唯「りっちゃん…」
私はケータイを扱いりっちゃんに電話をかける。
五コール目でりっちゃんは出てくれた。
唯「もしもし!」
律『どーしたんだ?こんな朝早くから』
唯「い、今から私が言う事をよく聞いてね!」
今見た夢が予知夢等と言う確信は無い。
だけど…もし予知夢だったら…。
そう考えるだけで恐ろしい。
唯「りっちゃんあのね…今日は学校行っちゃダメ!ダメだからね!」
律『は、はぁ?何で?』
唯「だから…夢を見て…りっちゃんが車に弾かれたの!それで右手が無くなって」
律『アハハ…恐ろしい夢だなぁ…大丈夫だってただの夢だろ?』
唯「予知夢なんだって!」
律『アハハハハ…じゃあ私は今日右手を失うんだな!』
りっちゃんは軽く笑い飛ばして言った。
多分まったく信じて無い…。
唯「本当だよ!!」
律『わかったわかった…じゃあ学校で会おうな』
唯「ま…待って!」
それ以上りっちゃんから返事は帰って来なかった。
唯「どーしよう……りっちゃん……」
唯「どーしよう……」
私は考える必死に考える。
唯「澪ちゃんだ!!」
確か…りっちゃんが車に弾かれるのは朝だ。
何とか…りっちゃんを学校に行かせ無いようにすれば…。
唯「澪ちゃんに電話かけないきゃ…」
唯「もしもし澪ちゃん」
澪『あぁ…唯かどうしたんだ?早起きだな今日は』
唯「そんな事はどーでもいいんだよ!!今日りっちゃんが車に弾かれるの!」
澪『は、はぁ?』
唯「信じて…お願い…」
私の目から涙が溢れ出す。
澪『わかったから落ち着いて…とりあえずなんで律が車に弾かれるか話してみて』
唯「……うん」
澪『なるほど…昨日予知夢を見たから今日の夢も予知夢だと思ったのか』
唯「……うん」
澪『しかも今日の夢は律が車に弾かれる…大変だな』
唯「信じて…お願い!!」
涙をパジャマで拭いながら私は言った。
澪『………わかった信じるよ』
唯「ほ、本当?」
澪『あぁ……』
唯「じゃあ…今日りっちゃんと登校する時に赤いスポーツカーに気をつけて!」
澪『わかった……極力注意を払うよ』
唯「ありがとう…澪ちゃんありがとう」
澪『大丈夫だって…その夢がもし予知夢だとしたら大変だからな…じゃあ私は律を迎えに行くからな』
唯「うん…バイバイ気をつけてね!」
澪『あぁ…それじゃあまた』
憂「お姉ちゃん朝だよ……もう起きてたんだ」
唯「うん………」
憂は私の顔を覗き込んだ。
憂「どーして…泣いているの?」
唯「えーと…これは目薬だよ!心配しないで私は大丈夫だから」
憂「うん…もうご飯出来てるからリビングに降りて来てね」
唯「わかった…」
肌に少しの振動を感じた。
澪ちゃんから電話だ。
唯「憂…後から行くから先にリビングに行ってて」
憂「うん、わかった…」
憂が部屋にいなくなり私はすぐに電話に出た。
唯「も、もしもし…」
澪『ゆ、唯か!落ち着いて聞いてくれ』
唯「まさか……」
悪い予感しか思い付かない。
唯「りっちゃん…りっちゃんでしょ?」
澪『違う!!今さわ子先生から電話が掛かって来たんだ』
唯「よかった…りっちゃんじゃないんだ…」
澪『全然良くないぞ!ムギが…ムギが車に弾かれたみたいなんだ!』
唯「…………え?」
唯「なんで…ムギちゃんが…なんで…」
私の目から大粒の涙が流れる。
唯「なんで………」
澪『幸い…右足の骨折だけで済んだらしいんだけど…』
唯「ひっぐ…うぅぅ…ムギちゃん…」
澪『今日は私達は学校を休むよ…梓も休むって言ってた…明日お見舞いに行こうな唯』
唯「うん…私も休む…」
澪『あぁ…さわ子先生には私から伝えて置くから…じゃあな』
唯「うん……」
憂「お姉ちゃん入るよー!!」
今は言葉を出す気にもならない。
しばらく経つと扉が開き憂がひょこっと顔を出して来た。
憂「お姉ちゃん…やっぱり泣いてる…どうしたの?」
唯「ムギちゃんが…車に弾かれたんだよ…」
憂「紬さんが……大丈夫なの?」
唯「足を骨折したんだって…私今日学校休むよ」
憂「う、うん…わかった…」
憂が学校へ行った後、私はベットに横になり考えていた。
予知夢の事を考えていた。
りっちゃんが車に弾かれ右手を失う夢。
これはきっと予知夢だ。
確信は無い…だけどあの夢なのにリアルな感覚。
前に似た夢も同じ感覚だった。
そうだ…私は二日続けて予知夢を見続けている。
でも…なんで私はりっちゃんが車に弾かれる夢を見てムギちゃんが車に弾かれる夢を見なかったのか?
何か見なかった理由があるはずだ…まずは調べてみよう夢の事を。
唯「そっか……」
なんで私がムギちゃんが車に弾かれる夢を見なかったのか分かった。
当然だけど夢は寝ている時に見る、そして睡眠には二種類あるらしい、ノムレム睡眠とレム睡眠。
ノムレム睡眠は深い眠りでレム睡眠は浅い眠り。
この二種類の睡眠はだいたい一時間半の周期で繰り返すらしい。
最初はレム睡眠そして一時間半経ったらノムレム睡眠また一時間半経ったらレム睡眠。
これを寝ている時に繰り返す。
そして夢を見るのは浅い眠りの時のレム睡眠。
当然、レム睡眠も眠むっている時に繰り返すから私は夢を何度か見る事になる。
人間は寝ている時に何度か夢を見るが、起きた時に夢を覚えているのは最後のレム睡眠時…つまり目覚め直前の夢しか覚えられない。
だから…多分だけど私はムギちゃんが車に弾かれる夢を見たけど覚えていなかった。
起きる直前に見た夢がりっちゃんが車に弾かれる夢だから…。
じゃあ…どうやって私は眠っている時に見る全ての夢を覚えられるか。
唯「………一時間半の倍数の時間に起きて見た夢をノートに書く」
これで私は全ての夢を覚えられる。
唯「大変そうだけど…私なら出来る…出来るよ!」
憂「お姉ちゃんおかえり…」
そうか…もうこんな時間なのか…。
唯「おかえり憂」
憂「うん…おかえり…私ご飯の支度するね」
私が頷くと憂は台所へ向かう。
何処か表情が暗い…きっとムギちゃんの事で元気が無い私に気を付かってるのだろう。
ご飯を食べ終わり私はすぐに自分の部屋へ戻った。
まだ寝るのには早い時間だが…私は寝たい。
机にはノートとボールペンがある。
これで見た夢を何時でも書ける。
目覚ましも一時間半後にセットしてある。
唯「おやすみ……」
誰もいない部屋でポツリと言うと私は目を閉じた。
翌朝…酷く目覚めが悪いが…幸い誰も酷い事に合う夢は見なかった。
ノートにはいくつか私が見た夢が書いてある。
私はリビングに降りて憂を呼ぶ。
唯「憂いる?」
憂「あ…おはようお姉ちゃん」
唯「今日…学校行くから一緒に行こうよ」
憂「うん!」
何時ものようにご飯を食べ制服に着替えギー太を背負い学校へと向かう。
憂「あ…お姉ちゃんちょっと待って!」
唯「どうしたの?」
憂「忘れ物しちゃった…一緒に取りに行ってくれる?」
唯「う、うん…憂が忘れ物なんて珍しいね!」
憂「う…うん…ごめんね…じゃあ家に戻ろうよ」
唯「うん、わかった」
憂の忘れ物を取りに行き私達は再び学校へ向かう。
憂「ごめんね…お姉ちゃん」
唯「ううん…全然いいよ、まだ時間はあるしね」
憂「ありがとう…」
やっぱり憂の表情が少し暗い。
私が元気が無いから憂も元気が出ないんだと思う。
唯「憂…心配しなくていいよ」
憂「え……うん…」
唯「それじゃあ教室に行くからね…バイバイ」
憂「うん…バイバイお姉ちゃん」
そー言えば澪ちゃん達は学校に着ているのだろうか?
昨日は休むと言ってたけど…もしかしたら今日も学校を休んでるかもしれない。
どっちにしろムギちゃんのお見舞いに行く時に会うだろう。
唯「あ……澪ちゃんとりっちゃん」
よかった…来てた。
律「あぁ…唯か」
唯「うん…今日ムギちゃんのお見舞いに行くんでしょう?」
澪「うん……そうだな梓も来てるみたいだから全員で行こうな」
唯「うん…」
律「それと…部活は今日は休みにするから…」
唯「わかった…ムギちゃん元気だといいね」
授業が終わり放課後。
私達は校門の前で落ち合いムギちゃんが入院している病院へと向かった。
病院へ向かう途中で澪ちゃんから聞かされた…昨日の朝に赤いスポーツカーがりっちゃんの目の前を凄いスピードで走ったらしい。
そして今日りっちゃんが石につまづいてこけた。
これは夢で見た事だ。
唯「うわぁ…人がいっぱいいるね…」
澪「ここ本当にムギの病室か?」
律「ムギーー!!!」
りっちゃんが大声でムギちゃんを呼んだ。
紬「入って来ていいわよ!」
入りたいんだけど人が多過ぎて入れ無い。
紬「すみません友達が来たので席を外して下さい」
大勢の人達がムギちゃんの病室から出て行く。
紬「ごめんなさい…どうぞ入って」
唯「うん……」
ムギちゃんは病室のベットに横になっていた。
足には包帯を巻いてある…痛そうだ。
梓「ムギ先輩大丈夫ですか?」
紬「えぇ…少し痛むけど大丈夫よ」
澪「よかった…元気そうで…」
紬「ありがとう澪ちゃん」
紬「それより…みんな聞いて」
唯「どーしたの?」
紬「私がね…車に弾かれ日の事何だけどね」
唯「う、うん…」
紬「奇跡が起きたのよ!」
唯「……奇跡?」
紬「そうよ!奇跡よ…私を弾いた車は時速80キロのスピードを出してたの」
律「そ、そんなに!?」
紬「えぇ…普通そんな車に弾かれたら普通は死ぬわよね…でも足の骨折だけで済んだの」
律「ムギ…頑丈だな…」
紬「ウフフ…りっちゃんったら…」
この日から十日経った。
私は予知夢を見続けていた。
何も起きない…誰も怪我をしない予知夢を…。
ただ十日後の今日、私は頭がおかしくなりそうな夢を見た。
澪ちゃんが車に弾かれ骨折する夢。
りっちゃんが車に弾かれ骨折する夢。
そして……あずにゃんが死ぬ夢。
一度に私はこの三つの夢を見た。
本当に頭がおかしくなりそうだった。
いや…徐々に私も頭がおかしくなり始めていた。
唯「………嫌だよぉ」
ノートを見つめながら涙を流した。
もし予知夢なら私は三人を救わなきゃならない。
早くみんなに電話を掛けないと…。
予知夢じゃなければいいんだけど…。
唯「あれ?昨日…確かケータイ机の上に置いてたはずなんだけど…」
ケータイが無い…。
いや…確かにケータイを机の上に置いた覚えてる。
唯「何で…無いの?」
ケータイが無い…無い無い何処を探しても見当たらない。
唯「憂!!」
すぐに扉が開いた。
憂「どーしたの?」
唯「私のケータイ知らない!?」
憂「え…昨日お姉ちゃんリビングの机の上に置いといてって、私に頼んだからリビングの机の上にあるよ」
唯「え……そ、そっか…わかったありがとう」
すぐにリビングへ向かいケータイを探す。
唯「あ…あった…」
まずはあずにゃんからだ…早く掛けなきゃ…。
唯「も、もしもし」
梓『はい…唯先輩?』
唯「あ、あのね…今日学校行ったらダメだからね!家でじっとしてて!」
ケータイから小さなため息が聞こえた。
梓『何言ってるんですか…今日は学校休みですよ』
唯「え……そ、そうなの?でも今日は金曜日だよ」
梓『今日は日曜日ですよ!』
本当だ…テレビを見ると確かに日曜日だ。
唯「ご、ごめん…」
梓『いいですよ…でも何で私が外に出たらダメなんですか?』
唯「あずにゃんが…死んじゃうからだよぉ!」
私は泣いて必死に訴える。
梓『で、でも…今日私が死ぬだなんて…信じられません、それに純と遊ぶ約束だってしていますし…』
唯「お願い…今日は外に出ないで…」
梓『ご、ごめんなさい…純が来ましたから切りますね…きっと悪い夢でも見たんですよね?元気出して下さい…それじゃ』
危機感が津波のように私を襲う。
最終更新:2010年05月18日 00:30