唯「今日はあずにゃんのソテーを作ります!」

梓「ええっ!?」

唯「あずにゃん、うで一本ちょうだい!」

梓「もう、唯先輩にはかなわないなぁ」

ズバッ

梓「ぎゃああああああっ!!」 ドタンバタン

唯「はい、新鮮な材料が用意できましたー。」

紬「梓ちゃん、大丈夫?」

梓「また生えてくるから…大丈夫です…」ボタボタ

唯「はい、それではまず、この肉の血抜きをして」

唯「香草などで漬け込んで、肉の臭みを取るんですが…」

唯「それだと時間がかかるので、下ごしらえした肉がこちらになりまーす♪」 ゴトッ

梓「……」 ボタボタ

紬「とりあえず止血しておきましょう」 マキマキー

梓「ありがとうございます、ムギ先輩…」

律「なるほど、今日は朝から梓の右腕がないからおかしいと思ってたんだ」

唯「やっぱり大事だもんね!リアリティとか!」

律「ははっ、こいつう」

アハハ…

ウフフ…

梓「……」


澪「さて、どんな料理を食べさせてくれるんだ、唯?」

紬「私も楽しみだわ。どんな料理が出てくるのかしら」

律「あたしもうお腹ぺこぺこだぜ!」

唯「ふふふ、それは見てのお楽しみだよ」

唯「まずはあずにゃんの肉をスライスして」 スー

唯「熱したフライバンに油を少し」 タラリ

紬(香り付けのニンニクとかは入れないのね…)


唯「油の温度が上がったらお肉を投入」

ジュー

唯「軽く塩コショウをしながら炒めます」 ジャー

唯「炒め加減は、お肉が堅くならない程度でね」

唯「これくらいかな。野菜を添えたお皿に盛り付けて」 ペタ


律「…おい、なんだよこれー。ただ単に肉を炒めただけじゃん」

澪「期待してたのに。ガッカリだな」

唯「ふふふ、まだ私のクッキングフェイズは終了してないよ!」

律「うわあ…」

ガシャン ボッ

澪「ん?フライパンをコンロに戻して火にかけたぞ」

唯「肉汁と油が残ったフライパンに、みじん切りにしたネギを投入!」

ジャー

唯「お酒に、砂糖、お酢にしょうゆ。ごま油をひとたらしして、」

唯「隠し味にオイスターソースを少々。そして仕上げに唐辛子をひとつまみ!」

唯「このソースをソテーしたあずにゃんのお肉にかければ…」

ジュー ジジジジ

唯「あずにゃんのソテーのネギソースがけの完成だよ!!」

澪律紬「おおおおおおおおおっ!!」


紬「なるほど、ネギソースとは…」

律「どれどれ、それじゃあまずはあたしが…」 ツマミ

澪「あっ、おい律!もう!」

パクリ

律「……!」

モグ モグ

律「むうっ!!」

紬「どう!?りっちゃん!」

澪「……」 ゴクリ


律「すごい!肉の旨みもさることながら!」

律「このさっぱりとしてネギソースがあたしの食欲を沸き起こす!」

ポリッ

律「くうう、この横に添えられたキューリの輪切りがまた泣かせるねえ!」

律「最初はただの手抜きとしか思えなかったのに、このネギソースと合わさったとたんに!」

律「ただのキューリが最高の箸休めに生まれ変わった!口の中の油をさらりと洗い落としてくれる!」


紬「……」 ジュルリ

澪「もうたまんない!あたしも食べるー!!」


澪「おいしいっ!!」

紬「…やるわね、唯ちゃん!」

唯「えへへー。」

梓「せんぱーい」モジモジ

澪「ん?あっそうか、今の梓は両腕ないもんな」

紬「はい梓ちゃん、あーん」

梓「あーん♪」 パクッ

梓「むっ!すごい、おいしいです唯先輩!!」

唯「えへへ、あずにゃんがお肉をくれたおかげだよー♪」

梓「えへへー」 テレテレ


カツン

律「あっ、なくなっちった」

澪「あー!律が食べ過ぎるからだぞ!!」

紬「あらぁ……」

梓(私ひと切れしか食べてないのに……)

律「唯!」

澪「唯…」

紬「唯ちゃん?」

梓「唯先輩…」

唯「…むふふ。みんな安心して!今日の私はフルコース行くつもりだよ!!」

4人「わーい!!」

唯「あずにゃんのお肉をちょっとだけ厚めに切ってー」

澪「あの厚さは…しょうが焼き?ポークチャップかな」

紬「それよりは少し厚い感じだけど…」

唯「ちょっと材料用意するねー」 ガコ ゴトッ

律「パン粉に小麦粉、玉子…」

澪「トンカツか!!」

唯「あずにゃんのお肉だから、あずかつってとこかな!!」


律「えー?ちょっとまってよ。だったらお肉はもう少し厚いほうがいい!」

澪「わがまま言うなよ、律…」
澪(…ほんとは私も同感だけど)

紬「…」 ニヤニヤ

コンコン パカッ

唯「ふふふ、ムギちゃんはわかってるみたいだね」

律「えっ?」

澪「唯、どういうことだ?」

コン

コン

唯「このお肉がカツを作るのにはベストの厚さってことだよっ」 パカッ!!

律「えー!?トンカツは厚ければ厚いほどいいじゃん!!」

澪(うんうん)

唯「むふふ、本当にそう思ってる?りっちゃん」 ペタペタ

律「あったりまえだい!!」

唯「じゃあ思い出して、この前みんなで行ったトンカツ屋さんのこと…」

律「……」

唯「あのトンカツ屋さんのカツ、すっごく厚かったね」

律「ああ…」 ジュルリ

唯「口に入れて噛むと、分厚いお肉の弾力が歯を押し返すほどで…」

律「……」 ポワポワポワ

唯「ぎゅっ!と噛みしめると、口の中はもうお肉でいっぱい!」

律「……」 ウットリ

唯「でも、その後は?」

律「…えっ?」


唯「宴の後は、衣もソースも流れちゃって」

唯「口の中に残るのは、中途半端に咀嚼された肉の塊」

律「…うっ」

唯「ソースや衣の鮮烈な味に慣れた舌にとっては」

唯「それは味の無いただのモソモソとした塊にすぎない」

律「む…ぐぅ」

唯「それは本当においしいカツといえるの?」

律「……」



律「……」

唯「……」 ペタペタ

律「……ああもうわかった!あたしの負けだよ!そんなにいじめんなよー!」 ウルウル

唯「あはは!りっちゃんに勝ったー♪」 ペタペタ

律「うえーん、澪~」 グスグス

澪「よしよし」ナデナデ

澪(律の味方しないでよかった…) ホッ


ポフポフ

紬「唯ちゃんそれ生パン粉?」

唯「うん、フランスパンを砕いた生パン粉だよ」

唯「硬すぎず柔らかすぎず、ちょうど良いパン粉になるんだ」

澪「へぇ」

唯「これであとは熱した油に入れて…」

ジュウー パチパチパチ


パチパチッパチッ

唯「きつね色になったら完成ねー」

律「ああー、やばいよお腹すきすぎてやばい」

澪「お前さっき一番食ってただろ!」

律「だってあのネギソースはさっぱりしてて逆にお腹すくもん!」

紬「…なるほど、前菜にふさわしい肉料理だったってわけね」

唯「…」 ニヤリ

唯「よし、できあがり!」 ジャッ

唯「あち、あちちち」 ジャクッ ジャク ジャクッ

唯「はい切ったよー、どうぞ!」 ゴトッ

律「うおおおお!!」

澪「これは…見た目は普通のカツ!!」

律「でもおいしそうだよ!唯、ソースは!?」

唯「もちろんあるよー。はい、これソースと…」 コトッ

紬「と?」

唯「はい、ねりカラシ。」 コト

律「きたー!!カラシきた!!!これで勝つる!!!!!!」


律「もうたまんない!いっちばー」

バシン

律「おぶぅ」

澪「律はそこで見てな。ここは私が行く」

唯「おお澪ちゃん、無駄にいい男!」

紬「でもやってることはただの食べ物の横取りね」


澪「では失礼してソースを」 タラー

澪「カラシをちょっとね」 ネト…

澪「…うん、うまそうだ…」

澪「いただきます」 カリ…

サク… サク…

澪「むうっ!!」

紬「……」 ドキドキ

律「……」 グゥグゥ


澪「ああっ…」 ホワァ

澪「この口の中で広がる肉の旨み…」

澪「衣の旨み…ソースの旨み…」

澪「そしてカラシの刺激!」

澪「全てが渾然一体となって奏でるハーモニー!」

澪「だれも出しゃばらず…かといって誰も負けず、理想的な試合展開…」

澪「なるほど…これは厚いカツではありえな」 ジュビ

澪「!?」


律「ど、どうしたんだ澪!?」

澪(よ、よだれが…)

唯「…小どんぶりでよければ」 コトッ

澪「ごはんッ!?」

唯「カラシ気持ち多めd」

澪「言われなくてもッ!」ネト

ザクッ

澪「んッ!」

バクッ

澪「っはああああ!!」

律「……」 ダラダラ



澪「これだああ!足りなかったのはこれだ!」

澪「カラシの刺激が!あたしにご飯をかっ込めと命じていたんだッ!!」

澪「口の中で肉と衣とソースとカラシとご飯の旨みが合わさって!」

澪「単体では刺激が強すぎたカラシの辛味も!ソースの塩気も!」

澪「ご飯と一体となって中和され、全てが絶妙なハーモニーとなっている!!」

澪「これだぁ!これが生きる幸せだああああ!!!」


紬「…」 ジュルリ

律「な、なあ…いいよな?もう食べていいよな?」 ジャラジャラ



ザク ザクッ

律「ンめええええええええ!!!」

紬「ッ……はああ!!たまんない!」

唯「ふふふ」 ニコニコ

律「唯お前天才だよぉ…泣けてくるよぉ…」 ウルウル

唯「んもー、カラシつけすぎだよりっちゃん」

紬(ああっ…せっかく良いシーンなのにそっち見る余裕がない!) パクパク

澪「んぐ!はぐっ!!」


梓「……」 ダラダラ

唯「あ、ねえみんな…」

律「ん?」

カツン

澪「あ、なくなった」

梓「ガーン!」

紬「あ、梓ちゃん!ごめんなさい、私としたことが!」

澪「うあ!ごめん梓!夢中になって気がまわらなかった…」

律「しょうがないなー、澪は。食いしん坊なんだからー」

澪「お前が言うな!!」


唯「ま、まあまだ料理はあるからね。ね?あずにゃん!」

梓「はい…」 ショボーン

律「次は何かなー」 ワクワク

紬「私はそこで火をかけてるナベが怪しいと思うんだけど…」

唯「おぅ、ムギちゃんめざとーい♪」

澪「スープかな?」

唯「うん、カツの後だから胃袋にちょっと一休み、ね?」

唯「はい、暖まったよ。どうぞー」

コトッ コト コトッ

澪「へえ、見た目は普通の…透き通ったスープ」

律「きっとまた驚かせてくれるんだろうなー」

紬「じゃあまずは私ね」

ス…

スィ

…フゥ

澪「すごい…音一つ立てない」

律「さすがムギ…」


紬「……ほぅ。」

律「ど、どうだったムギ!どうだった!?」

紬「うふふ。みんなも飲んでみるといいわ」

律「えっ!?」

澪「どれどれ…」

ズッ ズズッ

律「……」

澪「……」

律澪「……ほぅ」


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最終更新:2010年05月07日 22:29