桑田「楽しんでるか?」
律「お、くわっちょー!もう最高だよ!ありがとな!こんな凄い所に招待してくれて!」
桑田「あまりハメ外すとお持ち帰りするからなー(笑)」
律「まーたそんな事言いやがって。まぁもう慣れたけどさ。」
桑田「お、じゃあもっとスゴいのを・・・」
律「調子に乗るな!」バシャ
桑田「あー!お前コーラなんてかけやがって・・・」
律「殴られなかっただけありがたく思えっての!」
桑田「教師を敬わない奴だなぁ・・・ったく・・」
律「へんだ!」
桑田「あのな、律。」
律「なに?」
桑田「俺さ、お前たちと出会って、久しぶりに音楽が楽しいと思えたよ。」
律「?なんだよ?突然。」
桑田「ありがとな。」
律「・・・へへ、よくわからないけど、私達も楽しかったよ?
なんかさ、毎日‘音楽してる!’って感じでさ。」
桑田「そうか。」
律「・・・」
桑田「これから色々あるかもしれないけどな、何があっても、今のメンバーを大事にしなきゃ駄目だぞ。」
律「なんだよくわっちょ、なんか今日変だぞ?」
律「全くー。なんかもう二度と会えなくなるみたいな言い方じゃんかよぅ。
くわっちょだってメンバーなんだからさ、ずっと仲良くやって行こうぜ!」
桑田「・・・」
律「くわっちょ?」
桑田「・・あぁ、そうできたら良いよな。」
律「そうなるんだよ!」
本当にそうなれば良いのにな。
隣で微笑む、自分の息子よりも幼い少女の横顔をチラリと見て、桑田は心からそう願うのだった。
桑田「よし・・・みんな!」
澪「はい、なんですか?」
唯「くわっちょイェーイ!」
紬「イェーイ!♪」
桑田「三日後のライブに向けてな。応援になるかはわからないけど、曲を用意してきた。」
梓「歌ってくれるんですか!?」
桑田「ああ。」
澪「そういえば、桑田先生の歌って直接聞いた事なかったよな。」
唯「わーい!歌って歌ってー!」
桑田「よし!」
桑田は持って来たアコギを抱き、あぐらをかいて座る。
取り囲むようにして、HTTのメンバーその関係者達が座った。
桑田「じゃあ、聞いて下さいー!YaYa(あの時代を忘れない)!」
‘胸に残るいとしい人よ’
唯「・・・わぁ・・・」
紬「凄い・・」
‘飲み明かしてた 懐かしい時・・・’
梓「・・・」ポォォォ
澪「・・・・」(本当に、凄い・・)
憂「お姉ちゃん達・・こんな上手い先生に教わってたんだ・・」
‘互いにギター 鳴らすだけで わかりあえてた 奴もいたよ’
律「・・・くすっ」
澪「ん、どうした?律。」
律「・・いや、なんか今の歌詞、私達みたいだなって思って。
澪「・・・互いに・・ギター・・ふふ、そうだな。」
律「パートは違っても・・みんな楽器を鳴らせば・・」
澪「あぁ・・。」
律「なぁ澪。」
澪「なんだ?律。」
律「音楽やってて・・・良かったよな。」
澪「・・あぁ。」
律「・・そして・・・」
澪「ん?」
律「くわっちょと出会えて、良かったよな・・」
澪「・・・」
律「・・・」
澪「・・・あぁ・・・。そうだな・・・」
そして。
コンテスト当日の朝。
桑田(・・・朝か・・)
桑田(今日であいつらともお別れなんだな・・)
桑田(・・・)
桑田(最後になるのか・・・)
桑田(考えてみれば、あいつらのライブを見るのは最初で最後なんだな。)
桑田(・・・)
桑田(行くか。)
会場
澪「わ・・・・わ・・・・」
紬「どうしたの?澪ちゃん?」
澪「だだだだだって・・・・・こ、こんな広い会場で」
律「リハでも来たじゃんか。」
澪「い、いざ本番だと思うと足が竦むんだよ!」
梓「大丈夫ですよ澪先輩!今の私達なら!」
唯「そうだよ!絶対優勝だよ!」
澪「う・・うん・・・」
さわ子「あら、みんな揃ってるわね。」
桑田「遅刻者はいないな。」
律「一番遅刻しそうな人がよく言うぜー!」
桑田「なんだとこのデコスケ!」
律「変態パーマ!」
桑田・律「ぬぅぅぅぅー!」
紬「本番当日まで変わらないわねぇあの二人は♪」
澪「ムギもいつもと変わらない気が・・」
唯「わー!出店があるみたいだよー!凄いー!」
澪「唯も・・・。」
梓「・・・」ゴォォォォ
澪「梓はなんだか燃えてるし・・・」
澪「・・・私も、気合入れないとな。」
(控え室)
さわ子「みんな、今日の出番表よ。」
律「おー!どれどれ・・え!最後じゃん!」
澪「え!!」ガクガクブルブル
桑田(生まれたての小鹿のようだ)
梓「盛り上がるも盛り上がらないも・・私達次第って事ですね!」
紬「燃えてきた♪」
唯「熱い!熱いよムギちゃん!」
紬「そーれボォー、ボォー、♪」
キャッキャッツ
桑田(・・そう、この感じ。)
桑田(この緩い雰囲気が、お前たちの最大の持ち味なんだよ。)
桑田(他のバンド、全体が緊張している。)
桑田(そんな張り詰めた控え室で、お前らだけはいつもの、素の姿でいられているんだ。)
桑田(プロになるよ。お前らは。俺じゃあ止められん。・・俺が手を貸さなくても、いずれ、絶対上に行くんだろうな。お前たちは。)
彼女達のポテンシャル、才能。
それを見ていられるのも、もう今日一日だけ・・・。
ここまで来て、桑田が祈るのはただ一つ、これだけだった。
桑田(絶対優勝しろよ!みんな!)
コンテストが始まった。
各バンドの演奏は三曲ずつ、ライブ形式で行われる。実践での実力を見る意向のようだ。
憂「凄い・・みんな凄く上手いよ・・」
純「うん・・本格派って感じ・・・」
憂「大丈夫かなぁ・・お姉ちゃん・・」
和(唯・・・)
桑田(・・・)
桑田は、少し離れた場所でコンテストの様子を見ていた。
寸感では、ガールズのアマチュアにしてはなかなかレベルが高い。
しかし。
客席を眺めてみると、各バンドの演奏毎に、
恐らくそれぞれのファンであろう集団しか盛り上がっていないのが伺える。
桑田(魅力・・・か。)
歌唱力、演奏力。
各バンド、確かにHTT以上の能力はある。
- だが、初めてビートルズを聞いた時のような、初めてディランを聞いた時のような・・
そして何がなんだかわからない内にこの世界に連れて来られたあの日。HTTの演奏を聞いた時のような・・・
桑田(・・・ん?)
桑田(・・はは、何を俺は、ビートルズやディランと並べて考えてるんだ。)
きっと陽の目を見ないままで・・見えない力に翻弄され、日替わりの運命に左右され、誰にも知られないまま消えてしまった才能あるミュージシャンやバンド・・・
- そう、ビートルズやディランは、きっと知らないだけで本当はどこにでもいるんだ・・。
桑田(・・うん、そうだな。そうだよな。)
全ては、もう決まった。
後は。彼女達を最後まで見守るのみ・・
プルルルル
桑田「ん?」
携帯が鳴っている。
こんな時に誰だ・・と思いながら桑田は通話ボタンを押す。
桑田「はいはい?」
唯「あー!くわっちょやっと繋がった!今どこにいるのー!?」
桑田「どこって、客席でライブ見てんの。」
律「唯、ちょっと変われ!・・・くわっちょ!」
桑田「デカい声出すなデカい声を。」
律「今すぐ控え室に集合!」
桑田「え?」
律「部長命令だ!・・・じゃあな!」ガチャッツー・ツー・・
桑田「なんなのよあいつは・・・」
呼び出された手前、無視する事も出来ず桑田は控え室へ向かった。
桑田「来たぞー、みんな。」
紬「あ!お待ちしてました♪」
梓「遅いですよ先生!!」
桑田「何よ何よ。」
唯「えへへー・・・」
澪「せーの!」
全員「じゃーん!」
桑田「・・・え?」
桑田が渡されたのは真っ白なアコースティックギター・・・
それにマジックで書かれた全員からの寄せ書きだった。
桑田「これを俺に・・・?」
律「へへー、なんかくわっちょには世話になりっぱなしだったからさぁ、
何かお返ししなきゃなーって。」
桑田「律・・・」
唯「くわっちょ、今日までありがとうー!」
澪「先生には・・ほんと、何て言って良いのか・・」
梓「安物ですけど、みんなでお金出し合って買ったんです。真っ白なギター・・
なかなか見つからなかったですけど。」
紬「先生に、何かお返ししたくて・・」
桑田「みんな・・・」
寄せ書きとは言っても、ぐちゃぐちゃに色んな言葉や絵が描かれていて、
一つ一つ読むのには時間がかかりそうだ。
律「まぁ、なんつーか・・これからもよろしくな?くわっちょ?」
桑田「・・・全く、バカ共が、コノー・・・」
澪「桑田先生?」
唯「あははー、くわっちょ照れてるー!」
せっかく、せっかく気持の整理がつきはじめていたのに。
こんな事をされたら・・・
こんな事をされたら何が何でもこの世界にいたくなってしまうじゃないか・・・
この子達に本当の事を・・
もう、二度と会えなくなるかもしれない事を・・
桑田「・・・みんな。」
律「なんだ?くわっちょ。」
桑田「信じられないかもしれないが・・」
スタッフ「放課後ティータイムさん!そろそろ準備お願いします!」
澪「あ・・・」
律「なんだよ、くわっちょ?話なら早く・・」
桑田(みんな・・・)
桑田「・・・信じられないかもしれないが!お前たちなら絶対に優勝できる!さっさと演奏して来い!バーカ!」
梓「なんですかそれ(笑)」
唯「うん!頑張る!」
澪「うん・・・行こう!先生!聞いてて下さいね!」
紬「行って来ます!」
律「・・はは、まぁ、よくわかんないけどさ、話ならこの後でもゆっくり聞けっからさ。また後でな?くわっちょ。」
桑田「・・・」
律「じゃ、行ってくるわ!」
桑田「・・律。」
律「何?」
桑田「客席・・・ぶっ飛ばして来い!」
律「・・・」
桑田「・・・」
律「・・ふふ、わかったよ、センセ!!」
タッタッタッ・・・
桑田「本当に・・・バカ共が・・・・」
ステージ袖でスタンバイに入ったメンバーを目に焼き付ける。
そして寄せ書きのギターを握り締めながら・・桑田は客席に向かった。
運命の、最後のライブが始まる。
アナウンス「次は桜高軽音楽部・・・放課後ティータイムの登場です!」
最終更新:2010年05月17日 23:17