紬「あれ?また出ないわ……」
私は何度も澪ちゃんに電話しましたが、澪ちゃんは中々出ません。
紬「うーん……どうしたんだろう」
宿題中?
お食事中?
お昼寝中?
あ、今はもう夜だからお昼寝ではないか。
紬「あとでまたかけ直そう」
私は携帯電話を置くと、机に向かいました。
でもやっぱり顔が綻んで、宿題は手に着きませんでした。
グウウ。
唯「あ、また鳴った」
おなかすいた。
おなかすいたよー!
唯「うい~……早く~……」
すでに私の頭からはポッキーゲームの事はきれいサッパリ消えていた。
あ、そうだ。
さっきまで憂はご飯の支度してたから、もう出来てるのがあるかも!
そう思い、台所に行った私を絶望が襲う。
唯「……まだ何も作ってないかぁ……。」
とりあえず憂が帰ってくるまで待つしかないかなぁ。
梓「筆箱に……教科書に……うん、準備できた」
さっきトイレに行ったのはいいものの、お母さんが先に入っていたせいで、私は用を足す事が出来なかった。
そのため、私は先に憂の家に行く準備を済ませる事にした。
そろそろ出発しようかな。
梓「と、その前にトイレトイレ……」
私は部屋を出て、トイレのドアノブを回そうとしたけど、鍵がかかってるらしくドアは開いてくれなかった。
梓「あれ?お母さんまだ入ってるの?」
ドア越しにお母さんの声が聞こえた。
梓母「うん。もう少しかかるかも」
梓「もー。早くしてよ」
お母さん、いつも長いんだよなぁ。
トイレに雑誌持ち込むのやめてほしい……。
いやーやっぱ澪はいいリアクションしてくれるぜ。
今頃枕でも投げて怒ってんのかな?ぷくく。
律「さて、そんじゃちょっとフォローしてやりますかね。……ごめんごめん(笑)……っと。はい、送信」
私はケータイをベッドに放り投げると、床に寝転び、天井を見上げた。
あー……ポッキーゲーム面白かったなぁ……。
明日もやるべきだよなー。
でも私、今財布の中スッカスカだしなぁ。
律「そうだ!明日ムギにポッキー持ってきてもらおう!」
私はベッドに上がり、胡座をかくと、早速ムギに電話をかけた。
【PM7;25 琴吹紬】
あら?電話……。
澪ちゃんかな?
私は振動する携帯電話を開きました。
紬「りっちゃん?」
なんだろう。
紬「もしもしりっちゃん?」
律「おームギー!今何してたー?」
……ごめんなさい。自分の部屋で回想にふけってニヤニヤしてました。
紬「えっと……宿題!」
律「ふーん?じゃあ邪魔しちゃったかな」
紬「そんな事ないよ!どうしたの?」
律「いやー、今日さー、ポッキーゲームしたじゃん?」
ドキッ。
律「あれ明日もやらね?」
な、なんですって……!
紬「う、うん!やりたい!やりましょう!」
律「へへ、さっすがムギ!そうこなくちゃ。つーわけだからさ、明日のお菓子は今日私が持ってきたのと同じポッキーでよろしく!」
紬「あっ……」
どうしよう。
ケーキならいくらでも余ってるけど、ポッキーなんて貰わないし、家にない……。
でも……!
紬「明日はポッキーね。わかりましたっす!」
律「はは、気合い入ってんなぁ。んじゃそーゆー事でよろしくー。」
そう言ってりっちゃんは電話を切りました。
さて、善は急げです。
紬「早速買いに行かないと!」
こんばんは。平沢憂です。
スーパーに着きました。約30分。新記録です。
いつもはバスを使ってるんですけど、今日は慌ててたので走ってきちゃいました。
憂「お菓子コーナー……お菓子コーナー……」
さっそくお菓子コーナーへ向かいます。
憂「えーっと、ポッキーポッキー……。イチゴの……。」
あれ?
憂「売り切れ……?」
うぅ、困ったなぁ……。
お姉ちゃんのリクエストはイチゴのポッキー。
普通のポッキーならいっぱいあるのに、今日に限って売り切れ……?
憂「あのっ!すいません店員さん!」
店員「はい?」
憂「イチゴのポッキーって在庫ないんですか?」
店員「あー……棚になかったら置いてないですね」
そ、そんなぁ……。
憂「そうですか……。ありがとうございます……」
うーん……仕方ないから普通のポッキー買っていこうかなぁ。
でも、お姉ちゃんはイチゴがいいって言ってたし……普通のだとテンション下がってポッキーゲームどころじゃなくなっちゃうかも……。
……よし、他のお店も探してみよう!
憂「待っててねお姉ちゃん!」
【PM7:34 平沢唯】
だれだー!ポッキーゲームしたいなんて言ったのは!
唯「お腹すいたっ!」
もう限界!何か食べないと死んじゃう!
唯「よし、作ろう。もう自分でご飯作っちゃおう」
私は冷蔵庫を開けた。
唯「……と言っても何作ればいいかわかんないよー……」
うい~……遅いよ~……。
ちょっと憂に電話してみよう。
唯「ピポパ……っと。」
ブブブブブブ。
居間のテーブルの上から、ケータイのバイブ音。
唯「もー!なんでケータイ忘れていっちゃうの~?!」
澪「はぁ……はぁ……。よし……」
まずはこのコンビニだ。
ここにあるポッキーは私が買い占めてやる。
そうすれば、ポッキーゲームなんてふざけた遊びをする奴は減るはずだ。
店員「いらっしゃいませー」
私は脇目も振らず、お菓子の棚へ直行した。
澪「……けっこう種類あるんだな……」
ポッキー、メンズポッキー、極細ポッキー、アーモンド、クランチ……。
さすがにこれ全部を買い占めるのは……。
澪「仕方ない、つぶつぶイチゴだけにしておこう」
私はイチゴポッキーの箱を両手に抱え、レジへと持って行った。
店員「ありがとうございましたー」
コンビニを出ると、夜風が心地良かった。
今の私、なかなかロック。
iPodのイヤホンからはベルベットアンダーグラウンドのサンデーモーニングが流れている。
もっともっと店を回って、ポッキーを日本の市場から消さないと。
それにはもっとテンションを上げる必要がある。
私はポケットのiPodを取り出すと、クイーンオブザストーンエイジの曲を選んだ。
「feel good of the summer」
ニコチン ヴァリウム ヴィコダイン マリファナ エクスタシー アルコール……。
あれ?これ私のときめきシュガーに似てない?
私は気を良くして、次の店に向かって走り出した。
【PM7:42 琴吹紬】
息を弾ませながら、私はコンビニへと駆けています。
そう言えば、一人でコンビニに行くのは初めてかも。
さて、りっちゃんにポッキー頼まれたのはいいけど、どれくらい用意すればいいんだろう。
紬「いっぱいあるに越した事はないよね」
部室に常にストックしておけば、いつでもポッキーゲームできる。
よし、それでいきましょう。
紬「うーん、100個くらいあれば足りるかな……?」
【PM7:43 中野梓】
梓「ちょっとお母さんまだー?」
梓母「ん、もうちょっと」
もう!いい加減にしてよ!
憂の家に行かなきゃいけないのに。
あ、そっか。
憂の家でトイレ借りればいいんだ。
梓「はぁ……もういいよ。私ちょっと出掛けてくるから」
梓母「あんまり遅くならないようにね」
どの口が言う……。
梓「はーい」
【PM7:58】
澪「よし、ここも私が買い占めたぞ」
そのコンビニを出る頃には、私の両手はポッキーの入った袋で塞がっていた。
澪「ふぅ。とりあえずこの辺のポッキーは買い占めたな」
私はランニングしつつ、近所のスーパー、コンビニ、
その他お菓子が売ってそうな店に片っ端から入り、イチゴのポッキーを独り占めしてやった。
ぐぅ。
ずっと走っていたせいか、小腹が空いてきた。
私は手に携えた袋に目をやった。
澪「……これだけあるんだし、一箱くらい空けて食べちゃおうかな」
今日はいっぱい走ったし、ちょっとくらい間食しても大丈夫大丈夫……。
ポリポリ。
澪「あ、おいしい……」
【PM8:00 平沢憂】
憂「ま、また売り切れ……?」
こんばんは。平沢憂です。
コンビニ、スーパーを何件か回ってみたんですけど……どういうわけか、どこもイチゴのポッキーは売り切れでした。
憂「なんで今日に限って……」
はぁ……。
どうしよう。
早く買って帰らないと、お姉ちゃんの気が変わっちゃうかも……。
憂「次のお店、行かなきゃ!」
【PM8:07 平沢唯】
もう無理だー!
お腹減って死んじゃう!
唯「よし作ろう。もうなんでもいいから自分で作っちゃおう」
私は憂がまな板の上に放置していった包丁を手にとった。
……合宿の時は問題なく使えたし、私だって料理くらいできるはずだよね。
唯「よーし、やるぞー!」
早速お豆腐に包丁を入れる。
えーと、包丁を使う時は猫の手猫の手っと……。
唯「あう……ギー太弾きすぎて手がうまく動かな……」
ざっくり。
唯「痛いっ!!」
私の指から流れる血が、まな板の上のお豆腐を赤く染め上げる。
唯「あ、あわわわ……絆創膏!絆創膏どこだっけ!?」
傷口からどくどくと流れる血が、その深さを物語る。
まいったね。
こりゃ餓死する前に出血多量で死んじゃうよ。
えっ……死……や、やだ!
そんなのやだ!
唯「う、ういー!指怪我したー!助けて~!!」
返事はない。
そりゃそうだよね!
憂は今出かけてるんだし。
唯「あ、あわわわわわ……血が止まらないよぅ!」
もしかして絶体絶命のピンチってやつ!?
唯「だ、誰か!誰かたしゅけて~!ういー!和ちゃーん!」
はっ!和ちゃん!そうだ、和ちゃんに助けを求めよう!
私は廊下に点々と血の跡を作りながら、急いで家を出た。
【PM8:09 中野梓】
憂の家への道中、見上げた夜空に星は瞬く。
点々と光るそれは、イチゴのポッキーのツブツブを思わせる。
唯先輩とポッキーゲームやらされなくて本当に良かった。
唯先輩の事だから、私とポッキーゲームする事になったらここぞとばかりにチューしてきたんだろうな。
抱きつくくらいならともかく、それは勘弁してほしい。
梓「あっ!?そっか、憂の家だから唯先輩もいるんだった!」
今日、憂の家に行くのは、宿題を教えてもらうため。
唯先輩、邪魔してこないといいけど……。
梓「……絶対邪魔してくるんだろうなぁ」
それを見越した上で、時間に余裕を持って行かないとダメだ。
私は小走りになった。
早く憂の家に行かなきゃ。
お腹空いてきたし、それに……トイレも早く借りたいし……。
【PM8:14 琴吹紬】
紬「おかしいわ……。ここも売り切れ……」
三件目のお店も、イチゴのポッキーは売り切れでした。
そんなに人気あるのかしら?
それともポッキーゲームが流行ってるのかな?
紬「どうしよう……。斎藤に頼めば用意できるけど、あんまりそういう事はしたくないな……」
でも背に腹は変えられない。
私はりっちゃんに頼まれたんだもん。
期待を裏切るわけにはいかない!
澪ちゃんには申し訳ないけど、私もポッキーゲーム大好きだし!
紬「あ、そうだ……。澪ちゃんにさっき電話したの忘れてた……」
落ち込んでる(?)みたいだし、私が責任持ってフォローしてあげないと。
私は携帯をバッグから取り出し、澪ちゃんに電話をかけました。
【PM8:15 秋山澪】
ポッキー……おいしいのはいいんだけど……これ食べてるとムギとチューした時の事思い出しちゃう。
澪「……柔らかかったな」
弾力があって、ちょっとしっとりしてて、自分の唇が溶けるような……あの時は私の視界は全部ムギで……ああいう感じなんだな、キスって。
澪「うぅぅ……」
あ、ダメだ。
また頭爆発しそう。
そもそもそれを忘れるためにランニングしてたのに、思い出してどうする。
不意に、携帯電話が鳴った。
両手に持った袋を地面に置き、私はポケットから携帯電話を取り出した。
澪「ひっ!?」
画面にはムギの文字。
澪「ひいいいいい!!」
無理だ!
恥ずかしい!
今はムギと話せない!
いやでも電話かかってきてるし。
なんだ?
一体私に何の用があって?
いや別に用がなくてもムギとは電話する事あるけど、今は無理だ無理!
澪「あ……う、うぅーーーーーっ!」
私はとっさに携帯電話の電源を切ってしまった。
【PM8:16 琴吹紬】
ツーツーツー。
星空の下、国道沿いの歩道で私は立ち尽くしました。
紬「えっ……ウソ……。今澪ちゃん電話切っちゃったの……?」
もしかして澪ちゃん、すっごく怒ってる……?
紬「どうしよう……どうしよう……!」
事故とはいえ、私がチューしちゃったから……?
りっちゃんごめんなさい!
ポッキーなんて探してる場合じゃないわ!
澪ちゃんに謝らないと!
紬「でも電話に出てくれないし、一体どうしたら……」
あ、私泣きそう……。
最終更新:2010年05月27日 00:44