞ!さあ早く食べてみろ」
「うん、ありがとう。いただきます」パク
「……」
「み、澪?どうだ?美味しくないか?」
びっくりした。
律は私が知らない間に料理が私と同じくらい…いやそれ以上に上手くなっていた。
「美味しい…!すっごく美味しいよ!律!!」
「そ、そうか~。良かった。澪ったら食べた瞬間黙りこんじゃうんだもん」
「それはあまりにも美味しすぎて自分の舌を疑ってしまったんだよ」
「さりげにひどっ」
こんなやりとりをしながら私は自分の頬が緩んでいることに気付いた。
少しハイになっていた私は律に抱きついた。
「律、美味しかったよ。ありがとう」
「ばっ…急に抱き着くなよ。今日の澪は積極的だなぁ~」
キャラに合わないぞと言われたけど律は満更でもないように笑ってる。
だからもう少しこのままでもいいよね。
「じゃあ私は皿洗っとくから澪先部屋行ってて」
「うん、ごめんな。昼はちゃんと作るから」
私は申し訳無さげに律をみた。でも、律は笑ってる。
「いいって。怪我人は安静にしてろ~」
「うー…分かったよじゃあ先行ってるな」
階段を上っている最中にさっきの自分を思い出した。それと同時に恥ずかしくなった。
あんなに積極的になったのは初めてかもしれない。律、暖かかったなあ。
「お待たせ!さあてどこ行こうか?」
はい?今律はなんて言った?
「だーかーらー、どこ行く?」
私の考えていることがわかるのか!?まさかテレパシー…!??ってそうじゃなくて!!
「おい律…?何のためにうちに来たか忘れたんじゃないだろうな?」ピクピク
「お、覚えております!」「…ならよし。じゃあ英語から始めるか」
「なんだよ、さっきまであんなに甘えてきたくせに」ボソッ
「何か言ったか?」
「いえ!めっそうもない!」
カリカリカリ……
「飽きた」
「はやっ!!」
まだ5分もたってないぞ!?
「みーおー。遊ぼうぜ?」
「駄目だ!今しなかったらいつするんだよ!?」
「今日徹夜するとか?」
…呆れた、昨日私より4時間も早く寝たやつがよくもまあそんなことを。
まあその間にあんなことしちゃう私も私だけど。
「…まったく。少しだけだぞ」
「よっしゃ!さすが私の澪!!」
「誰が私のだ!!」
「まぁいいじゃん♪早くいこうぜ」
自分でも呆れる程に本当に私はこいつに甘い。
「行くってどこ行くんだ?」
「そだな~、駄菓子屋にでも行くか!!この前ムギと一緒にいったんだよ」
…何か面白くない。今日ぐらい私だけを見てくれていいのに。
「ふーん、そう。じゃ、さっさと行くぞ」
自分の思いは伝えないで友達に嫉妬するなんて。すごく自分勝手だ。
それでも返事が素っ気なくなってしまう。
「どうしたんだ?駄菓子屋いやなら他の所でもいいんだぞ?」
ほら律は鋭いから私の機嫌なんて手に取るようにわかる。
律は一見子どもっぽい感じもするけど実は誰よりも大人だ。
「ううん、そんなことないよ。律とならどこでも楽しいだろうし」
自分でも驚く程にさらっと言えた。律は照れ笑いをうかべてこっちを見ている。
つられて私も律みたく照れ笑いをした。
「なんか今日の澪は今までと違うな~。調子くるうぜ」
「んじゃ行くぞ!ほら」
そう言って差し出されたのは律の左手。
「へ?律?」
「何かさっきからやられっぱなしだったからな。手、繋ごうぜ?」ニカッ
…私こんなに幸せでいいんだろうか。
「おばちゃん久しぶり~」
結局人が多くなるにつれお互い恥ずかしくなって手を放してしまった。
残念だったけど、しょうがない。
「澪、何買う?」
「じゃあ私水飴。」
「おーそうか。じゃあ私もそれ買おうっと」
まぜまぜ
「お、結構ほぐれてきた。伸ばしてみよう」
「固くて混ぜれない…りつぅ、後でやって」
「ははは、いーぞ!そういえばムギもそんなこといってたな~」
またムギ…。やっぱり嫉妬してしまう。私も何かアピールしないと!
「うわっやばい!手がベトベトだ。澪、ちょっと手洗ってくる」
…!よしこれだ!!
「律!!さっきのお返しに私が手を綺麗にするよ!」
「へ?どうやって!?」
「どうやってってもちろんくt」
……うわあああああああああああああ!!!!!?
私今何て言おうと―!?
「?どうした、澪?」
「なっなんでもない!!じゃあ私律の分の水飴持ってるから!!」
「ああ、悪いな~。じゃあ行ってくる」
タッタッタッ
「駄目だ…本当に今日私おかしいや」
それにしても…
「さすがに今回は駄目か。」
片手に持っている律の水飴を眺めて呟いた。どうしたら距離を縮められるんだろう。
「澪~お待たせ」
「あ、り、律早かったな」
「何でそんなかみかみなんだよ。まあいいや早くくっちまおうぜ」
今のは誰が見ても不自然だったよなあ…。
律が寝てるときはあんなことも出来たし言うことも出来たのに。
「澪、次どこいきたい?」
時計をみると家を出てから1時間もたっていない。まだ、いいか。
「律の好きな所でいいよ」
「んー…よし、じゃあゲーセン行くか!」
……
「うわぁ…結構人多いな~」
「まあ土曜日だしな」
律はドラムを叩くときとゲーセンにいるときが一番イキイキしている。
……いや一番は私をいじめてる時かな…?そんなことを考えてるとまた頬が緩んできた。ちょっと自惚れすぎかな?
「あ、これ澪の好きなやつだろ?」
「え?うんそうだけど」
「よーし!この律様が澪にとってしんぜあげよう!!」
「律!!頑張って!」
「おう、任せとけ!」
律は自信満々で答えた。この不敵そうな顔も律の好きな顔の一つ。
まあどんな表情でも好きなんだけど。
「よっしゃあ!2つゲット!!」
「律すごい!一気に2つも!!」
「へへ~すげぇだろ。はい、澪がピンクで私は黄色。おそろいでもってようぜ……
ってなんか恋人同士みたいだな//」テレッ
「なっ何言い出すんだよ///」カアア
「あーもうかわいいなあ//」クシャクシャ
そう言って律は私の頭を撫でた。恥ずかしいけどやめてほしくない…。今私凄く幸せだ。
「あれー?りっちゃんに澪ちゃん?」
「!?」
この声は…まさか……
「唯?」
「やっぱりりっちゃんたちだ~。何してるの?デート?」
「なっ!?」
瞬間、私の中の唯株が急上昇した。
そう!デート、デートなんだよ!!私が自分の世界に入っている間に話しは進んでいく。
「唯、お前こんなところで何やってんだ?テスト期間中だろ?」
「それならりっちゃんも人のこと言えないじゃん!
私は憂に頼まれたものを買いに来たんだよー…って、ん?」
律と唯はまだ話し込んでいる。残念ながら内容は聞き取れないが、まあいい。
「りっちゃん!そのぬいぐるみは…!!」
「いやーまさか唯にあうとはなあ」
唯とは10分くらい話して別れた。
憂ちゃんから頼まれた買い物を買いにスーパーにいくらしい。
「そうだな、まさか私達以外にもテスト期間中に出歩いてるやつがいるなんてな」
痛いところを付かれて言い返せないでいる律はどこか幼く見えた。
そのかわいさに免じて許してやろうかと律をみると、何か違和感を感じた。
「そういえば律、ぬいぐるみはどうした?」
「ああ、あれか?あれなら唯にあげた!」
…は?今なんて言った?こいつ
「なんか欲しそうにみてたからよー。すっごいよろこんだぞ!」
「…なんなんだよ、それ」
……バカ律。さっきまでデートだのと浮かれていた自分がバカみたい。
律は私にだけじゃない。みんなに優しいんだ。
ムギの次には唯に嫉妬──。結局私は律にとって友達でしかないんだ。
あ、やばい。涙でてきた。
「あーでもこれじゃあ澪と唯が恋人同士ってことになるなー。
まあ唯になら澪を任せても大丈夫かなー?」
なーんちゃって、と律は私の顔を見ようと目線をあげる。
こんな顔、見せれるわけないじゃないか。
「悪い、先帰ってるな」
私は涙声になるのをどうにか押さえながら律から逃げるように走った。
しばらくの間私は走った。律は追いかけて来ない。
たぶん信号に引っ掛かっているのだろう。
「優しい律が好きなのに…」
律のことは誰よりも理解していると思う。
律は誰に対しても優しい。でもその優しさが自分だけに向けられれば良いと思ってるなんて……本当
「つりあわない、よな」ポロポロ
私は人がいないことをいいことに思いっきり泣いた。
さっきから携帯がひっきりなしに鳴っている。
…あいつ、優しい上に心配性なんだもんな。
「電話、でたくないなぁ」 だって今の私はひどい声。
誰がきいても涙声だってわかる。
それに見つかってしまうと何で逃げたのかとか
何で泣いてるんだとか追及されかねない。
唯に嫉妬しました。なんてとても言えたものじゃない。
「…どうしよう、このまま帰ろうかな」
今、何時だろう。
そう思い携帯を開くとちょうど電話がかかってきた。少しまよったけどでることにした。
急に逃げ出したことについて謝らなきゃ。
「…もしもし」
「澪!今どこにいるんだ!?」
電話越しから聞く声でわかった。
律、すごく息あがってる。
「律ごめん!私が律のほうに行くから!!今どこ?」
「じゃあ駅前の喫茶店でまってるから」
「わかった、すぐいく!」
律…ごめん。私なんかの為に。
とにかく急ごう。
「!」
「ごめん、律って、えっ!?」
ギュ
喫茶店の前で待っていた律は私をみるなり抱きついてきた。
「り、律!こんなところで!!」
「バカみお~!!心配したんだぞ!!」
「ごめんなさい…」
「反省しているならまあ良し!それよりこれみてみろよ♪」
律は鞄の中に手をつっこんで何かを取り出した。って、え…!?これって…
最終更新:2010年01月06日 02:50