和「いい加減にしなさい!するわけないでしょ!」
あう……。
怒られた……。
唯「ごめんなさい……」
和「全く!もう帰るからね!宿題もちゃんとやるんだよ」
さすがにこの状況で「写させて~」なんて言ったらまた怒られるよね……。
和「じゃ、憂によろしくね」
唯「……あっ、待って和ちゃん、お願いがあるんですけど……」
和ちゃんは怒りを通り越して呆れた顔をした。
よかった、いつもの和ちゃんだ。
和「何?宿題なら自分でやらないと意味ないわよ。ていうか私もまだ終わってないんだから」
唯「……だよね」
和「それより、憂遅いわね。大丈夫かしら?」
そう言えば、ポッキー買いに行ったにしては遅いかも。
ケータイは家に置きっぱなしだから連絡もとれないし……。
唯「あっ……ケータイ……」
和「ケータイ?」
唯「ほら、私、和ちゃんの家にケータイ忘れてきちゃったから……」
和「そう言えばそうだったわね。もしかしたら公衆電話か何かで憂から連絡きてるんじゃない?」
唯「ど、どうしよう……」
和「はぁ……。わかったわ。私が帰るついでに取りに行ってあげる。また戻ってくるからついでにはならないけど」
唯「ご迷惑おかけします……。あっ、でも私も一緒に行ったほうがいいかな?」
和「憂と入れ違いになったらまた面倒でしょ?すぐとってきてあげるから唯はここで待ってて」
本当に……何から何まで……。
唯「ありがとう和ちゃぁぁぁん……」
和「はいはい。じゃ、もう行くね」
そう言って和ちゃんはさっさと出て行った。
私は和ちゃんが作ってくれたお夕飯を完食し、食器を流し台の上に置き、一息ついた。
満腹になった私に、またしてもあの欲望が渦を巻いて私の身体の中をぐるぐるにした。
唯「ポッキーゲームしたいなぁ……」
澪「着いた……。さすがに疲れたな……」
私はようやく和の家に着いた。
iPodのバッテリーが切れてからというもの、夜道はこれでもかというほど、私を怖がらせた。
ランニングをした上に、大荷物を持って歩き通しだったせいで、足もパンパンだ。
澪「でも、いい運動になったな」
体重計に乗るのが楽しみだ。
澪「さ、和の家のポストにもポッキーを入れてあげよう」
私は梓の家でしたのと同じように、和の家のポストにポッキーを詰め始めた。
しかし、中野家のとは違い、真鍋家のポストは入り口が狭いため、思うように押し込む事ができない。
澪「んしょっと……えいえい!」
私は半ば強引に、ポストの中へポッキーを一箱ずつぐいぐいと詰め込んでいった。
お願い!澪ちゃん、どうか無事でいて!
私の頭の中では、その言葉がずっと彷徨していました。
澪ちゃんに謝りたいのに……澪ちゃんの身に何かあったら、それもできなっちゃう。
そんなの絶対イヤ!
律「ちょっ……ムギ?顔色悪いぞ?」
紬「う、うん……。大丈夫……」
律「そんなに心配すんなって。まだ澪に何かあったって決まったわけじゃないんだしさ」
そう言いながらも、りっちゃんが不安なのは、さっきから繋いでいた手を通して私にも伝わっていました。
律「あ、ほら。もうすぐ和んちに着くぞ」
和ちゃんに会ったからと言って、何かが解決するわけじゃないのはわかっていました。
でも、今の私とりっちゃんに出来るのは「和ちゃんに会う」という行動だけだったので、それに縋るしかなかったんだと思います。
紬「たしかこのあたりよね?」
律「うん。ほら、あそこ……あ?」
紬「え?」
突然、りっちゃんが立ち止まりました。
私はりっちゃんと手を繋いでいたため、前につんのめってしまいました。
私は何事かと思い、りっちゃんの視線の先にある和ちゃんの家のほうを見ました。
律「なんか……和んちの前で変な事してる人がいる……」
確かに、いる。
ポストに向かって何か……詰め込んでいる?
それも、一生懸命。
……ていうかあれは……。
律「あれ……澪だよな……」
【PM9:41 平沢唯】
唯「うぅ~……ポッキーゲームしたいよぉ」
と言ってみたものの、ここにはポッキーはおろか、それをする相手すらいない。
和ちゃんにはガッツリ怒られちゃったし。
憂がポッキー持って帰ってくるのを待ってるしかないかぁ。
そう言えば、家に一人でいる事ってあんまりないかも。
いつもなら憂がいるし。
唯「でも、なーんか一人って感じがしないんだよね。なんでかな?」
ぶるっ。
唯「ん、おしっこおしっこ!」
私はトイレに駆けていき、ドアノブをひねった。
唯「あれ?開かない?」
私はガチャガチャとドアノブを回そうとしたが、どうやらカギがかかっているらしく、開く気配は全くなかった。
心臓の音が、外に聞こえていたらどうしよう。
いや、いまさらそれが聞こえたところで、事態は大して変わらないのかも。
唯「あれー?何でカギしまってるんだろう?」
唯先輩は、突然居間から出てきて、突然トイレのドアを開けようとしてきた。
唯先輩、不意打ちはやめて下さい。
唯「誰かいるのー?」
ガチャガチャと、何度も何度も唯先輩はドアノブを回そうとしている。
まずい。
これはどう誤魔化せばいいんだろう。
ていうか、いつか唯先輩がトイレを使うのなんてわかりきってた事だ。
何で私はここにこもってるなんてバカな作戦を立ててしまったんだろう……。
唯「んー!開かない!やっぱり誰かいるのかなぁ」
そりゃカギかかってるんだから、いるに決まってるでしょう。
何を言ってるんですか唯先輩。
唯「お、おしっこ漏れちゃうよ……」
そう言えば数時間前、私も自分の家のトイレの前で、同じような事言っていた気がする。
親子揃ってトイレが長いなんて、なんか嫌だな……。
唯「ういー?」
へっ?
唯「憂、帰ってたの?入ってるの?」
どうやら唯先輩は、憂が入ってると思ったみたいだ。
これを利用しない手はない。
律先輩に倣って、声真似でこの場を切り抜けよう。
やってやるです!
梓「お、おねえちゃーん。もうちょっとかかりそうだよ~……」
唯「あれ?あずにゃん?」
あ、バレた。
とりあえず、澪は無事だったようだ。
いや、無事と言っていいのか?
今あいつは、和の家のポストに、大量の何かを必死で詰め込んでいる。
紬「み、澪ちゃん……一体何やってるのかしら……?」
律「わかんね……」
私もムギも、ずっと澪を捜していた。
私たちはようやくその澪を見つける事ができた。
しかし、私とムギは澪に駆け寄って再会を喜び、抱き合うなんて事は出来ず、ただただその場に呆然と立ち尽くしていた。
マジで何やってんだあいつ。
紬「あ、もう終わったみたい……」
澪は一仕事終えたサラリーマンのように、清々しい顔をして、その場を去ろうとした。
律「よし、突撃するぞムギ」
【PM9:46 平沢唯】
唯「わぁ!やっぱりあずにゃんだ!」
あずにゃんは今にも泣きだしそうな顔をして、トイレから出てきた。
梓「あ、あの……これはその……」
唯「あずにゃんゴメン!私おしっこ漏れそうだからトイレに入るね!」
梓「あっ、あの……」
私は急いで便座に座り、用を足した。
唯「いつからいたのー?」
私はあずにゃんに尋ねた。
梓「……唯先輩達が帰ってくる前からです」
唯「へー!全然気づかなかったよー」
梓「すいませんでした……。トイレに行くのが我慢できなくて、つい……。」
唯「そっかぁ」
梓「……ていうか」
梓「ドア閉めてから話しかけてくださいよ!丸見えなんですけど!?」
唯「あ、ごめんごめん。でももう全部出たよー」
梓「もう……」
私は水を流すと、あずにゃんを居間に招き入れた。
唯「そう言えば、あずにゃんは憂と約束してたんだっけ?」
梓「はい……。でも、憂いないですよね?」
唯「うん。私がポッキー買ってきてって頼んだんだけど……遅いよねー」
梓「そう言えば唯先輩、今日ポッキー食べれてませんでしたね。……あれ?でも……」
あずにゃんはそこでキッチンの方に目を向けた。
梓「あそこにポッキーあるじゃないですか。イチゴの」
唯「えっ?」
本当だ。和ちゃんが置いていったのかな?
あ、私のケータイ渡しに来てくれるから、荷物はウチに置いてったのか。
ん?待てよ?イチゴのポッキーがあって……今目の前にはあずにゃんがいるって……この状況は……。
【PM9:46 秋山澪】
和、喜んでくれるかな?
最初はポッキーが憎くて仕方なかったけど、今はこうして友達のために活用できてる。
やっぱりお菓子ってこういうものだよな。
澪「よし、そろそろ帰……」
律「みおー!」
え……。
紬「澪ちゃん、こんばんは」
げっ!ムギ!?やばい恥ずかしい!
律「なーにやってんだ?こんなところで」
うっ……何って……。
私……何やってたんだっけ。何でこんな事してたんだっけ……。
紬「澪ちゃんごめんなさい……。私……」
澪「えっ?」
律「なんで電話に出なかったんだよ?心配してたんだぞ?」
澪「う……ご、ゴメン」
紬「でも良かった。澪ちゃんが無事で」
律「ところで、和んちのポストに入れてたのって……ん?これもしかして」
やばっ!!
紬「あら?イチゴのポッキー?」
うわぁぁぁぁ!見るな見るな見るな!!
律「なんだよ、澪もポッキーゲームノリノリだったのか」
澪「ち、違う!」
紬「ちょうど私とりっちゃんも、明日もポッキーゲームしようって言ってたところなの!」
澪「違うって!ポッキーゲームなんて絶対したくない!これは幸せを運ぶためにだな……!」
律「ほほー。ムギとチューしたのがそんなに幸せだったのか」
紬「澪ちゃんたら……」
澪「ち、違うんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
最終更新:2010年05月27日 00:49