――浴室――

唯「平沢家のお風呂は大きいのです」

和「三人でも楽々足が伸ばせるものね」

憂「お父さんが、いつまでも家族でお風呂に入れるようにって、お風呂を
大きくしたみたいだよ」

和「……色々と残念な結果に終わってるわね。お義父さんの目論見」

唯「でも、今はこうして家族三人でお風呂だもんねー」

憂「ねー」ぴとっ

和「どうしてそこで胸を触るのか」

憂「急に胸が来たので」

和「わけがわからないわよ」

唯「憂め! 妹のくせにズルイぞ! えい!」ぴとっ

和「やめなさいって」

唯憂「やわらかー」

和「……もう、好きにしなさい」

唯「はい!」

憂「うん!」

和「どうすればいいの……」

唯「でも、和ちゃんって胸大きいよね」

和「そうかしら?」

憂「それに柔らかくって、お母さんみたい!」

和「これでもDくらいよ?」

唯「憂は?」

憂「同じだよ」

唯「ふんだ」パシャパシャ

和「唯が離れたわね」

憂「和ちゃ~ん」

和「……」


唯(……私だって、ちっちゃいわけじゃないもん)

唯(澪ちゃんやムギちゃん。和ちゃんに憂が大きいだけだもん)

唯「和ちゃんは、おっきい胸の子のほうが好き?」

憂「当然だよね」

唯「ういー」

憂「ういだよー」

和「ほら、憂は挑発しないの。私は、唯が好きなのであって、特に大きさの
好みなんてないわよ。繰り返すけど、私が唯が好きなの」

唯「わーい」

憂「むー」

唯「安心したよ。これで、思う存分抱きつけるー」

和「話がつながらない」

憂「のぼせてきたから、『先に』上がるね」

和「あ」


ドア「ニコ」

和「あわわ」

唯「和ちゃーん」

和「ゆ、唯?」

唯「んー」ちゅっ

和「んっ」

唯「あまぁい」

和「味なんてないでしょ?」

唯「あるよー。和ちゃんの唇。イチゴみたい」

和「その笑顔で見られると、なんにも言えないしできないわよ」

唯「憂がいると、流石にキスはできないもん」

和「あら、唯にもそういう恥じらいがあるのね」

唯「まあ、最小限は」

和「今日は、しないって言ったでしょう?」

唯「……私がえっち好きな女だと思ってる?」

和「思ってないわよ」

唯「うそつき」

和「アンタ、ちょっとおかしいわよ?」

唯「おかしくないもん。えっち、嫌いだもん」

和「……どうしたの? 話してみてくれない?」

唯「和ちゃん以外の人としても、気持ちよくなんてないもん」

和「……」

唯「和ちゃん以外の人となんて、絶対にしたいって気持ちも起きないもん」

和「そう、ね」

唯「私が不倫したこと、気にしてる?」

和「蒸し返すってことは、唯が一番気にしてるってことじゃない」

唯「気にするよ。だって、裏切っちゃったんだよ?」

和「許すって言ったでしょう?」

唯「私、馬鹿だからうまく言葉にできないけど……和ちゃん、気にしてるでしょ?」

和「困った子ね」

唯「うん……」

和「でもね。唯と結婚して、よかった」

唯「私も……」

和「親友って関係じゃあ見えない唯の部分、たくさん見てる」

和「嫉妬する唯。悩んでる唯。幸せそうな唯」

唯「和ちゃんの前なら、本当の私を見せられるから」

和「唯は律たちの前だと、とことんとぼけたキャラでいるからね。そうする
ことで、自分の居場所を作った」

和「でも、私の前ではそんなことはしない。本物の唯でいてくれる」

和「えっちなことに興味もあるし、寂しくって泣いちゃうときもある。そんな、皆
が知らない唯を、私は愛してるんだから」

唯「歯が浮くようなセリフ、だね」

和「ええ。でも、伝わったでしょう?」

唯「うん……。大好きだよ。和」



――居間――

唯「うえー」

和「うー」

憂「かんっぜんにのぼせてるね」

唯「扇風機-」

和「ううー」

憂「タオル姿で扇風機に固まるお姉ちゃんズ。可愛いっ」

唯「あーいーすー」

和「ご飯、食べてからー」

憂「お酒とおつまみの準備するね」

唯「おねがーい」

和「……ふふっ」

唯「のぼせたフリ。大成功だね」

和「まあ、ちょっとのぼせ気味ではあるけど」

憂「準備できたよー」

唯「うーい」

和「ほら、唯。立ちなさいって」

唯「ういー」

憂「?」

唯「いや、憂じゃなくって」

憂「紛らわしいね」

唯「そうだね!」

和「さあ、明日も休みだし。今日は呑むわよ!」

憂「うん!」

唯「かんぱーい!!」

和「……おい――っしい!」

唯「いろんなものが吹き飛ぶよー」

憂「……そういえば、今日律さんに会ったんだー」

和「珍しいわね」



――憂の回想・スーパー――

憂「今日のご飯はハンバーグー」

憂「どっちもお姉ちゃんだけど、どっちも好きなハンバーグー」

律「ありゃ。憂ちゃんじゃん」

憂「あ。律さん。こんばんは」

律「こんばんは。唯たちは?」

憂「お姉ちゃんたちは今日、水族館です。それで、私はお留守番です」

律「相変わらずラブラブだねー。真鍋さんところは」

憂「ちょっぴり嫉妬しちゃいますよ。律さんはどうしたんですか?」

律「いやあねえ。澪のやつがハンバーグを作るのに肉を忘れたってんで、
買いに来たのよ」

憂「澪さん……」

律「たまーに在り得ないミスを犯すのが、うちの家内のクセでして」

憂「でも、澪さんのハンバーグって美味しそうですよね」

律「うまいぞー。澪の愛が合びき肉に込められてるからな」

憂「平沢家も、今日はハンバーグです」

律「お。偶然だなぁ!」

憂「ですね。律さん、お仕事順調ですか?」

律「問題なし。今のところは、二人が食ってくには心配はないよ」

憂「大変ですよね。雑誌の編集って」

律「まあね。人気漫画家のくせに1年休みたいとか言い出す奴もいるんだ」

憂「その漫画家に心当たりが」

律「憂ちゃんの心当たりは殆ど、っていうか間違いなく正解だな」

憂「大変でも、今の律さん。すごいかっこいいですよ」

律「さんきゅっ。じゃあ、そろそろ行くね」

憂「はい。澪さんにもよろしくです。……あ。それと」

律「?」

憂「カチューシャ。もう付けないんですか?」

律「仕事の時以外は、ね。家内たってのご要望なので」

憂「ウフフ……」

――回想終わり――


憂「こんな感じで!」

唯「カチューシャのないりっちゃんって、たまに誰だかわからないんだよね」

和「ただ、律って前髪下ろすとイケメンなのよね」

唯「うん。りっちゃんはおかしいって言ってなかなか前髪下ろしてくれなか
ったけどさ」

憂「もともとカッコいいのに、もっとかっこよくなるんだよ。律さんって」

和「今頃は恋女房と食事でもしてるのかしらね」

唯「まるで私と和ちゃんみたいだねー」

和「ねー」

憂(和ちゃんが酔いだしている……。これはチャンス?)

憂「でも、澪さんと律さんってどんな夫婦生活送ってるのかな。気になるよ」

唯「仲良しだよ。きっと。うん」



――田井中家・マンション――

澪「ハンバーグできたぞー」

律「ひゃっほう! 待ってました!」

澪「ただのハンバーグで、よくそんなにはしゃげるな」

律「当然だろー。だって、澪の手料理じゃん」

澪「――!」

律「帰ってこれない日が多いからさ。たまーにある団欒を大切にしたいんだ」

澪「……馬鹿律」

律「馬鹿で結構。それより、酒はまだか!」

澪「ご飯と一緒にビール呑むの?」

律「ん? 駄目?」

澪「駄目じゃないけど……」

律「ふむ」

律「わかった。ビールはあとだ。まずは澪の飯をたらふく食べる!」

澪「……うん! 召しあがれ!」

律「――それでさー。さっき憂ちゃんに会ったんだよ」

澪「私は昨日唯に会ったぞ」

律「いいなー! ここんところ会ってないなー」

澪「あいつ、すごい成長してたぞ。和のためにご飯作るって」

律「あいつが!? 嘘だろ?」

澪「私も嘘だと思ったよ。あの唯が、料理なんて。でも、唯は本気だった。
カレー、うまく作れたかな」

律「あの唯がねー」

澪「……あ。そうだ。明日、聡が来るってさ」

律「なんでさ」

澪「プロ入りがほぼ内定したから、挨拶に来るんだと」

律「そっか。聡のやつ、プロになるのか」

澪「だから、明日はごちそう作らなきゃな!」

律「ハンバーグ以上のごちそうか。じゃあ、明日は私も絶対に帰ってこない
とな!」




――そのころ、平沢宅は――

唯「ういー」

憂「うーいーだーよー」

和「あははははー」

憂「きゃはははー」

唯「おさけ、おーいしー!」

和「ほら唯。唐揚げ食べな唐揚げ」

唯「あーん!」

和「可愛いー!」なでなで

唯「和ー!」

和「唯ー」

憂「ういー!」

唯「たのしー!!」


――それからしばらく――

唯「くかー」

憂「すぴー」

和「……」

和「あ、暑い……」

和「いつの間に二人とも私に抱きついて寝てるのよ。昔とまったく変わらな
いわね。こういうところ」

唯「和ちゃーん……」

和「とはいえ、私が寝てたのがいけないんだけど」

憂「えへへー」

和「この二人、本当に体温高いわね。ストーブ抱えてるみたいよ」

和「離れないし」

唯「うぇー」

和「お酒臭いし」

和「……いいか。幸せだし」



――翌日――

唯「あったまいったい……」

憂「ガンガンする……」

和「ほら、お水持ってきたわよ」

唯「ありがとー」

和「憂も、ほら」

憂「和ちゃんって、どうして二日酔いにならないの? あんなに呑んでた
のに」

和「そういう体質なのかしらね。今日は仕事休みだから、ご飯もなにも、全部
私がやってあげるわ」

唯「なんか、和ちゃんかっこいい」

和「ありがと。それはそうと、なにか食べたいものある? もうお昼よ」

憂「和ちゃんが作ってもらったものならなんでもいいよ」

和「それは困るわ。……じゃあ、アレにしようかな」

唯「アレ……?」

和「――おまちどうさま」

唯「!」

和「?」

唯「和ちゃんのオムライスだー!! 憂ー!」

憂「ホントだ! やったぁ!」

和「二人とも、昔からオムライス好きだったものね」

唯「あまーい卵で包んだチキンライスー」

憂「ケチャップたくさんかけて、いただきます!」

和「落ち着いて食べなさいよ」

唯「はふっはふっ!」

和「……可愛い」

唯「和ちゃんはいい旦那さんだよ!」

和「オムライスくらいでおおげさな」

憂「ううん。このオムライス、すっごく美味しいもん!」

和「この姉妹。一緒にいてまったく飽きないわよね」

唯「そうかな?」

和「そうよ。いつも元気で子供っぽい唯に」

和「普段はいい子なのに、スイッチが入ると唯以上に子供な憂」

憂「ふぇ?」

和「一生離したくない幸せの象徴よ」

唯「えへへー。どうしよう、象徴だなんて照れちゃうよー」

和「誇張でもなんでもない。私、アンタたち二人を一生かけて守るわ」

憂「――」

和「憂の顔、真っ赤じゃない。そんなに恥ずかしかった?」

憂「うん。かなり恥ずかしいよ。和ちゃん」

和「自分でも、相当くさいこと言ったと思うわ。でも、本音なのでご容赦を」

唯「私も、和ちゃんと憂を離さないもん!」ぎゅー

憂「えへへー」

和「うふふ」


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最終更新:2010年06月02日 22:25