律?「あくまで作り話…だと思ってたけど、どうもそれが一番正しい気がする」
唯?「あー!あー!りっちゃ!!」
律?「そうだな、難しい話だから暇だよな。ちょっと我慢しててくれよ?」
もう一人の律に甘えるようにすがりつくもう一人の唯。律は優しくなだめる。
唯「じゃあ、みんなはここじゃない別世界の私たちっていうこと…?」
紬?「たぶんそうじゃないかな?昨日まで私がいた部室と雰囲気がちょっと違う気がするわ」
律?「それに、私は梓ちゃんをしらない。というか、まだ私は高一なんだ。後輩なんて、中学のときのヤツしかいないよ」
梓「マ、マジですか…」
梓?「でもその梓ちゃんっていうのやめてもらえませんか?なんだか気持ち悪いです」
律「私らは今高三だから…こりゃいよいよ平行世界説が濃くなってきたな」
紬「異世界…なんだか素敵…」
梓「ようやくこの異常な状況に慣れてきましたね。っていうか、楽しんできてますね」
紬がうっとりとした表情をしていると、部室の入り口の扉が開いた。
澪「ごめん、みんな!遅くなった――…」
その音に振り返った一同と目が合う澪。その顔は、笑顔のまま停止した。
律「やべ…」
澪「――うん。ホコリでも目に入ったのかな?人数が多く見える」ゴシゴシ
唯?「あーっ!!みおちゃ!!」
澪「唯、なんだかご機嫌だな」
唯「み、澪ちゃん…とりあえず中に…」
澪「おいおい唯。何も機嫌がいいからって、増えなくてもいいだr――」
澪「」
急に真顔になった澪は、その場に卒倒した。
律?「澪おおおおおおおぉ!!」
律「――と、いう訳なんだ」
澪「」
梓「聞こえてないんじゃないですか?」
律「無理矢理にでも理解させないと、誰かがこの状況を見るたび発狂してたら話が進まないよ」
澪「あ…うふふ…今ならファンタスティックな歌詞が書けそうだぞ…」
律「おーい、帰ってこーい」
唯「りっちゃん、ここはガツンと一発気付けのビンタだよ」
律「なっ…それはさすがに可哀想じゃないか?」
唯「このまま澪ちゃんがずっと妖精さんとお花畑で駆け続けていても構わないっていうの?」
律「いや、でもさ…」
紬?「ここは私の出番ね」ブンブン
澪「わー!!わー!!もうしっかり理解できて自分でもビックリ!!信じられないぐらい今落ち着いてる私!!」
唯「さて、澪ちゃんもようやく理解できたところで…これからどうする?」
律「みんなが平行世界の住民だったとしても、ここに来た原因がわかんない以上、帰る方法もわからないだろうしなぁ」
頭を抱える一同。長い沈黙を、梓が破った。
梓「とにかく今は異世界の私たちとこの世界の私たちを区別する方法が欲しいですね。ムギ先輩と唯先輩ははっきりわかりますけど、私と律先輩は区別しにくいですよ」
澪「そ、そうだな。そっちの二人は何か自分しか持ってない特徴みたいなのないのか?」
梓?「私はあるっちゃあるんですけど…あまり披露したくないです。収集がつきにくいし、きっと皆さんも気味悪いと思いますので…」
唯「えぇ~、気になるなあ…」
梓?「すみません。もう少しだけ、考えさせてください。今は私のことは梓2号と呼んでいただいて構いませんから」
そう言いつつ、梓2号はタイをほどきポケットにしまった。区別をつけるためだ。
紬?「そっか。区別がつかないなら、作っちゃえばいいのよね」
律?「あ、じゃあ私たちもタイ取っとくか」
律「ま、良い機会だし、平行世界の私たちがどんなことしてるのか聞いてみたいな。もしかしたら、そこから解決策が生まれるかもしれない」
唯「じゃあ次は私――」
唯はもう一人の自分へと目をやる。が、クッキーをぼろぼろこぼしながらあうあう言っているその姿を見て、口を閉ざした。
唯「…は、聞いても無駄っぽいね」
律「じゃあ、私にお願いしようかな。なんか思い出深い話とか、特徴的なこととかないのか?」
律?「私?あー…私もあんまり披露するようなもんじゃないと思うんだけどな」
ガシガシと頭を掻きながら、もう一人の律はちらりと澪を見る。
澪「…?」
律?「…まぁいっか。こっちの澪は知らないだろうし。トラウマほじくり返すことにはならないだろ」
小さく息をつくと、彼女はブレザーを脱ぎ捨て、ブラウスの裾をたくし上げた。引き締まった腹がそこから覗く。
そこには、いやでも目につく傷跡が刻まれていた。
澪「ひ、ひいぃ!!」
律「な、なんだそれ…盲腸の痕か?」
律?「知らないってことは、やっぱここは違う運命をたどってる平行世界なんだな。――これ、ナイフで刺された痕なんだ」
唯「うぇ!?」
律?「こっちの世界の澪が、ストーカーに襲われてさ。助けに行ったらもうボッコボコにされて。挙げ句の果てには刺されちゃったってワケ」
律「」
律?「いやーあん時はやばかったなぁ。生死の境を彷徨ったってヤツ?相当危ない状態だったらしい」
律?「でも、みんなが助けに来てくれて、ずっと傍にいてくれたから、今の私があるんだろうな」
律?「大変な事件だったけど、やっぱ軽音部は最高だって再認識できた出来事だったよ」
律(予想以上に壮絶な人生を送ってらっしゃるこの人)
澪「み、見えない聞こえない見えない聞こえない・・・」
紬「そっちの世界の澪ちゃんは無事だったの?」
最高律「おう、怪我一つ負ってないぜ。でも、アイツが男五人に囲まれてる時はさすがに私も足がすくんじゃったよ。澪も相当心には傷を負っちゃったんじゃないかな…」
梓「ご、五人も相手に、よく突っ込んで行けましたね…」
最高律「そりゃ怖かったけど、あの時は澪を助けなきゃって必死だったからな。何の作戦もなかったから私はやられ放題だったけど、澪は助けられたからまぁ良かったよ。この傷跡も名誉の負傷ってヤツだな」
律「何ていうか、すげぇな…。こっちは腐るほど平和だぞ」
唯「うっぐすっ…えぇ話やのぉ」
最高律「なんか恥ずかしいなこれ」
紬「それじゃあ、次は私のお話を――」
紬?「えぇ!?私、りっちゃんみたいな凄い経験、あまりないんだけど…」
唯「何でも良いんだよ?私たちの世界は本当に平々凡々で変わったことなんて全然ないからさ」
紬?「う~ん…いろんな記憶はあるんだけど…あんまり言って良いことじゃない気がする」
澪「なんかみんなそんな感じだな」
梓「大丈夫ですよ。どんな変わったことでも、気にしませんから」
紬?「そうねぇ。印象深かった思い出と言えば、軽音部のみんなが丸々と太っちゃった事件かしら」
梓「…はい?」
紬?「一年生の時のことなんだけど、唯ちゃん以外みんな太っちゃったのよね。特に澪ちゃんは今の私より酷かったわ。こふーこふー言ってたもの」
澪「」
紬?「あまりに肥大化していた澪ちゃんの体に、当時ダイエットに成功していた私は見事に押しつぶされ、生死の境を彷徨ったこともあったわ」
唯(えっなに、何で異世界の私たちそんな波瀾万丈なの?)
律(何だろう、同じ命の危機でも全く違うこの感じ)
最高律「それ、十分凄い出来事だと思うんだけど…」
紬?「なぜかわからないけど、あっという間に回復したわ。そして、あっという間にまた太ったわ」
唯?「あはwwむぎちゃ、でぶwwwwでぶむぎちゃwww」
紬?「」
デブ紬「た、ただのデブじゃないもん!とっておきの、凄い特技があるんだから!」グスッ
梓2号「凄い特技?何ですか、それ」
デブ紬「下のお口の破壊力は抜群なのよ!!」フンス
紬「」
デブ紬「こっちの世界の唯ちゃんの指を根こそぎいっちゃったこともあるわ!」
一同「」
梓2号(唯先輩、何ヤってたんですか!?)
唯「下のお口?って何のこと…?」
律「下あごのことか?ってことは、唯の指を食いちぎったってのか…!?」
澪「き、聞こえない聞こえない聞こえない…」
梓2号(あぁ…純粋というか、無知というか…)
最高律(下のお口って…ア、アソコのことだよな…。何で恥ずかしげもなく大声であんなこと言えるんだ…?)カアァ
デブ紬「それだけじゃないのよ!」
紬(ごめんなさい、もうやめて)
デブ紬「私の下のお口はダイヤモンドを生み出すこともできるんだから!」
一同「」
梓2号(駄目だコイツ…早く、何とかしないと…)
デブ紬「何なら今ここでやってあげても――」
梓「み、皆さんの凄い秘密もわかったところで、そろそろ別なことしませんか!!?」
紬「そうね!ありがとう、もういいわ!」
立ち上がってスカートに手をやっていたデブ紬を、紬は笑顔で強引に押さえつけた。
律「でも、一体どうすりゃいいんだろうな」
梓2号「結局そこに戻るんですよね。みんなここに来るまでに何があったかわからないんですから」
腕を組んでうなる一同。と、唯があれ?と声を出して澪を見た。
唯「そういや、平行世界の澪ちゃんは現れてないよね」
澪「…ホントだな。まあ、そのほうがいいよ。いたらややこしいし――なんかいろいろ凄い人が多いし、平行世界って…」
デブ紬「何で私の方を見て言うの?」
梓2号「いやでも、そういう人に限って後から凄いのが出てきたりするんですよ」
澪「なっ!へ、変なフラグを立てないでくれ!そんなことないって、絶対」
律「へっへっへ…わかんねぇぞぉ?今にもその扉がガチャッと開いて――」
ガチャッ
澪?「おいお前ら!何で私をおいて勝手にお茶してるんだよ!そんなに私を除け者にしたいのか!!だいたいお前たちは(中略)謝罪と賠償を要求するニダ!!」ファビョーン
澪「」
律「マジか」
梓「これまた凄いのが来ましたね」
澪?「な…何だよ?何で私がいるんだよ!何でみんなそんないっぱいいるんだよ!…わかったぞ。またみんなして私をはめようとしてるんだな!ムギの財力でクローンを作って、私を馬鹿にしようってつもりだろ!」
梓2号「いやいや…そんなことして何になるんですか」
紬「さすがにうちの会社でクローンを作ったりはできないわ。みんなあなたと同じで平行世界からやってきたのよ」
澪?「何わけのわかんないこといってるんだよ!?私が宇宙人だとでも言いたいのか!?」
澪?「わかった…お前たちがそんな態度をとるなら、私にも考えがある。もうここで死んでやる!」
最高律「なんでそうなるんだよ!?」
澪?「止めても無駄だぞ!もう決めたからな!屋上から飛び降りてやるからな!」
唯「なんていうか、凄いの一言に尽きるね…」
梓「…現れてそうそう死ぬなんて言い出す人ってなかなかいませんよ」
澪?「止めても無駄だからな!絶対に死んでやる!お前たちが私を必要としていないのがよくわかったよ!さよなら!お世話してやったな!」ダッ
凄い勢いで現れたもう一人の澪は、凄い勢いで去っていった。
最高律「あっ!おい!!」
デブ紬「ど、どうしたらいいのかな…」
澪「」
律「とりあえず、こっちの澪を起こしてやらなきゃ」
唯「澪ちゃん、澪ちゃん!」
デブ紬「よーし、ちょっと待ってて」ブンブン
澪「ハッ!目が覚めた!覚醒した!!だから殴らないで!!」
律「よし、気が付いたみたいだな」
最高律「それじゃ急いでもう一人の澪の方に――」
澪が気付いたのを確認して、皆屋上へ向かおうとした。
が、扉の向こうから大きな足音が響いてきて、再び荒々しく扉が開かれた。
澪?「何で誰も追いかけてきてくれないんだよ!?」
梓2号(戻ってくるの早っ!!)
澪?「私は死ぬって言ってるんだぞ!もう絶対に死ぬって言ってるんだぞ!何で誰も心配しないんだ!!」
律「いや…じゃあ、何で戻ってきたんだよ?」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていたもう一人の澪は、ぴたりと口を閉ざした。
澪?「それは、あの、えっと…――り、律は、そんなに私に死んで欲しいの…?」グスッ
紬(すごく、面倒くさいです…)
律「そういうわけじゃなくて――」
澪?「そうだよな…。もう一人私がいるんだものな。もう私は必要ないよな。グスッわかった、もう消えるよ。今までありがとうな、律」
澪「あ、あの…」
肩を落として、ゆっくりと開いたままの扉へと足を進めるもう一人の澪。
最高律「お、おい、ちょっと待ってて――」
澪?「ねぇ律、覚えてる?…小学校の頃、友達がいなくて一人読書してた私に、初めて声をかけてくれたのが律だったんだよね」ピタッ
唯(まだ出て行かないんだ…)
澪?「本当にありがとう、律。お前がいたからここまで生きてこれたんだ。大好きだぞ」
律「澪…」
扉に手をかけ、ゆっくりと閉めていく。が、完全に閉まる直前、ぴたりとそれは止まった。
一同「」
澪? 扉?ω・`)チラッ
一同(め、めんどくさい…)
皆が固まる中、もう一人の唯だけが、ケラケラ笑いながらもう一人の澪に走り寄った。
唯?「みおちゃ!いかないで!みおちゃ、すき!」
澪?「ゆ、唯・・・?」
唯?「みおちゃ、いっしょwww」ギュッ
律(お、こりゃもしかして良い感じか…?)
澪?「うわっやめろよ!…なんだお前、とうとう池沼になったのか?」
律「」
澪?「触るなよ気持ち悪い!」ゲシッ
池沼唯「う、うえええええええええええええぇえ!!」
蹴飛ばされて床に倒れ込み、大声で泣き始める唯。それを見て、とうとう最高律がキレた。
最高律「いい加減にしろ!!」
澪?「ひっ」ビクッ
最高律「今お前、最低なことしたんだぞ…。わかってるのか!?」
澪?「な、何なんだよ…。何で私が怒鳴られなくちゃならないんだ!」
唯「さすがに私も今のは許せない…」
澪「…同じ自分だとは思えないよ…」
池沼唯「ああああああああああああぁ!!うわあああああああああああああ!!」
律「痛かったよな?もう大丈夫だぞ?だから落ち着こう、な?」
澪?「何で唯の味方するんだ!!池沼なんだぞ!!何でそんなヤツの方が私より大事にされるんだ!!」
澪「もうやめろ!!」
澪?「あひぃっ」ビクッ
澪「出て行って。今すぐに」
澪?「なんなんだよ…なんなんだよおおおおおおおぉおおおおお!!」ダッ
奇声をを上げながら走り去る澪。さすがに誰も彼女をフォローしようとはしなかった。と、
ガチャッ
澪?「お菓子もらうの忘れてた」ヒョイパク
澪?「うんうまい。貰って帰るわ」
ガチャッ
一同「」
梓2号「これは酷い。あまりにも酷い」
澪「正直ものすごいショックなんだけど…」
唯「でも、これで全員一人ずつ平行世界の自分が現れたね」
紬「どうにかして解決策を見つけないと、こんな調子でどんどん平行世界の私たちが増えてくるのかしら」
梓「洒落になりませんね…」
律「とりあえず、和とかさわちゃんにも相談してみるべきじゃないか?」
唯「憂にも改めて説明しとかなきゃいけないね」
デブ紬「また一から説明していかなきゃいけないわね」
澪「状況が状況だから…。さすがの和もビックリすると思うよ」
そんな話をしていると、再び扉が開いた。
和「お邪魔するわよ」
澪「噂をすれば…」
和「な、何これ…!?どういう状況!?唯が二人!?」
唯「…ん?私だけじゃなくて、他にも――」
和「他のみんなが二人三人いようとどうでもいいのよ!あぁ…唯が二人にも増えてしまったら、私はどちらを愛していけばいいの…?」
唯「なん…だと…」
律「おい、まさか――」
和「まぁいいわ。どちらも愛すればいいのよね。そういうことだから唯、今日は何色のパンツを履いているの?教えなさい」
唯「違う!絶対この人和ちゃんじゃない!!」
和?「何言ってるのよ。あなたの運命の人、
真鍋和その人よ?」
池沼唯「あー!のどかちゃー!!」トテトテ
和?「見切った!」ファサ
無邪気に駆け寄ってきた池沼唯のスカートを、和はためらうことなくめくった。
最終更新:2010年06月22日 02:21