唯「このベットで寝るのも久しぶりだね」

憂「うん…」

唯「ねぇ…憂」

憂「なに?」

唯「私に何か隠してる事無い?」

憂「……無いよ」

唯「本当に?姉妹で隠し事はダメだよ」

憂「…うん」

唯「私、憂がいなくなっちゃったら嫌だからね」

憂「…………うん」


憂「私の…お姉ちゃんの病室に来なくなった時」

唯「うん、あの時がどうしたの?」

憂「肺癌だったの」

唯「…………え?」

憂「安心して…あの時に手術してもう治ってるから…タバコも辞めたんだよ」

唯「よ、よかったぁ~」


唯「じゃあずっと一緒だね」

憂「うん…」

唯「私、憂が妹でよかったよ…おやすみ」

憂「おやすみお姉ちゃん…」


憂「けほっ…けほっ…」

憂「お姉ちゃん……?」

唯「すー…すー…」

憂「ちょっと離れるね」

唯「すー…すー…」

憂「すぐ戻って来るからね」



憂「げほっ…げほっ…」

憂「はぁはぁはぁ」

憂「げほっ…げほっ」

憂「………どうしよう」

憂「タバコなんて吸わなければよかったよ…」


唯「ん……あれ?憂」

唯「トイレかなぁ…私も少しトイレに行こうかな…お水飲み過ぎちゃった」

憂「げほっ……」

唯「憂……?」

憂「げほっ…げほっ」

唯「どうしたの?憂」

憂「お、お姉ちゃん!!」


唯「大丈夫?咳いっぱいしてるね」

憂「う、うん大丈夫」

唯「……………」

憂「本当に大丈夫だよ」

唯「…………血が」

憂「え?血?」

唯「パジャマに血が付いてるよ憂」

憂「…………お姉ちゃん私は大丈夫だよ」


唯「………憂」ギュッ

憂「……お姉ちゃん」

唯「………言ってお願いだから憂の体に何が起きたの?」

憂「でも……」

唯「大丈夫…私は受け止められるから」

憂「私…また癌に侵されたの…再発したの」


唯「……私の病気が治ったみたいに…憂の病気も治るよきっと…治る」

憂「でも……もう長く無いらしいの…」

唯「大丈夫きっと治るよ…奇跡が起きるよ」

憂「私お姉ちゃんと離れるの嫌だよ!」ポロポロ

唯「大丈夫……私もすぐ追い付くから」


もって一年らしい。
どうする事も出来ないぐらい癌は再発してあっちこっちに転移してるらしい。
一ヶ月二ヶ月と月日が過ぎて憂は病院へと入院する事となった。
まだ…まだ望みはある私の病気みたいに奇跡が起きると信じている。


唯「憂ほらスノードロップ買って来たよ」

憂「ありがとう…お姉ちゃん」

唯「知ってる?この花の花言葉は希望なんだよ」

憂「うん…私が教えたもんね…」

唯「ムギちゃんからだよ!」

憂「そうなの?」

唯「うん!スノードロップここに置いとくからね」

憂「ありがとうお姉ちゃん」



五ヶ月。
憂に元気が無くなって行くのがわかる。
憂の手を握ると少し震えている。
私は奇跡を信じてる。
病気が治る事は無いと思った私でも今はこうしてピンピンしている。
大丈夫…憂は大丈夫。


唯「憂…何書いてるの?」

憂「えーと…手が震えてるからリハビリみたいな事してるの」

唯「もし治った時にね」

憂「うん…」

唯「あ…見せてよ」

憂「ダーメ!」

唯「ケチィ~!」


七ヶ月。
目の下の隈が酷い。
体も細くなっている。
まだ…望みは捨てて無いよ私は捨てて無い。
グリーンマイルみたいに私もあの力が使えたらすぐに憂を治してやるのに。
寝る前に少し考える事がある。
もし、憂が死んだ時の事。


唯「ご飯食べさせてあげる」

憂「いらない……」

唯「食べなきゃ…ほらあーんして」

憂「……あーん」

唯「美味しい?」

憂「あまり…味がしない…」


九ヶ月。
あまり憂が話さ無くなった。
笑顔もあまり見なくなった。
寝る前に私は長い時間憂が死んだ時の事を考える。
その時の事はもう私の中で考えは決まっている。



十月。

私は憂の細くなった体に抱き着きながら泣いた。

憂はそんな私の頭を撫でて大丈夫だよ…私の病気は治る安心してと紙に書いて私に渡した。

あの時、私が憂の癌の事を聞いた日、私はあの時から憂が死ぬ事を心の何処かで思っていたんだと思う。

だから、すぐに追い付くなんて言葉を言ったんだと思う。



十一月。

私は病院に来て憂を見る度に涙を堪えきれなかった。
憂に悲しい思いをさせたく無いから、私は病院に来る前に泣かないと心に決めてから病院に入る。

でも泣いてしまう。

憂がこの世界からいなくなる。

その事を考えるだけで私は涙を堪えきれない。

憂はもう字を書く事が出来なくなり喋る事も出来ない。



憂「…………」ボソッ

唯「憂…憂?」

憂「…………」ボソッ

憂が何かを言っている…私は耳を憂の口元に近づけた。

憂「お姉ちゃん……大好き……」

これが…憂が最後に言った一言だった。

翌日の朝。

憂は静かに息を引き取った。




憂が死んで私の心の中にぽっかりと穴が空いたように思えた。

葬式をしてる時でも私は憂の遺影を見つめてるだけで泣きもしなかった。

火葬の時も憂の骨を拾う時も私は泣いていない。



唯「憂は本当に…死んだのかな?」

唯ママ「えぇ……」

唯「……………」

看護士「あ、あの…平沢唯さんはいますか?」

唯「私…ですけど…」

看護士「よかった…あのこれを」

唯「………手紙だ誰からだろ」

看護士「憂さんからです…」

唯「……憂から」



唯「……………」



『お姉ちゃんへ』
お姉ちゃんごめんね。
せっかくお姉ちゃんの病気が治ったのに…ずっと側にいてあげられなくて。
あのね…お姉ちゃんが病気の時、私実はもうお姉ちゃんが助から無いと思ったんだよ。
でもね、こうやって奇跡的に回復して私凄く嬉しかった。
カレー作った時なんか本当に嬉しかった。
だから、ありがとう私の側にいてくれて。
私が死んでも希望を失わないで生きてね。
今までありがとう。
大好きだよお姉ちゃん。
PS手紙で言葉を伝えるのって結構難しいね。お姉ちゃんの妹でよかった。





唯「希望を持って生きて……」

唯ママ「どうだった?」

唯「私にはそんな事出来ないよ…憂」

唯ママ「ね…ねぇ唯?」

唯「お母さんこれから親戚の人とお話するんでしょう?」

唯ママ「え、えぇ」

唯「私は帰るねバイバイ」

唯ママ「ちょっと……唯!!」


唯「おかえり……」

今も家の中から憂がおかえりと言ってくれる…そんな予感がする。

唯「………そんな分け無いよね」

私は引き出しからお父さんのネクタイを出して自分の部屋へ向かった。


唯「憂ごめんね私…希望持て無いよ…」

天井からぶら下がるネクタイ。

その真下には椅子。

もう死のう…私には何も残っていない。

私は椅子の上に立ってネクタイを首にキツく結びつけた。

唯「すぐ行くからね…憂」


唯「バイバイ…お父さんお母さん」

私は椅子から身を投げ出した。

死ぬ事なんか怖くなかった…。

憂に会えると考えると怖くなんか無い。

唯「うっ…うぅぅっ」

この苦しみからもあと少しでお別れだ。



ブチッと音と共に私の体は床に激突した。

唯「げほっ…げほっげほっ」

ネクタイは切られている…カッターで綺麗に切ったように切られている。

唯「…どうして」

死んじゃダメだよ!!そんな声が聞こえた気がする。

辺りを見渡すが誰もいない……。



私が床に落ちた衝撃でハンガーで掛けられた制服が落ちたらしい。

唯「元の場所に戻さなきゃ………」

何か忘れてる気がする…確か澪ちゃんが言ってた。

あの時の私は放課後ティータイムが解散した事で頭がいっぱいだったから聞き流したんだと思う。

唯「なんだろう……」



唯「………制服だ」

唯「そうだよ…確か澪ちゃんは制服のポケットに」

唯「あった…………これは紙?」

唯「何か書いてあるのかな?」

『桜ヶ丘高校の校門の前で待ってる』

唯「憂…私、希望持てそうだよ」



唯「でも…これ何時か書いて無いよ…」

唯「多分りっちゃんが書いたんだね…」

唯「………大丈夫みんなは来るよ」

唯「何年でもみんなを待つよ…希望を持って生きるよ憂」



私は毎日毎日みんなを校門の前で待ち続けた。
後ろにギー太を背負って待ち続けた。
三年間待ち続けている。
さわちゃんを捜したけど今はいないらしい。
大丈夫きっとくる。



唯「……………今日は雨だよ憂」

唯「………行ってくるね今日はみんなと会える気がするよ」

唯「毎日言ってるよね私…バイバイ行ってくるね」

唯「いってきまーす」


唯「はぁ…付いた…でも靴下びしょびしょだよ」

唯「…………後はみんなを待つだけ」

唯「ギー太も濡れないようにビニール掛けてあるし…大丈夫」

唯「でも…この歳でギー太って……まぁいっか」

唯「雨やまないかなぁ…」


時刻は過ぎ夕方になった。

朝とは違い夕方の天気は晴れていて夕立がとても綺麗だった。

唯「今日も来ないかなぁ…」

希望を持つのも結構難しいんだよね。

唯「………今日も帰ろうかな」


唯「うん…帰ろう」

私はギー太を背負い直し夕立を見た。

唯「綺麗だな…あれ?」

逆光でよくわからないけど六人組がこっちに向かって歩いて来てるの…かな?

唯「みんなじゃ無いと思うけど…もう少し待ってみようかな…」


いや…確かにこっちに向かって歩いて来てる。

唯「まさか……」

逆光で顔はよく分からない…でも私の心臓は凄くドキドキしている。


私は生唾を飲んだ…どんどん距離が近いている。

一番背の低い人が私を指を刺すのを見えて私は確信した。

唯「みんな……」


此処に待つ時間も待ち遠しい私は走った。

距離がどんどん近いて顔が分かった。

唯「アハハ…みんな変わってないなぁ…」

走りながら考えた…まずは最初に何を言おう。

そうだ!ありがとうとただいま、まずはこれを言わないと。


私はみんなの元に辿り着いた。

みんなは涙を浮かべた表情で私を見ている。

唯「みんな…ありがとうそしてただいま」

みんなは私の手を握り口を揃えてこう言ってくれた。

ごめんねとおかえりを…。


END



最終更新:2010年05月11日 23:21