唯「しまった!」
けたたましく鳴る目覚まし時計の音に気が付いて私は目を覚ました。
今日は5月13日…軽音楽部のみんなとバスで遊びに行く予定だ。
唯「は、早く用意しないと…その前にみんなに電話しなきゃ!」
唯「も、もしもし澪ちゃん!!」
澪ちゃんは大きな声を出して私に一言。
澪『何やってんだ!ずっと待ってるんだぞ!!』
唯「ご、ごめん」
澪『バスも五回見送ったし!!早く来て!』
唯「す、すぐ行くから!じゃあね」
携帯を閉じはぁっとため息…。
私って何でこんなにドジなんだろう。
唯「憂ー!!!」
大声で妹の名前を呼ぶと五秒も経たずに扉が開いた。
憂「お姉ちゃんなに?」
唯「私、今日の昼ご飯いらないから!」
憂「う、うん…わかった…」
唯「それじゃあ澪ちゃん達の所に行って来るね」
憂「あ…朝ご飯もいらないの?」
唯「うん!…早く着替えなきゃ」
私は急いで私服に着替えた。
憂「お姉ちゃん…洋服散らかしてるよ!」
今は片付ける余裕が無い。
唯「後で片付けるからよ!早く行かなきゃ!」
携帯のバイブの振動が服を通して肌に伝わる。
見なくても分かるきっと澪ちゃんからだろう。
唯「そ、それじゃあ行って来るね!!」
憂「気をつけてね…」
唯「ありがとう憂!」
勢いよく玄関の扉を開け私は家を飛び出す。
まだケータイのバイブは振動している。
唯「はぁはぁはぁ…おまたせ!」
律「遅いぞー!!」
りっちゃんは軽く私の頭にチョップをした。
唯「あいてっ!」
梓「本当です何してたんですか?」
澪「寝てたんだろ!」
当たりだ…目覚ましはきちんと設定したんだけど…気付くのが遅すぎた。
唯「ごめんなさい!」
あれこれ考えても仕方ない…私はただ頭を下げてみんなに謝る事に専念した。
紬「いいのよ~私、友達をバス停で待つのが夢だったの…」
目を輝かせてムギちゃんは言った。
安い夢だとは言わずにニコリとムギちゃんに向かって微笑んだ。
唯「次のバスはいつ来るの?」
梓「えーと…三分後には来ますよ」
澪「本当に2時間も休憩させてくれてありがとうな唯」
澪ちゃんは皮肉を聞いて…私はもう一度謝った。
澪「お!来たぞバス」
律「二分遅れてるけどなぁ~」
唯「本当!困っちゃうよね!」
澪ちゃんからチョップ。
ほんの冗談のつもりで言ったのに。
紬「さぁ乗りましょう」
梓「はい!」
梓「席…あまりあいて無いですね」
律「後ろ…前以外は全部埋まってるな」
唯「私は前がいい!あずにゃんも前だからね!」
梓「べ、別に何処でもいいですよ」
照れ隠しなのか本心なのか分から無いけど私とあずにゃんは前の席。
澪ちゃん達は後ろの席で決まった。
唯「そー言えばあずにゃん今日は何処行くの?」
梓「忘れてたんですか?今日はボーリングですよ」
唯「あぁ…思い出したムギちゃんがしたいって言ってたもんね!」
梓「はい!私も皆さんと一緒にしたかったんですよ!」
唯「私もだよ!」
―――ボーリングが終わり夕方に私達はバスへ乗った。
誰がボーリングで一番なのかは言わない…言いたくも無い。
ただ次の日から私は不思議な夢を見る。
妙にリアルで生々しく非現実的な夢。
それから…夢で起こった事が現実に起こる。
予知夢を見る事になる。
この予知夢が私やあずにゃん…そしてみんなを苦しめる事になる―――
唯「うわぁっ!!」
目覚ましより早く起きた私は辺りを見渡した。
唯「夢か…」
酷い夢を見た…憂と学校に行く途中に猫が車に弾かれ私の制服に血が付く。
そして私は悲鳴をあげると同時に目を覚ました。
憂「お、お姉ちゃん!?」
勢いよく扉が開き憂が私の元に駆け寄る。
唯「だ、大丈夫だよ」
寝汗がびっしょりだ。
憂「本当に大丈夫なの?」
頷いて答えた。
憂「よかった……それじゃあ私ご飯の用意してるからね」
唯「う、うん」
憂が私の部屋を出てしばらく経つと目覚ましが鳴った。
唯「怖い夢を見たなぁ…」
私は目を擦りながらリビングへと向かった。
唯「今日の朝ご飯は何かな~?」
夢の事など忘れていた。
憂が作るみそ汁の匂いで今日の朝ご飯のメニューは何か?と言う事で頭がいっぱいだった。
憂「今日はみそ汁とご飯と納豆だよ!」
朝ご飯らしいメニューだ早く食べたい。
5分くらい経つと憂がみそ汁を運んで来た。
唯「私二人分のご飯をついでるよ!」
流石に毎日、妹に朝ご飯の用意をさせたら悪い。
憂「うん!お願い!」
炊飯ジャーを開けると良い匂いが私のお腹を刺激する。
唯「お腹減った~」
ご飯の用意が終わると私達は食卓に付いた。
唯「いただきます!」
憂「いただきまーす」
納豆を混ぜご飯の上に乗せる…そして一口。
唯「うまい!」
憂「えへへ~みそ汁も飲んでみて」
みそ汁を飲む…口いっぱいに味噌の風味が広がりご飯を胃に流し込む。
唯「うまい!」
ご飯を食べ終えごちそうさまをすると私達は制服に着替えた…勿論ギー太も一緒だ。
唯「今日はいつもより早く行けそうだね!」
憂「うん!」
憂が玄関のドアノブを握り扉を開ける。
温かい風が私を包んだ。
唯「行ってきまーす!」
憂「行ってきます」
しばらく憂と歩いていると私は夢の事を思い出した。
少し先の横断歩道…あそこで猫が弾かれて私は血を浴びる。
無意識に歩くスピードを私は遅くしていた。
憂「お姉ちゃん」
憂が私の服を掴む。
憂「靴紐ほどけちゃったみたい」
唯「う、うん待ってるから」
憂「ありがとう…」
憂は靴紐を結び始めた。
私は横断歩道をじっと見つめていた。
唯「あ………」
何処から現れたか分から無いが猫が横断歩道をのろのろと歩いている。
危ない!と思った時には遅かった。
ドン…っと音がして猫は車に跳ねられ大きく飛んだ。
私は宙を舞う頭が無い猫を見てただア然としていた。
車は気が付か無いフリをしているのかそのまま走り去って行く。
憂「よし…終わったよ」
唯「そ、それよりも見て猫が…猫が…」
憂「………可哀相跳ねられたんだね」
見るも無残になった猫を見て憂は言った。
唯「……………」
助けられたかもしれないのに…私は初めて動物が死ぬ瞬間を見た。
あまりいい気分では無い。
憂「す、少し遠回りして行こうお姉ちゃん」
唯「…………うん」
学校に付くと私は憂と別れ教室へと向かった。
律「唯おいーっす」
唯「おはよ……」
律「どーした?元気無いぞ!」
朝から猫が死ぬ瞬間を見たんだ…元気が出る分けが無い。
唯「うん…ちょっと眠たくて…」
律「ちゃんと寝ろよな~」
誰も朝から猫が死んだ話を聞きたくないだろう。
私はりっちゃんに嘘を付いて机に俯せた。
私は今朝みた夢の事を考えた。
あれは予知夢だと思う。
いや…きっとそうだ。
唯「…………はぁ」
助けてあげればよかった…。
朝からこんな思いをしなくて済むし何より猫が可哀相だ。
あの時、私がどうにかして横断歩道から猫を追い払っていれば…。
授業が全て終わり放課後。
私は足早に部室へと向かった。
きっと…あの猫は寿命が来たんだ仕方ない。
そう考えるだけで気分が少し楽になる。
今日はムギちゃんのお菓子でも食べて忘れよう。
唯「みんなー来たよ!」
返事は無い…まだみんなは来ていないようだ。
唯「少しだけ…寝るか!」
私はソファーに横になって目を閉じた。
唯「うわっ!!」
律「うわぁぁ!」
紬「び、びっくりしたわ~」
夢を見た…今朝に比べるとまだマシだけど。
澪「ど、どうしたんだ?」
唯「い…いや…何でも無いよ!」
まさか今度の夢も予知夢な分け無いよね。
妙にリアルだったけど…。
梓「でも急に大声出して起きるなんて…変な夢でも見たんですか?」
唯「う、うん!澪ちゃんが………」
澪「きゃっ!!!」
大きな音がした方向に目線を向けると…澪ちゃんが倒れていた。
澪「痛ててて…」
紬「み、澪ちゃん大丈夫?」
唯「………転んだ」
私が今見た夢は澪ちゃんが転ぶ夢だ。
………また予知夢だ。
律「だ、大丈夫か?」
澪「あ、あぁ…コードに引っ掛かって転んだ…あの時の事が………」
だんだんと顔が赤くなって行く澪ちゃんを尻目に私は驚きを隠せなかった。
唯「澪ちゃんが転んだ…夢の通りだ…」
みんなは私の独り言に気付かずに澪ちゃんを心配している。
唯「………予知夢凄いよ」
部活も終わり私は家へと帰っていた。
私は予知夢の事はみんなに話さなかった。
既に起こった事を夢で見た通りになったっ言っても信じて貰え無いだろう。
だから…もし明日も夢を見たら、すぐにみんなに電話を掛けて予知夢で見た事をみんなに教える。
それが見事的中して…。
唯「みんなから褒められる!!」
でも…もう予知夢を見る事が無いと言う事もあるかも知れない。
唯「こんな凄い事…何回も続くのかなぁ…」
とにかく私は明日が待ち通しかった。
唯「おかえり~」
憂「おかえりお姉ちゃん!」
私が帰って来ると同時に憂が出迎えてくれた。
それに…この匂いは…。
唯「今日カレー?」
憂「うん!そうだよ」
唯「やったぁ!」
私は嬉しさの余り憂に抱き着いた。
憂「もう…お姉ちゃんったら…」
唯「もうお腹いっぱいだぁ~」
憂「えへへ…はいお水だよ」
唯「ありがとう!」
水を受け取り一気に飲み干す。
唯「ぷっはぁー!!!」
お風呂に入りパジャマに着替える。
時刻は12時…そろそろ寝る時間だ。
唯「ふわぁ~そろそろ寝るね…」
憂「う、うん!おやすみ」
唯「憂はまだ寝ないの?」
憂「見たいテレビがあるから…」
唯「そーなんだ…おやすみ憂」
憂「おやすみお姉ちゃん…」
唯「はぁ~」
ベットに横になり目を閉じる。
明日も予知夢を見るのだろうか?
唯「楽しみだな~見れるといいな」
この日から私は普通の日常を過ごせ無くなる。
唯「おやすみ~」
予知夢が私を苦しめる事になる事を私はまだ知らない。
みんなとボーリングに行った日から二日経った。
今日も目覚ましより早く起きる事になる。
あの予知夢のせいだ。
唯「りっちゃん…りっちゃん!!」
目を覚ました私は友達の名前を叫んだ。
早く電話をかけないないと大変な事になる。
もしも、私が今見た夢が予知夢なら。
りっちゃんは左手を失う事になる。
昨日より寝汗が尋常じゃない。
最終更新:2010年05月18日 00:29