『前編』
♪音楽室
紬「澪ちゃん、悩みがあるなら私に話して。
私、人の相談にのるのが夢だったの」
澪「そうか……」
紬「大丈夫よ澪ちゃん。私に話してみて」
澪「いや、うん。その……つまり私は……」
紬「うんうんうんうんうんうん」
澪「り、律を、律のことが……」
紬「はいはいはいはいはいはい」
澪「ええと……す、す、す、す、す、す」
紬「はい、落ち着いて深呼吸して」
澪「す、す、す、す、すす、す、すー」
紬「澪ちゃん。息を吸ったら吐かないと」
澪「はあはあ……すー」
紬「じゃあ深呼吸もしたことだし、再チャレンジよ、澪ちゃん」
澪「律のことを、す、す、す……好きになっちゃったかも……」
紬「……」
澪「……」
紬「……」
澪「……頼むからなにか喋ってくれ」
紬「澪ちゃん」
澪「うん」
紬「その言葉はうそじゃないわよね?信じていいのよね?」
澪「私が冗談やうそが苦手なのはムギも知ってるだろ?」
紬「もしかしたら夢かもしれないから、私の眉毛を撫でてくれる?」
澪「わかった」
眉毛「なでなでなで」
澪「どうだ?(ムギの眉毛……こんな感触なんだ)」
紬「あれ?キモチいい!もしかしてこれは夢なの!?」
澪「……」
紬「少し取り乱しちゃった。話を戻しましょう」
澪「……」
紬「澪ちゃんはりっちゃんのことが…………なんだったかしら?」
澪「え?そこから?」
紬「うん」
澪「ど、どうしてまた同じことを言わないといけないんだ?」
紬「澪ちゃんが言ってくれないと、私は澪ちゃんに協力することができないの」
澪「意味がわからない!どうしてまたそんな、は、恥ずかしいことを言わないといけないんだ!?
そんな……律のことが、す、す、好きなんて……///」ポッ
紬「はいオッケーよ澪ちゃん!
私が恋のキューピッドになって二人を必ず結ばせてみせるわ」
澪「ほ、本当に?」
紬「ええ。まかせて!」
澪「で、でもどうしよう私……」
紬「決まってるわ澪ちゃん!」
澪「う、うんっ」
紬「告白よ!今すぐりっちゃんに澪ちゃんのその熱くたぎった恋心をぶつけるのよ!」
澪「そ、そんなの無理無理!私にそんな恥ずかしいことできるわけないだろ!?」
紬「澪ちゃんならできるわ!」
澪「できない!」
紬「できる!」
澪「できない!」
紬「りっちゃんの子供を産むことが、」
澪「できる!」
紬「ニヤリッ」
澪「……///」ポッ
紬「二人の結婚式には是非呼んでね」
澪「お、おいおい気が早過ぎるだろ……///」アセアセ
紬「子供ができたら絶対に見せてね」
澪「なんて名前にしよう……ってそういう以前の問題を今まさに私たちは話してたんじゃないか!」
紬「そうだったわね。どこまで話してたっけ?」
澪「私に告白ができるかできないか、まで」
紬「ねえ澪ちゃん。そもそも澪ちゃんは、どうして告白ができないと思うの?」
澪「だって……ハズカシイモン」
紬「じゃあ恥ずかしくなければ告白するのね?」ズイッ
澪「たぶん……ムギ、顔が近い」
紬「ごめんなさい。私もついつい友達が困っていると思うと必死になっちゃって」
澪「そ、そうか……ありがとう」
紬「こうなったら澪ちゃんのために、私が一肌脱ぐわ!」
ベリッ!!
紬「澪ちゃん……食べて」ハアハア
澪「なっ……!こ、これは!!」
澪「ム ギ の た く あ ん ! !」ドン☆
紬「沢庵でもあり私の眉毛でもあるそれを食べると……」
澪「ど、どうなるんだ?」
紬「事細かに説明すると医学用語やら難しい言葉が出るからあえて簡単に言うわね」
紬「これを食べると羞恥心が消えるの!」
澪「羞恥心?」
紬「ええ」
紬「たとえばライブの後に縞パンをさらしても恥ずかしくなくなったり」
紬「黒ビキニを平気で着れるようになったりするわ」
紬「極めつけはしま●らの服を着ていても道端を堂々と歩けるようになることね」
澪「そんなにすごい沢庵を私が食べていいのか?」
紬「いいわ。だって澪ちゃんとりっちゃんには仲良しでいてほしいもの」
澪「……ムギ」
紬「澪ちゃん、さあ」
澪「いただきます!」
パクッ
澪「モグモグ」
紬(ああ……私の眉毛を沢庵だと思って食べてる澪ちゃん……なんて背徳的な絵なの)
ボリボリ。
バリバリ。
澪は口内に広がったその沢庵の味に思わず目を見開いた。
これは……
パリっとした歯ごたえと、みずみずしさと、まさに澪の好みにあった、あっさりとした味付け。
自分で料理は作らないくせに妙に料理にうるさい澪も、この沢庵には文句をつけようとは思わない。
おそらくこの沢庵は干して漬ける『本干沢庵』とは、違う製法で作られているのだろう。
そうでなければこのようなみずみずしい食感はありえないはず。
そこで澪は気づいた。おそらくこれは『塩押し沢庵』だろうということに。
このパリッとした歯ごたえと塩分の少なさ。なによりこの沢庵の新鮮さが澪の推測を裏付けていた。
ただの眉毛……もといただの沢庵とは思っていなかったが、まさかこれほどまでとは……!
さすがは琴吹の血を受け継ぐ娘の沢庵!
……と、すっかり本来の目的を忘れて沢庵の味をひたすら噛み締めていた澪に変化が起きた。
澪「…………ク、ク、ククク」
紬「……」
澪「ククク……」フルフル
紬「……」
澪「ククク……ウハハハハハハハハハハハハハハ!!」ウハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
紬「どうやら私の沢庵の効果が出たみたいね(あれ?おかしい)」
澪「ああ……よくわからないが今ならなんでもできそうな気がするぞ、ムギ!」シャッキ-ン
紬「じゃあさっそくりっちゃんに告白しに行ったら?」
澪「ふっ……てやんでい」フッ
紬(てやんでいってなに?)
ガチャ
律「うぃーす。ただいまりっちゃん隊員が来たぞー」
紬『さあ、今がチャンスよ』ボソボソ
澪「ふっ……笑止」ヘッ
紬(やっぱりおかしいわね……つけてくる眉毛を間違えたのかしら?)
律「あれ?唯はどこ行った?」
紬「唯ちゃんなら今日は日直で遅れてくるって言ってたわ」
律「ふーん」
澪「律!」ドン
律「うおっ、なんだよ急に?迫るな暑いから」
澪「私の愛のバクダンがアラクレってるからSanctuaryに旅☆Everydayしよう」キリッ
律「ああ、トイレな」
紬(今のでわかるなんて……さすがはりっちゃんと澪ちゃんね)
澪「それじゃムギ……一心不乱に純情ACTIONして律とSPLASHしてくる」
紬「そう(たぶん普通に用を足すってことよね?そうよね?)」
澪「おでかけしましょ」ア-ッ!!
律「なんか澪、テンション高いな……まあいいや、じゃあちょっくら行ってくるわ」
紬「いってらしゃーい」
紬「おかしい……私の予定ではあの沢庵を食べるとより女らしくなるはずだったのに……」
紬「ただでさえ可愛い澪ちゃんが余計に可愛くなったら、りっちゃんも澪ちゃんに惚れるだろうと思ったのに……」
紬「どうも本当につけてくる沢庵を間違えたみたいね……あんなの澪ちゃんじゃないわ」
ガチャ
梓「すみません遅れました……ってムギ先輩だけですか?」
唯「あ、ホントだ。りっちゃんと澪ちゃんは?」
紬「二人ならトイレに行ってるわ」
唯「それより早くお菓子食べたい!今日はなになに?」
紬「今日はチョ……」
ガチャ
律「ただいま帰ったー」
澪「…………」
唯「んん?澪ちゃんのほっぺ真っ赤になってるよ。どうしたの?」
澪「なにWonderfulOpportunityを逃しただけだ」フッ
律「そのB'zネタ入れて喋るのムカつくからやめろ」ムスッ
澪「ふっ……愛する律のためだ仕方ないか」コクッタ-
梓「……!?」
唯「まあいいや。早くお菓子食べよ~」
律「食うぞ食うぞ」ムスッ-
紬(これは……りっちゃんと澪ちゃんになにかあったみたいね)
♪部活後
紬「さて澪ちゃん」
澪「ふっ……どうした?
悪いが音楽室に二人きりというシチュエーションだとしても私が、ドキがむねむねするのは律だけだぞ」
紬「安心して。今の澪ちゃんにはときめかないから」
澪「それで?本来なら今頃律とふたりで帰宅という絶好の機会を奪ってなんのようだ?」
紬「そのことについては謝るわ」ペコリ
澪「いや謝らないでくれ。少し調子にのった。それよりムギには礼を言いたい」
紬「お礼?」
澪「ああ。ムギのおかげでこうして私は本来の私をさらけ出すことができたんだ」
紬「不思議。お礼を言われて初めて複雑な気持ちになったわ」
澪「なに、複雑なお年頃なんだろう。気にすることはない」フッ
紬「ところで澪ちゃん。その右のほっぺはどうしたの?」スル-
澪「ああこれか?これは私の強すぎる愛が起こした災いによってできたものだ」キラ-ン
紬「真面目に言ってるの」プン
澪「落ち着け。今から話すから」
紬「それで?」
澪「ああ、さっき私と律が」
ガチャ
少女A・S「あのーすみません」
紬「あなたたちは……」
澪「なんだ私のファンか」
紬(ま、まずいわ!今の澪ちゃんは非常にイタい娘になってしまっている)
紬(今まではイタいのさじ加減がいい感じだったからよかったものの。
ここまで突き抜けると……さすがにちょっと……)
少女A「秋山先輩。先ほどお手洗いから出てきたところをた ま た ま 見たんですけど……」
少女S「トイレに入ったときにはなにもなかったのに、トイレから出た後には右頬が赤くなってました」
少女A「そしてそのときツレシ……ではなく田井中先輩と一緒にトイレに入りましたね」
少女S「そしてその時トイレにいたのはふたりだけ。つまり……」
少女A・S「田井中先輩になにかされましたね!!」ビシッ
紬「…………」
少女A・S「……なにか言って下さい秋山先輩」
澪「あのさ……」
少女A・S「はい」
澪「私と律はな、幼なじみで昔からずっと一緒に過ごしてきたんだ」
少女A・S「……はい」
澪「たいていのことなら律のことはわかるし、律もたぶん私のことならたいていのことはわかるはずだ」
紬「澪ちゃん……」
澪「私と律は愛しあってるんだ」ズキュ-ン
ちーん
澪「わかってくれたか?」
紬(なにが!?)
少女A・S「はい!」
紬(わかるんだ……さすがファンクラブね)
紬(でも……私の沢庵のせいで澪ちゃんの性格ははちょっとイタくなったけど……)
澪「律は私にとって星のような存在なんだ。そもそも私たちの出会いは……」ア-ダコ-ダア-ダコ-ダ
少女A・S「おおー」パチパチ
紬(ああやって目を輝かせてりっちゃんのことを話す澪ちゃんは、やっぱりすごく魅力的だわ)
♪
澪「というわけで私と律のラブラブっぷりぷりがわかってもらえたところで、本日は解散!」
少女A・S「はい!」
紬(澪ちゃんの語りはすごく長かったけど、よしとしよう)
少女A・S「あ」
紬「どうしたの?」
少女A「その……実は秋山先輩がトイレから出てきたときなんですが……」
少女S「私たち秋山先輩が田井中先輩になにかされたんじゃないかって思って
急いでファンクラブのみんなにメールを回したんです」
紬「つまり……」
澪「そのことはファンクラブの何人かに伝わってしまった……そういうことだな?」ビシッ
少女A・S「いいえ、全員です」
紬「あらあら」
澪「ふっ……さすがは私のファンクラブメンバーと言ったところか」ビックリ
紬「澪ちゃん。クールにキメてる場合じゃないと思う」
澪「ああ。つまり私と律の関係がファンクラブに知れ渡ってしまったんだろ」ハハハハ
紬「間違ってる。りっちゃんが悪者にされてるってことよ」
澪「なんだと!?」キョ-ガク
少女A・S「す、すみません!私たちのはやとちりで」
澪「……」ム-
澪「…………」ムム-
澪「………………!」ピコ-ン
澪「ふっ……思い付いたぞ」キラ-ン
紬「なにを?」
澪「誤解を解く方法を、だ」ギュ-ン
少女A・S「さすがです秋山先輩!」
紬「それでその誤解を解く方法は?」
澪「私のファンクラブメンバー全員をこの音楽準備室に集める」
澪「そして、私の律への思いをありのままにみんなの前で語ろう!」ドン☆
紬(普段の澪ちゃんなら絶対にしない発想ね)
少女A「なるほど!」
少女S「そうすればすぐに誤解を解けますもんね!」
澪「ああ。さっそく明日にでもすぐ誤解を解けるように私が生徒会長の和に伝えておこう」
少女A「じゃあ私たちは、みんなに明日、音楽準備室に集まっもらうよう連絡しておきますね」
澪「頼んだ」
紬(大丈夫なのかしら?)
前編・完
最終更新:2010年05月25日 21:44