唯「なにそれ?」
和「唯ったら、やっぱり知らなかったのね。今年から、桜が丘高校でもスール制度を導入することになったのよ。」
唯「すーる……」

和「スール、日本語で言うと姉妹ね。先輩・後輩で義理の姉妹関係を結んで、授業・部活動や生活面での面倒を見てあげるのよ。」
唯「な、なるほどぉー。」
和「……とはいえ、『姉妹とはこうあるべき!』っていう完全な指標があるわけでもないし、現段階では『先輩後輩で仲良くしましょう』ぐらいの感覚でいいみたい」
唯「ふーん」
和「ちなみにスール契約はロザリオの授受で行われるの。近隣の女子高がこの制度で風紀を保っていることを受けて、うちでも試験的に導入することになったのよね。
おかげでここ何週間、生徒会の面々は大忙しよ……ふあぁ……」
唯「和ちゃんが欠伸するなんて……お疲れさまだよ~……」
和「ありがとう唯。詳しいことはさわちゃんから発表があると思うから、ちゃんと聞くのよ」
唯「はーい!」

さわ子「という訳で、これから皆さんにロザリオを配ります。他の子のと混ざらないよう、配られたら後ろに名前シールを貼ってね。」

ガヤガヤ

唯「わぁ、ロザリオかわいーっ!青くてキラキラ!」

さわ子「ご覧の通り、3年生のみんなには青い飾り石のついたロザリオを渡しています。2年生は赤、1年生は緑、ネクタイの色と同じね。少なくともこれから1週間の間は見えるところにつけること!」

さわ子「もう一度言いますが、スール契約の期間は一週間です。一週間の間にスールが見つかったら、その子とロザリオを交換してください。」

さわ子「学年間の積極的な交流を促すために、この一週間だけは初対面の相手でも好きに話しかけていいことになってるわ。
でもネクタイの色と違う色のロザリオをつけている生徒は、もうスール契約が済んじゃった子たちだから声を掛けちゃだめよ。」

さわ子「それから、もし相手が見つからなくても心配しないでね。一週間の期間が過ぎてスールのいない子には、同じようにスールのいない下級生を集めた抽選会があります。どのみち一人ぼっちにはならないから安心してね」

さわ子「それじゃあ、スール探しは今日の放課後17時から来週の火曜17時までです。健闘を祈るわ」


「誰にしよっかなぁ」「楽しみ♪」「受け取ってくれるかなぁ?」「どうしようかな」
ざわざわ


唯「何かみんな楽しそう……私もわくわくしてきちゃった♪」



………

16:30

梓「……」そわそわ

ガチャッ

梓「!」ぴくっ

律「よーっす!ってあれ?梓だけかー」
梓「な、なんだ……律先輩ですか……」
律「なんだとはなんだ?!こんの~」
梓「わ、やめ、やめてくださいー」

ガチャ

梓「!」ぴくっ

紬「あら楽しそう」
澪「律、後輩いじめもほどほどにな」

梓「……せ、先輩達でしたか」どきどき

紬「?」

律「聞いてくれよムギ、澪。梓が何か変なんだよ。」
澪「へん?」
律「今日は妙に挙動不審っていうかさぁ」
澪「そうなのか?梓。具合が悪いなら……」

ガチャ

梓「にゃ゛!」ビックーン

唯「やっほー!……ってあれ?何してんの?」

梓「ッゆゆゅゅ唯先輩、お、お、遅いですよ!もう!」

澪・律「?」
紬「(……なるほどね。)」



16:50

梓「……」そわそわ

唯「ぅはーっ、この一杯のために生きてるよ」
澪「紅茶をビールみたいに言うな!」
律「唯係長、やはり飲みニュケーションは大事ですなぁ、飲みニュニュケニュ」
澪「意味が違うし噛んでるし」
紬「ふふふ、どんどんおかわりしてね。お菓子もまだあるから」

梓「……」ぱく……

紬「梓ちゃん、あんまり進んでないわね。どうしたの?」
梓「へ!?」びく
紬「……さっきから唯ちゃんの方ばっかり見てるけど?」ぼそ
梓「なっ、なっ、ちが……」


律「あ!」

梓「!?」びくっ


律「そういえば今日からだなぁ、えーと、ドライブ……」
唯「スルー!」
澪「スール制度な」

梓「!!!」びくびくっ
紬「……」にまにま


唯「みんなどうするのー?もう決めたの?」

梓「……」そわそわ

澪「って言ってもなぁー。私達の後輩って梓一人だろ?全員が梓の姉になるのは無理だしなぁ」
律「こういう時はあれだ、梓の手を引っ張って強い方が勝ちと見せつつ先に離した方が勝ちみたいな……」
澪「童話か!」
唯「あーそれ知ってる!」
澪「乗るな!」
律「まぁでも、うちの部だけじゃどっちにしろ上級生が余るからな。サイアク抽選でもいーや、よく分からんし」
唯「律ちゃんだったら誰と当たっても仲良くなれそうだもんね~」


紬「それで、梓ちゃんはどうしたいの?」
梓「わ、私は……」
澪・律「?」
梓「ゆ」


唯「あ!」

全員「!?」

唯「憂がいるじゃん!ねぇねぇ、私は憂にするからみんながあずにゃんと組んでいいよー!」

梓「……」ガーン


澪「あぁ、そういえばそうだな。スールっていうかリアル姉妹だし」
律「色々と立場逆転してるが、憂なら唯の面倒ちゃんと見られるしな」

梓「……」ふるふる

唯「ぶー!律ちゃんひどい!私だって憂の面倒…………あれ?見たことあったっけ……」
律「あはは、全然だめじゃん!」
唯「そ、そんなことないよ!ちゃんと面倒見てるけど、でも、……あれ?あれぇ……?……お、思い出せないだけだよ!」
澪「憂ちゃんの苦労が思いやられるな」

わいわいがやがや

梓「……」

梓「……」つつー、ぽろり

紬「(あ、泣いた)」


唯「よぉっし!そうと決まれば善は急げだね!ちょろっと憂に渡してくるよー!」

澪「ちょうど17時だしな」
律「転ぶなよー!」

唯「分かってるって!じゃ、行ってきまー……」

ガチャ


律「どした?」

唯「み、みおちゃん!にげてー!」

澪「!?」



ぞろ……

ぞろぞろぞろ……

ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ

「「「「澪先輩!!」」」」



澪「ひ、ひぃぃー!?」



「澪せんぱい!私のロザリオを」「いいえ私のを」
「受け取ってください澪先輩」「先輩しかいないんです」
「好きです」「愛してます」
「お慕いしております」「月がきれいです」
「さぁロザリオを!」「ロザリオを!」
「ロザリオを!」「ロザリオを!!」ぞろぞろぞろぞろ


澪「だ……誰かー!!」


律「……壮絶だな」
唯「澪ちゃんファンクラブのみんなだねぇ……」
梓「……」
紬「ファンクラブ以外の子もいるみたい。部屋がパンクしそう……」オロオロ



「澪先輩こっち向いて」「澪先輩私のロザリオを」
「澪先輩澪先輩」「澪先輩のロザリオをもらえば」
「ずるい!私が澪先輩のをもらうわ」「澪先輩をもらうわ」
「ロザリオは私の」「私の」
「澪先輩は私の」「私の」

澪「押さないで……あ、ぐぎ……い……ロザリオは引っ張っちゃ……だ……め……」


梓「せ、先輩の首が!!」
唯「み、澪ちゃん!!!」
紬「みんなやめて!!あぁ、誰も聞いてない!!」

律「……ち、見てらんねーな」

タッ

唯「律ちゃん!?」



律「……おまえらーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

下級生ズ「!」びくっ

律「その手をはなせ!!勘違いしているようだが……」



律「澪は私のだ!!!」



下級生ズ「!?」



澪「り……律……!?」

律「ロザリオだ?スールだ?知らねーよ!こちとら何年一緒だと思ってんだ、お前らに澪は渡さない!!」

澪「律……」

律「澪、こっちこい!」ぐいっ
澪「え?」ふわっ


下級生ズ「!?!?!?」


唯「お姫様だっこー!?」
梓「なんて無茶を!」
紬「(ビデオカメラ持ってきたらよかった……)」


律「どけどけどけー!田井中律様のお通りだーーーーー!!」

下級生ズ「きゃああーっ」


ドタドタドタドタドタドタドタドタ


唯「行っちゃった……」
梓「下級生達がモーセの十戒のように道を開けましたね」
唯「すごい勢いだったよね。……ムギちゃん、どうしたの?」
紬「待って話しかけないで今の動画データを脳内フォルダに厳重保存してるから」ジジー……ピピピ
唯「サイボーグ!?」



その後

下級生ズ「すみませんでした!!!」

梓「(こう大勢に一斉に謝られると壮観……)」

唯「で、でも、悪気はなかったんだよね……」

下級生「はい、それは!私たちはただ澪先輩をお慕いする一心で……」
下級生「ただ、他の生徒も同じようにお慕いしていたので、負けたくないと思うあまり……」
下級生「つい熱くなって……」
下級生「完全に我を忘れていました。ごめんなさい……」

唯「い、いいよぅ、大丈夫だよぅ……(こんなにたくさんの子にいっぺんに謝られても、怖いよー)」
紬「秋山さんには私たちの方からちゃんと伝えておくから。ね?」
梓「先輩達も荷物置いたままですし、このままでは帰ってきづらいかと。今日のところは……」

下級生ズ「はい、失礼します……」

ガチャ

ぞろぞろとぼとぼとぼ……

唯「あ、あんまり気に病まないでねー……?」


梓「帰りましたね」
唯「ふぅ……何だか一日分の体力使ったよー」
梓「唯先輩は何もしてないじゃないですか」
唯「疲れた時には甘いものだよね、ムーギちゃーん!」
紬「はいはい」
梓「それが目的でしょ!」



唯「ぷっはー!一仕事のあとのいっぱいはカクベツですなぁ!」
梓「突っ込みませんよ」
唯「あずにゃんひどーい。今日はツンデレさんな気分なのかなぁ?」
梓「ち、違います!でも……」
唯「?」
梓「なんでもないです!」

梓「(唯先輩は、私をスールにしてくれない……)」

梓「……なんでも……ないです……」


~♪

唯「だれ?」
紬「私ね。……あ、和ちゃんからだわ」
唯「和ちゃん?なんのメール?」
紬「ん、ちょっと待ってね……」

ぷちぷち

紬「あら」
唯「なになに?」
紬「……唯ちゃん、憂ちゃんは和ちゃんのスールになったんですって!」
唯「ええっ!?」
梓「え!?」

紬「唯ちゃんを好きな子同士、気が合ったのかも。和ちゃんと話してみる?」

唯「う、うん!」


rrrrr

和『どうかした?』
唯「和ちゃん、憂がスールになったってほんと!?」
和『本当よ。元々面識あったし、気が合うから』
唯「そっかー……うぅ、和ちゃんならしっかりしてるし文句ないけど……」
和『安心して。スール制度をやってる大元の学校は、山百合会って言って、代々スールが生徒会を継ぐことが多いけど』
和『うちの学校にはそういうのもないし、今までとあまり変わらないと思うわ。』
唯「そっか……」
和『大丈夫、あなたの妹さんはちゃんと大事にするわ。任せて』
唯「……そうだね、ありがと!ちょっとびっくりしたけど、和ちゃんなら全然いいや!よろしくね!」
和『ええ、こちらこそ。じゃあね』


ピッ

紬「どう?」
唯「うん、和ちゃんならいいやって感じ!しっかりしてるし、私もお世話になってるし。」
紬「そう、よかった」
唯「あ、でも私のスール探しが振り出しに戻っちゃった。どうしよっかなぁ?」
梓「!」

梓「あ、あの……」

ガチャ

律「たっだいまー!」
澪「ただいま……」

唯「律ちゃん澪ちゃん!」
紬「おかえりなさい!」
梓「おかえりなさい先輩……(言えなかった……)」


律「やー、さっきは散々だったなぁ澪」
澪「こわかった……」がたがた
紬「だけど律ちゃんかっこよかったわ。王子様みたいだった」
律「だっろー?ははは」
澪「こ、こら////」

唯「あれ?二人ともロザリオ赤いやつだ。どうして?」

澪「あぁ、これか?実はあのあと……」



  • 回想-


律「ふぅ……ここまで走れば大丈夫かな」
澪「お、おろして……はずかしい……こわい……」
律「あぁ、ごめん。よっこらしょ」どすっ

澪「びっくりした……律があんなことするなんて……」
律「いや……自分でもよく分からんのだが、何か見てらんなくなってな。こう、かっとなったっていうか、澪にさわるなーみたいな……」
澪「律……」

律「なぁ澪。この際だから、言っていいか?」じっ

澪「な、なに……?////」



律「……ダイエット……した方が……」



澪「……」

ゴッ

律「いってえー!」
澪「重かったのか!?重かったんだな!?余計なお世話だ!!そ、そもそも誰も運べなんか頼んでないし!!」
律「なんだとぅ!?おまえというやつは、人様の厚意を……」


ファンクラブ×2「澪先輩律先輩!」

澪・律「!?」



律「こ、ここまで追ってくるなんて……」

ファンクラブ1「違います!」
ファンクラブ2「私たち、もう澪先輩のことは諦めてます!ただ……」

澪「ただ?」

ファンクラブ2「澪先輩と律先輩に幸せになってほしくて……」

律「……どういうことだ?」


2
最終更新:2010年06月16日 00:32