授業中。

唯「あ、教科書忘れちった。和ちゃん教科書見して~」

和「前後の席で見せ合うって無理あるでしょ」

唯「そっか。
  じゃあ立花さん見せて!」

姫子「え……いいけど」

唯「わーい」


机を寄せ合う二人。

姫子「はい」

唯「ありがとー」

姫子「……」


姫子「……」

唯「英語の授業って退屈だよね~」

姫子「そうね」

唯「この先生の話聞いてると眠くなるよね~」

姫子「うん」

唯「世界が嫉妬する髪へ」

姫子「へぇ」

唯「もー、立花さん反応薄い~」

和「……」


姫子「ていうかいま授業中なんだけど。話しかけないでよ」

唯「えっ、立花さんってけっこう真面目なタイプ?」

姫子「そうじゃないけど……
    目ぇ付けられて起こられたら嫌でしょ」

先生「こら、平沢、立花。さっきからうるさいぞー」

姫子「……ほら、怒られた」

唯「あうぅ」

姫子「静かにしててよ」

唯「はーい(小声)」

姫子「……」

唯「……」

姫子「……」カチカチ

唯「あっ立花さん携帯いじってる」

姫子「いいでしょ別に」

唯「あー、さっきは私に
  『授業中だから静かにしろ』って怒ってたくせに」

姫子「携帯いじってても静かでしょ。
    ていうかさっきからうるさい。黙ってて」

唯「逆に怒られた」

姫子「ったく……」カチカチ

唯「……」

姫子「……」カチカチ

唯「……」

姫子「……」カチカチ

先生「えー、で、だからつまりここがこうなる。
    では次に演習問題をやってもらおうかな……
    じゃあ、立花」

姫子「えっ」

先生「どうした、立花。
    ちゃんと授業を聞いてれば答えられるはずだぞ? ん?」

姫子「えー……と」

唯「答えは3番だよ、立花さん!」ヒソヒソ

姫子「え、あ、3番です」

先生「うん、正解だ。
    少し難しい問題だったが良くできたな」

姫子「あ、ありがとう平沢さん」

唯「えへへー、ここのページは
  昨日みんなで予習したからねっ」

姫子「みんなって、軽音部の?」

唯「うん、そうだよー。
  立花さんもちゃんと予習しなきゃだめだよー」

姫子「分かってるわよ。
    答え教えてくれて、ありがとう」

唯「えへへー」




昼休み。

唯「和ちゃーん、お昼ごはん食べよ」

和「ええ、いいわよ。
  今日は偶然にも澪と律とムギが休みだから、
  久々にふたりだけの食事ね」

唯「何その説明口調」

和「気にしないで」

唯「和ちゃんのお弁当、今日も美味しそうだね」

和「そうかしら。
  憂の作ったお弁当のほうが美味しそうじゃない?」

唯「隣りの芝は青いんだよ和ちゃん」

和「あ、そう」

姫子「……」がたっ

唯「あ、立花さーん。
  立花さんも一緒にお昼ごはん食べようよ~」

姫子「えっ」

和「……」

姫子「あー……私、購買行くから」

唯「じゃあ戻ってくるまで待ってるよ!」

姫子「いやいいよ、時間かかるし」

唯「大丈夫だよ、待つよ~。
  ね、和ちゃん」

和「……唯、無理に誘うのは良くないわ。
  立花さんもああ言ってるし」

唯「えー、でもー」

姫子「ごめんね、じゃ」たたっ

唯「あ、立花さーん……いっちゃった」

和「じゃ、食べましょうか」

唯「うん……」

和「……唯、立花さんと仲良かったの?」

唯「? ううん、さっきの英語の時間に初めて話したよ。
  でももっといっぱいお話したいな~って思って」

和「……そう」



放課後。

さわ子「はい、じゃあHRはこれで終わり。
     みなさん、さようなら」

生徒「さよならー」
生徒「さよーならー」
生徒「あーやっと終わったー」
生徒「つかれた帰ろー」

ざわざわ

唯「立花さん! 一緒に帰ろ!」

姫子「えっ?」

唯「ダメかな?」

姫子「いや、ダメ……じゃないけど。
    部活はいいの?」

唯「今日は澪ちゃんたち欠席だから中止だよ~」

姫子「あ、そう……」

和「……」


唯「ねー、一緒に帰ろうよ」

姫子「別にいいけど……」

唯「わーい、やったー!
  和ちゃんも一緒に帰ろ~!」

和「あ、私は生徒会あるから」

唯「そっかー、残念。
  じゃあ二人で帰ろっか、立花さん」

姫子「え、うん……」

唯「じゃあねー、和ちゃん」

和「うん、また明日…………
  ……………………」





音楽室。

梓「誰も来ない……」





帰り道。

唯「立花さんっていえどこなの?」

姫子「あー……中村橋を越えたとこ」

唯「へー、けっこう遠いんだね」

姫子「まあね」

唯「私はけっこう近いよ~」

姫子「へえ……
    ところで平沢さん」

唯「なに?」

姫子「なんで私のこと誘ったの?」

唯「え、だめだったかな?
  もっといっぱいお話したいなって、思ったんだけど」

姫子「ああ、いや別にダメってわけじゃないけど……ちょっと気になって。
    今まで全然話したことなんてなかったし」

唯「そういえばそうだねー、
  せっかく隣の席だったのに」

姫子「まあ、席が隣だってだけであんまり接点ないし」

唯「接点か~。
  立花さんはギター好き?」

姫子「あんまり音楽は興味ない」

唯「そっかー、うーん……
  放課後はいっつも何やってるの?」

姫子「バイトしてる」

唯「えっ、すごいねー、どこで?」

姫子「近所のファミレス」

唯「へー、すごーい……
  バイトしてるなんて大人だね~」

姫子「そんなことないでしょ……
    バイトくらいみんなやってる」

唯「いやー、でもすごいよー。
  立花さん大人っぽいと思ってたけど、
  バイトしてたからだったんだね~」

姫子「バイトのせいじゃないと思う…………ただ1コ上なだけだし」

唯「え?」

姫子「……」

唯「え? 1コ上って? 何が?」

姫子「あ、知らないんだ……
    私が留年してるってこと」

唯「え、留年してたの? 全然知らなかったよ!」

姫子「うん、留年してるの」

唯「でもなんで留年したの?
  成績悪かったの? 病気で入院してたとか?」

姫子「……」

唯「え、あ、ご、ごめんね。
  だめだよね、こんなプライヴァスィーのことに踏み込んじゃ……えへへ」

姫子「いや、別にいいよ。
    ただタバコやって何回か停学くらってただけ。あとバイク。
    うちの学校バイク禁止だから」

唯「ふーん、そうなんだ……
  ごめんね、変なこと聞いちゃって」

姫子「いいよ、別に気にしなくても……」


唯「……」

姫子「……」

唯「……」

姫子(空気が……死んだ)

唯「……」

姫子「あー……なんかごめん……
    同じ学年とはいえ、年上と一緒にいるのってアレだよね。
    私、こっちから帰るから」

唯「あっ、違うの、そういうのじゃなくて。
  ただ変なこと聞いて申し訳ないなって思って……」

姫子「それは気にしなくていいってば」

唯「分かった、もう気にしない。
  だから立花さんも私に気つかわないで!」

姫子「へっ」

唯「立花さん年上でも、私気にしないから!
  同じ教室で隣同士のクラスメイトだもん!
  大事なお友達だもんね」

姫子「と、友達……」


唯「あ、ダメ……? 友達……」

姫子「えっ、ううん、そんなことないよ……
    まさかそんなこと言われるなんて思ってなかったから……その」

唯「あっ、立花さん顔赤いよ!」

姫子「こっ、これは……違」

唯「えへへー、立花さんってカッコイイ系だと思ってたけど、
  けっこう可愛いよねっ」

姫子「もう、からかわないで」

唯「へへ、ごめんごめん。
  そうだ、あのさ」

姫子「何?」

唯「下の名前で呼んでもいい……?」

姫子「うん、いいよ」

唯「わーい、姫子ちゃんっ」

姫子「唯」

唯「えっへへー」

姫子「ふふっ」




翌日、教室。

ガラッ
和「おはよう、ゆ……い」

唯「あ、おはよー和ちゃーん」ぎゅーっ

姫子「ま、真鍋さん……おはよう」

和「何やってるの、唯」

唯「何って、姫子ちゃんに抱きついてる」

和(姫子……ちゃん……!?)

姫子「あはは……」

和「唯、離れなさい。
  立花さんが迷惑してるでしょ」

姫子「あ、私は大丈夫だから」

唯「そーだよー。
  私たち友達だもんね~姫子ちゃん!」

姫子「うん、そうだね」

和「……………………」


…………

さわ子「じゃあ朝のHRはこれで終わり。
     今日も一日頑張ってね~!」

わいわいがやがや

姫子「じゃね、唯」

唯「あれ、移動教室?」

姫子「うん、私化学とってるから」

唯「そっかー、じゃあまた後でね~」

姫子「うん」

唯「私たちは生物だね、和ちゃん」

和「え、うん、そうね……」

唯「どしたの?」

和「あー、なんていうか……
  唯、立花さんと仲いいの?」


唯「うん、そうなんだー。
  昨日一緒に帰って仲良くなったんだよ~!」

和「ふーん……
  言いにくいんだけどさ、唯……」

唯「なに?」

和「立花さんと仲良くするのはやめておきなさい」

唯「えっ……な、なんで!?」

和「なんで、って……知ってるでしょ。
  あの人、留年してるのよ」

唯「それは昨日姫子ちゃんから聞いたけど……
  なんで留年してたら仲良くしちゃいけないの?」

和「私生徒会だからよく知ってるんだけど、
  立花さん去年タバコで何度も謹慎処分くらってたのよ。
  それにバイクの免許もとったりしてて、
  授業も出席日数ギリギリしか出てなかったのよ。
  あとちょっとで退学になるところだったらしいわ」

唯「……姫子ちゃんがそういう悪い子だから、
  仲良くするなってこと?」

和「ええ、そうよ。
  友達は選ばなきゃダメよ、唯。
  あんたの世間体にも関わってくるんだから」


唯「せ、世間体って……
  私、そんな考えで友達作りたくないよ。
  ただ姫子ちゃんと仲良くしたいから仲良くしてるの!」

和「私は唯のためを思って言ってるのよ。
  あんな不良と友達になるのは、唯にとって良くないわ」

唯「私にとって良いか悪いかなんて、
  和ちゃんが決めることじゃないよ!」

和「あんたが不良と付き合ってるって知ったら、憂だって悲しむわよ」

唯「憂は関係ないじゃん!」

和「関係あるわよ。いいから立花さんと仲良くするのはやめなさい!
  あんな不良と友達になるんじゃありません!」

唯「やだ! 姫子ちゃん良い子だもん!
  私は姫子ちゃんと仲良くしたいのっ!」

和「唯っ!」

唯「和ちゃんの馬鹿! あんぽんたん! ババア声! 高校デビュー!
  もういいよ! 和ちゃんなんて大っきらい!!! ふん!!!」

和「唯っ……」

キーンコーンカーンコーン

先生「はーい授業始めるぞー」


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最終更新:2010年06月11日 23:31