帰り道


澪「おい!律!」

律「・・・澪か」

澪「なんで言ってくれなかったんだよ」

律「何が?」

澪「具合悪いんだろ?無理するなよ」

律「無理なんてしてない」

澪「お前はまたそうやって・・・!」

律「だーから。体は平気だよ」

澪「じゃあなんでそんな調子悪そうなんだよ」

律「あー、そうだな。具合は悪くないけど、調子は悪いかも」

澪「??」

律「なんていうか、最近・・・私、おかしいんだよ」

澪「最近?今日だけじゃなくて?」


律「あぁ。なんか変なんだ」

澪「なんかって・・・自分でも何が悪いのかわからないのか?」

律「・・・いや、わかるよ」

澪「じゃあ」

律「でも、そんなこと思うこと自体が変なんだよ」

澪「律、言ってる意味が」

律「さっき、途中で曲を止めちゃったのはな、理由があるんだ」

澪「理由?たんに間違えたんじゃないのか?」

律「そう言ってしまえばそうだけど・・・手が・・・」

澪「手が?」

律「手が止まったんだ」

澪「え?金縛りとか言うなよ?」


律「金縛り、か・・・そうかも」

澪「わかるように言ってよ」

律「見とれちゃってさ、気付いたら動きが止まってたんだ」

澪「見とれたって、何にだよ?」

律「唯・・・」

澪「お前、まさか・・・唯のことが・・・」

律「の耳」

澪「へ?」

律「だからー、唯の耳に見とれちゃったんだってば」

澪「・・・」

律「な、なんだよ?」

澪「ばーか」

律「なんで!?」

澪「ふざけてないで本当の理由を言えよ」


律「・・・(ふざけてないんだけど)」

澪「おい、律?」

律「私はふざけてないぞ」

澪「だって、ないだろ。耳に見とれるなんて」

律「やっぱ澪は私のことを変態扱いするんだな・・・」ハァ

澪「え、え?」

律「だから言いたくなかったんだよ」

澪「ちょっと、律」

律「さっきも言ったけど私、体は平気だから。付き添ってくれなくてもいいよ。そんじゃな」スタスタ

澪「おい、待ってよ!」ダッ


律「・・・どうせ私は変態だよ」スタスタ

澪「待ってってば!」ガシッ

律「・・・なんだよ?」ギロッ

澪(うっ。怖い・・・でも、逃げちゃダメだ!)

澪「とりあえず、私の家に来いよ」

律「断る」

澪「えー」

律「私、ピアスのケアしないと」

澪「じゃ、じゃあ私が律の家に行く!」

律「え・・・え?」

澪「え?駄目だったか?」


律「そういうわけじゃないけど・・・」

澪「ゆっくり律の話を聞かせてくれよ」

律「わ、わかったよ」

澪「よし、決まり!」

律(・・・私、我慢できるかな)

律(澪、どうなっても知らないぞ?)






律の部屋



澪「さてと」

律「?」

澪「さっきの話、よく聞かせてくれ」

律「別に・・・さっき言った通りだよ」

澪「えーと、律は耳フェチ?なのか?」

律「ま、まぁそうだな」

澪「それで普段の生活にも支障が出てるのか?」

律「別に普段は平気だろ?たまに綺麗な耳を見ると固まっちゃうだけだ」

澪「いや、綺麗な耳ってなんだよ」

律「綺麗な耳は・・・綺麗な耳だ」


澪「わからん。・・・えーと、唯の耳は綺麗なのか?」

律「あぁ。唯だけじゃない、軽音部員の耳はみんな綺麗だよ」

澪「うーん、綺麗とか綺麗じゃないとかよくわからないけど・・・」

律「それを私に語らせる気か?長くなるぞ?」

澪「あ、じゃあいい」

律「聞いて欲しかった。本当のことを言うと聞いて欲しかった」

澪「しょうがないヤツだな、ほら。じゃあ教えてくれよ」

律「いいのか!?」

澪「あぁ、頑張って聞くよ」

律「えーとな、まず・・・あまり大きい耳は駄目なんだよ」

澪「へぇ?」

律「それで、耳たぶが大きいのも駄目だ」

澪「あー、ちょっとわかるかも」


律「だろー?あと向き」

澪「向き?」

律「そう、サルみたいに立ってるヤツとかたまにいるだろ」

澪「あぁ、すごいよく聞こえそうな耳だけどな」

律「そういう風に耳が立ちすぎなのは好きじゃない」

澪「そうなのか」

律「かと言って耳の後ろにくっつくくらい寝てる向きの人も駄目だ」

澪「なんか難しいな」

律「さらに耳たぶの厚みや大きさと同じくらい重要なのが耳殻の形だ」

澪「ちょっと待て、耳殻って何だ?」

律「耳の渦巻だよ」

澪「これか」サワサワ

律「そう、耳殻の形は指紋と同じで唯一無二のものなんだ」


澪「あー、なんか聞いたことあるな」

律「耳殻の中で対輪脚って部分があるんだが、ここが出過ぎている耳は好きになれない」

澪「え、えーと・・・(ヤバイぞ、思ったより律の耳フェチって重症じゃないか?)」

律「ごめん、対輪脚なんて言ってもわからないよな。えーと、この部分だ」サワッ

澪「そこに名前なんてあったんだな」

律「私も最近知ったよ」タハハ

澪「律の耳の好みについてはよくわかったy」

律「まだだ」


澪「」



律「さっき言った対輪脚と合わせて重要なのが耳輪だ」

澪「・・・耳輪ってどこだよ」

律「耳の上のクルって巻いてるところだよ、ほらここ」

澪「耳輪っていうのか・・・いらない知識ばかりが増えていくな」

律「ここはピアスの部位の名前だとヘリックスって言うんだけど」

澪「あれ?じゃあ律はヘリックスに開けてるってことでいいのか?」

律「あぁ。ちなみに普通の耳たぶはロブ、対輪脚は場所によって名前が変わってくるだけど」

澪「あーあー、わかったよ(語りだしたらキリがないな)」

律「耳の穴と丁度水平くらいの位置がスナッグって言うんだ」

澪(無視、だと・・・!?)

律「対輪脚が出過ぎていると私の好きなインダストリアルができない、だから嫌いなんだ」

澪「インダストリアル・・・?(外人で会話してる気分だ)」

律「そう、長いピアスでヘリックスに開いた穴二つを貫通させるピアスなんだけど」

澪「へ、へぇ・・・」

律「迫力があるんだよな、これが」

澪「・・・あれ?」

律「どうした?」

澪「そう言ってるけど、律はインダストリアル?っていうの、してないよな?」

律「あぁ、それをしようとすると必然的に頭に限りなく近い、耳の付け根に穴を開けないといけないからな」

澪「?」

律「ピアッサーだと上手く開けられないんだよ」

澪「そうなのか?」

律「してる人もいるだろうけど、私は無理だ。慣れてる人にニードルで正確に開けてもらいたい」

澪「に、ニードルって、針か!?」

律「あぁ、ピアス用のがあるんだよ」


澪「へぇ・・・痛そうだな」

律「そんなことないよ、アフターケアのことを考えるとピアッサーよりも優秀だ」

澪「でも、針でグサッだろ?絶対痛いよ・・・怖いよ・・・」

律「ニードルの場合、極端に言うと切り傷なんだ」

澪「どんだけ鋭いんだよ・・・」

律「それに比べてピアッサーは耳の表面の皮膚、軟骨をグチャッと押しつぶして無理矢理に貫通させてる」

澪「ああああぁぁぁぁぁ」ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ・・・

律「グチャグチャになった怪我とただの切り傷、どっちの方が治るの早いと思う?」

澪「・・・」ミエナイキコエナイミエナイキコエナイ・・・

律「澪ー?」

澪「後者、後者だと思います、はい」ブルブル

律「ん。まぁそういうことだ」

澪「じゃあ本当はピアッサーじゃなくてニードルで開けた方がいいってことだよな?」

律「そうだな。まぁロブに関しては軟骨はないし、ピアッサーでもいいと思うよ」


澪「そ、そうか」

律「話が逸れたな、それで私の好きな耳に関してだけど」

澪「もういい!もういいから!」アセアセ

律「ちぇー。また今度聞いてくれよな」

澪「あ、あぁ」

律「それで、元々なんの話だっけ?」

澪「律が綺麗な耳?に見とれるって話だよ」

律「あぁ、そうだったな」

澪「律は、綺麗な耳を見るとどう思うんだ?いいなー?とか?」

律「それもある。でも私は自分の耳の形、結構気に入ってるんだ」

澪「・・・あぁ。さっき言った条件に当てはまってるもんな」

律「だろ?でもやっぱり耳の形は人それぞれ」


澪「あぁ、それは律の話を聞いてよくわかった」

律「だから、『唯はトラガスが似合いそうだなー』とか『梓はヘリックスにたくさん開けて
ズラーっとキャプティブリングかセグメントリングを並べると可愛いだろうなー』とか考えるんだ」

澪「何その耳コーディネーター」

律「し、仕方ないだろ?自然と考えちゃうんだから」

澪「それで最近ぼーっとしてることが多かったのか・・・」

律「あぁ、ごめん」

澪「いや、いいよ。とりあえず安心?したし」

律「なぁ澪」

澪「なんだ?」

律「私が、澪にはどんなのが似合うと思ってるか知りたくないか?」

澪「・・・ちょっと気になるかも」

律「だろ?」ニヤッ

澪「でも用語で言われてもわからないからな?わかりやすく言ってくれよ?」


律「あー、うん」ゴソゴソ・・・

澪「机なんて漁って何してるんだよ」

律「さー、なんだろうな?」

澪「・・・律?」

律「これ、なんだと思う?」クルッ

澪「針・・・!」

律「へへー、当たり」

澪「り、律、ちょっと待って・・・!」

律「やだ。待たない」

澪「いや、ちょっとちょっと!それで何するんだよ!」

律「決まってるだろ?澪にはどんなピアスが似合うのか、教えてやるんだよ」

澪「・・・!」


律「澪、最後に私の部屋に来たの、いつかわかるか?」

澪「な、なんだよ急に」

律「いいから」

澪「・・・律の家に来たの久々かも」

律「だろ?」

澪「えっと・・・あれ、いつだっけ」

律「私がピアス開ける前だよ」

澪「うーん、言われてみればそんな気が・・・」

律「私、自分の性癖に気づいてからは澪を部屋に呼ばないようにしてたんだ」

澪「そうなのか・・・って、へ?せ、性癖?」

律「そう、性癖」

澪「えっと、それは語弊があるんじゃないか?」



律「ないよ」ストンッ

澪「!?」

律「隣に座ったくらいでそんなにビビるなよ」

澪「だって、律・・・手に針・・・」ガタガタ

律「大丈夫だって、そんなに痛くないよ」

澪「・・・や、やめてよ」

律「澪が家に来るなんて言うからだろ?」

澪「だ、だって・・・」

律「ずっと我慢してたのにさ」

澪「り、律・・・」グスッ

律「私、澪の耳が一番好きだ」

澪「律・・・目が怖いよ・・・」ポロポロ

律「澪、動かないで」スッ

澪「やめてよ・・・」ガタガタ


律「嫌なら逃げてもいいんだぜ?」

澪「・・・(怖すぎて動けない)」

律「逃げないってことは、いいんだよな?」

澪「律、ちょっと待ってよ。ピアスなんて開けたら学校で」

律「大丈夫、澪の髪型ならそうそうバレないよ」

澪「で、でも、痛いのやだよ・・・」

律「痛くしないから」

澪「そういう問題じゃなくて、その・・・」

律「耳、触るよ?」サワッ

澪「!?」ビクゥッ!

律「はぁ・・・」ウットリ

澪「り、りつ?」

律「お前の耳、ホント最高だよ」

澪「~~~!律、耳に息かかってる・・・///」


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最終更新:2010年05月11日 23:41