――憂をアメリカに送って、一カ月――
唯「暇だなー」ゴロゴロ
和「澪たちは再就職したっていうのに、ずいぶん呑気ね」
唯「だってー」
和「専業主婦って言いたいんだろうけど、家事も殆どが私担当じゃない」
唯「ゴミ捨ては行ってるじゃん」
和「……はぁ」
唯「ドライブでも、行こうかなー」
和「アンタ、あの一件で免許取り消し食らってるじゃない」
唯「そうだったー。ねえ、和ちゃん」
和「?」
唯「ちゅー、しよ」
和「今はそういう雰囲気じゃないでしょ。空気読みなさいよまったく」
唯「あうー」
和「あうーじゃないの。ほら、ご飯できたから起きなさいって」
唯「はーい。あ、でもトイレ!」
ドア「ニコ」
和「……」
和「憂がいなくなっても、全然変わらないわね。これから先の夫婦生活に
不安を覚えるわ」
和「せめて、料理くらいしてくれないかな」
和「仕事はクビにならなかったけど、私も色々大変なんだから」
和「……」
和「でも、私が唯を守るって決めたんだから」
和「辛い、なんていうのは甘えよね」
和「――!」ズキッ
和「最近、頭痛がする。疲れてるのかしら……」
唯「――おーいしーい!」
和「そう。ありがとね」
唯「和ちゃんはお料理の天才だね!」
和「憂には負けるわよ。……ほら、あーん」
唯「あむっ。モグモグ」
和(美味しそうに食べてもらえるのは、ホントに嬉しいわよ)
唯「この餃子美味しすぎ!」
和(……ただ、やっぱり唯のご飯も食べたいな)
唯「和ちゃんー! あーん!」
和「ん」モグモグ
唯「……ねえ」
和「どうしたの?」
唯「和ちゃんは、私に家事してほしい?」
和「え?」
唯「そりゃあそうだよね。こんなニートが嫁なんて嫌だよね」
唯「澪ちゃんみたいに、ちゃんとしたお嫁さんになれなくってごめんね」
唯「せっかく一緒になってくれたのに、私みたいな女で……」うるうる
和「!?」
唯「ごめんね……ごめんねぇ……」
和「ど、どうしたのよ?」
唯「ふぇえええええええええん!!!」ボロボロ
和(……この子ったら、二日目になるといつもこうなのよね。腹痛とかは軽いく
せに、ちょっと気持ちが弱くなるのよね)
唯「和ちゃ~ん!!」
和「はいはい。唯は私のお嫁さんだから、捨てたりなんてしないから安心
しなさい。ね?」
唯「ぐすっ。本当?」
和「本当よ。ささ、ご飯食べてお風呂入って、お腹温めて寝なさい」
唯「うん……。ありがとう。和ちゃん」
――夫婦の寝室――
唯「んー……」
和「この寝顔見てると、色んな疲れなんてどうでもよくなるわね」
和「……」じー
和「ああ、可愛い」
和「今年で25なのに、まるで小学生みたい」
和「……でも、身体のほうはきっちり大人で」
和「たまらないわよね」
和「――ああ。いけない。唯に毒されてるのかしら」
和「私、こんなに性欲あったっけ?」
和「いやいや」ブンブン
和「この子が可愛すぎるのがいけないのよ」
和「……もう、寝よう」
和「……でも、少しくらい触っても――」
和「――いやいや、私はそういうキャラじゃないでしょ。おやすみ」
――そのころ、田井中夫妻は――
律「――なあ澪ぉ……」
澪「い・や・だ!」
律「痛くしないからー」
澪「断る!」
律「奥まで入れないから、ね? いいだろ?」
澪「律は絶対痛くするから、嫌だ」
律「うう~。気持ちいいのにさー」
澪「……本当に、痛くしない?」
律「ああ。約束する」
澪「……じゃあ、いいよ」
律「ほら、横になれよ」
澪「だってぇ。りっちゃんのそれ……」
律「まったく。耳掃除くらいでそんなに騒ぐなよなー」
澪「ひゃわぁ!」
律「ふっ! よし、これでOK! ほら、交代!」
澪「……律って、独りよがりだよね」
律「そうかな?」
澪「そうだよ。いっつも勝手だし……」
律「亭主関白なんだよ。私は」
澪「むー。こうなったら――」
澪「……よいしょっと」ひょい
律「お姫様だっこ!?」
澪「じゃあ、たまには旦那さまに、私の気持ちを味わってもらおうかな」
律「え?」
澪「――」
律「うわ! なにすんだ! いきなりパンツ下すな!」
澪「黙りなさい」ちゅ
律「――!」
律「な、なんか変だぞ! 今日のお前!」
澪「変なんかじゃない。まな板りっちゃんのくせに」
律「ま、まな板だとー!?」
澪「……ねえ、うるさいんだけど」
律「――!」びくっ
澪「どーせ、律のまな板なんか誰も相手しないんだよ。私だけなんだよ。
こうして、触ってあげるのは」
律「――ん!」
澪「感じてる? 悔しくないの? がさつでまな板で女の子らしさの欠片も
ないくせに、生意気だよ」
律「ちが……!」
澪「だからうるさいって」
律「!?」
澪「次、無駄口叩いたら引っ叩くからね」
律「……」
律(あれ? なんか、気持ちいい?)
澪「なんだ? なにか言いたそうだな。言ってみな」
律「……えと、しゃべっていいの?」
澪「……」ギュウウウウウ
律「痛い痛い! つねらないで!」
澪「ああ、ごめんごめん。あんまり小さいんで、揉んでるつもりがつねってた」
律「うう……。澪、怖いよぉ」
澪(かーわいい)
澪「あのさ、律。私、もっと律をいじめたい」
律「!?」
澪「いっつもいじめられてるんだもん。たまには、私が律にしてやるからな」
律「や……」
澪「嫌?」
律「ううん……。私も、澪にしてもらいたい」
澪「そっか。じゃあ、するな。馬鹿律」
省 略
澪「……」
律「……あのさ」
澪「なぁに?」
律「唯たち、大丈夫かな」
澪「なんとかやってるだろ。私たちも新しい仕事見つかったんだし、そのう
ち会いに行こうよ」
律「だよな。……和が心配だよ」
澪「律が心配するなんて珍しいな」
律「そうか?」
澪「そうだよ。唯も和も、憂ちゃんのこと大好きだったから、そこは少し大変
かもな」
律「ああ。――そういえば、家事とかはどうなんだろ?」
澪「あ」
澪「あっちゃー」
澪「唯のやつ、そういえばあれ以来料理してないんじゃないか……?」
――翌日――
澪「本当にやばいな」
澪「憂ちゃんがいなくなって、和がずっと家事やってたら……」
澪「和が、倒れてしまうじゃないか」
澪「おーい、律ー! 出かけてくるなー」
律「浮気するなよー」
澪「ばーか。いってきます」
律「ほいほーい」
ドア「ニコ」
澪「和は仕事だよな。……そうすると、家でゴロゴロしてるだろうな。唯」
澪「私がお嫁さんとは何かを教えてあげよう。うん」
澪「和のためにも、唯のためにも、な」
…
澪「よし、平沢家に到着!」
澪「しっかし。唯の両親はいつもどこにいるんだろうな」
澪「思えば、私は唯の両親をどっちも見たことがないぞ」
澪「憂ちゃんが大変なことになっても、電話一つ寄こさなかったし」
澪「どういう両親なんだろう。放任主義も過ぎてないか?」
澪「……それに、今ここに住んでるのは
真鍋和と真鍋唯だろ? まあ、戸籍
上では
平沢唯だけど」
澪「もはや、ここは平沢家というよりも真鍋家じゃないか」
澪「真鍋家が植民地にしたのか?」
澪「……さて、くだらないこと言ってないでインターホン押そう」
呼び鈴「ピンポーン」
澪「……」
澪「……」
澪「……あれ?」
澪「いないのかな?」
澪「電話してみよう」
ケータイ「ピッポッパ」
家「ドドン! どかん! ゴロゴロー!!」
澪「あ、唯か。家にいるよね。うん、知ってる」
澪「寝てたんだ。じゃあ、開けてくれない?」
澪「はーい」
ケータイ「カチッ」
ドア「ニコ」
唯「澪ちゃん! いらっしゃい! どうしたの?」
澪「うん。唯のこれからについての話と、練習だよ」
唯「ふぇ?」
――居間――
澪「相変わらず綺麗だな」
唯「うん。お掃除は私の仕事だからねー」
澪「そうなのか?」
唯「そうだよー。私だって、少しくらいは家事するんだから」
澪「そっかー。それは意外だった」
唯「ぶー」
澪「でも、家事のメインは炊事じゃないか?」
唯「う。それを言われると……」
澪「和が作ってくれてるんだな?」
唯「うん……」
澪「お仕事から帰ってきて、ご飯が出来てなかったら、和悲しいだろーなー」
唯「う!」
澪「でも、逆にご飯ができてたら、それはもうキスとか色々が待ってるだろうなー」
唯「やる! 炊事やるから教えて! 澪ちゃん!」
澪「よし! 美味しい料理を作って、和を虜にするぞ! 男は胃袋を掴め!
だ!」
唯「和ちゃんは女の子だよ~」
澪「と。そうだそうだ。早速始めようか」
唯「うん! おねげえします! 澪先生!」
澪「先生って呼ばれるのも久しぶりだな。よぉし、その気になってきたぞ」
唯「キッチンへゴー!」
澪「待て待て、まずは何を作るかを決めないと」
唯「てへへー」
澪「テキトーに食材を切ったり焼いたりしても、料理はできないぞ。まずは
なにを作るのかを決めて、それで食材を買いに行くんだ。もしくは、今ある
食材で、何を作れるのかを決めるんだ」
唯「そうだよね。私、間違ってたよ」
澪「まあ、今回は最初だから前者を選ぶ。唯、食べたいものあるか?」
唯「レバーとホウレンソウ!」
澪「そのこころは?」
唯「……生理で、血が足りないから」
澪「生理だったのか。ごめんな、突然押し掛けて」
唯「大丈夫だよー。私、二日目だけが辛いだけで、何故か三日目以降は
かなり楽チンなんだよ」
澪「唯の体質って、たまーに変わってるよな」
唯「そうかな? ……ま、まあ私はレバーとホウレンソウをたくさん食べた
い!」
澪「うん。じゃあ、レバニラとホウレンソウのおひたしでいいんじゃないか?」
唯「澪ちゃんったら流石!」
澪「なにが?」
唯「二つしか食材言ってないのに、もうメニューが出来ちゃったよ!」
澪「これくらい普通だぞ。どっちもその食材に於ける代表的料理だから」
唯「そーなんだー」
澪「……まあ、私も生理のとき律に作ってもらってるしな」
唯「えへへー」ニヤニヤ
澪「な、にやけるなぁ!」
唯「おノロケですなぁー」
澪「それじゃあ、一緒にスーパー行こうか」
唯「今4時くらいだからちょうどいいね」
澪「そうだな。律には……あ、律も呼ぼうか?」
唯「うん! りっちゃんには、和ちゃんが帰ってくる時間に来てもらおうよ!」
澪「それ、いいかもな。私たちの晩御飯も済ませられるしな」
澪「そうと決まれば電話だ!」
ケータイ「ピッポッパ」
澪「律? 晩御飯は唯の家で食べることになったから、7時くらいにお前
も来い。今は駄目だ。お嫁さんコンビで美味しいご飯を作るからな。うん。
それじゃあ、また」
ケータイ「ピッ」
澪「よし、これでよし」
唯「りっちゃんも来るなら、さらに頑張らなきゃ!」
澪「その意気だぞ。唯」
唯「じゃあ、スーパーまでクルマで――」
澪「免許取り消されるだろ」
唯「もうされてます!」
澪「だったな。口が滑った」
唯「なにはともあれ、スーパーへゴーですよ!」
ドア「ニコ」
澪「……唯はさ、和のどのあたりが好きなんだ?」
唯「いきなり言われるとびっくりしちゃう質問だね。でも、答えられる質問
だよ」
澪「どうなの?」
唯「優しいし、カッコいいし可愛いし、お母さんみたいであったかいところかな」
澪「――やっぱりお子様だな。唯は」
唯「そうかなー」
澪「まあ、それだからこそ、和と合ってるのかもな」
唯「澪ちゃんだって、りっちゃんとお似合いだよ」
澪「そ、そうか。ありがとうございます」
唯「照れてる澪ちゃんは、相変わらず可愛いねー」
澪「むむむ……」
――スーパー――
唯「そういえば、澪ちゃんと二人っきりで買い物なんて初めてかも」
澪「言われてみればそうかもな。いつも律かムギ、梓がいたもんな」
唯「一度、澪ちゃんとデートしてみたかったんだよねー」
澪「スーパーでそんな大げさな」
唯「大げさでもなんでもないよっ。澪ちゃん可愛いしカッコいいから、私の
ような美女にはお似合いだよ」
澪「ちょっと意味がわからない」
唯「しどい!」
澪「いや、唯は美女っていうか美少女だろ。永遠に」
唯「それは褒めてるの?」
澪「まあ、一応ね」
唯「ならいいよー」ぎゅっ
澪「こらこら。和が見たら傷つくだろ」コチ
唯「えへへー。……よし、これで食材は全て揃ったよ!」キリッ
澪「うん。確かにあるな」
唯「褒めてー」
澪(買い物しただけで褒めを要求!?)
唯「頭なでなでしてー」
澪「25歳児だな」
唯「やー」
澪「仕方ないなぁ……」なでなで
唯「澪ちゃんのおっきい手で撫でられるの、気持ちいいんだもん」
澪「……」
唯「あ! 今のはそういう意味じゃないからね。魅力的だよ! その手!」
澪「あははー」スタスタ
唯「お、おいてかないでぇ!」
澪「うふふー」スタスター
唯「澪ちゃーん! ごめんねー!」
最終更新:2010年06月02日 22:32