草むらの向こうに1人の人影が見えた。
律「暗くて見えない…もうちょっと右にっ!!」
澪「いっいま、マシンガンを撃ったってことは…誰かがまた殺されたってこと…?」
紬「その可能性は十分にあるわ。」
ぱらららららららららっ!
澪「ひっ!!」
律「あっ!」
今のマシンガンを放った時の閃光で一瞬、ほんの一瞬だが、見えた。
マシンガンを放った人物の顔が見えた。
律「見えた…」
紬「ええ…」
律と紬には確認できた。その人物が、
立花姫子であることを。
律「立花さんだ…っ」
澪「えっ!?」
紬「間違いないわ…見えてしまったわ…」
そんな事を話しているうちに、人影は消えてしまった。
紬「向こうに行ったわ…」
律「いや、まだ安心できないぞっ!」
紬「こっちに来る可能性があるわ!」
澪「どっどどどどうするんだよ!!」
律「しっ…黙ってろっ」
向こうに行ったと見せかけてこっちに来る場合も十分に考えられた。律は警戒した。
しかし、5分くらい待ってみたが立花は戻ってこなかった。
律「もう…平気そうだな…」
紬「でも、電気をつけるのは危険すぎるわ。懐中電灯を使いましょう。3本あれば十分持つわ」
律「そうだな…」
澪「立花さん…冷静で大人っぽい子だったのに…ううっ」
律「言ったろ…このゲームじゃ誰がどうなろうとおかしくない。そういうゲームなんだっ」
紬「そうね。しかし、今誰かが殺されたとなると残っているのは8人ってことになるわ」
律「あたしら3人、立花さんに………。あっ!!」
律は何かに気が付いた。
紬「そうよ…今殺されたのが…唯ちゃんか和ちゃんっていう可能性も無きにしも非ずだわ…っ」
北村の背後を不意打ちで仕留めたのは立花だった。
律たちが見たのは間違いではなかったのだ。
幸運にも紬の悪い予感は外れた。殺されたのは唯たちではなかった。
仰向けに倒れた北村に追い打ちの発砲。
体中に無数の穴が開いた。
立花は長い前髪をかき上げながら北村の荷物を手に取った。
立花「銃1丁だけ…か…。使えない子」
デイパックに入っていた最後の1個らしいパンを奪うと
律たちがいる体育倉庫の方ではなく、逆の方向の民家のある方へ消えて行った。
【7番 北村 静香 死亡 残り8人】
和と唯はパンを食べながら民家の一室に隠れるように座っていた。
唯「みんな無事なんだね…よかった…」
和「ええ、だから夜が明ける前にコレで3人を探しに行きましょう」
唯「うん!!やっぱり和ちゃん頼りになるなぁ」
ピッピッ
和「!!」
唯「ほえ?どうしたの?和ちゃん」
和「誰か来るわ…静かに」
唯「りっちゃんたちかもしれないよ!」
和「それなないわ。律たちは3人で行動してるはず。そこにいる子は1人だわ」
唯「誰だろう…」
和「シッ―」
ガラガラ―
和「嘘っ!!入ってきたわ」
唯「え??なになに??」
和「そうか…!!雨で地面が…それで…迂闊だったわ…」
唯「え?どゆこと?」
和「足跡よ。私たちの足跡で中に誰かいるって推測したのよ」
唯「なるほど!」
和「行くわよ唯…ここの庭から脱出するわよ!」
唯「わかった!」
ガサガサ―
和「!!」
唯の持っていたパンのビニールの袋。
本来なら気付かないような小さな音だが、それはこの静かな民家の中では大きな音と化す。
和「走ってっ!!唯!!」
唯「えっでもギー太g…」
ガラガラッ―
勢い良く襖が開いた。
そこに立っていたのは仁科だった。
和「っ!!仁科さん!!」
高橋から聞いていた要注意人物―仁科楓…っ!!もちろん唯も仁科が要注意人物なのは先ほど和から聞かされていた。
和「唯!!」
唯「和ちゃん行って!!」
和「えっ!?」
唯「早く!!走って!!」
和は今までにないほどの唯の真面目な声を聞いて反射的に体が動いた。
庭を出て走り出した。
仁科は唯ではなく、逃げた和の方へ銃を向けた。
唯「こらーっ!!だめっ!!」
仁科「…?」
トリガーにかかった指は止まった。
唯「駄目だよ、楓ちゃん。そんな危ないもの使っちゃ…」
仁科「私は生き残って家に帰るの!邪魔しないでっ!」
唯「私だっておうちに帰りたいよ…でもそんな友達にピストル向けたりしないよ…」
仁科「うるさいっ!!」
唯「あわわわわ…」
和は民家を出て50mくらい走った。
雨の中、メガネに雫がついて前が非常に見づらかったが全力で走った。
和「はぁ…はぁ…(唯はっ!?)」
後ろを振り向くと、そこには唯はいなかった。
和「えっ?ちょっと…そんな…」
和「嘘…なんで…」
戻るに戻れないこの状況に、和はどうすることもできなかった。
2人とも丸腰な以上、太刀打ちできない。そのくらい唯でもわかっていた。
唯は、仁科の説得を試みたのだ。
どうすることもできない和はその場に立ち尽くしていた。
民家の縁側には唯。 襖の前には仁科。
仁科は唯に銃を向けた。
唯、絶対絶命。
唯「(和ちゃん逃げられたかな…)」
しかし唯は和の事を考えていた。
ちゃんとこの民家から脱出できたか。
仁科「ごめんね…平沢さん」
唯「うっ…」
唯は死を覚悟した。怖くて悲鳴もあげたかった。
だが、我慢した。和に心配をかけたくない。その一心で。
唯「(今まで散々心配かけてきたから)」
唯「(ごめんね…和ちゃん…ありがとう…)」
唯「ううっ!!」
唯の目からは涙がこぼれていた。
仁科「ひっっ!!」
唯「えっ?」
仁科は何かに気付くと素早く部屋を出た。
唯などそっちのけで。
唯「え…?楓ちゃん…?」
唯「あ、あれ?」
縁側に立っていたため、唯は雨の音のせいでその気配に気づかなかった。
「大丈夫?平沢さん!」
唯は後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは、ロングヘアにゆるいパーマをかけた明るい髪。
ミニスカートにルーズソックス。
特徴的な長い前髪、雨に濡れた美しいその姿。
そう―。
立花「よかった…無事みたいね。」
唯「ひ…姫子ちゃん…っ!!」
片手にマシンガンを持った立花姫子が立っていた。
唯「姫子ちゃん!!どうしてっ!」
立花「大きな声が聞こえたから…」
唯「ありがとう…助かったよう…」
唯は涙を拭きながら言った。
それに対し、立花は優しい笑顔を見せた。
立花「やっと会えた…っ」
唯「え?なぁに?」
立花「ううん、なんでもない。もう大丈夫!平沢さんは私が守るからっ!」
唯「あっ!和ちゃん!!」
立花「真鍋さん?彼女なら大丈夫よ。走って北の方に逃げて行った所を見たわ」
唯「本当!?…よかったぁ……無事なんだね和ちゃん」
立花「後で2人で探しに行きましょう」
唯「うんっ!ありがとう姫子ちゃん!」
立花が和を見たというのは全くの嘘だった。和など見てもいない。
無事かどうかも知らない。今はとにかく唯と2人きりになりたかった。
立花「ここを離れましょう。私みたく今の声で誰かが来るかもしれない」
唯「わかった!荷物をまとめるから待ってて!」
そう言うと唯は荷物をまとめ、ギターを背負った。
立花「行こう」
唯「うんっ!」
立花はなぜ唯と会いたかったか。それは―
立花姫子は所謂「レズビアン」であった。
自分がこのレズビアンだと気付いたのは高校になってからだった。1年の時の学園祭、軽音楽部のライブの時。
ステージ上に一際目立つ美しい女性がギターを弾いていた。それが
平沢唯だった。
彼女は一目ぼれをした。寝ても覚めても毎日唯のことばかり考えていた。
気付けば唯の姿を想像して自慰行為も行うようになっていた。
私は平沢唯が好き。そう思えば思うほど唯への好意は増していった。
3年生になった時、初めて唯と同じクラスになった。彼女は興奮した。1年間一緒にいられる。
しかも、あろうことか席替えの時のクジ引きで、唯の隣を勝ち取ったのだった。
彼女はもう、授業に集中できないほどに唯を意識していた。
いつか告白しよう。駄目でもいい。自分の思いを伝えたかった。
しかし、新学期が始まって約1か月。
3年2組は、このふざけたゲームの対象クラスとなってしまった。
このゲームのルールを把握した瞬間、立花は心に決めた。
いずれ死ぬ。
死んでしまうのならば…唯を…
誰にも邪魔されない2人きりになったところで…
強姦
唯で性欲を満たす
真っ先にこれを思いついた。
そして、十分に性欲を満たし、満足したところで…
唯を殺し、優勝者となり家に帰る。やはり自分の命は惜しい。
そう決めた立花は、自らこのゲームに参加することを決意した。
幸運にも、いくらでも脅しが効く銃を手に入れた立花は怖いものなどなかった。
銃さえあれば唯がどんなに抵抗しようと静められる。
問題は2人きりになるまで生き残れるか。だったが、ここまで順調に来ている。
残り6人…全員殺せば…念願が叶う。
和は道の真ん中に立ち尽くしていた。
雨に打たれ…
しかしその時っ!
前の交差点を仁科楓が走って通り過ぎて行った
和「えっ?仁科さん?」
和「唯…唯っ!!」
和は走って先ほどの民家に戻った。
玄関を入ってすぐ左の部屋…
和「えっ…?」
そこには…何もなかった。
和「あれ!?確かにこの家のはずっ!」
間違いない。襖は開きっぱなし。玄関を見ると濡れた足跡が。
和「唯…どこ行ったの…?無事なのっ!?」
和は、また唯がここに戻ってくることを信じて、この民家に滞在することを決意した。
……
仁科「くそ…!クソッ!!」
雨の中、仁科は目的もなく走っていた。
仁科「あんなライフルみたいな銃にかなうわけがない…こっちは拳銃1丁しかないのに…」
仁科は西園寺戦で使いきってしまったように思えたが、
途中、久遠円の死体を見つけ奇跡的に9㎜口径の弾丸をゲットした。
靴下や服がぬれることをお構いなしに走っていた仁科の足が止まる
仁科「……っ!!」
ぬうっと交差点から現れたのは槇千鶴だった。
仁科「槇っ…!?」
槇はショットガンで久遠円を撃ち殺している。
彼女はこのゲームが始まってから頭がおかしくなってしまっていた。
槇「私は家に帰るの。お母さんがシチュー作って待ってるんだって。」
仁科「うるさい!死ね!」
槇「っはは!!」
バアン!!!
槇の方が早かった。ショットガンの散弾は仁科の右下半身に数発命中した。
仁科「きゃああああっっ!!」
槇「あと…少し…あと少し…」
仁科「こっの…キチガイがっ!」
仁科は激痛をこらえ、槇に銃を向けてすぐさま発砲した。
パンパンパンパンパンパン―
槇「あう」
見事、仁科の放った弾丸は全て槇の腹部に命中した。
パンパンパン!カシュッ!
カチッカチッカチッ―。
槇は奇妙な笑みを浮かべながら膝から倒れて、仰向けに倒れた。
ありったけの弾を撃ち尽くした。
仁科「くっっっそおおおぉぉぉ……立てないっ…」
仁科「痛いっ……くっ…痛い…」
右下半身に被弾したものの、仁科は耐えていた。
しかし、いくら散弾とはいえ銃で撃たれたも同然、大量の血が流れた。
【35番 槇 千鶴 死亡 残り7人】
血と雨が混ざり、仁科の足元は真っ赤になっていた。
仁科「…………終わった」
仁科「もう…無理……。弾…変える気力もないわぁ…」
電柱に体を預け、右下半身を抑える。
仁科「クラクラする………。立ってられないや…」
ぺたんと仁科は電柱に寄りかかりながら尻もちをついた。
仁科「ごめんなさい…。みんな。美帆、優、葵、沙織…」
仁科「痛いよ…もう、死んじゃうよ…私」
仁科「生き残れなかったかぁ……お母さん、お父さん。ごめんなさい。楓は親不孝しました。」
もう目を開けているのも辛かった。
早く横になって目を閉じたかった。
できれば、いつも自分が寝ているふかふかのベッドで…
仁科「……さよなら」
【27番 仁科 楓 死亡 残り6人】
最終更新:2010年06月06日 02:26