律「この、春から夏にかけての文化系クラブは何とも目標がなくって
  だら~っとしてしまうよな」

唯「だよね~」

澪「そんなこと言って、お前たちは年中そうじゃないか……」

律「でも、なにかイベントごとがないとメリハリがつかないんだよ」

紬「学園祭までは、まだ日があるものね」

澪「確かに……。でも、私たちだけじゃどうしようもないしなぁ」

梓「そんな、先輩方に朗報です」

唯律澪紬「???」

梓「実は私の両親の主催するライブイベントが一ヶ月後くらいにありまして」

梓「そのライブに出演予定だったバンドが急に来れなくなってしまって」

梓「せっかくだから、その穴を埋めるためにお父さんが私たちに出てみないかと」

律「おお! ついに私たちにもオファーが来るまでになったのか!」

澪「仕方なく、だろ」

紬「でも、面白そうね」

唯「やった! またステージパスのステッカーが増える!」

律「喜ぶところはそこか?」

澪「おい! まだ私は出るって決めたわけじゃないぞ!」

律「でも、今回に限っては梓のとーちゃんの頼みでもあるし」

梓「澪先輩、どうか出てもらえないでしょうか?」

澪「1対4じゃあどうすることもできないな……」


唯「あずにゃんのお父さんもそのライブに出るの?」

梓「はい」

紬「親子で一緒のステージに立つなんて素敵ね」

梓「そうだ! どうせなら先輩方のご両親もご招待してみればどうでしょうか?」

梓「先輩方の演奏を聴いてもらうのもいいプレゼントになると思います」

唯「おお! あずにゃんいい考えだね~」

律「私の親はそんなものに興味はなさそうだけどな~」

梓「娘が活躍する姿を喜ばないわけはありません」

律「まあ、梓がそこまで言うなら」

澪「でも、親に見られるのはなんだか恥ずかしいな……」

律「私が親に言ったら、どうせ澪のとこにも話がいくんじゃない?」

澪「う~ん、それもそうだな」

唯「澪ちゃんのベース弾く姿カッコイイよ。だから見てもらおうよ」

澪「う、うん」


梓「ムギ先輩はどうですか?」

紬「私は……お父様は忙しい方だから……」

澪「ムギ……」

紬「でも、一応話だけはしてみるわ」

唯「きっとムギちゃんのお父さんも来てくれるよ」

澪「そういえば、唯の親もあまり家に帰ってこないんだろ?」

律「私たちが唯んちに行っても会ったことないもんな」

唯「でも、今日は久しぶりに帰ってくるんだ♪」

梓「じゃあ、ライブの件は出演するという話で良いでしょうか?」

律「ああ、そう伝えといて」



平沢家

唯「お父さん、お帰りなさ~い」

唯父「ああ、ただいま」

憂「お母さんも、お父さんのお世話お疲れ様」

唯母「ありがとう。憂、何か変わったことなかった?」

憂「大丈夫だよ」

唯母「そう、憂がしっかり者で本当に良かったわ」

唯「お母さん、私のこと忘れてない!?」

唯母「忘れてなんかいないわよ唯。あなた憂に迷惑かけてない?」

唯「も~! 何それ~」プンスカ

憂「お姉ちゃんは良い子にしてたよ」

唯父「そっか~。えらいぞ唯」ナデナデ

唯「えへへ~////」

唯母「はぁ~……」


唯母「唯。あなたは憂に頼らないで、
   もっと自分のことは自分で出来るようにしないと」

唯「し、してるよ! 最近だって憂に起こしてもらわなくっても
  自分で起きるよう努力してるもん!」

唯父「おお! 成長したな~唯」

唯母「努力……ね。じゃあ自分の部屋の掃除は?」

唯「もちろん自分でしています!」フンス !!

唯母「リビングとかの掃除は?」

唯「憂」

唯母「洗濯は?」

唯「憂」

唯母「食事の用意は?」

唯「憂」

唯母「歯みがきは?」

唯「仕上げは憂」

唯母「……」


唯母「駄目だわ。このままじゃ唯がダメ人間になってしまう」

憂「お、お母さん……」

唯母「あなた。悪いけど、これから海外出張行くときは、一人で行ってくださるかしら?」

唯父「ええっ!?」ガ──── ン !!

唯母「私が付きっきりで唯の腐りきった根性を叩き直さないと」

唯「そんなっ!?」

唯母「憂、これからは、憂にも楽をさせてあげ……」

唯父「無理だ! 僕は君がいてくれないとネクタイも一人で結べないんだよ!?」

唯父「今後、誰が僕の世話をしてくれるっていうんだ!!」

唯父「僕は君はいなきゃ駄目なんだよ~!! どうか考え直してくれっ!!」

唯母「……はぁ」

唯「お父さん……、その気持、痛いほどわかるよっ!!」

唯「私も、もし憂がいなくなったらなんて考えただけで……」ガクブル

唯母「間違いなく親子ね……」


憂「私なら大丈夫だよ、お母さん」

唯母「憂……」

憂「家事やってて辛いだなんて思ったことないよ」

憂「むしろ楽しいくらいなんだから!」

唯母「でもね、憂」

憂「それに、お父さんもお母さんがいなきゃとっても困るだろうし」

唯父「お母さん、憂もこう言ってることですし……」

唯母「はぁ……。わかったわよ」

唯父「良かった!!」

唯「良かったね、お父さん」

唯父「ああ! ありがとう、ありがとう!!」


唯母「でもね、唯。これからはちゃんと憂の手伝いをするのよ」

唯「う、うん。わかった」

唯母「憂も唯を甘やかしてばっかりじゃ駄目よ。こんなんじゃお嫁に出すことなんてできないわ」

唯父「お嫁になんて行かせないよっ!!」

唯母「あなたは黙っててください!!」

唯父「はいぃぃぃっっっ!!」

憂「私も、もしお姉ちゃんがお嫁に行っちゃったら寂しいけど
  むしろ私が一生面倒見てあげるくらいのつもりでいるけど
  って言うか性転換手術してでも、私がお姉ちゃんと結婚したいくらいだけど
  お姉ちゃんも、女の子だもんね。家事の一つや二つ出来た方がいいに決まってるもんね
  わかったよ、お母さん。なるべく手伝ってもらうことにするよ」

唯母「前半の部分は聞かなかったことにして……、そうしてもらえるかしら」

唯「わかった、私がんばるっ!!」

憂「がんばろうね、お姉ちゃん」


唯父「ところで、お風呂は沸いてるかな?」

憂「うん。そろそろ帰ってくる頃かと思って。ちょうど今沸いたところだよ」

唯父「じゃあ、先に入ってこようかな」

唯「ええ~……。お父さんが先に入るの~……」

唯父「だ、駄目かい?」

唯「だって、お父さんの後ってなんか……」

唯父「ううっ……」

憂「そんなこと言っちゃ駄目だよ、お姉ちゃん。お父さん疲れて帰ってきたんだから
  一番風呂は一家の大黒柱であるお父さんのものだよ」

唯父「さすが、憂。良くできた娘だ~」

唯「憂が言うなら、仕方ないか……。今日はシャワーで済ませよう」

憂「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

唯「?」

唯父「じゃあ、入ってくる」

憂「あっ、お父さん、上がったらお湯抜いといてね」

唯父「えっ!?」

憂「また後でお湯張り直すから」

唯父「で、でも……」

憂「だって、さすがにお父さんの入ったお湯に浸かるなんてできないよ」

唯「そっか~、その手があったか~。さすが憂!」

憂「ちょっともったいないけど、仕方ないよね」

唯父「お母さん! 娘たちが僕をイジメるっ!!」

唯母「成長の証だと思って諦めてください」

唯父「嫌だっ!!」

憂「洗濯物もお父さん用のカゴを別に用意しといたから、そこに入れといてね♪」

唯父「クスン……」

唯「あ、そうだ。お父さん、お風呂から上がったら話があるの」


 … … …

唯父「ふい~……、いい湯だった~」ホクホク

憂「じゃあ、バスタブ洗ってくるね」

唯「いってらっしゃ~い」

唯父「……」

唯父「と、ところで唯、お父さんに話ってなんだ?」

唯「えっとね、今度私たちのバンドでライブするんだけど見にこないかな、と思って」

唯母「あら? 確か大晦日にもしたって言ってたわね」

唯「うん。その時は結構急だったし二人とも旅行に行ってて見れなかったでしょ?」

唯「だから今回は、お父さん、お母さんにも見てもらいたいなと思って」

唯父「いいのかい? こんな加齢臭漂うおっさんが見に行ったりなんかして……」

唯「そんな、お父さんは臭くないよ~」

唯父「そ、そっか! そうだよな!」

唯「下水道の臭いよりかはまだちょっとましだよ~」

唯父「下水……手前ってことですか……?」

唯母「そうね、唯の演奏を舞台で見るなんて滅多にできないでしょうし
   あなたも、その日はお仕事も旅行もなしで見に行くでしょう?」

唯父「うん。娘の晴れ舞台だ。その日は予定を空けておくよ」

唯「やった~!」

唯父「楽しみにしてるよ」

唯「うん!」




田井中家

聡「おい! ねーちゃん! 俺の唐揚げ取るなよ!!」

律「所詮この世は弱肉強食なのだよ、弟よ」

聡「わけわかんねぇこと言ってないで返せよ!」

律「へへ~ん! 食べてしまったものは返せませ~ん」

聡「クッソ~」

律母「あんたらせからしかっ! 食事んときくらい静かにせんね!」

聡「だって、ねーちゃんが……」

律母「だってもへちまもなかとっ! 律も女の子ばってんもっとおしとやかにせんっちゃ」

律「はいは~い」

律母「『はい』は一回でよかとよ!」

律父「まぁ、ええやないか。そないうるさく言わんで。かーちゃん」

律父「なんっちゅーても、元気が一番や」

律「あのさぁ~……」

律父「なんや?」

律母「なんね?」

律「もうこっちで暮らしてて長いんだしさ、そろそろその方言どうにかした方が……」

聡「俺も、ずっとそれ思ってた」

律母「博多弁のなんがいかんと!?」

律父「せやで、むしろ関西弁が標準語や言うてもええくらいやろ」

律母「あんたもおかしなこと言うとらんと、早よ食べてしまわんね」

律父「わかっとるがな……。ホンマうるさいやっちゃで……」

律母「ああ? 何か言うたと?」

律父「かーちゃんの作るマンマは最高や! って言うたんや」

律聡「……」

律「あ、そうだ! とーちゃんとかーちゃんに聞いてほしいことがあってさ」

律「今度、ライブするんだよ」

律母「ライブって博多どんたくみたいなもんね?」

律「ん? あ、ああ……。ちょっと違うかな……」

律父「あれやろ? 律がいつも叩いとる太鼓やろ?」

律「ドラムだっつーの!!」

律母「あ~、あの澪ちゃんと一緒ばしよっとーやつたい」

聡「学校で?」

律「いや、後輩のお父さんの主催するライブハウスで」

律父「ほな、一般のお客さんの前でするんかいな!?」

律母「だったら、きばらないけんね」

律父「で、ワシらもそれ見に行ってもええんかいな?」

律「来れるなら来てもいいよ」

律母「ばってん、それはいつあると?」

律「う~んと、一ヶ月後くらいだったかな」

律父「どうや? かーちゃんも一緒に行かんか?」

律母「よかよ」

律「澪んちは知ってるからいいけど、くれぐれも、その方言で他の親ビビらすなよ……」


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最終更新:2010年05月24日 21:58