唯「しーしょー」

進「何」

唯「師匠は私のお父さんだよね?」

進「 私 は 作ってない」

唯「えー」

進「でも君は私から生まれたらしい」あまり私はその事について詳しくは無いのだが。

唯「??どういう事ー」

進「大人には敬語を使いなさいね。」

唯「どういう事ですかししょー」

進「知らん」

進「電子の世界に入り込む、という事をついに実現した男がいるとしよう」

唯「んー」

進「だがそれは機械の中に入り込むんじゃない。

  奥にある「隔てられた世界」へ入ったとしたらどう思う?」

唯「うんー?」

進「画面に映るアニメの世界はこれに入る、私がいた世界を三次元と呼ぶならその場所は二次元。

  つまり今現在私が立っている場所は二次元という事だ。」



進「今すぐ誰か助けなさい!!!」




唯「えーじゃあ ずうっとここにいる私は二次元の人ってことかなあ」

進「そうなるんじゃないの?私は一応君の存在は知っていたぞ。

  まあ知らないフリしてたけど」

唯「ええ~そんなあ」

進「とりあえず出て行ってくれないかな」

唯「ししょう、ここは私の家!

  ししょうの家もここだけどね~」

進「ほ」

見渡すと確かにどこか馴染みのある風景だった。うん?
本当に馴染みのあるはずのつくば山頂の風景では無いのに何故かこんなにマイホーム感。

唯「さっきも言ったじゃないですか、ししょうは私のお父さんです」

進「それは結構結構」

進「しかし君は今までもずっと私が父親だったと言い張るのかね?」

唯「もちろんですっ」

進「あらあら」


唯「ぼけちゃったのししょうー、ここはちゃんと三次元なんだよー」

進「君たちにとってはそうかもしれないな、実際私が見ていた世界と相違無いし。」

アニメのように物体の境に線は引かれていない。物がそこにある。空間にも歪みは無い。空気もある。
そして目の前にいる(私から生まれた)登場人物も想像以上に目がでかくないから不思議なのです。

唯「だってここはアニメじゃなくて、」

進「ええいやかましいややこしくしないでお願い」

唯「変なの」

進「2D・・オアノット2D。」


進「あるいは本当に気がおかしくなってしまったのではないか」

高品位粗食ばっかり食していたせいか?だとしたらあのインタビュアーは尋常じゃない先見の明か
鋭い勘を持っていて私の未来に悪寒を感じ私に対し警笛を鳴らしたのではないだろうか?
「平沢さんカスみたいなもんばっか食ってますね」という言葉を使って。
ありがとうございます。カスばっか食べてちゃいけませんね。


進「カス取りがカスに」

進「いや、私は至って正常だ。そう信じねばなるまい。ここは二次元だ」

憂「おとうさーん?」

進「うわおんなじ顔」


唯「ししょうー」

憂「おとうさーん」

進「うわあー」


進「双子だったのか・・」そこまで知らなかったぞ。

憂「お父さん本当にどうかしちゃったの?」

唯「何かねー、ここは二次元なんだって。」

進「そう」

憂「要約されてて全然理解できないよ」

だって実際私しか三次元の人はここにいないからね。
私しか・・・

進「あっ」

唯憂「?」

進「秋山、ことぶき、田井中、中野!」



進「君の友人でP-MODEL・・・・いや、バンドメンバーでこんな名字の子達がいるだろう」

唯「うん、澪ちゃんーりっちゃんームギちゃんーあずにゃん!」

進「あずにゃ・・・中野が?」

唯「うんー私が名付け親?なんだよ」

本人はどんな思いか私の至る所では無いが、少し不憫に思うぞ。

進「テルにゃん」

唯「?」

進「親の顔が見てみたいといったところかな。少し外に出ようか。」

恐らく彼等もこの世界に飛ばされたのだろう。突然、彼女達の父親として。




まず秋山の家に行く事にした。さぞや放心状態なんだろうくっくっくと思い巡らせていたが何の事も無かった。
家の前でインターホンを鳴らすと「唯、どうした?」と秋山とは似ても似つかない女の子が現れる。
「ああ平沢さん!」と少し高揚気味に言うものだから「私を?」と聞くが
その時この家に昔からいましたみたいな顔をしてあー休日だとこんな服着てるんだろうなーという風体の
秋山がヒョコッと現れ「澪ー澪ー何か用かー」と言っとるわけだから私はバシーンと衝撃を受ける。
「うるさいなあもう」と目の前の娘に言われ少し寂しそうな顔をする思春期の娘を抱えた普通の父親、秋山がそこにいた。
この状況なら誰でもすがりたくなるであろう、そうヒラサワにですら。
だが目の前の秋山は訝しげに「あんた誰」と言わんばかりの目をこちらに向けるものだから呆然とする。

進「人違いでした」

秋山「ええ?あなた何か用じゃ・・」

進「私が誰だか分かりますか?」

秋山「はあ・・?」

進「では失礼。」

元の世界に戻ったら絶対言おう。お前はアニメの世界で絵に見るような嫌われ親父だったと。
おっとこれは意外と上手いのではないか?ヒラサワ不覚。



唯「ししょう何だかすごい不思議な目でみられてたよ」

進「私の気持ちに比べたらあんな不思議さ屁でも無いだろう」

唯「うーん」

進「はは」

この不思議さが共有出来ないのが非常に残念だ。これで私は一人。

進「恐らく例外は無く全員秋山と同じだろう」

進「しかし私は平沢進、元ネタなんかではない。私が本物なのだ。」

唯「でも私達のお父さんだよ」

唯「それに、ししょう!」

進「ちょっといいかな」

進「私を師匠と呼ぶ輩は私が元いた世界で確かに存在したよ。私が望んだわけでは無いが。

  何故君は師匠と呼ぶのだろう?私はただの父親なはず。娘に師匠と呼ばれる所以は何だ?」

唯「へ?」



唯「やだなあ、私が軽音部に入るって言った時にすっごくうまいギター見せてくれたの忘れちゃったの?ししょう。」

唯「それから二度と弾いてくれた事は無いけれど、あれからお父さんは私の中でず~っと師匠だよ。」

進「うん?」私はその事を知っている。その出来事を知っている。

けいおんというアニメが世間で人気になり始めた時、私は知り合いからそのアニメの存在を教えてもらった。
まさか自分と昔の仲間が名字で使われている、しかも自分(の名字)が主人公のアニメがこんなに人気を博しているとは。
私だって客商売。そのくせ商業的成功を収めたもう一人の自分に少し腹が立った。何故私じゃないのだと。
あんまり嫉妬しちゃったので夢に見た。その時の一場面だったはずだが。

進「はは~ん」

進「夢か、そうか・・」

進「昔の曲を洗い直す日々に疲れていたのか・・。見知らぬ婆さんに藁を勧められたし」

進「床に就く事にしよう、そして夢から覚めればカスが待っている」

唯「そうだね~せっかくの休日だしゆっくり休もう!」




憂「目が覚めた?」

進「悪い夢を見ていた」ああ、これで夢から覚めた。しかし寝覚めが悪くまだウトウトしている。

進「自分が急にアニメの世界に飛び込む夢を・・」

憂「そっかあ・・わたしもお姉ちゃんもここにちゃんといるよお父さん。」

進「ああ・・・お父さん!?」

憂「バックトゥザフューチャーの真似、かな?」

進「ああ信じられない悪夢だ。」

憂「悪夢は終わったから大丈夫だよお父さんほら起きて起きて。」


唯「うー」

憂「お姉ちゃんもほら、早くー」

進「信じられない・・・」

これで私の頭が完全にイカれてしまった事がめでたく証明された。やったー、やりました。
しかし、例えこれが幻覚だったとしてもこの現状は本当に今、起こっているのだ。
そこで頭がイカれた私は頭がイカれた私なりの結論を導いた。
何せ、娘など持った事は勿論一度として無い。

進「(いつもの所で夢は覚めず、息を殺して寝返る・・・か。)」

どうせそのうち崩れる世界。
少しの間ばかり「家族」というものを抱えてみるのも悪くは無い。
イカれたヒラサワはそう考えたのである。


進「で、私は何故ココに連れられたのだろうか」

律「おおーーー!!!唯のお父さんだーー!!!!!」

澪「あっ。(この前はどうしたんだろう)」

紬「あら、噂の!」

梓「天才ギタリストの・・!」


唯「私のししょうでーすっ!!」

進「ハードル上がってるよね」



唯「でも嬉しいなあ、ししょうがまたギター弾いてくれるだなんて!」

律「噂には聞いてますよー!超絶上手いギタープレイ!」

紬「是非一度拝聴させて頂きたいと思って。」

進「全く・・ん?このカップは良いカップだな、紅茶も香りが市販のものと全く違う。高校生の部室だろう、何故こんなものが?」

唯「ししょうそういうの分かるんだー!かっこいい~」

進「(やはり味もする。美味い。味覚が正常なら一体全体私は何を信じればいいのだろう?)」

紬「私の私物なんです。お父様は紅茶がよくお似合いですね。」

律「うんうん!オットナ~ってかんじですげーかっこいい!」

澪「うちのお父さんとは大違いで、なんか憧れちゃうな・・。」

進「(うーん、秋山・・。)」

梓「あの、ギターを・・」うずうず

高校生の生の演奏、というのに別段興味は沸かない。
しかし弾くのはもう一人の自分。そしてメンバーは仮にも皆、一度はメンバーだった人間の分身なのだ。

進「君たちの演奏を一度見せてくれないか?」


で、彼女らは演奏するので私は失望。何だこれはまさにお遊戯。
まあいいんじゃないって感じで私は身の無い拍手をする。空拍手を一人でぱちぱちぱち。

唯「どうだった?!」

進「まあいいんじゃない」

唯「わーーー!!ほめられたあああ」

褒めてない。全然褒めてないぞ。

澪「次はお父さんの番だな!」

梓「うずうずうず」

進「むむ」

進「midiギターはご存知かな」

律「あぁ勿論。」

澪「でも私達は生楽器中心で演奏しているからあんまり馴染みが無いし、そこまで詳しくも無いな。」

今時の子たちはつまみをイジるものばかり見ている上
音楽的知識など皆無かと。
ギターmidiなんか知らないマジ芋~と言われるのではないかという杞憂も無くなり安心安心。
ってよく見ればかなりいい機材ばかりなのでは・・?うーん先ほどの子がまた関わってるのだろう。深く突っ込まない。
そして一か八かで聞いてみる。

進「P-MODELってグループ、知ってる?」


律「んん?」

梓「初耳です」

まあそうだよね。しかしまだちょっと気になる。

進「・・・YMOは?」

梓「それは、もちろん!」

律「ああ!細野さん最高だな!」

澪「なっ、ユキヒロさんが影の立役者なんだぞ!凡才を自称しているけれどユキヒロさんはなあ、」

律「あーもーはいはい!」

ガビーン。YMOは普通にこの世界でも存在しているのか。少しショックを受けてしまう。
ヒカシューやプラスチックスも知っていたのでおおっと思う。ふんふん御三家じゃなくツートップですかふん
こうなりゃヤケで手当たり次第違う畑も挙げてみると
彼女達はINUも村八分もスターリンも知っていたので成海璃子はこの学校に転校すると良い。

進「じゃあ電気グルーヴは?」

一同「・・・?」

おや?



進「世代・・か」

いやしかし、これだけ音楽に詳しそうな彼女らが
かなり有名になったこのグループを知らないというのも不思議だ

進「共通している点は」

あっ。いやそんなまさかだとは思うが。


進「the pillows は?」


唯「全部わからないよう~」

律「一応有名どころは網羅してるつもりだけどピロウズなんて聞いた事無い・・」

澪「唯のお父さんはコアな所まで知ってるんだなー」


進「出てるのか・・・電気グルーヴ。」

※瀧エリちゃん



……

さわ子「凄い」

唯「さわちゃん先生ーっ!!」

進「ああ先生、先ほどは案内して頂いてありがとうございました」

さわ子「今の演奏は平沢さんが?」

律「」

澪「お、おい律!」

唯「うん、うちのお父さんが演奏したんだよー。」

さわ子「こんなに子宮に来るエレキなんて久々に聞いたわ」

澪「子宮っておいおい」

律「カッコよすぎるだろ幾らなんでも」

進「・・黙りなさい。」

唯「(照れ隠しかなあ)」


律「しっ師匠ー!」

進「ん」

唯「わっ!師匠って呼んでいいのは私だけなんだよお」

律「感動しちゃったんだからしょうがないだろぉーっ!」

澪「・・・師匠。」

律唯「のおうっ!」

唯「師匠は私だけの師匠だもん」

律「なんだそれー独占は良くないぞ」

子供に好かれても浮かれはしないが悪い気もしない
ヒラサワは公園のブランコじゃないのだが。


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最終更新:2010年05月18日 22:51