さわ子「もう、冗談じゃない」

梓「この状況での冗談は命取りになる危険性があります」

紬「とりあえず誤解だってこと知らせなきゃ」

    ボン!!!!

律「うわっ!? 何だ!? 部室に煙がっ!!」

唯「ゲホッ、ゲホッ! ここまでか……」

「紬お嬢様確保! ご無事です!」

「犯人と思われる者も拘束いたしました!!」

さわ子「ち、ちょっと! 痛い痛い!!」

斎藤「紬お嬢様!! ああ……、ご無事で何よりでございます」

紬「ち、違うの!! あの人を離してあげて」

斎藤「は?」


 … … …

斎藤「……なるほど、悪戯というわけでございますか」

軽音部一同「ごめんなさい」

唯「ムギちゃんがお父さんに冷たくされてるんじゃないかと思って……」

斎藤「そういう事にございましたか……」

紬「すべては私の責任です……」

唯「ムギちゃん……」

斎藤「いえ、紬お嬢様が無事ならそれにこしたことはございません」

紬「……」

斎藤「琴吹家特殊部隊撤収!」

 「はっ!」

さわ子「とばっちり喰らった……」

紬父「紬ぃぃぃぃぃ!! 無事かぁぁぁぁぁ!!」

紬「お、お父様!?」

斎藤「旦那様……、実は……」ゴニョゴニョ

紬父「……なんと!?」

紬「……」

紬父「紬、こちらに来なさい」

紬「はい……」

紬父「……」

  パシン!!

紬「────ッ!!」

唯律澪梓「!?」

紬父「……」

紬「申し訳ありません……、お父様……」

紬父「あまり心配させるんじゃない……」

紬「はい、お父様」

紬父「妻が死んで、その上お前まで失ってしまったら、と考えてしまったではないか……」

紬「ごめんなさい、ごめんなさい……」


唯「ムギちゃんのお父さん、私が主犯格なんです……どうも、申し訳ありませんでしたっ!」

澪「止めなかった私も悪いんです、どうかムギだけを叱らないでやってください」

梓「私たちもムギ先輩のことが大好きすぎてやってしまいました……」

律「この責任は軽音部部長である私にあります! おでこでもどこでもいいので引っ叩いて下さいっ!!」

紬「みんな……」

紬父「紬、いい友人を持ったな」

紬「はい! みんな大切な親友です」

紬父「うむ、それから昨日の事は斎藤から聞いた」

紬「……えっ」

紬父「ずっとは無理だが、少しの時間くらいは取れそうだ」

紬「じゃあ!」

紬父「紬の演奏を心待ちにしているぞ」

紬「私……、嬉しい! お父様」ダキッ

紬父「はは、嬉しいのに何故泣いておるのだ?」

紬「だって……、だって……」

澪 じ~~~~ん……

梓「良かったです……」クスン

唯「ムギちゃん良かったね」

律「結果オーライか」

紬(お父様に抱きしめられるなんていつ以来だろう……)

紬(でも、暖かかった事はうっすらと覚えている……)

紬(そう、こうやってお父様の眉毛を触って……)サワサワ

紬「って、ごめんなさい! お父様!」

紬父「何を言っておる、紬は小さい頃からこうやって私の眉毛を触るのが好きだったではないか?」

紬「そ、そうだったかしら……」サワサワ

紬父「そうだとも。お前がどんなに泣いていても、私の眉毛さえ触れば泣き止んでいたのだぞ」

紬父「ほら、その証拠に今だってもう泣き止んでるではないか」

紬「そう言えば……、この眉毛を触っている感覚が朧気に……」サワサワ

紬父「小さい頃は、度々眉を引き千切られたものだ」

紬「もう! お父様ったら……////」サワサワ

紬父「ははははっ!」

斎藤「旦那様、お嬢様。ようございましたな~」ヨヨヨ……


梓「なんだか眉毛を触っている光景ってはたから見ると結構異様ですね」

澪「ムギが恍惚の表情で触っているのがまたな……」

律「でも、もっとおかしいのが、ムギのとーちゃんなんで割烹着姿なんだ?」

唯「それになんだか沢庵の匂いもするよ」

澪「きっと社長って言っても色々と苦労があるんだよ……」




さわ子(親子……か。私も久しぶりに実家に電話でもしてみようかしら……)




その夜・さわ子アパート

さわ子「……」

 prrrrrrrrrrrr……

さわ子「……あ、お母さん? ……うん、さわ子、元気?」

さわ子「え? 電話してくるなんて珍しいって?」

さわ子「うん、たまにはね……。え? そんな、相手連れて行くとかじゃないから」

さわ子「……うん、学校は大変だけど、今年初めて担任受け持ったから……」

さわ子「大丈夫よ。お父さんは腰大丈夫? ……うん、そう」

さわ子「え? 結婚!? そんな……だって相手なんていないし……」

さわ子「お父さんも? 孫の顔が早く見たいって?
    だって一人娘なのに普通お嫁に行ったら寂しいんじゃ……」

さわ子「え? 行き遅れるよりはましだって? そう……うん、そうね……」

さわ子「でも、まだ私だって若い……。え? 今付き合ってる人? いないけど……」

さわ子「……何? せっかく良い顔に産んでやったのにって? ……うん」

さわ子「高校の時に? あんな変な格好でバンドなんかやってたからだって?」

さわ子「……そうね、私もそう思うわ……ごめんなさい……」

さわ子「ちょ!? お母さん泣かないでよ!」

さわ子「また今度の連休に帰るから……、うん……」

さわ子「じゃあ、お父さんにもよろしくね……、うん、お休みなさい」

  ガチャ

さわ子「……ちっ」

さわ子「逆にストレス溜まったわ……」

さわ子「そう言えば、帰り道にあった掲示板にバンド出演者募集のチラシ見かけたわね」

さわ子「……」

さわ子「こうなったら久しぶりにハメ外すしかないわね!」



数日後・中野家

梓父「そう言えば、梓。出演バンドの件なんだが……」

梓「あ! そうだ、なんか色々あって先輩たちにきくの忘れてた!」

梓「ごめん、お父さん!」

梓父「酷いよ梓……。ダディはハートブレイクだ……」

梓「お父さん……機嫌直して……」

梓父「梓にダディと呼んでもらえばハッピーだ」

梓「うっ……。ごめんなさい、だ、ダディ///」

梓父「おお! マイスイート!」ダキッ

梓「きゃあああああ!!!!」ガリガリ

梓父「……」ヒリヒリ

梓母「ああ! ダーリン! その顔どうしたの!?」

梓父「梓に引っ掻かれた……」

梓「だ、だって、お父さんが急に抱きついてくるから……」

梓母「まぁ」

梓父「梓……、ちゃんと爪は切らないと、ギター弾いているときに爪が割れたらどうするんだ!?」

梓「ごめんなさい、お父さん……」

梓(真剣な顔で怒ってる……。こんなお父さんだけど、やっぱり私のこと心配してくれてるんだろうな)

梓父「あとな、梓」

梓「はい……」

梓父「お父さんじゃなくて、ダディって呼ばなきゃ駄目じゃないかッ!!」

梓「それは嫌ッ!!!」

梓母「ヘコタレないダーリン素敵よ!」

梓「はぁ……、ところで出演バンドのことだけど……」

梓父「ああ、その事ならもう大丈夫だ」

梓「へっ?」

梓母「マミーが貼ったチラシ見て電話してきてくれた人がいたのよ」

梓「そうなんだ……」

梓「って早くそう言ってくれれば、私がお父さんのことダディなんて呼ぶことなかったじゃない!」

梓父「OK、梓。話せばわかる」

梓「に゛ゃーーーー!!!!」

梓父「ぎゃーーーーー!!!!」

梓母「傷だらけのダーリンも素敵!」



ライブ当日・リハ中

梓父「君たちなかなかグレイトだね」

梓父「どのようなバンドかと思っていたが、さすがマイスイート梓の見出したメンバーだ」

梓父「プワ~~~~フェクツっ!!」



澪「なぁ、律。梓のお父さんってちょっと変わった人だな」

律「そうか? 面白くていいと思うけど」

唯「あずにゃんのお父さんってルー大柴?」

梓「なっ!? あんなに酷くはありません!」

紬「……」

唯「ムギちゃん、どうしたの?」

紬「え? ううん、なんでもないわ」

澪「ムギ……、お父さんきっと来てくれるよ」

紬「ええ、そうね。ありがとう澪ちゃん」

律「澪のパパとママはもちろん来てくれるんだよな~」

澪「うん、パパとママ来てくれるって……」

唯「パパ?」

梓「ママ?」

澪「あ」

律「そうなんだよ、澪ったら今も親のことそう呼んでてさ~」

澪「ちょ!? り、律っ!!」

律「痛い痛い、おやめになって~」

紬「うふふ」


梓父「ちょっと待った! パパと呼ぶことはそんなに恥ずかしいことじゃない」

梓「お父さん?」

澪「あ、あの……」

梓父「何故なら梓は家では私のことをダディと呼ぶのだから!」

唯「あずにゃん 欧米か!」

律「そのツッコミ古いな~……」

梓「嘘ですよ! 呼んでないですからね!」

梓母「ダーリン、そろそろ時間よ」

梓父「わかったよハニー。良いライブにしようね」

澪「ダーリン、ハニーって呼び合う家族か……」

唯「だったら今度からあずにゃんのことキューティーハニにゃんって呼ぼう」

梓「やめて下さい!!」

律「ハニーフラッシュ!!」ピカッ

澪「うお!? 眩しっ! やめろ律!!」

紬(ふふっ。そうね、お父様もきっと来て下さるわ)


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最終更新:2010年05月24日 22:01