ガチャ


澪「唯、今日も大人しくしてろよ?」

唯「んんっ!!」

私はくぐもった声を出す
でもその声は私の口を塞ぐガムテープによって阻まれた

澪「律たちはもうやったから、あとは唯だけだよ」

唯「んーっ!! ん゛っ!!」

澪ちゃんは白いガーゼと小瓶を持って私のところに屈んだ

澪「学校行ってる間は何があるか分からないからな…悪いけど眠っていてもらうよ」

唯「んっ! んん!?」フルフル

私は必死に首を横に振って拒絶する
手足が自由なら抵抗したいけど、案の定私の手足は縛られていて動けない

澪「ごめんな唯…」チャプ

澪ちゃんは小瓶に入っていた液体でガーゼを湿らせた

唯「ううう……」

あの液体は元々私が手に入れたものだ
それで憂やりっちゃんを捕えて監禁していた

しかし、どこで綻んだのか
今は私が監禁されている


澪「そろそろ行かないと…」

唯「んぐっ!」

澪ちゃんはガーゼを私の口と鼻の部分に固定した

唯「ううっ……」

私は無駄な抵抗とは分かっていても、息を止めて抗った

澪「じゃあ、夕方にまた来るから」

ガチャ

澪ちゃんはそう言って部屋から出て行く

唯「う…う…」


私は口をガムテープで塞がれているので、呼吸するとどうしても薬を吸ってしまう
澪ちゃんもそれが分かっているから口を解放せずにガーゼで覆うという手段を選ぶ

唯「ふぁ…んっ……」

暫くは息を止めていたけど、やはり限界がある

唯「う……」

あずにゃんや憂も…こんな気持ちだったのかな…?
息がしたくても…できないって…
悪いことしちゃったかな…ごめんね…

唯「ん…むぅぅ……」とろん

自分の意志とは関係なく苦しさのあまり酸素を求め、鼻から大きく空気を吸い込んでしまった
同時に薬も吸い込み、瞼が重くなってくる

唯「ん……」

そこで私の意識は遠くなっていった…



唯「…………」

どれくらい時間が経っただろうか
まどろんだ視界の中、私は目覚めた

窓の外には既にオレンジ色の光が射している
時刻はPM5時

唯「うっ!? かはっ…は…おブェッ…」

突然、私は吐き気に襲われた

唯「ふーっ…はーっ…う…ふっ…」

絶対に吐いちゃ駄目だ
吐いたら死ぬ

吐瀉物の出口が塞がれている今吐けば、確実に窒息する

唯「うぐっ…ぐぐ…」ポロ…ポロポロ…


苦しい苦しい!! 誰か助けて!
私は精一杯もがく
だけどどうにもならず、だんだん息ができなくなっていくのが分かった

唯「ううーっ!! ん゛ん゛!!!」

私は力を振り絞り、部屋のドアの前まで這っていく

ドン! ドンッ!

全身を使ってドアに必死に体当たりを続ける

唯「ぐが…が…」

助けて! 助けて!!
澪ちゃん! 和ちゃん! 早く来て!!

ドンッ…ドン…

唯「か…は…はーっ…」ジタバタ

助けて助けて助けて助けて助けて助けてたすけてたすけてタスケテタスケテ助け…て…



ガチャ

澪「起きてるかー…って唯!?」

唯「んん! ん!!」

澪ちゃんはすぐに気づいて、私の口と鼻を覆っていたガーゼとガムテープを外してくれた

唯「げほっ! う、うげええええ!!!」ビチャビチャ

出口が解放されたことにより、私の口から吐瀉物が勢いよく流れだす

澪「だ、大丈夫か唯!」

澪ちゃんは私の背中をさすって介抱する

唯「はぁ…はぁ…」

一通り吐いた後、私はその場に倒れこんだ

どうして…こんな目に遭うの……?
私はただ…憂を…あずにゃんを…りっちゃんを…澪ちゃんを…ムギちゃんを…
全部私のモノにしたかっただけなのに…



澪「唯はもう抵抗しなさそうだし、明日からしばらくクロロホルムを使うのはやめるよ」

唯「…………」コクッ

私は無言で頷く

澪「律たちの様子見てくる」

ガチャ

唯「…………」

どうする…何とかして…また…
そのためには、まずこの手足を自由にしないと…

ふと、部屋の片隅に視線がいった

唯「……!」


そこで私は部屋の隅にカッターナイフが落ちているのを見つけた
見つけてしまった

唯「………」ニヤリ

私の心に再び悪魔が宿った気がした

一階 リビング

澪「律…」

律「…………」

律はまだ眠っている
彼女もまた、唯と同じように手足を縛られ口をガーゼで覆われていた
律の隣の梓も同様に


梓「うー…うー…」

澪「梓は起きてるのか…」

澪が梓の口からガーゼとガムテープを剥がす

梓「澪…先輩…もう…やめてください…」

澪「私だって、こんなことしたくないよ…私は律がいればいいから…」

そう言って澪は律の頭を撫でる

律「う、うん…?」

澪「お、気がついたか」

律「ん…」

澪は律の口からもガーゼとガムテープを剥がす


澪「さっき唯が吐いちゃってさ…やっぱり薬を使うのは危ないな」

律「ゆ、唯は…大丈夫…?」

律が弱々しく澪に聞く

澪「ああ大丈夫だよ」

梓「(律先輩…だいぶ衰弱してる…)」

この一連の監禁事件の最初の犠牲者は実は律だった

澪が律を監禁し、その後に唯が憂を襲った
次に軽音部3人で共謀し梓を監禁

そして、唯が律を自分のモノにしようと澪の家から連れ出した

――みーんな私のモノ!――

そこまでは唯の計画通りに事が進んだ
しかし、油断した唯は逆に捕まり今に至る


梓「(律先輩は澪先輩のと合わせても、もう1週間監禁されている…早く助けないと…)」

律「澪………」

澪「ん?」

律「お腹空いた…何か食べさせて」

澪「ああ、ちょっと待ってろ 今作ってくる…梓も食べるよな?」

梓「あ、はい…」

こんな状況でも腹は減る
ここから逃げるにしても、一生このままだとしても、今は何か腹に入れておかねば…
とにかく梓はそう思い返事した



唯の部屋

唯「く…もう少し…」

私は後ろ手の状態から器用にカッターナイフを操り、手の紐を切ろうとする
ちょっと難しいけど、頑張ればいける!

唯「…切れた!」パラッ

次に足の紐を切る

唯「ふふ…あはははは!!」

思わず、私は高笑いした
これで元通り…全て……

唯「澪ちゃん…和ちゃん…」

コンドハ キミタチノ バンダヨ??

私は手にカッターナイフを忍ばせて、ドアの所に息をひそめる


澪「唯ー、何か食べる?」

案の定、澪ちゃんはすぐに戻ってきた

ガチャ

澪ちゃんが部屋に入ってくる
その瞬間に、私は澪ちゃんを後ろから抑えつけ首筋にカッターナイフを押し付けた

澪「な…!?」

唯「動かないで!!」

澪「お、お前…どうやって…!?」

唯「喋るな!! ハァ…私の机!」

澪「つ、机…?」

私の机には今朝澪ちゃんが置いていったクロロホルムの小瓶がある

唯「机まで…行って!!」

澪「わ、分かった…」

私は澪ちゃんを机まで移動させた

唯「澪ちゃん」

私は澪ちゃんにハンカチを手渡した

澪「ハンカチ…? おい唯まさか…」

澪ちゃんの体が震えているのが分かる
でも、私はもう止まれない

唯「早くして!」

澪「う、うう…」


澪ちゃんは泣きながら、ハンカチに薬品を染み込ませる

唯「早く嗅いで眠って!! 嫌なら私が嗅がせてあげる!」

澪「ゆ、唯…やめようよ…」ポロポロ

唯「もういいよ!」バッ

私は澪ちゃんの手からハンカチを奪い取ると、それで澪ちゃんの口を素早く覆った

澪「む!?」

唯「もう…戻れないんだよ…! ごめん…ごめんね…」

澪「んんーっ!! むぐぐ……」

澪ちゃんは薬が効いたみたいで、しばらくもがいた後気を失った

唯「ハァ…ハァ…」

私は気絶した澪ちゃんの手足を縛った


唯「次は…」

私は澪ちゃんをベッドに寝かせ、部屋を出た

そしてそのままある部屋に行く

そこは妹の憂の部屋
私が一番最初に自分のモノにしたかった可愛い妹がそこには居る

カチャ…

憂「ん!? んんっ!? (お、お姉ちゃん!?)」

唯「憂…会いたかったよ…」ギュッ…

私は憂の体を優しく抱きしめる

ああ…コレだ
私が求めていたモノは…

憂「うーっ…むー…」モゴモゴ

憂が何か言おうとしてる
私は憂の口を解放した

唯「憂…」

憂「お姉…ちゃん…」

唯「憂…憂…憂……」

憂「お姉ちゃん…?」

唯「澪ちゃんも捕まえたよ…」

憂「え…?」

唯「でも和ちゃんには注意しないと…油断すると前みたいに捕まっちゃう」

憂「お、お姉ちゃん…もう、やめようよ…」

唯「大丈夫だよ憂…私はもう憂をいじめたりしないから」

憂「み、みんなは…?」

唯「今、家にいるのは…私と憂、りっちゃんと澪ちゃん、それからあずにゃん」


憂「やめてよ……」

唯「…なんで?」

憂「もう…やめてよ……」

唯「憂にはまだ分からないんだね……もういいよ、あとで教えてあげる」

憂「えっ…」

唯「体にね」

憂「ひ…っ」ブル

私はまたガムテープを憂の口に貼り付けた

憂「うううーっ!?」モガモガ

唯「じゃあ…りっちゃんたちの所に行ってくるから」

私はそう言って部屋を出て、リビングに向かう


……

律「うー…澪のやつ遅いー」

梓「何かあったんですかね…?」

律「なあ梓…」

梓「はい?」

律「澪はさ、私たちをどうする気なんだろな?」

梓「さあ…でもこのままだといずれバレますよね」

律「あー…それはどうだろうな」

梓「と、言いますと?」

律「たぶんムギが絡んでると思う」

梓「ムギ先輩が?」

律「ムギの家の力でこの件は隠蔽されてる…気がする…」

梓「じゃあ…私たちずっとこのままなんですか!?」

律「それは…」


律「つーか…澪ホント遅いな…いい加減腹減った」

梓「あ、戻ってきたみたいですよ 足音がします」

律「本当だ……ん?」

梓「律先輩?」

律「違う…!」

梓「え…何が違うんですか?」

律「コレ…澪の足音じゃない!!」

ガチャ

梓「ゆ、唯先輩…な、なんで……」

唯「んんー? 私じゃ嫌だった?」


律「唯……」

唯「りっちゃん……」

律「唯……」

唯「りっちゃん……」

梓「…………」ゴクリ

律「飯は?」

唯「ちゃんと持ってきてるよ、パンと水だけど」

律「動けないから食べさせてくれ」

唯「オッケー はい」

梓「唯先輩…私もお腹空きました お願いします」

唯「もちろんだよ、餓死でもしたら私泣いちゃうよ?」

梓「…………」

律「…………」


…………

律「さて唯…」

唯「何?」

律「なんでお前ここに来れた?」

唯「何でって…普通に歩いてだけど?」

律「お前、和と澪に捕まってたんじゃないのかよ」

唯「うん捕まってたよ」

律「じゃあなんで……」

唯「逃げてきた ついでに澪ちゃんも捕まえた」

律「やっぱりか……」

唯「ふふ…りっちゃんこそ、だいぶ弱ってるみたいだけど?」

律「うるせー……」


梓「(唯先輩の言うとおりだ……律先輩、顔色が悪い…)」

唯「それでね…今後のことなんだけど」

律「なんだよ?」

唯「二人ともこのまま監禁するからね」

律「好きにしろよ……」

梓「…………」

唯「素直でよろしい」

梓「憂は…無事ですか?」

唯「うん、弱ってるけどね」

梓「そう…ですか」

唯「じゃー、ちょっと行ってくるから」


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最終更新:2010年06月08日 21:14