――平沢宅――
唯「澪ちゃん、足速いよー」
澪「ふーんだ」
唯「拗ねる澪ちゃん、かーわいいー」
澪「!」
唯「りっちゃんが羨ましー」
澪「な――」
唯「おっぱい分けてよー」
澪「……むむ」
唯「聡くんも、こんな綺麗なお義姉さんが出来て鼻高々だろうなー!」
澪「しょ――」
唯「よっ! ミス桜ケ丘!」
澪「しょうがないなぁ! ほら、ご飯作るぞ! 和が帰ってきちゃうぞ!」
唯(私と違って単純だなぁ。澪ちゃんは)
澪「ふんふーん」トントン
唯「あ、ホッチキス。懐かしいね」
澪「歌詞忘れて、唯とダブルボーカルしたよな」
唯「あの時はホント、ご迷惑を」
澪「迷惑なんかじゃないよ。唯と歌うと元気になるんだ。不思議だよな」
唯「きっと、私たちは相性がいいんだよ。私もすごく楽しかったもん」
澪「唯もそう思ってたんだ。……なら、私もすごくすごくうれしいな」
唯「私も」
澪「――唯」
唯「?」
澪「ギー太。どうしてる?」
唯「部屋に飾ってある。私たちHTTの思い出で、友情の証だもん。今も
お手入れしてるよ。エリザベスは――?」
澪「エリザベスは、実家なんだ」
唯「実家って、澪ちゃんち?」
澪「うん。唯も知ってるだろ? 私たちが駆け落ちしたこと」
唯「……りっちゃんちのお父さんが、結婚に猛反対したんだよね」
澪「それで、律は私を連れて家出したんだ。突然で、荷造りも充分できな
かったし、なにより軽装にしないといけなかったから、エリザベスはお留守
番になったんだ」
唯「そうだったんだ」
澪「ママは……お母さんがエリザベスを保管してくれてればいいんだけど、
もうあれから二年も会ってないからさ」
唯「澪ちゃんたちが結婚したのって、去年だもんね」
澪「うん。……とはいっても、同性婚はできないから婚約指輪買っただけ
なんだけどな」
唯「それでも結婚だよ。私たちも、そうやって結婚ってことにしたんだもん」
澪「……ありがとう」
唯「いえいえ」トントン
……
澪「――よし、これであとは旦那さんの帰りを待つだけだな」
唯「楽しみだよ~。やっぱり、自分が作ったご飯を誰かに食べてもらうって、
なんだか緊張するね!」
澪「でも、美味しいって言ってもらえると、気持ちいいんだよなー」
唯「うん! 和ちゃん、喜んでくれるかなー」
澪「喜んでくれるよ。なにせ、唯が、生理中なのに一生懸命作ったご飯
なんだから」
唯「えへへー。りっちゃんも喜んでくれるよ!」
澪「当然だ! 律は私の旦那さんなんだからな!」
唯「おノロケだー」
ドア「ニコ」
和「ただいまー」
唯「和ちゃあああああああああああああん!!!!!」だきっ
和「わっ!」
唯「おかえりいいいいいいいい!!!」ウリウリ
和「はいはい、ただいまただいま。今からご飯作るからね」
唯「和ちゃんの可愛いお鼻は飾り?」
和「ん? ……あ、澪」
澪「こんばんは、おかえりなさい」
和「久しぶりじゃない。どうしたの?」
唯「お鼻きかせなよ~」
和「――ああ。なるほどね。ごめんね、澪。ご飯作ってもらっちゃって」
澪「いやー。私だけじゃないんだけど……」
和「じゃあ律もいるの? もしかしてムギ?」
澪「その、お猿の赤ちゃんみたいになってる和のお嫁さんが……」
和「え?」
唯「えへへー」キラキラ
和「……唯が、作ってくれたの?」
唯「うん! もうすぐりっちゃんも来るんだよ!」
和「そう。ありがと。唯」ちゅっ
ドア「ニコ」
律「おーっす! 約束通り、7時に来たぞー」
唯「りっちゃん! いらっしゃい!」
和「いらっしゃい」
律「おお唯、和! 久しぶりな気がするなー!」
和「一カ月ぶりね。憂の時以来だもの」
律「もう一カ月経ってたのかー。時間の流れは早いもんだ」
唯「このままあっという間にお婆さんになっちゃうのかなー」
和「そんなことないわよ。時間の流れは一定で平等なんだから、何をしたっ
て、どんな過ごし方をしたって同じなの」
唯「でも、なんだか高校生の時に比べて時間が短く感じるよ」
澪「それだけ私たちが大人になったんだよ。ほら、冷めちゃう前に食べよう」
律「わーい! レバー大好きー!」
唯「そ、そのまえにトイレ!」
――食事――
唯「ドキドキ」
和「……あーん」
唯「わくわく」
和「もぐもぐ……」
唯「じろじろ」
和「ごっくん」
唯「……どう?」
和「……」
澪(なんだ、この緊張感)
律(この味噌汁、澪の味がするー。幸せだなー)
澪(唯と和が見つめ合ったまま動かないぞ)
律(それにしても、澪のやつ綺麗だなー。どこ見てんだろ)
和「……」
唯「……」ごくり
澪(見つめ合いだして5分経ったなー)
律(澪が喋ってくれない……。もしかして、私のこと嫌いになっちゃったの?)
澪(まさか、先月のカレーもこんな雰囲気だったのか?)
律(そうだ! 私が亭主関白とか気取ってたから、愛想を切らしたんだ!)
澪(唯のやつ、目が充血してる)
律(ああ……。こんなことなら、もっとラブラブしとけばよかった)
澪(和も汗かいてないか?)
律(澪、私のほう一度も見てくれないし……。決定的だ。別れの晩餐だ! こ
うなったら――)
和「お……」
唯「!?」
和「おいし――」
律「みおおおおおおおおおおお!!! 好きだああああああああ!!!」
澪唯和「!?」
澪「なななな、なにすんだ! 馬鹿!」ゴチン!
律「いってええええええ!! でも、気持ちイイイイイイイイイ!!」
和「え? は? はい?」
唯「りっちゃんが今まで聞いたことない言葉を!」
律「うおおおおおおおおおおお!!! 澪おおおおおおおおお!!!」
澪「待て! 殴っても止まらないのは初めてだ! って、きゃああああ!!」
唯「澪ちゃんが床に!」
律「はぁ……ハァ……ふぅ」
和「やりきった顔だー!」
澪「なにするんだ! 馬鹿律!」
律「いや、なんか澪が私のほう向いてくれなかったから」
澪「それだけで押し倒したのか?」
律「いや、私にとっては大きな問題」
唯「嫉妬だね!」
律「そうだ、やきもちだ。ということで許せ。澪」
澪「……もう!」
唯「それで、和ちゃん。どうだった? 私のレバニラ!」
和「美味しいわよ。美味しいに決まってるじゃない」
唯「ヤタ━━━━━━ヽ(゚∀゚)ノ ━━━━━━!!!!」
律「うわ! びっくりした!」
澪「私はお前にびっくりしたんだ!」
唯「澪ちゃん! やったよ!」ガシッ
澪「う、うん。よかったな、唯」
和「ホントに美味しいわよ。うん、やっぱり唯のご飯は一番おいしいわ」
唯「えへへー」
和「よく頑張ったわねー」なでなで
唯「ぐえへへー」
澪「私が撫でたときの100倍顔が緩んでる……」
律「私も撫でろ。馬鹿澪」
和「――ふう、美味しかったわ。ごちそうさま」
唯「お粗末さまでした。えへへ、このセリフ言ってみたかったんだー」
律「ごっそさん!」
澪「はいはい。それじゃあ唯、すぐに洗っちゃうぞー」
唯「お皿洗いー」スタター
和「……律」
律「ん?」
和「先月は、本当にありがとう」
律「なんのこと?」
和「憂のことに決まってるでしょう? 私の妹と家内が迷惑かけて」
律「あ~」
和「あの事件の所為で、仕事もクビになって、その上、マンションも追い
出されそうになったんでしょう?」
律「いいっていいって。出ていくことにはならなかったし、再就職も案外
さらっと出来たしな。集○社で編集してると、結構つぶしがきくんだよ」
和「それでも、ごめんなさい」
律「いいって言ってるだろー? 私は。いいや、私たちは自分たちがそうし
たいから、憂ちゃんを送っていったんだ。後悔なんてまったくないよ」
律「……それにさ」
和「それに?」
律「すげー、楽しかったんだよ。唯が運転して、カーチェイスしたの。久しぶ
りだった。学生時代以来だったんだ。あんなに楽しかったのは」
和「……そう」
律「私も澪もムギも、腹抱えて次の日筋肉痛になるくらいに笑ったんだ。不
思議だよな。もしかしたら、巻き込んだ人が死んでしまうかもしれない。そ
れくらい、大変なことをしているのにさ」
律「でもそれは――簡単なことだったんだ」
律「私たちを縛り付けたオトナ。私たちが抜け出せなかった常識。それを、
その瞬間、その時間だけはぶち破ってたんだからさ」
和「うん……」
律「またあんな馬鹿したいけど、常識に捉われちまった、責任を負わなきゃ
いけなくなった私たちじゃあ、もうできないんだからな。……ホント、私が男
だったらって思うよ」
和「私もよ……。そうすれば、子供を作ってその子供に、たくさん楽しいこと
を教えてあげられるのに」
律「だよな。……私が男だったら、澪も大切なベースを家に置いてくること
もなかったのに」
和「……そうね」
律「私たちは子供なんて、できないんだぜ? それなのに、毎月毎月、子供
を作れと血が出る、痛みが走る、イライラするんだ!」
和「……」
律「いい加減にしてくれよ! もう受け入れたんだ! 子供なんて、できない
ことくらいさぁ!」
和「……私だって、同じ気持ち。いいえ、私たち同性愛者はそう思ってる筈
よ。子供がいなくってもいい。そんなものは綺麗事なの」
律「そうだよ。私たちだって、二人の遺伝子を残した子供が欲しいんだよ」
和「でも、女同士(わたしたち)には、それは叶わないのよ」
律「ちくしょう……。ちっくしょう……!」
和「……律」
律「……ごめん。澪には、こんな話できないから。つい――」
和「いいのよ。私も、唯に出来ない話だから、すっきりしたわ」
律「ありがと、な」ぐしぐし
最終更新:2010年06月02日 22:36