【PM7:18 琴吹紬

紬「あれ?また出ないわ……」

私は何度も澪ちゃんに電話しましたが、澪ちゃんは中々出ません。

紬「うーん……どうしたんだろう」

宿題中?
お食事中?
お昼寝中?
あ、今はもう夜だからお昼寝ではないか。

紬「あとでまたかけ直そう」

私は携帯電話を置くと、机に向かいました。

でもやっぱり顔が綻んで、宿題は手に着きませんでした。




【PM7:20 平沢唯

グウウ。

唯「あ、また鳴った」

おなかすいた。
おなかすいたよー!

唯「うい~……早く~……」

すでに私の頭からはポッキーゲームの事はきれいサッパリ消えていた。

あ、そうだ。
さっきまで憂はご飯の支度してたから、もう出来てるのがあるかも!

そう思い、台所に行った私を絶望が襲う。

唯「……まだ何も作ってないかぁ……。」

とりあえず憂が帰ってくるまで待つしかないかなぁ。



【PM7:22 中野梓

梓「筆箱に……教科書に……うん、準備できた」

さっきトイレに行ったのはいいものの、お母さんが先に入っていたせいで、私は用を足す事が出来なかった。
そのため、私は先に憂の家に行く準備を済ませる事にした。

そろそろ出発しようかな。

梓「と、その前にトイレトイレ……」

私は部屋を出て、トイレのドアノブを回そうとしたけど、鍵がかかってるらしくドアは開いてくれなかった。

梓「あれ?お母さんまだ入ってるの?」

ドア越しにお母さんの声が聞こえた。

梓母「うん。もう少しかかるかも」

梓「もー。早くしてよ」

お母さん、いつも長いんだよなぁ。
トイレに雑誌持ち込むのやめてほしい……。



【PM7:24 田井中律

いやーやっぱ澪はいいリアクションしてくれるぜ。

今頃枕でも投げて怒ってんのかな?ぷくく。

律「さて、そんじゃちょっとフォローしてやりますかね。……ごめんごめん(笑)……っと。はい、送信」

私はケータイをベッドに放り投げると、床に寝転び、天井を見上げた。

あー……ポッキーゲーム面白かったなぁ……。

明日もやるべきだよなー。
でも私、今財布の中スッカスカだしなぁ。

律「そうだ!明日ムギにポッキー持ってきてもらおう!」

私はベッドに上がり、胡座をかくと、早速ムギに電話をかけた。




【PM7;25 琴吹紬】

あら?電話……。
澪ちゃんかな?

私は振動する携帯電話を開きました。

紬「りっちゃん?」

なんだろう。

紬「もしもしりっちゃん?」

律「おームギー!今何してたー?」

……ごめんなさい。自分の部屋で回想にふけってニヤニヤしてました。

紬「えっと……宿題!」


律「ふーん?じゃあ邪魔しちゃったかな」

紬「そんな事ないよ!どうしたの?」

律「いやー、今日さー、ポッキーゲームしたじゃん?」

ドキッ。

律「あれ明日もやらね?」

な、なんですって……!

紬「う、うん!やりたい!やりましょう!」

律「へへ、さっすがムギ!そうこなくちゃ。つーわけだからさ、明日のお菓子は今日私が持ってきたのと同じポッキーでよろしく!」

紬「あっ……」

どうしよう。
ケーキならいくらでも余ってるけど、ポッキーなんて貰わないし、家にない……。

でも……!

紬「明日はポッキーね。わかりましたっす!」

律「はは、気合い入ってんなぁ。んじゃそーゆー事でよろしくー。」

そう言ってりっちゃんは電話を切りました。

さて、善は急げです。

紬「早速買いに行かないと!」




【PM7:28 平沢憂

こんばんは。平沢憂です。
スーパーに着きました。約30分。新記録です。

いつもはバスを使ってるんですけど、今日は慌ててたので走ってきちゃいました。

憂「お菓子コーナー……お菓子コーナー……」

さっそくお菓子コーナーへ向かいます。

憂「えーっと、ポッキーポッキー……。イチゴの……。」

あれ?

憂「売り切れ……?」

うぅ、困ったなぁ……。

お姉ちゃんのリクエストはイチゴのポッキー。
普通のポッキーならいっぱいあるのに、今日に限って売り切れ……?

憂「あのっ!すいません店員さん!」

店員「はい?」

憂「イチゴのポッキーって在庫ないんですか?」

店員「あー……棚になかったら置いてないですね」

そ、そんなぁ……。

憂「そうですか……。ありがとうございます……」

うーん……仕方ないから普通のポッキー買っていこうかなぁ。
でも、お姉ちゃんはイチゴがいいって言ってたし……普通のだとテンション下がってポッキーゲームどころじゃなくなっちゃうかも……。

……よし、他のお店も探してみよう!

憂「待っててねお姉ちゃん!」




【PM7:34 平沢唯】

だれだー!ポッキーゲームしたいなんて言ったのは!

唯「お腹すいたっ!」

もう限界!何か食べないと死んじゃう!

唯「よし、作ろう。もう自分でご飯作っちゃおう」

私は冷蔵庫を開けた。

唯「……と言っても何作ればいいかわかんないよー……」

うい~……遅いよ~……。
ちょっと憂に電話してみよう。

唯「ピポパ……っと。」

ブブブブブブ。


居間のテーブルの上から、ケータイのバイブ音。

唯「もー!なんでケータイ忘れていっちゃうの~?!」



【PM7:39 秋山澪

澪「はぁ……はぁ……。よし……」

まずはこのコンビニだ。
ここにあるポッキーは私が買い占めてやる。
そうすれば、ポッキーゲームなんてふざけた遊びをする奴は減るはずだ。

店員「いらっしゃいませー」

私は脇目も振らず、お菓子の棚へ直行した。

澪「……けっこう種類あるんだな……」

ポッキー、メンズポッキー、極細ポッキー、アーモンド、クランチ……。
さすがにこれ全部を買い占めるのは……。

澪「仕方ない、つぶつぶイチゴだけにしておこう」

私はイチゴポッキーの箱を両手に抱え、レジへと持って行った。

店員「ありがとうございましたー」

コンビニを出ると、夜風が心地良かった。

今の私、なかなかロック。
iPodのイヤホンからはベルベットアンダーグラウンドのサンデーモーニングが流れている。

もっともっと店を回って、ポッキーを日本の市場から消さないと。
それにはもっとテンションを上げる必要がある。
私はポケットのiPodを取り出すと、クイーンオブザストーンエイジの曲を選んだ。

「feel good of the summer」
ニコチン ヴァリウム ヴィコダイン マリファナ エクスタシー アルコール……。

あれ?これ私のときめきシュガーに似てない?

私は気を良くして、次の店に向かって走り出した。




【PM7:42 琴吹紬】

息を弾ませながら、私はコンビニへと駆けています。

そう言えば、一人でコンビニに行くのは初めてかも。

さて、りっちゃんにポッキー頼まれたのはいいけど、どれくらい用意すればいいんだろう。

紬「いっぱいあるに越した事はないよね」

部室に常にストックしておけば、いつでもポッキーゲームできる。

よし、それでいきましょう。

紬「うーん、100個くらいあれば足りるかな……?」




【PM7:43 中野梓】

梓「ちょっとお母さんまだー?」

梓母「ん、もうちょっと」

もう!いい加減にしてよ!
憂の家に行かなきゃいけないのに。

あ、そっか。
憂の家でトイレ借りればいいんだ。

梓「はぁ……もういいよ。私ちょっと出掛けてくるから」

梓母「あんまり遅くならないようにね」

どの口が言う……。

梓「はーい」



【PM7:58】

澪「よし、ここも私が買い占めたぞ」

そのコンビニを出る頃には、私の両手はポッキーの入った袋で塞がっていた。

澪「ふぅ。とりあえずこの辺のポッキーは買い占めたな」

私はランニングしつつ、近所のスーパー、コンビニ、その他お菓子が売ってそうな店に片っ端から入り、イチゴのポッキーを独り占めしてやった。

ぐぅ。

ずっと走っていたせいか、小腹が空いてきた。
私は手に携えた袋に目をやった。

澪「……これだけあるんだし、一箱くらい空けて食べちゃおうかな」

今日はいっぱい走ったし、ちょっとくらい間食しても大丈夫大丈夫……。

ポリポリ。

澪「あ、おいしい……」




【PM8:00 平沢憂】

憂「ま、また売り切れ……?」

こんばんは。平沢憂です。

コンビニ、スーパーを何件か回ってみたんですけど……どういうわけか、どこもイチゴのポッキーは売り切れでした。

憂「なんで今日に限って……」

はぁ……。
どうしよう。
早く買って帰らないと、お姉ちゃんの気が変わっちゃうかも……。

憂「次のお店、行かなきゃ!」



【PM8:07 平沢唯】

もう無理だー!
お腹減って死んじゃう!

唯「よし作ろう。もうなんでもいいから自分で作っちゃおう」

私は憂がまな板の上に放置していった包丁を手にとった。

……合宿の時は問題なく使えたし、私だって料理くらいできるはずだよね。

唯「よーし、やるぞー!」

早速お豆腐に包丁を入れる。

えーと、包丁を使う時は猫の手猫の手っと……。

唯「あう……ギー太弾きすぎて手がうまく動かな……」

ざっくり。

唯「痛いっ!!」


私の指から流れる血が、まな板の上のお豆腐を赤く染め上げる。

唯「あ、あわわわ……絆創膏!絆創膏どこだっけ!?」

傷口からどくどくと流れる血が、その深さを物語る。

まいったね。
こりゃ餓死する前に出血多量で死んじゃうよ。
えっ……死……や、やだ!
そんなのやだ!

唯「う、ういー!指怪我したー!助けて~!!」

返事はない。
そりゃそうだよね!
憂は今出かけてるんだし。

唯「あ、あわわわわわ……血が止まらないよぅ!」

もしかして絶体絶命のピンチってやつ!?

唯「だ、誰か!誰かたしゅけて~!ういー!和ちゃーん!」

はっ!和ちゃん!そうだ、和ちゃんに助けを求めよう!

私は廊下に点々と血の跡を作りながら、急いで家を出た。




【PM8:09 中野梓】

憂の家への道中、見上げた夜空に星は瞬く。
点々と光るそれは、イチゴのポッキーのツブツブを思わせる。

唯先輩とポッキーゲームやらされなくて本当に良かった。
唯先輩の事だから、私とポッキーゲームする事になったらここぞとばかりにチューしてきたんだろうな。
抱きつくくらいならともかく、それは勘弁してほしい。

梓「あっ!?そっか、憂の家だから唯先輩もいるんだった!」

今日、憂の家に行くのは、宿題を教えてもらうため。
唯先輩、邪魔してこないといいけど……。

梓「……絶対邪魔してくるんだろうなぁ」

それを見越した上で、時間に余裕を持って行かないとダメだ。

私は小走りになった。

早く憂の家に行かなきゃ。
お腹空いてきたし、それに……トイレも早く借りたいし……。



【PM8:14 琴吹紬】

紬「おかしいわ……。ここも売り切れ……」

三件目のお店も、イチゴのポッキーは売り切れでした。

そんなに人気あるのかしら?
それともポッキーゲームが流行ってるのかな?

紬「どうしよう……。斎藤に頼めば用意できるけど、あんまりそういう事はしたくないな……」

でも背に腹は変えられない。
私はりっちゃんに頼まれたんだもん。
期待を裏切るわけにはいかない!
澪ちゃんには申し訳ないけど、私もポッキーゲーム大好きだし!

紬「あ、そうだ……。澪ちゃんにさっき電話したの忘れてた……」

落ち込んでる(?)みたいだし、私が責任持ってフォローしてあげないと。

私は携帯をバッグから取り出し、澪ちゃんに電話をかけました。



【PM8:15 秋山澪】

ポッキー……おいしいのはいいんだけど……これ食べてるとムギとチューした時の事思い出しちゃう。

澪「……柔らかかったな」

弾力があって、ちょっとしっとりしてて、自分の唇が溶けるような……あの時は私の視界は全部ムギで……ああいう感じなんだな、キスって。

澪「うぅぅ……」

あ、ダメだ。
また頭爆発しそう。

そもそもそれを忘れるためにランニングしてたのに、思い出してどうする。

不意に、携帯電話が鳴った。

両手に持った袋を地面に置き、私はポケットから携帯電話を取り出した。


澪「ひっ!?」

画面にはムギの文字。

澪「ひいいいいい!!」

無理だ!
恥ずかしい!
今はムギと話せない!

いやでも電話かかってきてるし。
なんだ?
一体私に何の用があって?

いや別に用がなくてもムギとは電話する事あるけど、今は無理だ無理!

澪「あ……う、うぅーーーーーっ!」

私はとっさに携帯電話の電源を切ってしまった。




【PM8:16 琴吹紬】

ツーツーツー。

星空の下、国道沿いの歩道で私は立ち尽くしました。

紬「えっ……ウソ……。今澪ちゃん電話切っちゃったの……?」

もしかして澪ちゃん、すっごく怒ってる……?

紬「どうしよう……どうしよう……!」

事故とはいえ、私がチューしちゃったから……?

りっちゃんごめんなさい!
ポッキーなんて探してる場合じゃないわ!
澪ちゃんに謝らないと!

紬「でも電話に出てくれないし、一体どうしたら……」

あ、私泣きそう……。


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最終更新:2010年05月27日 00:44