西園寺遥は全力疾走で診療所に逃げ込み、ドアを閉めた。
あいにく鍵は付いていなかったため、ドアノブを手で押さえるしか方法がなかった。
西園寺「お願い…っ!!来ないで!!!」
しかしそれが裏目…
ぱんっ!ぱんっ!
拳銃の弾は診療所の木製の薄いドアを貫通して西園寺の腹に2発命中
西園寺「うっ!!んんんんんんん!!!!」
ドアノブを抑える手に力が抜け、西園寺はその場にうつぶせに倒れこんだ。
バンッ!!
勢い良くドアが開くとそこにいたのは仁科楓だった。
仁科「ちょこまか動いて…っ!!」
仁科は西園寺を蹴り上げて仰向けにした。
西園寺「あああああああっ!痛いっ!!うううううううううう助けて…っっ」
仁科「ちょろちょろ動き回るからああぁぁ!!もう…弾がっ」
そう言うと仁科は西園寺の胸、ちょうど肺のある部分に向けて思いっきり包丁を振り下ろした。
西園寺「があああああああああっ」
仁科「どうしてくれんだよっ!!弾がっ!!もうっ!!」
西園寺に向けて5回包丁を振り下ろしたところでやめた。
もう西園寺は息をしていなかった。
仁科「なくなっちゃったじゃんか…」
【11番 西園寺 遥 死亡 残り22人】
仁科「ちょろちょろ動き回ったせいで…っ!死ねっ!」
西園寺は逃げている途中にデイパックも私物の鞄も放り投げてしまっていたため、手元には何もなかった。
荷物を捨てるくらいだから、たいしていい武器ではなかったんだなと思い。仁科は何もせず返り血も拭き取らないまま診療所を後にした。
時計はもうすぐ午前10時を指そうとしていた。
島の北東にある小さな保育園に、佐藤恭子と矢吹紫音はいた。
佐藤「ありがとう…ごめんね…紫音…」
矢吹「いいの…こうなる運命だったんだよ…」
出席番号の離れている二人だったが
ゲームが始まってすぐ、佐藤がこの保育園に身を隠した。そのすぐ後に矢吹が来た。
2人はもともと仲が良くて、互いに性格が臆病なこともあり、このゲームに参加することは拒否。
殺し合いはせずにずっと今までこの保育園の中で過ごしていた。
そこで2人はある取り決めをした。
それは、なにがあろうとこの保育園から1歩も動かないこと。
そう…例えその場所が禁止エリア区域になったとしても…
そして早くもその時がやってきた。午前の6時の放送で発表された10時からの禁止エリア、F=9。
ちょうどこの保育園の周り、約半径50mの位置が禁止エリアとして発表された。
佐藤「もうすぐ…お別れだね…」
矢吹「うん…さよなら…恭子…」
佐藤「さよなら…紫音…」
ピッピッピッピッピッピ………
聞きなれない電子音がステレオで二人の耳に入ってきた。
矢吹「怖い…っ…怖いよぉ…っ!!」
佐藤「大丈夫…もうすぐ楽になれる…」
佐藤は矢吹を抱きしめた。おもいっきり。
矢吹もそれにこたえ、佐藤をぎゅっと強く抱きしめた。
ッピッピッピッピッピッピッピ―
電子音が次第と早くなっていく。
2人は大粒の涙を流し、互いの名前を呼び続けた。
佐藤「紫音!!紫音…っっ!!」
矢吹「恭子!!!!怖いよう……っ!!!」
佐藤「うわああああああああああああああああん」
矢吹「やだあああああああああああああああ死にたくないよおおおおおおわあああああ」
ピピピピピピピピピ
ピ―――――――――――
ボンッ!!
2人の血が噴水のように噴き出た。2人は抱きついた格好のまま、もう動かなくなっていた。
【15番 佐藤 恭子 38番 矢吹 紫音 死亡 残り20人】
律「さっきのさ…」
長く沈黙が続いていたが、律がその沈黙を断ち切った。
澪「ん…?」
律「さっき山を登っているときに聞こえたあの銃声らしきパラララって音…」
澪「ああ…」
律「あれ…なんだったんだろうな…」
澪「わからない…でもあれは確実にこのゲームに関係してる…」
律「それは間違いないな…あれが銃声だとしたら、また誰かが殺されたのかな…」
澪「ううっ……」
律「ごめん…でも…着々とみんな死んでいってるんだ。くそっ!!」
律は心の底から悔しい表情を見せた。
昨日までクラスメートだった仲間が殺し合いをして次々死んでいってるのだ。悔しいに決まっている。
律「なんであたしたちがこんなことしなくちゃならないんだ…」
澪「・・・」
プッ―。
坂持「うらー、みんな元気でやってるかー?」
2人はあわてて時計を見ると12時を少し過ぎたあたりだった。例の放送が始まった。
律「またか…っ!クソっ!」
渋々と2人はデイパックから地図とペンを取り出して、禁止エリアのチェックの準備を始めた。
坂持「まだ1日も経ってないのに、すごくいいペースだぞぉ~これじゃあ3日もいらなかったかもな~」
律「え…?」
その言葉の意味は考えなくてもわかった。
坂持「まず死んだ人からなー。地図の横んとこのチェックいれとけよー」
坂持「3番 遠藤 未知子、33番 保坂 安曇、11番 西園寺 遥、15番 佐藤 恭子、38番 矢吹 紫音!以上5名!」
坂持「1日経ってないのにもう半分以上死んでるぞ~いいペースだな~うんっ」
律「なにがいいペースだ!!この野郎」
坂持「じゃ最後に禁止エリアなー。13時B=8、15時D=5、17時F=3な。」
律はあわてて禁止エリアをチェックする。
坂持「じゃ、また夕方に会おうなー!夕方から天気悪くなるから気をつけろよー!!じゃあなー」
プツ―
澪「また…5人も…殺された…ううううっっ…」
……
久遠円は明るくて元気な子だった。
身長はクラスで1番低かったがそれに負けない明るさをもっていた。
ここまでクラスメートが死んでしまって多少パニック状態ではあったが、前向きに考えることにした。
今までに何人かの生徒を出くわしたが、あまり久遠とは仲のいい友達ではなかったので声をかけずにいた。
しかし、その久遠と出くわした生徒が皆、のちに放送で名前を呼ばれるかたちになっていたのだ。
久遠はなにか罪悪感を感じていた。
次に会った子には声をかけてみよう。そして一緒にこの島を脱出する方法を考えよう。
そう心に誓った。
そんなことを考えながら島の北西にある工場らしき場所を歩いていた。
すると向こうから誰かがフラフラと酔っぱらったサラリーマンのような歩き方でこちらに向かって来た。
久遠「あっ…」
そこに現れたのは、クラスで隣の席の女子だった。名は槇千鶴。
あまり話したことはなかったが、隣の席というのもあり、話しかけやすさは今まで会った子よりも上だった。
久遠「まっ…槇さん!」
槇「×&〒¥℃%……」
久遠「えっ…?」
槇「私が行きのこりゅ家に帰るみんあころして帰るンだ…」
久遠「…え?」
槇「……帰る帰る帰る…私には家族がいるんだぱぱもままも待ってる。会いたい。」
久遠「ちょっと…槇さん…?」
槇「だからみんなコロス」
そうはっきりと言うと槇は顔をあげた。
その目はどこか違う方を向いていて久遠のことなどまるで見ていなかった。
久遠「ひっ!!!」
久遠のその性格が裏目にでた。
槇は肩に背負っていたショットガン、ベネリM3を持ち替え、引き金を引いた。
バアン!!!
爆音とともに2人は吹っ飛んだ。
久遠はショットガンの散弾が身体に多段ヒットし、即死だった。
一方、散弾を放った反動で吹っ飛んだ槇はすぐに起き上がり来た道を戻って行った。
【9番 久遠 円 死亡 残り19人】
紬と和と高橋は、山を登り終えようとしていた。
和「さっきの放送で…また5人発表されたわ…佐藤さんの名前も呼ばれたわ…」
紬「でも…また唯ちゃんたち、呼ばれなかったわ…」
和「本当……でも喜んじゃだめなの…わかってる。」
紬「どんなことがあっても喜ぶことなんてできないわ…」
和「ごめんなさい…風子」
高橋「いいの…大丈夫よ…」
高橋はゲーム序盤、仲の良かったグループの桜井 美帆、豊永 優、福山 葵、松井 沙織の4人を失っていた。
特に桜井はこの修学旅行で和と同じ班でもあった。
他には仁科も同じグループで仲が良かったが、仁科の名前はまだ呼ばれていない。
というより、今となっては危険人物の1人である。
そしてさっきの放送で呼ばれた佐藤 恭子。これもまた高橋とは仲が良く、和と高橋と同じ班だった。
紬「これ以上、死んだ人の名前を聞くのはもう嫌だわ…」
和「本当ね…」
高橋「でも…私たちはどうすることもできない…」
和「本当に悔しいわ…」
3人はようやく山を登り終えて平らな地へ着いた。
高橋「でも真鍋さん、どうして山を登ってこんなところまで?」
和「こんな山の上までわざわざ登ってくる子、なかなかいないでしょう?」
高橋「確かにそうね…」
和「下手に人に遭遇してみんな殺されてしまうよりいいでしょ?人気のないところの方が安全」
紬「それに和ちゃんの探知機もあるし、より安全になるわ」
高橋「真鍋さん、琴吹さん、ありがとう…本当に会ったのがあなたたちでよかった…」
紬「私も…高橋さんでよかった!」
高橋「うんっ」
和「待って…っ」
紬「えっ?」
和は青ざめた表情で右手を二人の前に突き出した。
2人の表情から笑顔が消えた。
和「誰か…いるわ…」
紬「!?」
探知機が反応したのだ。
半径50m以内に首輪をつけた人物が2人いると―
和「2人だわ…2人いる…っ」
紬「こんなところまで…?なんで?」
和「わからないわ…でも私たちと同じ考えかもしれないわ。相手は2人だし…」
紬「そうね…2人は殺し合いをする気はなくて一緒にいるかもしれないわ…」
高橋「だといいけど…」
和「もう少し近づいてみましょう…もしかしたらって場合もあるわ」
そう言うと3人はゆっくり探知機が反応する方へ歩いていった。
紬「こっちは丸腰同然…もしものことがあった場合どうしましょう…」
和「大丈夫よ…そっと姿を確認するだけ。奇跡を信じて」
その2人はもちろん和の言う奇跡の人物、軽音部の誰かの可能性は十分にあった。
なんせまだ名前を呼ばれていないのだから。
わずかな可能性を信じながら3人は足音をたてないように近づいて行った。
その2人との距離が30mに差し掛かった時、その2人の姿を確認することができた。
その2人を見て、和は目を見開いた。
そこにいたのは、黒髪のロングヘアーの子と、明るい髪のショートヘアーの子だった。
……
島の東南にある小さな小屋。
その小屋の中で
平沢唯は眠っていた。
いつもより早起きをしてしまったせいでギターの練習をしている途中、眠くなっていつの間にか寝てしまっていた。
1匹の野良猫が小屋に入ってきた。
猫は唯の寝ていたソファーの上に飛び乗ってきた。
唯は飛び起きた。
唯「えっ何っ!!!!!!」ガバッ
猫「みゃー」
唯「え?………なんだ、猫ちゃんか。」
唯「びっくりしたよ…いきなり来るんだもん…」
猫「にゃ…」
唯「………可愛い///」
唯は3回目の放送を聞き逃していることに気付いてなかった。
そう、またしても禁止エリアのチェックをしていない。
誰が死んだかもわからない。
唯「おーーーよーしよしよししょしょしょしょし!おまえは今日から『みぃちゃん』だ!」
本当は猫と戯れている場合ではなかった。
先ほどの12時の放送で発表された禁止エリア。17時、F=3。
唯が今いるこの小屋のある場所だ。
和「律!!澪!!」
律澪「!?」
和は思わず叫んでいた。
それに紬も続く。
紬「りっちゃん!澪ちゃん!!」
律と澪は立ち上がり、声のする方へ体を向けた。
律「えっ…和!?むぎ!!高橋さんも…」
澪「え…嘘…」
紬は走り出して律と澪に駆け寄った。
和と高橋はゆっくりと紬の後を追う。
紬「りっちゃん!澪ちゃん!!無事でよかったっ!!本当にっ!!よかった!!」
律「お前ら…どうして…」
和「私の支給された武器がこれだったの」
和は3人のいるところに歩み寄り、探知機を律と澪に見せた。
律「なんだ?これ…」
和「探知機よ。どこに人がいるかある程度わかるの」
律「そうだったのか…スゲーな…」
紬「澪ちゃん…昨夜はごめんなさい…私…私……」
澪「むぎ…いいんだ。もう大丈夫だから」
澪は優しい笑顔を見せると紬の肩に手を乗せた。
澪「律が、助けてくれたんだ」
紬「ずっと…心配だったの…っうっ…本当にごめんなさいっ…うっ」
澪「むぎ、泣くなって…大丈夫だよ。怒ってないよ。仕方なかったもん」
紬「ありがとう…澪ちゃん…っ」
律は安堵の表情を見せると和に目をやった。
律「和も…心配したんだぞっ!」
和「ごめんなさい…色々あって…詳しく話すけど…でも本当、2人とも無事でよかったわ」
律「ま、こっちもいろいろあったけどな…高橋さんもっ無事でよかった」
高橋「うんっ、ありがとう」
律「唯は!?唯はどうした?見かけなかったのか?」
和「あなたたちも見てないの…私たちも会ってないわ。名前を呼ばれてないから今の所無事なんでしょうけど…心配だわ」
和はとりあえず、今までにあったことを2人に話した。
律「そうだったのか…」
澪「仁科さんが要注意って…本当なのか?和」
和「うん…おそらくね…こんな状況だもの…誰がおかしくなろうとおかしくないわ」
澪「そっか…やっぱり殺してる人がいるんだな…」
律「でも本当によかったよ。こうやって再会できて…」
紬「本当…本当によかったわ…唯ちゃんにも会いたいけれど…」
律「うん、そうだな…これからどうする…?」
和「下手に動くのは危険なんだけど…唯が心配なのよね…あの子禁止エリアのチェックとかちゃんとやってるかしら」
律「あぁ、確かに…それ心配だな…」
ガサガサガサッ
一同「!!」
5人は心臓が止まるほどびっくりした。
左後方から何かの気配がした。気配というか、なにかが動いた。
和「ごめん…っ!話に夢中で探知機を見ていなかったわ…!!」
律「やばいぞっ!!誰か来る…っ!」
和「いる…確かに…誰かいる…」
和の探知機は確実に反応していた。
澪「り…律ぅ…」
律はデイパックから拳銃を取り出した。
使うときが来るかも知れない。この5人で銃を持っているのは律だけ。
澪は通水カップ、和は探知機、紬はヌンチャク、高橋はバタフライナイフ。
もし仮に相手がこのゲームに乗っていて、なおかつ武器が拳銃だった場合…
太刀打ちできるのは律のみ。
律は音の聞こえた方へワルサーを構えた。
律「……」
ガサガサッ!!
草のしげみから現れたのは、北村静香だった。
北村は高橋と仲が良く、真面目な優等生タイプの子だった。
高橋「北村さん…っ!?」
律が持っていたワルサーを下ろしかけた。その時―。
パンッ!
律「えっ…?あたしは打ってないぞ……??」
最終更新:2010年06月06日 02:19