俗にいうSKY………駿台、河合、代ゼミの中から、駿台を選んだ理由……
それは一通のダイレクト・メールだった。


「昨年我が社の模擬試験において、優秀な成績をおさめられた貴方に、Sクラスの入会権を与えます」


両親はそれを見てただ驚くばかりであった。
しかし何よりも驚いたのは私。しかも両親には黙っておいたが、この一件に私は心当たりがあった。



去年の夏ごろ………


律「おっほー、すげえ!!
ほんとに答え全部載ってるぜ!!文明の力ばんざいだな!!」

澪「律………おまえ、ほんっとにそんな意味のないことするつもりか?」

律「だってさぁ、三年になってから一気に模試の数増えてさぁ。
やってられねーよな?唯ぃ?」

唯「そぉだよ澪ちゃん?これだけたくさん模試あるんだよ?
一つくらいバカやっても影響ないよ!」キラキラ

澪「ハァ、まったくお前たち模試の意味全然分かってない!そんなことしてると二人とも落ちるぞ!」


――――――――
結局澪ちゃんとむぎちゃんの反対押しきって、二人だけあのスレ見たっけ………
2ch受験板、ネタバレスレッド


駿台実施のその模試でいわゆる「ネタバレ」を使った私達。

結果はりっちゃん、志望校A判定!わたしB判定……
ネタバレ使ってB判定だよ?あのときのりっちゃんの笑いようったらなかったな。自分でも笑っちゃったもんね。

あのあとしばらく軽音部はギスギスしてたな……澪ちゃんの判定悪くて……

で、結果苦汁を舐めたのは私ひとり。りっちゃんも落ちればよかった………なんてことは、うん、考えてない。

でも、その模試かなり難しいものだったッてあとで分かった。りっちゃんのA判定完全にういてたもんね………

ってなわけで私のB判定でも駿台のダイレクトメールの検索先に引っ掛かったんだろう。


親にメールを見せたとき、私はこのことを言わなかった。

両親はびっくりし、その後ちょっとためらうような顔つきに変わった。

父「駿台かぁ………」

唯「ほぇ?どうかしたの?」
母「あそこは合格実績はいいけどね………なにぶん、その………

父「いや、いいんだ母さん。唯を呼んでくれてる予備校があるんだ。
多少、その………高すぎでも唯の可能性に賭けてみよう」

唯「?ええっと、それじゃ駿台にしようかなぁ」

母「唯、どう?ついていける自信ある?」ニコ

唯「大丈夫だよ!最初は慣れずにつまづくかもだけど。
気付いたら一番になってたりしてね!!」ニコニコ






お母さんも、そして私も「平沢唯」の力をはかり損ねていた。
私が絶望を味わうのにそう長くはかからない…………


そんなこんなで予備校を決め、クラス申込みも完了!
次はいよいよ寮の手続き!
寮はお母さんの希望で少人数制の、駿台管轄の寮に決めた。
多いとこは100人単位からあるのだが………ウチの寮には10人ぴったししか部屋がないという少数精鋭?


それで4月1日を間近に控えた今日、寮へ挨拶しにきたのである。


憂「意外と広いね~!」

今日は憂も連れてきた。

憂「ちょっと家から遠いのは残念だけど……また遊びにきてもいいお姉ちゃん?」

唯「もちろんだよぉ~。たまにといわず毎日遊びにきてー」

寮母「あら平沢さん?平沢さんはここに勉強しに来てるのよ?
妹さん呼んでる時間なんてないんだから」

唯「ほ、ほぃ!…あっ、はい!!すみませんッ」

憂「!…………」


安藤さんはニコニコとしていて人当たりの良さそうな人に思えたが………
直感的に思った。あ、この人空気読めない人だなぁ、って。


寮母「…………はい、手続きは完了しました。平沢さんがたはこのあとどうなさるつもりで?」

唯母「あ、はい。ひとしきりこのあたりを探索してみようかと。」

寮母「そうですか。あぁ雑貨なら××ってところがありますよ。
あ、それから食料品は○○があります。あとは………」

唯母「あ、はぁ………」


薄々お母さんも感付いたかな?………話題変えよう!

唯「安藤さん、他の寮生は?」

寮母「ペラペラ………、ん?あぁ他の寮生ね?
ん~平沢さんより先にきた娘もいるし明日以降の人もいるしまちまちね……」

唯「そうですか、ありがとうございます!」

私のほかにはどんな子がいるんだろ、楽しみ!!



かえりのしゃない!


憂「静かだし、勉強しやすそうなとこだったね!!」

唯「部屋も思ってたより広くて嬉しいよぉ。
一番うるさいのが寮母さんかもねっ?」

唯母「こら、唯クスクス。
まぁでも住みやすそうなとこだったわね。
唯?今からあそこであなたの新生活が始まるのよ?覚悟できてる?」ニヤ

唯「がってんです!!頑張るよぉ!」

父「ところで唯志望校は決めたのか?」

唯「うん、京都大学にした」


キキッー オイコラキヲツケヤガレ!!


澪・紬「京都大学ぅ!!?」

唯「う、またその反応………決めたんだっ!地元国公立に挑戦するって!!」

律「ありえないんだけど、仮定の話、まぁありえないんだけど、もし合格したら私唯に道あけなくちゃならねー(泣)」

梓「そこのけそこのけですね」ニヤ

唯「親も憂も本気にしてないみたいなんだぁ。澪ちゃんたちも信じてないでしょぉ?」プンスカ

澪・紬「(まぁそりゃあね…………)」


澪「いいか、唯?私たちは決して唯が国公立にいける可能性を否定して驚いてるんじゃないんだぞ………?」

唯「ほぇ?どーゆーこと?」

紬「あのね、唯ちゃん?京都大学は、その………日本で二番目に難しい大学なのよ?」








唯「ふにゅ?」


唯「でも………でもねっ?
なんというか、京都大学に決めた時、なんかピーンって感じるものがあったんだ。」

唯「私京都大学から呼ばれてる、みたいな、そんな感覚」

律「どんな感覚だよそれ………」

唯「だから………
だから私志望校は変えない!
今は無理でも一年の努力で、ね?わからないじゃん!
「第一志望はゆずれない」よっ!!」

澪「唯………。分かった。私たちも疑ったりしない。
唯はやるときにはやる子だからな!」

紬・梓「応援してる(わ・です)!!」

律「梓は自分も頑張らねーとな」ニヤ

唯「みんな………みんなありがとう!!わたし、私頑張ってみるっ!!」


きたる4月1日………
唯の人生にとって、世間的には刻まれない過酷な受験レースが始まる………



4月1日入寮日!


唯「一年間お世話になります、寮母さん!」

寮母「あら今日は独りできたの?道迷わなかった?」スタスタ

唯「あ、はい。ちょっと迷っちゃいました。テヘ」

寮母「そうなん!?平沢さんみたいにしっかりした子でもこの辺の地理に疎いうちは、私や料理長に聞くといいよ」

唯「はい、どうもありがとうございます。(私ってしっかり者に見えてるんだぁ)ニコニコ」

寮母「はい、これが部屋の鍵だからね。
作り直せるけど、しっかりと保管してください。」

唯「がってんです!!(わぁぁ家の鍵だぁ♪なんか自分の家みたい!)」

 ―――――――――

唯「………ふぅっ、引っ越しかんりょー♪さあって………










過去問やるか」

唯「すーでにー♪赤本はぁ♪購入済みだもんねー」

ふふ、今過去問解けるの私くらいだろうなぁ。
初日が肝心だからね!本屋さん寄って赤本買ってよかったよぉ♪
ま、そのせいで迷っちゃったんだけどテヘ


唯「うわっ、改めて見ると………分厚いなぁ」

定規取り出してはかってみた。
just5cm!!さすが京大!!厚さからして崇高だねっ

でもこんな本を目の前にして、なぜか億劫な気持ちにはならない。
むしろわくわくしてるのが自分にも分かる。


唯「数学は必修だったから一応ⅡBまでやったけど…………ご無沙汰だから………」





唯「まずは英語だねっ!!」


唯「ご開帳~♪うわっまぶしいっ!!りっちゃんのおでこより!!」ピカー

唯「なんか入試情報とかたくさん書いてあるけど………」

唯「まずは問題解いてみないとね♪英語英語っと~」
唯「あった2008年英語!よっしやるぞー!!」

※まだ4月時点では赤本は昨年のしかありません。


ペラッ



唯「……………ふぁい?」

問Ⅰ 次の文の下線をほどこした部分(1)(2)(3)を和訳しなさい


唯「えっ?








えっ?









記号、ないの?」



唯「へ、へぇ~問Ⅰはこんな感じなんだあ。
…………別に驚いてないよ?全然平気!和訳なんてちょっとならやったことあるもん!!
ただ、さ、さすが京大だなって思っただけだよ♪」



唯「って、誰に喋ってるんだろ私………」ジト(汗)


唯「あ、そっか!!これがいわゆる「捨て問」ってやつだね!!時間が余れば最後に解くってヤツ!!」

唯「また喋ってる………
……………あせってないもん!!さ、気をとりなおして第二問!!」




問Ⅱ 次の文の下線をほどこした部分(1)(2)(3)を和訳しなさい


唯「………………うえーん」ヒック


唯「ヒック、ングまた、なの?」

な、長い………こんなたくさんの英文いままでよんだことがなかった。いや、よもうとしたことがなかった。

唯「ンン」ペラッ

私は見てるのさえ辛くなり、ほぼなげやりな感じでページをめくる。
目に飛込んできたのは第3問




問Ⅲ 次の文の(1)(2)を英訳しなさい




唯「ぅう、鬱だ、死のう………」


唯「え、英作文…………?」

今度こそ、だ。
正真正銘、私は英作文なんて生まれてこのかたやろうとしたことが、ない。
模試でだって、授業でだっていつも飛ばしてきた、その最悪の相手は、約A4サイズの赤本の一ページに、二問、やけに悠々とした余裕をのこして構えていた。



唯「これが京大の英語………」



唯「………私今までなにやってたんだろ…」


4月1日にしては少々重すぎるこの自問。

そぅ、早々と知ってしまったのだ。自分の学力がお話にならないレベルだってことに。
いままで見たことない、いや意図的に避けてきた世界を垣間見てしまったのである。


唯「な゙に゙やってたん゙だろう、わ゙たじ」

よくこんな学力で大学いこうとしたもんだよ
よくこんな頭で浪人しようと思ったものだよね
よく…………こんな図々しさで親に頼めたものだよね



泣いた。久方ぶり。あの受験に失敗した夜みたいに。この部屋は、なぜかもうすでに、泣きやすい空間になっちゃってた。


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最終更新:2010年05月31日 23:21