08月09日/19時12分46秒  平沢唯

唯「ふぅ…やっと帰って来れたあ…」

何度も迂回をしながらの帰り道。
途中危ない場面はあったものの、一度も“奴ら”に見つからずにここまで辿り着けたのは幸運であった。

玄関のドアノブに手を掛ける。しかし、拭い切れない不安がそれを開くことを躊躇させる。

唯「きっと大丈夫だよね…!」

意を決してドアを開ける。

唯「ただいまー!」

努めて明るい声を出した。
リビングの奥、キッチンに立つ妹の姿が見える。

憂『お姉ちゃんおかえり!』

いつものように包丁でまな板を叩きながら振り返り
いつものような優しい笑顔で、いつもと同じことを言う妹
いつもと変わらない平和な光景


―――そう思いたかった。


唯「そんな…ウソだよ…」

憂「イヒッ…ヒッヒッ…アハハハハハッ!」

まな板の上には何か判別できない赤い塊が乗せられている。
それを狂ったように包丁で叩き続ける憂は、紅い涙を流していた。
妹の姿を直視できず、その場にへたり込む。

唯「ウソだよね…憂ぃ…」

その声に気づいた憂がゆっくりとこちらに振り返る。

憂「おねえ…ちゃん…」

包丁を握ったままゆっくりとこちらに近づいてくるが、立ち上がれなかった。
とめどなく涙がこぼれた。
目の前で包丁を振り上げるのを見ながら、この子になら殺されてもいいかな、と思った。


「唯ちゃん!」

二回の爆音とともに憂の体が後ろに倒れる。
驚いて振り向くと、ひとりの少女が銃を構えて立っていた。
もう一度視線を戻す。憂は少しあがくような素振りを見せた後、蹲るような格好で動きを止めた。
唯は思わずその妹の体にすがり付く。

唯「憂!憂ぃ…!」

「唯ちゃん…悲しいけれど、それはもう憂ちゃんではないわ」

「行きましょう。しばらくすると、また動き出すの。」

唯「いやだよ…憂ぃ…」

少女は少しだけ、その姉妹に時間を与えたあと、唯の腕を掴んで無理やり立たせた。

「しっかりして!憂ちゃんは起き上がったらまた唯ちゃんを襲わなきゃならないの。」

「そんなこと、憂ちゃんが望むわけないでしょう!」

唯「ムギちゃん…」


―――

紬「落ち着いた?」

唯「うん…ごめんね、ムギちゃん」

紬「いいの。唯ちゃんのつらさは、よくわかるから。」

紬「さあ行きましょう?どこか安全な場所を見つけて、それからりっちゃんや澪ちゃんを探さなきゃ。」

唯「うん!…ところでムギちゃん」

紬「?」

唯「どうして鉄砲なんて持ってるの?」

紬「ふふふ、ヒ・ミ・ツ」

唯(琴吹グループ恐るべし…)




08月09日/17時31分17秒  琴吹紬

紬「うう、どうしよう…」

紬「家に帰ったはいいものの、まさか皆手遅れだったとは思わなかったわ…」

紬「慌てて自分の部屋に逃げ込んでしまったけれど…ずっとここに居るのは危険だよね」

紬「どうにかして逃げだそう。」

腹をくくった紬は部屋の壁にかかる絵の入った額を取り外す。
その裏の壁には小さなへこみでスペースが作られてあった。
そこに置かれた一丁の拳銃といくつかの弾薬を手に取り、扱い方を思い出してみる。

紬「『備え在れば憂いなし』…当時私は反対したけど、親の言うことは聞いておくものね。」

マガジンをカチャリとはめ込み、安全装置をはずす。

紬「よし…!」

終了条件:琴吹家からの脱出




目を閉じて視界を覗く。

紬「一階はエントランスホールに一人、客間に一人…今いる二階は廊下に一人…」

紬「!」

紬「もうひとりこの部屋に向かってくる!」

とっさにドアから離れ、銃を構えて待ち構える。
しばしの後、だいたい予想していたタイミングでドアが開かれた。

紬「斉藤…」

銃を握る手が震えた。当然だ。
いくら奇矯な父親から特殊な教育を受けていたとしても、自分はただの女子高生だ。
できることなら、撃ちたくなんてない。ましてや相手は見知った顔だ。
一縷の望みをかけて、語りかけた。

紬「少しでも意思が残っているなら、下がってください…!」

だが期待もむなしく、長年琴吹家に仕えた老執事は腰の無線装置で誰かと何事かを通信する“真似事”を見せた後
銃をこちらに向けてつぶやいた。

斉藤「了解…射殺します…」



斉藤の銃から放たれた弾丸が、顔の横を抜けて背後の壁に当たったとき、
頭の中で、何かの糸が切れた気がした。

紬「わああああぁぁぁぁ!」

引き金を引く。
斉藤はよろけるが、まだ倒れない。
もう一度撃ち込んで、ようやく倒れた。
丸く蹲るような、奇妙な体勢をとっている。

「イイイィィイィィ!!!」

銃声を聞きつけたのか、奇声とともに調理着姿の男が部屋の入り口から現れた。

紬「ああああああぁぁぁぁああ!」

もう、ためらいは無かった。


紬「ハァ…ハァ…」

蹲る二体の死体を見下ろす。

紬「私…こんなこと…できちゃうんだぁ…」

自分の薄情さに、涙が出そうになったが堪えた。
泣いている場合ではない。
自分ができてしまうのなら、できない誰かを代わりに守ってあげなければいい。
それが正しいのかどうかはわからなかったが、こんな異常な状況では少なくとも間違ってはいないだろう。
そうやって自分の薄暗い面に蓋をするようにして、紬は歩き出す。

紬「行こう…」

1階のエントランスホールでもう一人を処理して ―もう何も、考えないことにした― それから玄関から外へ出る。

紬「一番心配なのは…よし、まずは唯ちゃんを探しに行こう。」

前庭を歩き始めたその時、またサイレンの音がどこかから響き始めた。



銃声が鳴り、左腕に激痛が走る。

紬「つぅっ!」

振り返ってみると、さっきまで自分がいた部屋のバルコニーから、
倒れたはずの斉藤が銃を向けているのが見えた。
どうやら弾は左腕をかすったようだ。

紬「そんな…」

うつろな顔でもう一度発砲する斉藤。
今度は少し離れた地面の土が跳ねた。

紬「いやっ」

あれが、あれらがいったい何なのか、直感的に解った。
あれになってしまった人はもうすでに人ではない、別の何かに―――
紬は、全力で駆け出した。


―――終了条件達成




澪「りんくなびげーたー!」


17時[律 澪宅へ          ]
   [紬 琴吹家から脱出      ]new!
18時[澪 律と合流         ]
   [唯 学校から脱出       ]
   [梓 唯と遭遇、その後自宅へ  ]
   [唯 梓に救われる その後自宅へ]
19時[紬 帰宅中の唯を見かける   ]new!
   [唯 帰宅、その後紬と合流   ]new!




08月09日/21時04分41秒  秋山澪

澪「またサイレンだ…」

澪「なあ律、あれはいったい何なんだ…?」

律「わかんねーよ…とにかく、事が収まるまでこの部屋からは出ないでおこうぜ。」

澪「そうだな…」

澪(みんな、無事かな…)

不意に玄関を叩く音が響いた。

澪「!!」

律「シッ!静かに!」

「せんぱーい!」

澪「えっ…?」




08月09日/19時58分02秒  平沢唯

紬「唯ちゃん、電気をつけると危ないから、そこにあるライターでこのロウソクに火をつけてくれる?」

唯「うん!」

言われたとおりに火を灯し、ライターはポケットにしまう。

唯「ムギちゃん…みんなは大丈夫かなあ?」

紬「きっと大丈夫…もう少ししたら探しに行きましょう?」

唯「うん、そうだね!なんだか今日はいっぱい走って疲れちゃったよ。」

紬「ふふふ…唯ちゃんはどんな時も変わらないわね。」

とある民家の一室。
平沢家を出た唯と紬は当面の安全を確保するために手頃な一軒家を拝借して体を休ませていた。

紬「ねえ唯ちゃん…」

紬「…?」

紬「くすっ、寝ちゃってる…」




08月09日/20時41分35秒  琴吹紬

サイレンが聞こえる。
その音を聞いているうちに、奇妙な感覚を覚えるようになった。
自分の中の理性ではなく、別の何かがざわざわと呼び起こされるような―――
―――呼ばれている

隣では安らかな顔で唯が寝息を立てていた。

紬「唯ちゃん…ごめんね。」

自分の残り時間がもう少ないことを察した紬は、何事かを親友に書き残して部屋を後にした。





08月09日/20時40分53秒  中野梓

町を一人彷徨う梓

梓「先輩方…どこに…」

梓「そういえば私…どうしてこんな所を歩いてるんだろう…」

梓「確か一度家に帰って…ううん、思い出せない…」

梓「とにかく、ここから一番近い澪先輩の家に行ってみよう。」

不意に雪のようにほのかな光が舞っているのに気が付いた。
思わず顔を上げる。

梓「わぁ、きれい…!」

梓「オーロラみたい…」


終了条件:秋山家へ到達





梓「えっと、確かこっちの道だったよね」

梓「うう、でもここは迂回していかないとまずいな…よしっ」

梓「ふう、このやりかたにも随分馴れたなあ」

梓「暗さにも馴れて、夜目が利くようになったし」

梓「どれ、他に周りに居ないかもう一度確認を…」

目を閉じて意識を自分の後ろに向けたとき、自分の後姿を眺める“誰か”の視界が飛び込んできた。
その荒い息遣いから人ではないことは瞬時に判断できる。

梓「!  しまった!」

慢心からか迂闊にも背後を許してしまったらしい。
咄嗟に目を開けて逃げ出した。


角を一気に二つ曲がり、もう一度目を閉じる。
どうやら追っては来ていない様だ。

梓「よかった…」

安心して辺りを見回すと、前方に見慣れた後姿を見つけた。

梓「あれは…憂!?」

思わず駆け寄って、声を掛ける。
すぐにまずは確認するべきだったと後悔した。先ほどからどうにも頭が回らない。
振り返る憂。

梓「…!」

梓「ウソ…憂まで…」

すぐに身構えるが、予想に反して憂はこちらを見ても動かない。
一度にぃ、と笑い、それから奇声を上げながらどこかへ駆けていった。

梓「…?」



どうやら助かったようだ。
親友の変わり果てた姿。
なぜ助かったのだろう?
鳴り響くサイレン。
憂もだとすると唯先輩は?

多くの疑問が頭の中を回る。
しかし、どれも一向に像を結ぶことは無かった。
―――そしてそのまま、どうでもよく思えていった。

気が付くと澪の住む家の前に立っていた。
何も考えずに玄関のドアを叩く。

梓「せんぱーい」


―――終了条件達成




08月09日/21時06分59秒  田井中律

「せんぱーい」

澪「えっ?」

律「この声…梓!?」

2人で顔を見合わせてから、玄関に走る。

「あけてくださいよ、せんぱーい」

澪「梓、今開けるぞ!」

「せんぱーい」

玄関の鍵を開けようとする澪を、律は制止した。

律「澪…ちょっと待て」

澪「なんでだよ!梓が危ないだろ!」

律「…なんかおかしくないか?」

「せんぱーい」

澪「え?」

「せんぱい、あけてください、せんぱーい」

ビクリとして硬直する澪をどかし、ドア越しに語りかける律。

律「お前、梓か…?」

「せんぱーい」

まさか。まさか。まさか。
澪が隣で泣き始めた。
うそだ、そんなことがあっていいはずがない。
震える体を抑えて、玄関の覗き穴から覗き込んだ律の目が見開かれる。

「せんぱあぁい、あけてくださいよぉぉぉぉ」

律「梓…」

律はその場にへたり込むことしかできなかった。




紬「りんくなびげーたー!」

17時[律 澪宅へ          ]
   [紬 琴吹家から脱出      ]
18時[澪 律と合流         ]
   [唯 学校から脱出       ]
   [梓 唯と遭遇、その後自宅へ  ]
   [唯 梓に救われる その後自宅へ]
19時[紬 帰宅中の唯を見かける   ]
   [唯 帰宅、その後紬と合流   ]
   [唯 民家で体を休める     ]new!
20時[紬 民家を出る        ]new!
21時[梓 秋山家へ         ]new!
   [律 梓と遭遇         ]new!




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最終更新:2010年06月15日 01:26