――平沢宅――

唯「まだかなー」

憂「もう少しで帰ってくるから、お姉ちゃんはお皿出してくれない?」

唯「わかったー」

憂(時計ばかり見てて危なっかしいな)

唯「まだかなー」

時計「7時だよ! 7時だよ!」

唯「!?」

ドア「ニコ」

和「ただいまー」

唯「和ちゃ~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!」

和「うわっ!」

憂「おかえりなさい。和ちゃん」

和「た、ただいま……」

憂(そうです。見ての通り、お姉ちゃんと和ちゃんは、結婚しているのです!)


憂(詳しい経緯は省きますが、お姉ちゃんと和ちゃんは25歳の春に結婚。
今はまさに新婚ほやほやなのです!)

憂(もちろん。同性での結婚は認められていないので、事実婚ですが)

唯「でへへ~」

和「……まったくもう」なでなで

唯「!?」

和「どうしたの?」

唯「おかえりのチュー!」

和「憂もいるのよ?」

唯「構いません!」

憂「はい」

和「はいじゃないわよ」

唯「ちゅー!」

和「なんか、キスが軽いものになってない?」

唯「う……。そう言われると弱い」


和「ま、それでもいいわ。唯とキスするの、好きだし」

唯「ふぇ……」

唯「うう……あう……」

和「唯、顔真っ赤じゃない。ホント、お子様なんだから」

唯「違うもん」

和「お子様よ」

唯「私だって、大人のオンナだもん」

和「料理もできないのに?」

唯「うぅ~」

憂(私が入るのは無粋だよね。この二人のやりとり、可愛いなぁ)

和「憂、お風呂沸いてる?」

憂「は、はい! 沸いてます!」

和「敬語使わなくってもいいのよ? 義理とはいえ、お姉さんなんだから。
っていうか、憂って私に敬語使ってたっけ?」

憂「スーツ着てる和ちゃん、かっこいいから……」

唯「あ! 憂、だめだよ。和ちゃんは私の旦那さんなんだから!」



――浴室――

ドア「ニコ」

和「ふぅ……。今日も疲れた……」

和(私なんかで、唯は楽しいのかしら)

和(冗談を言うのも苦手で、真面目が服着て歩いているような私と一緒に
なって、唯は本当に幸せなの?)

和「考えても仕方ない。それは分かっているけど」

和「でも、それでも、私も唯のことが――」

ドア「ニコ」

唯「お背中お流しします!」

和「あら。それじゃあお願いしようかしら」

和(聞こえてなかったわよね?)

唯(和ちゃんの疲れは私がとってあげなきゃ! お嫁さんとして!)

唯「きもちいーい?」ゴシゴシ

和「ん。気持ちいいわよ。もうちょっと強くしていいわ」

唯「わかりましたー」ゴシッゴシッ

和「うんうん。ちょうどいいわ」

唯「……和ちゃんの背中、おっきいね」

和「そんなことないわよ。それはお義父さんにでも言ってあげなさい」

唯「ぶー。一度言ってみたかったのに」

和「……ねえ、唯」

唯「?」

和「私なんかと一緒で、幸せ?」

唯「え?」

和「こんな女と一緒にいても、全然面白くないでしょ?」

唯「そんなことないよ。和ちゃんとこうして一緒にいるの。私はすごく好きだ
よ!」

和「……唯」

唯「……うん。いいよ。シャツ脱いじゃうから、ちょっと待ってね」

和「唯……。すごい、綺麗……」

唯「ありがと。でもね、和ちゃんの身体も、すごいすごい綺麗だよ」

和「そんなこと――」

唯「あるよ。だって、私の旦那さんだもん」

和「――!」

唯「和ちゃんって、こういうことするときは甘えん坊さんで、お子様だよね。私
のこと言えないじゃん」

和「ん……! 憂に、聞こえ、ちゃうからぁ!」

唯「聞かせちゃえばいいよ。和ちゃんの声、憂も大好きだしね」

和「――あ」


省                                略


シャワー「ザー」

唯「和ちゃん、汗びっしょりー」

和「うう……」

唯「そんな顔しないでよ。また、したくなっちゃうでしょ?」



――居間――

憂「あ、お姉ちゃん。和ちゃん」

和「少し長風呂しちゃったわね」

唯「のぼせちった~」

憂「フフ。冷凍庫にアイスあるけど、どうする? ご飯のあとにする?」

唯「今!」

和「あと!」

唯「今でしょ!」

和「ご飯食べられなくなるでしょ?」

憂「あははー」

唯「ムム」

和「ムムム」

憂(こうして見ると、似たもの夫婦なのかも)


唯「結局、ご飯のあとのデザートということにしました!」

和「誰に言ってるのよ」

唯「わかんない! いただきます!」

憂「はーい」

和「……やっぱり、憂のご飯は美味しいわね」

憂「和ちゃんが教えてくれたお陰だよっ」

和「そりゃあそうだけど。こんなに差がつくなんて思わなかったわよ。さす
が、中学生のときから主婦やってるだけあるわ」

唯「……あれ?」

和「中2のころから、お義母さんもお義父さんも家にいなかったから、もう
主婦歴10年ね。24歳とは思えないベテランっぷりだわ」

唯(あら? 和ちゃんのお嫁さんは)

憂「えへへー」

唯「私だよッッ!」

和「!?」



――夫婦の寝室(元・唯の部屋)――

和「レスが少ないわね」

唯「?」

和「モチベーションが下がるわ」

唯「お仕事の?」

和「まあ、そんなものよ」

唯「それは困ったね」

和「そうね。夫婦の生活にも、支障が出るわ」

唯「へー。和ちゃんは、私とえっちしたくないんだ」

和「そ、それは別の問題よ!」

唯「和ちゃん、えっち大好きだもんねー」

和「ちがうわよ! まったく!」

唯「そんなこと言ってー。顔が色っぽいよー」

和「もとからこういう顔なの!」

唯「へー」

和「……もう寝る」

唯「和ちゃん、可愛いー」

和「もう、唯も寝なさい」

唯「まだ眠くない」

和「昼寝したの?」

唯「うん」

和「うんじゃないの」

唯「……もうひと汗かいたら、眠れるかもー」

和「シャワー浴びるの面倒だし、眠いの。おやすみ」

唯「和ちゃんのくせにー」

和「はいはい」

唯(……)

和「すー」

唯(寝付きいいなー。やっぽど疲れてるんだね)

唯(おやすみ。和……ちゃん)ちゅっ



――翌朝――

和「むにゃ……」

唯「くかー」

和「まったく、新婚生活とは思えない朝よね」

唯「和ちゃん……好きぃ」

和「フフ。ありがと」

ドア「ニコ」

憂「おはよー。あ、お姉ちゃんったらまだ寝てる。和ちゃんのお弁当作るって
言ってたのに」

和「いいのよ。唯のご飯も美味し……あれ?」

憂「ですよね。お姉ちゃんのご飯美味し……え?」

和憂「唯(お姉ちゃん)のご飯、食べたことない!」

唯「おっぱい……」


唯「朝ごはん……昼ごはん……」

和(ホントに、結婚してもまったく変わらないのも一種の才能よね)

唯「食パンに……ファブリーズ……」

憂「やめて! お姉ちゃん、起きてー!」

和「憂が淹れた珈琲はやっぱりいいわね。優雅な気持ちになれる」

唯「このジャムを作ったのは……誰だぁ……」

憂「……」

和(もしかして私、結婚する相手を間違えた?)

和「それじゃあ、いってきます。今日も七時くらいには帰ってくるからね」

憂「うん。いってらっしゃい! お義姉ちゃん!」

和「!?」

憂「……と。いってらっしゃい」

唯「ぼけー」

和(もっとも新婚生活を感じる朝がこんな調子だから、憂と結婚したような
気がしてならないわ)

ドア「ニコン」

憂「さて、今日も頑張ろう!」

唯「もう一眠り……」

憂(お姉ちゃんにも、少しはお嫁さんらしくしてもらわないと。和ちゃんが可哀
想に思えてきたよ)

唯「くかー」

憂「床で寝てるし」


憂「お姉ちゃんお姉ちゃん」

唯「ふぇ?」

憂「今日の晩御飯、お姉ちゃんが作ってくれないかな?」

唯「憂、お出かけするの?」

憂「ううん。お姉ちゃんと和ちゃんは新婚さんなんだから。和ちゃんも、たま
にはお嫁さんのご飯が食べたいと思うの」

唯「……そうだね。憂」

憂「でしょう? だから、今日のご飯はお姉ちゃんが作ってね。わからない
ところは、私が手助けするから」

唯「わかった! 和ちゃんの頬が落ちてブラジルまで突き抜けるくらいに
美味しいご飯を作るよ!」

憂「さっすがお姉ちゃん!」

唯「ということで、今からスーパーに行ってきます!」

憂「え? まだ9時前……」

唯「いってきまーす!」

地面「ぴゅー」

憂「あ、あれ?」



――スーパー――

唯「……開いてないや」

唯「困ったなぁ……。これじゃあ和ちゃんのためにご飯作れないよ」

唯「うーん。どうしよ」

梓「あれ?」

唯「え?」

梓「もしかして、唯先輩? ですか?」

唯「?」

梓「この緩み切った表情。間違いない。平沢唯先輩ですね?」

唯「も、もしかして――」

梓「はい。アメリカから帰ってきました。中野梓です」

唯「あ、ああ、あ、ああ――」

唯「あずにゃああああああああん!!!」

梓「ひょわ!」



――喫茶店――

梓「――それで、仕事の関係で帰ってこれたんです」

唯「へ~。でも、すごいよね。外交官だなんて」

梓「英語は昔から得意だったんですけど、まさかここまで役に立つ仕事に
就くなんて思いもしませんでしたよ」

唯「あずにゃん、洋楽好きだったもんね」

梓「はい。……それで、唯先輩は今は――」

唯「お嫁さん!」

梓「結婚したんですか!? 誰と!?」

唯「えへへー」

梓「ま、まさか唯先輩に彼氏ができて、結婚までできるなんて……」

唯「和ちゃんと!」

梓「はい?」

唯「だから、和ちゃん。あずにゃんも知ってるでしょ?」

梓「それはもちろん知ってますけど……。私がアメリカに行ってる間になに
が……」


唯「今では私も奥さんなのだよ!」

梓「和先輩は旦那さんなんですか?」

唯「うん! 和ちゃんは一流企業のエリートさんなんだから!」

梓(この人、なんだかんだで金に困らない人生なんだなぁ)

梓「それで、今は二人で住んでるんですか?」

唯「ううん。憂も一緒に、平沢家に住んでるよ」

梓「憂もですか。ってことは家事全般は……」

唯「憂がやってくれます」

梓「いいんですか!? お嫁さん!!」

唯「えへへー。それで、今日は私がご飯作ることになっちゃったんだー」

梓(流石の憂もそこはわかってるんだ。よかった。憂に常識があって)

唯「でもね。まだスーパー開いてなかったんだよ。ひどいもんだよ」

梓「朝ですね。それに、先輩が作るのが晩御飯なら、買い物はあとでいい
じゃないですか」

唯「あ」

梓「変わってませんね。そういうところ」


梓(そっか。唯先輩、幸せなんだ)

唯「でね、和ちゃんったら――」

梓(和先輩の話を、こんなに楽しそうにしてる)

梓(もう、私にはチャンスないのかな)

梓(アメリカに行って、唯先輩に会えなかった時間。チャンスを奪われたんだ)

梓(悔しいよ……。フェアじゃないよ……)

唯「笑っちゃうでしょ!?」

梓「あ、あ、あ、あの!」

唯「ふぇ?」

梓「……コ、コーヒー一杯で粘るのもアレなんで、うちに来ませんか?」

唯「……そうだね。あずにゃんのおうち、行ってみたいよ」

梓(和先輩には悪いけど、私だって!)



――そのころ、和は――

上司「あーだこーだ」

和「それがこーであれがあーで」

OL「お茶が――」

和「ありがとう」

上司「これはこう?」

和「それはそう」

平社員「はい。よろしくお願いします」

和(忙しいわね。でも、これも唯と憂のためだもの。がんばらなきゃ)

上司「真鍋さーん」

和「は、はい!」

和(唯は今頃、ゴロゴロしてるのかしらね)


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最終更新:2010年06月02日 22:20