秋山家

澪「ただいま」

澪ママ「あら澪ちゃん、おかえりなさい」

澪「ママ、今日ね、ママの作ってくれたお弁当可愛いって言われたよ」

澪ママ「あらそう、良かったわね。可愛い澪ちゃんに合わせて作ったかいがあったわ」

澪「うん」

澪「……」

澪ママ「どうしたの? 澪ちゃん」

澪「き、今日は、パパ帰ってくるの遅いの?」

澪ママ「夕食は一緒に食べるって言ってたからそんなに遅くはならないと思うけど……どうして?」

澪「うん、また後で話すよ」

澪「じゃあ、私、部屋にいるから」

澪ママ「はいはい」

澪「お弁当可愛いって褒められたのはママなんだけどな~」

澪「本当はもっとママに喜んでもらいたかったのに」

澪「なんで、私に『良かったね』って言うんだろ」

澪「私がもっと『ありがとう』とか言ったらママも喜んでくれるのかな……」

澪「でも、なんだか恥ずかしいな」

澪「はぁ、お布団がふっかふかだ」

澪「今日、天気良かったから干してくれたのかな」

澪「……気持ち良い」

澪「ママ……ありがとう……」

澪「////」

澪「……あれ? 私のウサちゃん……」

澪「いつも、ここにいるはずなのに……」

澪「ど、どこ行ったんだろ」オロオロ

澪「ねぇ、ママ! 私のうさぎの縫いぐるみ知らない?」

澪ママ「ああ。あれなら、今日澪ちゃんの部屋の布団干したときに目についたけど
    ちょっと汚れてたから……」

澪「まさか、捨てちゃったの!?」

澪ママ「……ごめんなさい」

澪「そんな!? あれ……、あの縫いぐるみは……」ガクガク

澪ママ(ウフフ、顔真っ青にしてうろたえる澪ちゃん可愛い)

澪「酷い……ママ……」ウルウル

澪ママ(涙目の澪ちゃんも可愛い。でも、そろそろ……)

澪ママ「嘘よ、澪ちゃん。少し汚れていたから綺麗になるように洗っといてあげたのよ」

澪「へっ?」

澪ママ「ママ、澪ちゃんがあの縫いぐるみを一番大切にしてることくらい知ってるわよ」

澪「……」

澪ママ「だって、りっちゃんに貰ったものですものね」

澪ママ「いつだったかしら……、誕生日プレゼントにって」

澪ママ「それからというもの、寝るときはいつもあのウサちゃん抱いてるものね」

澪ママ「だから、そんなに大切にしている縫いぐるみを捨てちゃうわけないわよ」

澪「なんで、そんな嘘ついたの……?」

澪ママ「ママ、澪ちゃんにちょっと意地悪したくなったの」

澪「もう!!」プクー

澪ママ(ああっ! 顔を膨らまして怒ってる澪ちゃんも可愛いっ!!)ゾクゾク


 … … …

澪パパ「ママ、おかわり」

澪ママ「はいはい」

澪「ねぇ、パパ。あのね、お話しがあるんだけど……」

澪パパ(!? この切り出し方は、何かおねだりするときの澪だっ!)

澪パパ(今月のお小遣いは……。駄目だっ! 今月は飲み会に沢山使ってしまったんだ!)

澪パパ(くっ……澪。すまんが、おねだりは来月のパパに頼んでくれ……!!)

澪(パパなんだか泣いてる……?)


澪「あのね、一ヶ月後くらいになんだけど」

澪パパ「なんだ、一ヶ月後か。ははっ、だったらパパに任せなさい」

澪パパ「リカちゃん人形か? それともシルバニアファミリー緑の丘のすてきなお家か?」

澪「パパ……、もうとっくに私、そんなものからは卒業したよ」

澪パパ「……そ、そうか。だったらいったい」

澪「ライブ見に来てほしいかな……って」

澪ママ「ライブって、りっちゃんと一緒に学校でやってる、あれ?」

澪「そう。軽音部で」

澪パパ「そうか。うん、澪のがんばってる姿はぜひ見たいな」

澪「うん! 精一杯がんばるから」

澪ママ「でも、澪ちゃん大丈夫? りっちゃんから聞いたんだけど
    一年生の学園祭のライブで、失敗しちゃったんじゃないの?」

澪「そ、それはっ//// もうそんな失敗しないからっ!!
  って、なんで律ったらママに教えてるのよ!!」

澪ママ(ウフフ。思い出して真っ赤になってる澪ちゃん可愛い)

澪パパ「?」



琴吹家

紬「斎藤、今日はお父様は……?」

斎藤「旦那様でしたら、今日はお早めにお帰りになられる予定ですが」

紬「そう」

斎藤「お嬢様、旦那様に何かお話しでも?」

紬「ええ、ちょっとね」

斎藤「そうでございますか。紬お嬢様のお話しなら旦那様は喜んで聞いてくださることでしょう」

紬「ふふっ。ありがとう、斎藤」

 … … …

  コンコン

紬父「誰だ?」

紬「お父様、私です」

紬父「ああ、紬か、入れ」

紬「失礼します」

紬父「どうしたんだ?」

紬「お父様にお話しがあって……」

紬父「そうか、じゃあそこに掛けなさい」

紬「実は軽音部のことなんですけど……」

紬父「ああ……、うん、言ってみなさい」

紬「はい、今度軽音部のみんなで……」


  prrrrrrrrrrr……

紬父「ちょっとすまん……」

紬父「私だ……」

紬「……」

紬父「……何!? 沢庵の製造が追いつかないだと!」

紬父「あれほど、製造ラインは余分に確保しておけと……、予想以上の注文!?」

紬父「馬鹿者! マーケティング戦略部は何をしとったのだ!!」

紬父「とにかくパートのおばちゃんを総動員だ! なんだったら私も今から大根を漬けに行く!」

紬「お、お父様……」

紬父「すまんな紬、話はまた今度にさせてもらえるか?」

紬「……はい」


紬「失礼しました……」

紬「……」

斎藤「お嬢様、旦那様とのお話しはもうお済みで?」

紬「お父様、忙しそうだったから……」

斎藤「……そうでございますか」

紬「ええ……、仕方ないわ」

斎藤(紬お嬢様……)

斎藤「よろしければ、この斎藤めにお話しくださいませ」

紬「斎藤……」

斎藤「畏れ多くも、旦那様の代わりというわけもいきませんでしょうが」

紬「いいえ、ありがとう斎藤。聞いてもらえるかしら?」

斎藤「では、紅茶を淹れてまいりますので、少々お待ちを」




中野家

梓「お父さん、先輩たちもやる気になってくれてるよ」

梓父「そうか、それは良かった」

梓父「しかし、梓よ、なぜ私のことをダディと呼んでくれないのだ?」

梓「は、恥ずかしいよ……」

梓父「ハニー! 梓は反抗期らしい」

梓母「まぁ、ダーリン……、年頃の女の子ですもの仕方ないわ」

梓父「ああ、マイスイートハニー」

梓母「うぅ~ん、ダーリン」

  チュッチュ

梓(子供の前でよくも恥ずかしげもなく……)


梓父「梓も高校で素晴らしいバンド仲間を見つけてこのダディと同じステージに立つというのに」

梓父「そんなことで恥ずかしがっていたら演奏もままならないじゃないかっ!」

梓「関係ないじゃん!」

梓(お父さんも演奏中はカッコイイのになぁ……)

梓母「でも、ダーリン。私たちも梓のお友達の手前恥ずかしい演奏なんてできないわね」

梓父「もちろんだともハニー、マイスウィートハート梓に恥ずかしい思いはさせたくない」

梓(演奏以外で恥ずかしさを被りそうだ……)

梓父「そうだ、梓。実はもう一組バンドが来れなくなったんだ」

梓「え? そうなの?」

梓父「ああ……。梓の知り合いで誰か紹介してもらえないかい?」

梓母「マミーも近所の掲示板に出演者募集のチラシ貼ったりしてるんだけどね」

梓「う~ん……、また明日先輩たちに聞いてみるね」

梓父「ところで梓。その先輩たちのご両親も来てくださるように言ってもらえたかい?」

梓「うん」

梓父「そうか! それは良かった」

梓母「ダーリンったら見栄を張って大きめのライブハウスを取っちゃったものね」

梓父「あははっ! お客さんが入らなきゃ寂しくなっちゃうからな~」

梓「なんで、自分の身の丈にあった会場選ばなかったの?」

梓父「男っていうのはどこまでも貪欲なものさ」

梓母「そんな無謀なダーリンも素敵よ!」

梓父「ああ、ハニー!」

  イチャイチャ

梓「はぁ~……」



次の日・放課後

梓「どうでしたか?」

唯「うん、二人とも来てくれるって」

澪「私のとこも、パ……お父さんお母さん見に来れるって」

律「うちのとーちゃんかーちゃんも大丈夫だってさ」

梓「で、ムギ先輩は……」

紬「ごめんなさい。お父様なんだか忙しそうだったから……」

梓「そうですか……」

紬「でも、気にしないで。私、お父様のお仕事のこと理解してるから」

澪「そうだな。なんたって社長だもんな」

唯「でも、ムギちゃん可哀想……」

律「ムギのかーちゃんは?」

紬「お母様は私が小さい頃に亡くなってて……」

律「あっ……」

澪「お、おい、律」

律「ご、ごめんムギ。私、知らなくてさ……」

紬「ううん、いいのりっちゃん。私もみんなに言ってなかったから」

梓「そうだったんですか……」

紬「小さい頃に離れ離れになったけど、お父様や家の執事がいたから寂しくなんかなかったわ」

紬「それに、今の私の存在がお母様が生きてたっていう証だから……」

梓「ムギ先輩……」

唯「お母さん、綺麗だった?」

紬「うん、とっても」

澪「そっか」

律「ムギ見てたら、相当美人だったんだな~ってわかるよ」

唯「でも、だからこそ大事な一人娘の晴れ舞台を見てほしいよね」

紬「いつも、忙しそうだから……」

律「私の親なんていつも休日は暇そうにしてるんだけどな~」

梓「律先輩のとこと比べるなんて失礼ですよ」

律「なんだと、なかなか言うじゃないか梓~」ウリウリ

紬「でも、私はみんなと演奏できるだけも幸せよ」

澪「……うん。そうだな。私もムギと、みんなと演奏することが楽しいよ」

梓「ムギ先輩のお父さんが見に来てくれるまで何回でもやってやるです!」

紬「うふふ。ありがとう梓ちゃん」

唯「うむむ……」

律「ん? どうしたんだ唯?」

唯「よし! 閃いた!」

律「何を?」

唯「ねぇ、ムギちゃん。ムギちゃんちってこの番号でいいんだよね」

紬「え~っと……、ええ合ってるわ」

唯「じゃあ、ちょっくらと……」

澪「ムギんちに電話してどうするつもりだ?」

梓「唯先輩が直接ムギ先輩のお父さんに来てくれるように言うんですか?」

紬「でも、今お父様は屋敷にはいらっしゃらないと思うけど……」


斎藤『もしもし……』

唯「あ、紬さんのお宅でしょうか?」

律「なんで、関取みたいな声でしゃべってるんだよ……」

斎藤『……どちら様でございましょうか?』

唯「娘は預かった!」

律澪紬梓「!?」

斎藤『はぁ?』

唯「返してほしくば、ハーゲンダッツ一年分を要求する」

澪「バカ、もう切れ!」

   ピッ、ツーツー

唯「ああっ! いい考えだと思ったのに……」

梓「狂言誘拐なんて今どきの小学生でもしませんよ……」

唯「でも、これで私の家にハーゲンダッツ一年分が送られて来たら
  それだけムギちゃんのこと大切に思ってるってことだよ!」

律「バカか……お前……」

紬「でも、唯ちゃんなりに私のこと気遣ってくれたのよね?」

唯「えへへ……////」

澪「でも、ムギ」

紬「大丈夫よ、家の執事だって悪戯ってことくらいわかってると思うわ」

梓「それもそうですよね」

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斎藤『もうこの学校は完全に包囲されております!
   あきらめて紬お嬢様を解放ください!!』

澪「……どうしてこうなった」

紬「ごめんなさい、まさか本気にするなんて……」

梓「なんで一民間企業が戦車なんて持ってるんですか!?」

唯「うぅ……、こうなったら、行けるとこまで行ってやる!」

律「ふっ、あたいはあんたにどこまでも付いていくぜ!」

唯「やるかい? りっちゃん」

律「あたぼうよ!」

澪「お前らまで何やる気になってんだ!!」


さわ子「ちょっとあなた達! いったい何やったの?」

律「あ、さわちゃん」

さわ子「あ。じゃないわよ! えらい騒ぎよ!」

唯「実はね……」コショコショ

さわ子「……ふんふん、なるほどね……」

梓「先生からも何か注意してやってください!」

さわ子「そうね……、とりあえず当面の逃亡資金と移動手段の車の要求ね」

唯「おお! さすがさわちゃん!」

律「ぜひとも私たちのブレインとしての働きを期待するぜ!」

澪「こら教師」


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最終更新:2010年05月24日 21:59