落ちた。
必然だった。勉強もろくにしてないのに受かるわけがない。
だからパソコンの画面の中に自分の受験番号が無くても悲嘆にくれることはなかった。
少なくとも他の軽音部員三人が合格したことを聞くまでは。
澪「えっ!!?唯落ちちゃったのか!?」
その言葉で、澪ちゃんが合格したことは分かるよ…
唯「う、うん第一志望は多分ダメだと分かったけど、第二志望は受かってるってタカくくってた……」
律「それじゃ受けたとこ全滅か……」
りっちゃん……合格したんだね……
紬「唯ちゃん……ほんと…ほんとに残念だわ……」
むぎちゃん…
なんでだろう、今はどんな慰めも見下されてるように感じちゃう……
澪「ほんとに残念だったな……これからどうするんだ?」
唯「うーん、まだはっきりとは決まってないかな。
………えっ?なになに?みんなそんな暗い顔しないでよ!!
みんな合格したんだから、もっと喜ぼうよ!!」
紬「唯ちゃん……」
律「唯、そんなことできるわけないじゃん!三年間一緒に頑張ってきた仲間そっちのけで、私たちだけ手放しで喜べない!」
唯「…やだなー、私なら大丈夫!ほら、私全然勉強してなかったのみんな知ってるでしょ?
落ちて当たり前なんだって、そこまでショック受けてないよ!!」
そういう気持ちもあったが、もちろん半分以上は強がり。
先の見えない不安に、今の状況が分からなくなってるんだろう。
第二志望の不合格は、真っ先に軽音部のみんなに知らせた。
むしろ知らせたかったのかもしれない。
私は、全然へこんでないよッ! ってとこを見せたかったんだ、きっと。
その日、不合格通知を見たその日、私は両親とも、憂とさえも、顔を合わせず部屋に籠った。
一気に現実を、不合格という実情を把握する。
泣いちゃった。
なんだ、やっぱり強がりだった。
これから私どうすればいいんだろう?
次の朝……というか泣きはらして寝過ぎちゃった昼。
お父さんとお母さんにリビングに呼ばれた。
唯父「唯、残念だったな…」
唯母「…………」
お母さん、怒ってるのかな……?怒ってるよね……
唯「うん……。ごめんね!勉強してないのに受かるわけがなかった!………よ……」
明るく取り繕おうとして失敗した。
涙が溢れてくる。
親に申し訳ないばかりでない、結局「自分は勉強してない」ことをふりかざしてしか今の自分を正当化できないことが。
悔しいんだ。私。
父「唯…?最初にいっておくが、父さんたちは怒ってなんかさらさらないぞ?」
唯「ヒック、゙ぅえ?」
母「そうよ、だいたい実の娘がショック受けてるときに、追いうちかける親なんていないわよ?」
唯「お父さん…お母ひゃん……ヒグ」
唯「ごめんなさいッ!!ごめんなさい!!た、高い受験料だしてもらっときながら……」ブワッ
父「ハハッ、唯?あんな金、娘への将来投資、端た金さ」
父「さ、涙を拭こ?
これからのことについて一緒に考えよう。」
私はいい親を持って幸せです。
父「今唯には、大きく分けて2つの道がある」
母「浪人か就職、ね」
父「唯はどっちにしたいと考えてる?」
唯「わ、私は………」
分からない。いや、分かってるはずだ。
私も大学生になりたい!!軽音部の仲間と大学の話で盛り上がりたい!!
そして…………このまま終わったらダメな気がする。
父「ここからは父さんたちの希望なんだが………」
唯「………浪人する!!」
父・母「!!」
唯「浪人するよ。私このままじゃ終われない!!
……………んあッ!でも……」
父「唯が気にしてるのはお金のことだろう?」クス
母「いいのよ。唯はそんなこと気にしなくて。お父さんに全てまかせなさい!!」
父「」
父「まかせろ唯!
………父さんは唯が自分でそう決断してくれたことがなにより嬉しい。
今のご時世、どうしても大卒が良い目で見られるのは事実なんだ。
もちろん専門学校、資格の取得できる高校も含めてな。
浪人にはどうしたって本人のやる気が必要だから……」
父「そこであと一つ提案なんだが………」
母「………これを唯に言うのはだいぶ酷な話よね……」
父「憂ー?……憂、これは憂にも是非を聞かせてほしい」
憂「………うん」
父「寮に入ってみないか?」
唯・憂「え?」
唯「え、りょ
憂「ダメだよッ!!お姉ちゃんは家では移動すらままならないんだよ!?」
唯「」
憂「それにお姉ちゃんは………掃除も洗濯も私がやらなきゃダメなの!!
それに、それに………だって私お姉ちゃんがいなきゃ………」ウル
父「選択肢の1つとして聞いてくれ、唯。
唯が宅浪した場合、………今憂が心配してるくらいだからな、恐らく依存はそう簡単に治らない。
どうしたってだらけがでると思うんだ」
父「そして一番の理由は………」
唯「憂も受験生だ、ってことだね」
憂「!!」
父「そうなるんだ。やっぱり学年が違いながら同じ年に受験というのはリスク、特に唯にとっての負担になる」
憂「で、でもっ!私大丈夫だよ!」
父「これは憂のためでもあるんだ。もちろんお金は二倍
母「キッ」
父「大丈夫なんだハハ」
父「とにかく4月1日までまだ時間はある。
唯の心づもりができたら、もう一度相談しなおそう」
唯「う、うん分かった!」
私はどうしたいんだろ。
浪人の覚悟は決めたけど、まさか寮とは。
もちろん軽音部のみんなに相談だ!!
唯「というわけなの!」
澪「そうか、浪人するのか唯………
頑張れよ、死ぬほど応援してるから!!」ウル
唯「澪ちゃんが泣かないでよぉぅ。
大丈夫!私ひとつのことにしか集中できないの知ってるから!!つまりそれを「勉強」にすればいいだけじゃん!!楽勝だって!」
律「ふへぇ、唯が浪人か。てっきり就職するかと………」
ズキッ う、意外ときくなぁ
※浪人生は自分の能力が卑下されるのを恐れる、か弱い生き物なの?
律「ごめッ、恐れいったって意味だよ!!感服したッ!!
唯、めちゃめちゃ応援してやるぜ!!」
紬「浪人中も困ったことがあったら力になるから!応援してるね」
私はいい仲間を持って幸せです。
憂「浪人するお姉ちゃんは応援します!でも寮に入るの止めるよう説得してください、皆さん!!」
律「んー、説得ってもなぁ」
澪「お父さんの話も一理あるしな。それに最後にきめるのは唯だし……」
唯「憂はやっぱり私に家にいてほしい?」
憂「それは………そうに決まってるよ!!!私、私………」
紬「(やっぱり憂ちゃんは悲痛な思いよね……)」
梓「(しんみり………話題変えなきゃ!!)
あ、あのっ!!唯先輩は志望校どこにするつもりです?」
澪「確かにそうだな、去年と同じ京都市内の私立大学にするのか?」
律「(私そこうかっちゃったからなぁ……気まずい。
唯も一緒にこれてたらなぁ)」
唯「うーん、はっきりした志望校はまだ決めてないかな。
でも一年だよ!?一年も勉強できるんだよ!?志望校はもちろんあげるよ!」
紬「そう。頑張って、唯ちゃん!!」
唯「あずにゃんは今年どこ狙うの?」
梓「えっ?わ、私ですかッ!?
………そうですね、無難に関関同立かMARCHに指定校推薦とれればと」
律「(無難て。その時点で追い越されたわ)」
その晩私は考えてた。
家か寮か。
そしてその答えはお父さんからこの案を聞いた時から決まってた。
いつまでも憂に頼ってちゃいけないよね!巣立たなきゃ。
唯「お父さん、お母さん、決めた!私寮に入って頑張ってみる!!」
父「そうか!!……いや、よく決断したな」
母「なんだかんだいって父さんも私も、唯にいたっては心配が多すぎて。
でも私の娘は、やっぱり自分で道を切り開ける子だった。うれしいわ」ニコッ
父「予備校と寮は後日また一緒に決めよう。お金なら心配するな!
志望校とかは決めたのか?」
唯「いや、まだなの。
でもあげるつもり!」
父「そうか。応援してるぞ。
できれば国公立がいい……ゴニョゴニョ」
唯「国公立?」
母「名前のとおり国が立てた大学かしらね。今は独立行政団体かな。
とにかく安いし、歴史を感じる大学が多いわね」
唯「そぉなんだぁ」
母「あとこれは私の希望なんだけど………
やっぱり関西圏の大学に入ってほしいな。東京なにかと物騒だし………
まぁ唯に、私たちの手の届く距離にいてほしいってゆうのが本音だけどね」
唯「ほ~い!まかして!!該当する大学探してみるよ!!」
父「(関西圏の国公立…………中国・四国をいれても20そこらしかないだろうな………)」
親にも意向伝えたし!
勉強頑張るぞって気になったぞぉ!!
今日は寝よっと。
唯「憂」
憂「……………お姉ちゃん…」
リビングの扉の影に憂がいた。
リビングの眩しすぎるほどの光でより深く色を落とした影の中に憂はいた。
憂「………お姉ちゃん、やっぱり寮はいるんだね……」
唯「…………うん」
憂「……………あーあ、やっぱりお節介焼きの妹のそばでは勉強に集中できないよね!!」
唯「そんなこ
憂「寮や予備校で新しい生活始めた方がきっとお姉ちゃんにとってはプラスになるんだよッ♪私わかってるもん」
憂「わかってるけど、…さ」
憂「やっぱりおね゙ぇちゃんでてったら寂しいよ」ギュ
憂は私の首にすがりついて鳴咽を漏らす。
唯「憂………」
リビングの中に泣き声が聞こえないようにしようとしてるのだろう。
憂はクックッと喉のつまったように、必死で堪えている。
唯「………憂?」
返事はない。そのかわりこころもち、鳴咽が大きくなっただろうか。
唯「私ね、憂にとってもとっても感謝してるんだ」
唯「家事は全部お世話になってるし、できた妹って言われるとき私も鼻が高いよ」
唯「…………憂は自慢の妹。」
憂は堪えきれなくなったのか、はばからずに大声で泣いた。
両親は飛んでこない。きっと分かってるんだろう。
唯「だから………このセリフを私が使うなんて思ってもみなかったけどね………
憂だったら安心して家まかせれるよ」
憂「お、おね゙、お姉ちゃんはわ゙たしが世話してあげなきゃ、だよ」フニャ
憂は声を絞り出す。
泣いているのに、どこか笑ってる、なかば呆れてるといったところか。
唯「そだね。私も憂なしで生活送れる自信ないやテヘ
でも頑張らなきゃ!応援してくれる家族、仲間。何より自分のために!!」
憂「ズッ、クス」
憂に泣き顔で少しくずれた、それでも笑顔が戻った。
憂「わ、私は頑張ってるお姉ちゃんを見てるのが好き。大好きなの///
私も応援してるから、お姉ちゃん!!頑張って!!」
唯「ありがと!頑張るねー?うーいー?」
緩やかな調子で私は切り返す。
大丈夫だよ、憂。ずっと離ればなれなんてことじゃないんだから♪
さ、てと。
まず志望校決めないとやる気出ないよね!
目標は常に高く、高くだよッ!
唯「んー、とりあえず今年の模試コード表で調べてみるかぁ」
唯「お父さんの希望国公立っと………おぉ一番最初のページからずらッとだよぉ」
唯「今年は私立しかマークしてなかったからなぁ。国公立の欄なんて素通りしてたよテヘ」
唯「ええっと次はお母さんの希望だよね………関西圏っと」
唯「へぇー、私立こんなにたくさんあるのに国公立ってこんな少ししかないんだぁ」
唯「あ、この辺だ関西圏」
唯「ええっと?
国公立で…………
関西圏で…………
家にも連絡しやすい地元の大学…………」
唯「京都大学?」
ごめんくださぁぁい!!
はいはいはい………パタパタ
寮母「はぁぃ、どなた?」
唯母「えっと、お宅の寮を一年間貸してもらうことになりました、平沢です」
寮母「まぁ平沢さん!!お待ちしてましたよ。ではこちらが……えっと……?」
寮母「唯さんね、覚えておかなきゃねニコ。この寮の寮母を努めます、安藤です。よろしくね」ニコニコ
私たちは早々と予備校を決め、寮を予約した。
憂がいない生活、受験勉強に追われる生活が来るであろうことは明らかなのに。なぜだろう?
凄く楽しみでもある。
新生活に対する期待と不安が入り混じってるからこんな気持ちになるのかな?
そこで私達が決めた予備校というのが
駿台である。
最終更新:2010年05月31日 23:19