―― コストコ 多摩境店――


唯「でえええええっかあああああーい!」

律「うっひょー。なんだこれ。買い物するところっていうか、まんま倉庫じゃねえか」

紬「あのね、コストコは元々、飛行機の格納庫として使われていた倉庫を改良したのが始まりなんだって」

律「流石ムギ! 物知りだな」

紬「前から一度来てみたくて、少し調べておいたの♪」

澪「おい、あんまりはしゃぐなって。ただでさえ人が多いんだから……」

唯「ね。さっき開店したばかりなのに、もうエスカレーターの当たりまで行列ができてる」

梓「…………」

律「ん? どうしたんだよ梓。これから買い物スタートなのにしょぼくれて」

梓「いや、あの、本当に入っちゃうんですか?」

唯「せっかく来んだから行こうよ~。会員の和ちゃんから招待券貰ったんだし!」

梓「招待券、ですか……。なるほど」


唯「すいませーん。高校生五人でお願いしまぁす」

店員「いらっしゃいませ。お客様はコストコははじめてでいらっしゃいますか?」

唯「そうです! ふんす!」

澪「あ、でも招待券があって、これがあれば入れるんですよね?」

店員「はい。でしたらまず、本日限りのパスを発行していただければなりませんので」

店員「お手数おかけしますが、一度出口前のカウンターの者にお声をおかけ下さい」

唯「りょーかいしました!」

紬「入り口と出口が完全に分かれてるのね」

律「へぇ。普通のスーパーとはちょっと違うって聞いてたけど、まさにその通りだな」

梓「そんなことで驚いたら、先が持ちませんよ」

律「ん? 梓は前にコストコにきたことがあるのか?」

梓「……とりあえず、早くパスと交換してもらいましょう」

唯「すいませーん。パスと交換? っていうのお願いします!」

店員「いらっしゃいませ。招待券はお持ちですか?」

唯「はいっ! どうぞお納め下さい」

店員「でしたら、まず、本日限りのパスを発行することはできますが」

店員「料金が会員様価格から5%プラスとなってしまいます」

澪「え? プラスされるんですか?」

店員「はい。券のこちらの方に書かれてもいることですが」

店員「コストコの全ての商品は会員様価格となっておりまして……」

店員「入場パスのお客様には、会員様への割引価格が適応されないことになっているんです」

律「ありゃあ……誰も気づいてなかったのか」

紬「まぁ、でも、5%くらい……」

梓「…………」

店員「ですが、一度会員様になっていただき、お帰りのさいに解約していただければ」

店員「入場パスでお買い物をされるより、5%安くすることはできますが」

唯「えっ!? そんなことしていいんですか?」



店員「はい。まずコストコ会員登録についての説明からさせて頂きます。こちらを御覧下さい」


コストコホールセール2大保証

商品保証:全商品について、会員の皆様に万一ご満足いただけない場合には、商品と引き換えの上、代金を全額お返しいたします。

会費保証:会員の皆様に万一ご満足いただけない場合には、メンバーシップ有効期間中であればいつでも年会費を全額お返しいたします。


店員「こちらの下の方にあります通り、メンバーシップ有効期限内」

店員「つまり一年以内であれば、いつでも会員登録料金の方は返却させていただきます」

律「すげぇ。それじゃ実質年会費なんてないようなものじゃないか」

澪「おい、その言い方……」

店員「ご満足いただけない場合とありますが、やはり年会費という面から途中退会される方もいらっしゃいますよ」

店員「あちらにも。にこっ」

唯「あ、ホントだ。じゃあ、せっかくなら安い方がいいし、会員になろっかなぁ……」

梓「――!?」

店員「ちなみに会員登録料金につきましては、四千二百円となっております」


唯「じゃあそうします!」

店員「はい。でしたら、会員登録につきましてはあちらのカウンターになりますので」

店員「ご案内いたします。どうぞこちらへ」

唯「ははーい」



律「ま、唯が和から貰った招待券で来たんだから、唯におまかせしとくか」

紬「それにしても凄いサービスねぇ」

澪「本当だな。例えば一年経つ一日前に退会して入り直せばいいってことだもんな」

律「なんかセコイけどな」

梓「あの、私からさらに説明しますけど」

梓「退会した場合、その日から一年間の再登録はできないんようになってるんです」

律「なんだ。まぁ、よく考えてみたら、それくらい当たり前なのか」

澪「でもさ、私たち五人で登録をまわせば五年分タダで……」

律「おーい、みおー。それ以上は口に出さないでおけー。お姉さんの笑顔が怖いぞー」


唯「登録完了しました!」

律「おし! んじゃさっそく中に入ろうぜ」

唯「それでもって、招待券を一枚もらっちゃいました!」

澪「へ?」

唯「招待券がにまい~、なんか得した気分~♪」

澪「得にはならないんじゃないか……」

紬「まぁまぁ。早く入りましょう」



店員「いらっしゃいませー。会員様ですね、どうぞいらっしゃいませー」

唯「うわぁ。中に入ってみるとやっぱりひろぉい」

律「ぬおう! いきなり入り口に薄型テレビが置いてあるし!」

紬「店員さんに外国の方も多いみたいね~」

澪「って、周りの人たちみんなカートを押してるけど、私たちはいいのか?」

律「あれ。そういえば確かに」

梓「みなさん待って下さい! カートは私が押してますから!」

律「ありゃ、小さすぎて気づかんかった」

梓「身長なら、私と律先輩は少ししか違わないじゃないですか」

唯「あずにゃんごめんねぇ。つい夢中でカート忘れちゃってて」

紬「梓ちゃん重いでしょう。私が持つから」

梓「これくらいなんちゃら平気です! 開店すぐ後の店内は混雑してますから、私でないと」

律「いや、それなら尚更……」

紬「梓ちゃん、私よりコストコのことに詳しそうな」

梓「ええとですね、まずだいたいですが、コストコの通路はカートを縦にすると四台分が通れるスペースが空いています」

梓「ですが、これだけの商品ですから当然立ち止まったりも多くなるんです」

梓「なのでここは経験者たる私が巧みなカート使いでトラブルを未然に……」

唯「あずにゃんコストコに来たことあったんだ」

梓「あ、つい熱くなって、うっかり……」

梓「ともかく私が押しますから、店内を見てまわりましょう」

律「ま、お頼みしますか」

唯「おっきいカートを押すちっちゃいあずにゃん可愛い~」

紬「そんな唯ちゃんの視線と梓ちゃんの強がりがまた……」

澪「いいから行くぞ」



律「えーとまずは、って入り口付近には大型の電化製品が集中してるのか」

紬「この前ホームセンターで見たものがいくつかあるわね~」

澪「掃除機から、アイポッドまであるな。というか大型商品なのに量が半端じゃない……」

梓「まぁ電化製品に限らず大量に仕入れるのがコストコのモットーであり秀でた特徴ですから」

律「でも私たちが買うものじゃないな。えーとこの先は……」

唯「りっちゃん! 銅像が置いてあるよ!」


澪「ホントだ……。どうして銅像なんかが」

紬「お寺さんの人たちが買っていったりするのかしら?」

律「いやいやそれはマズイんじゃないか」

紬「僧の方が祈り捧げば、それはどんなものだって神像になったりしないことも……」

律「そういう影の仕組みはいいから、先行くぞ」

唯「コストコにょらい像と、ハイチーズ!」

梓「なに勝手にマスコット的な扱いをしてるんですか!」


律「やっと食料品らしきものが見えてきたな」

梓「ですが、ここで沢山買い込んでは後が大変なことになりますよ」

梓「マフィンの恐怖……チキンの誘惑……そしてビザの通天」

唯「とーれーなーいー!」

澪「って、おい何やってるんだよ唯」

唯「あのね。この二段目の乾燥パスタが取れなくって」

梓「だめですよ唯先輩、ビニール引っ張っちゃ」

梓「一般のお客さんが普通に買うものは取りやすい頭の下からになってるんですから」

唯「私からすると目の下だけど」

梓「細かいことはいいんです! よく見てください、商品が何十個とビニールに包まれているでしょう」

律「あ、ホントだ。それに板の台みたいのにのってる」

梓「収納スペース術ですよ。倉庫を改良するアイデアで、深夜なんかに在庫の出し入れをしているんです」

梓「板の上に乗ってるのはフォークリフトで出し入れするためです」

紬「この一塊、全部買っていく人っていたりするのかしら?」

梓「それは中には……ってムギ先輩今はやめて下さいよ」


唯「二段目の上に三段目。三段目の上に四~」

律「首がッつるッ」

梓「真面目に買うものを探して下さい!」



唯「パスタとーミートソースの缶とーあとあとー」

律「やっぱ広いと探すのは大変だなぁ」

梓「ええ。普通のスーパーなら何回も回れるでしょうが、コストコで同じことをすればとても疲れますよ」

梓「ですから目的の商品を見逃さないようにまわりませんと」

澪「……安いな」

律「澪? どうした唐突に」

澪「いや、唐突でもないんだ。さっきから思ってたことなんだけど」

澪「大量入荷ならある程度安くなるのは分かっていたけど、これは結構……」

梓「流石は澪先輩。ファーストフロアで確信しましたね」


梓「コストコは業者御用達のお店でもあるんです」

梓「会員説明の紙をよく見れば分かるでしょうが、法人特別会員というものもあります」

梓「ですから原価を安く抑えて大量に買いたい業者にとっても、まさにベストプレイスなのです」

唯「法人? ってのになれば、普通の会員より安くなるの?」

梓「んん。確か法人会員料は三千円少しでしたが」

唯「なら私、法人になる!」

律「オイ。登録した後で言うな」

澪「というか、唯は法人の意味が分かってるのか?」

紬「ねぇ見て。突き当たりの角から人が沢山……」

律「おお! ざっと店内を見回しても、一番人が多く群れてるんじゃないか」

梓「フフフ。ようやくこの地点に足を踏み入れるのですね」

紬「この地点、って?」

梓「メインの食料品ですよ。第一の刺客は、パンです!!!」

唯「なにこれ! ベーグルにクロワッサンに美味しそうなパンがこんなに沢山」

唯「あっ、このマフィンなんて……あいたぁ!」

客「いててて」

澪「あ、すいません。唯、人ごみで走るなって」

唯「ううぅ、ゴメンナサイ」

律「ていうか、思うままに行きたい場所に進めないっ!」

梓「当然ですよ。一番人気ですから。どうして混んでいるか、分かりますか?」

律「どうしてか……?」

澪「どれも美味しそうだからじゃ……って安い!」

澪「このマフィン見てみろよ。12個も入って840円って」

唯「ええと、840円を12で割るとゼロが一つ減って」

紬「70円ね」

律「70円って、おいおい、その辺にパン屋に置けば二倍の値段でも売れるだろ常識……」

梓「あれ、この前来たときは900円だったのに、更に値下がりしてる……」

唯「私コレ買うよ!」

律「私もだ! こいつを学校の購買部の近くで売りさばけばきっと飛ぶように」

澪「やーめーろ!」

律「あいったぁ!」

唯「とりあえず私が一つ買うでしょー。律ちゃんと澪ちゃんはどうする?」

律「ん、あぁ勿論買いだ。売らないでちゃんと食べ切る」

紬「なら私も一つ~」

梓「あの、皆さん他にも沢山種類があるんですから、ここは一つにしてはいかがでしょうか」

唯「どうしてひとっつ?」

梓「これはパンだけに言えることではありませんが、コストコの大量販売には一つだけ罠があるからです」

律「ワナだとっ!?」

梓「簡単に言えば“飽き”です。確かにコストコのパンには甘美なものが多いですが」

梓「それを十二個も食べるとなると、終盤になって必然的に飽きが生じます」

律「確かに……安いからとジャムの大瓶を買って五日で飽きて捨てたことがある……」

梓「ですが、今日は五人できているわけですから」

梓「みなさんで同じものを買わずに、一つづつ買って分けあいましょう」

梓「それが仲間の絆をも深める賢いグループコストコショッピングというものです」

唯「おおおぉー!」

澪「なるほどな。なら一人一つ好きなものを選ぶことにするか」

唯「らじゃー!」


律「私はベーグルにしたぜ! 後でハムとチーズを買って挟み込んでやる!」

澪「それと例のジャムの大瓶もな」

律「ベーグルは好きなパンズを二種類選べるんだ。これなら組み合わせで飽きることはなーい!」

唯「私はやっぱりマフィン~♪」

紬「私は一番大容量のやつを~」

律「流石ムギ! 理由は言わない」

澪「なぁ、パンを見て回ってる間にちょっと目に入ったんだけど、肉の方も結構凄いんだな」

律「あーら澪ちゅわん。穀物系女子から肉食系女子にジョブチェンジですの?」

澪「即興で変な造語を作るな」

唯「あー! チキンがまわってるー!」

唯「チキンがひいふうみいやえいやあとーぉ」

律「唯! 今すぐに数字という概念を捨てるんだ! 己を開放しろ!」

客「イライラ」

澪「おい、また人が増えてきたんだから少しは自重しろ」

紬「まぁ、こんなに大きなチキンが800円……」

梓「値段だけでなく、機械でチキンを焼いている様子をお客さんに見せることによって」

梓「より購買意識をそそらせようとする戦略ですね」

唯「私の太ももより全然おっきいねー」

澪「なんだか大ぶりのチキンを見るとクリスマスを連想するな」

律「よーし、これも買いだ!」


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最終更新:2010年06月19日 18:25