和?「白…」

最高律「な、何やってんだよ和!」

ガチャッ

和「呼んだかしら?っていうか、何騒いで――」

和「」

唯「の、和ちゃんまで!!」

和?「これは…。どうやら唯と愛を語り合うのは少し後回しにするべきのようね…」

唯「語り合ったりしないよ!!」

梓「こっちの和先輩からは想像できないぐらいの変態っぷりですね」

律「失礼しまーす」

職員室へと足を踏み入れていく軽音部の五人と和。律の声に顔をあげたさわ子は、彼女を見て眉をひそめた。

さわ子「あら?りっちゃんにムギちゃん…」

律「何でそんな変な顔するのさ?来ちゃ駄目だった?」

さわ子「そうじゃないけど…さっき帰ったんじゃなかったの?」

一同「へ?」

全員の声が重なった。律と紬ならもう一人も含めて、今までずっと部室にいたのだ。

唯「りっちゃん達ならずっと私たちと一緒だったよ?」

さわ子「あらそう?さっき二人とも一緒に校庭ウロウロしてたじゃない。てっきりもう帰るのかと思ってたわ」

澪「それって…まさか…」

律「――梓、和。さわちゃんに説明頼む。私たちは校庭に行くから」

和「わ、わかったわ」



校庭。

唯「さわちゃん先生が見たのって…もしかして、平行世界のムギちゃんとりっちゃんなのかな?」

澪「まだいたって言うのか?一人に一人ずつじゃないの?」

律「そう決まったワケじゃあないだろ?もしかしたら、ムギが言ったみたいに――」

紬「放っておいたらどんどん増えてくるかもしれないってこと…?」

澪「な、なんで私たちばっかり…」

唯「わかんないよ?もしかしたら周りの人たちも増えてるのかも。そしていつのまにかこの世界は平行世界の住民達に溢れ――」

澪「き、聞こえない聞こえない…」

律「はいはい、馬鹿やってないでまじめに探すぞ」

紬「さわ子先生の話だと、見かけたのはついさっきだって言ってたから、もしかしたらまだ校庭内にいるかもしれないわね」

手分けして探すことになった五人。唯は正面玄関付近をウロウロしていると、憂と純に出くわした。

唯「あ、憂!と純ちゃん!」

憂「お姉ちゃんどうしたの?何か探し物?」

唯「えっと、りっちゃんとムギちゃんを捜してるんだけど…二人は見てないかな?」

純「律先輩と紬先輩のことですか?その二人なら唯先輩みたいにあっちの方で何か探し物してましたけど…」

唯「他には見てない?」

純「…はい?」

憂「お、お姉ちゃん?まさか、律さんとおねえちゃんだけじゃなくて紬さんまで?」

唯「えっと…軽音部全員増えちゃいました」

憂「」

純(話が理解できない)



一方、律は。

律「ややこしいことになる前に早く見つけないと…」

生焼けGirl1「あれ、律?何でこんな所にいるの?」

律「へ?――わ、私を見たのか!?どこで!?」

生焼けGirl1「え、え?えっとさっきあっちで、講堂の方に歩いて行ってたよね?」

生焼けGirl2「う、うん。だから、何でこんな所にいるのかなって…」

律「講堂だな!ありがとう!!」

生焼けGirls「…?」

律は首をひねる二人を尻目に駆け出しながら携帯を取りだし、メールを手早く打った。

『みんな、講堂に来てくれ!』



講堂。

唯「い、いた!」

唯が指した指の先、ステージをぼんやりと眺めている律と紬がいた。最高律とデブ紬は部室で待っているはずだ。

ということは、この二人はさらに違う世界からきた二人なのだろう。
唯の声に、二人は振り返り目を見張った。

紬?「なっ…」

律?「お前ら…誰だ…!?」

唯「説明お願い、ムギちゃん」

紬「かくかくしかじか」

紬?「平行世界…。じゃあここは、私たちが知ってる世界じゃないのね」

律?「どーりでなんか話がかみ合わなかったり、知らないうちに変なとこにいたりするわけだ」

澪(便利な表現だなぁ…)


律「二人は同じ世界の住人なのか?」

紬?「えぇ、こっちのりっちゃんは私が知っているりっちゃんよ」

律?「気付いたら同じ所にいたしな」

唯「…」

唯は律の質問に答える二人を見つめていた。なぜだろうか、この二人…何か雰囲気が今までの皆とは違う感じがする。

見た感じはこの世界の二人とほとんど変わりないのだが、どこかやつれているし、感情の起伏が乏しい。

視線を感じたのか、もう一人の律は唯と目を合わせると、小さく笑った。

律?「なぁ唯…部活、楽しいか?」

唯「え?えと…うん、もちろんだよ!」

律?「…そっか」

笑顔で答えた唯を見て、もう一人の律は少し悲しげに微笑んだような気がした。と、その時だった。

梓「せんぱーい!どうでしたか-!!」

澪「梓!和!」

和「先生に説明は済ませたわ。信じてなかったけど、部室に連れて行ったら呆然としてた」

梓「とりあえず協力はお願いしました。平行世界の私たちだと思われる人達を見つけ次第、すぐ保護してくださるみたいです。それにしても…やっぱりまだいたんですね」

困ったようにため息をつく梓。唯は二人に視線を戻す。瞬間、背筋に悪寒が走った。

何故だかははっきりわからなかった。ただ、梓を見た二人の様子から何かいやなものを感じたのだ。

唯(気のせい、だよね…)

紬?「梓、ちゃん…」

律?「…」

紬「で、どうしよう?」

和「さわ子先生の助言では、今日はもう様子を見てみるしかないと思うって。このまま平行世界の私たちが次々現れて、その中に原因を知ってる人がいるかもしれないから」

澪「いるのかな…」


律「ほいじゃ、二人もとりあえず部室に来てもらおうか。この後のこともあるし」

紬?「…いえ、ごめんなさい。ちょっと二人で話したいことがあるから…いいかしら?明日には戻るから」

律?「…あぁ。うまく人目につかないように行動するからさ。準備室にいればいいだろ?」

澪「で、でも、夜はどうするんだ?とりあえずみんな、各家に振り分けて泊まってもらうつもりだったんだけど」

紬?「大丈夫よ、気にしないで。良いところ見つけて適当に済ますから」

梓「大丈夫、なんですか?」

律?「…悪い、そういうことだから。じゃあな」

皆が口を開く前にそそくさと二人は講堂から出て行ってしまった。

梓「…なんだか私、あの二人に避けられてる気がします…」

紬「そう?そんな風には見えなかったけど」

唯「…」

唯は開いたままの扉を、ただ黙って見つめた。


六人が講堂から出ると、すでに二人の姿は消えていた。

二人を信じてそっとしておこうという律の提案に皆賛成し、部室に戻ろうとしたときだった。

唯「…あ!」

思わず声を上げた唯を皆が振り返る。その視線の先には、薄汚い作業服を着た女性がぼんやりと突っ立っていた。

紬「…唯ちゃん、知り合い?」

唯「ううん。でも、今日授業中もあの人校庭にいたんだ。なんか不思議な雰囲気がするから気になったんだけど――」

和「不審者かしら…」

こそこそと話す声に気が付いたのか、女性は帽子の下からちらりと唯達の方を見る。と、わずかに見えるその口元が、驚きに開くのが見えた。

女「――…妖精の、お姉さん…?」

唯「は、はい?」

おぼつかない足取りで、女性は唯達に歩み寄る。少し離れたところで様子を見ていた律が、不審に思って前に出た。

律「アンタ…何なんですか?」

途端、女性が息をのむのがわかった。

女「…り、つ?」

律「…何で私の名前――をっ!?」

女性は突然駆け出したかと思うと、律の体を抱きしめた。豊満な胸に顔を押しつけられ、律は声にならない呻き声をあげる。

女「律だ…律だ…若いけど…律だ!」

律「ちょ、ぐるし…――!」

澪「あ!!」

女性の帽子が地面に落ちる。その下から現れた顔は、澪にそっくりだった。

澪「まさか…大人の私…!?」

澪?「――!?…私?…若い頃の私…!?」



律「――…さて、とりあえず落ち着きました?」

澪?「…」コクッ

梓「確認ですけど、あなたは知らないうちにこの校庭にいて…この学校に見覚えはない、と」

澪?「…」コクッ

和「学校に見覚えがないんだとしたら、この世界の澪の未来の姿、っていうワケじゃあないわよね」

唯「また平行世界からのお客さんなんだね」

澪?「…?」

澪「ムギ、説明お願い」

紬「かくかくしかじか」

澪?「…異世界…。――でも、嬉しい。私が知ってる律じゃない。けど、また律に会えた」

律「あの、何でそんな私が恋しいんですか?そっちの世界じゃ幼なじみ同士一緒に出かけたりとかないんですか?」

澪?「幼なじみ…?私は職場で初めて律と出会った。私の人生を変えてくれた、かけがえのない人」

澪「そうなんだ…全然違う運命だな。ちなみにどんなお仕事を?」

澪?「流れてくる瓶に傷がついてないか確認する仕事」

澪「」

律「そ、そうですか。でも、職場が一緒なら会う機会多いんじゃ…。そんな寂しがる必要ないですよね?」

瓶澪「――律、数年前に車に轢かれそうになった子供を庇って…亡くなった」

律「」

梓(…こう言っちゃ不謹慎ですけど…)

唯(りっちゃんそんなのばっかりだね…)

律(将来が不安になってきた…)


瓶澪「…律と幼なじみ…羨ましい。律は本当に良い人だった。この世界の律も、良い人のはず」

澪「あ、えと…は、はい、良いヤツだと思います」

律「おいよせよ恥ずかしいなっ」

瓶澪「きっとどの世界でもそう。運命が違っても、性格が違っても、心の奥にある本当の姿は変わらないと思う」

唯「意外にファンタジックなことを言うんだね」

紬「でも、確かにそういう所はこの世界の澪ちゃんも変わらないね」

澪(あのめんどくさい私にも同じところがあるとは思いたくないなぁ…)

瓶澪「…」

唯「なんだか全然違う世界みたいだし一応こっちの関係説明しとこっか」

瓶澪「私も…こっちの世界のこと、説明する」


和「私と梓ちゃんは出会ったことがない、と」

梓「こうなると存在してるのかどうかもわかりませんね」

瓶澪「軽音部…ベース…」

律「全く知らないって感じの顔だな…」

唯「自殺を考えていた大人の澪ちゃんを救ったのが私…なんか凄い!」

紬「澪さんから見れば、確かに妖精に見えたのかもね」

瓶澪の話を要約すると、コミュニケーションが苦手で職場でもいつも一人だった彼女に明るく話しかけ初めて友人になってくれたのが律で、律の死後後を追って自殺しようとしていた彼女を引き留めてくれたのが唯らしい。

その後頑張って生きていくことを決心した彼女が、初めて自分から親しくなれた相手が紬で、梓と和の二人には出会ったことはないそうだ。

律「――えっと、どうしようか。澪さんにもついて来てもらうか?家の割り当て考えなきゃいけないし」

瓶澪「いい。私、もう少しウロウロしてみたい。私が知っているようで、知らない町」

澪「えっ、でも…宿泊場所とかは…」

瓶澪「さすがに大人の私が泊まらせてもらうわけにはいかない。お金もある」

澪「そ、それじゃあ…また明日、これぐらいの時間にここに来てくれませんか?私達待ってますから。戻る方法をみんなで話し合いたいし」

瓶澪「…」コクン


瓶澪と別れ、皆は異世界の自分たちが待つ準備室へと戻ってきた。

デブ紬「おかえりなさい」

梓2号「なんだかまた律先輩とムギ先輩が現れたそうですね」

澪「あぁ。でも、ちょっと二人きりになりたいって言ってどこかに行っちゃったよ。あと、私ももう一人現れた」

最高律「おいおい…マジでどうなってるんだ?」

唯「さっぱりわけがわかんないよぉ」

和「とりあえず、もう下校時刻も近いから家の割り当てしちゃいましょう」

変態和「家の割り当て?」

律「お前らみんなここに寝泊まりするわけにはいかないだろ?だから、私達の家にうまく振り分けて泊まってもらうことにしたんだ。親には泊まりに来たっていってなんとかごまかして」

梓「親同士話すようなことになったら厄介ですけど…これぐらいしか方法がなくて」

変態和「そうなんだ。じゃあ私、唯の家にお嫁に行くね」

和「おい」



その後、家の割り当てを終えた唯達は、できるだけ人に会わないようにしながら一組ずつ下校した。

唯の家

唯「あがってあがって~」

池沼唯「いえ!いえ!ゆいのいえ!」

デブ紬「ほら唯ちゃん、靴脱ごうね」

憂「お姉ちゃんお帰――うわ!!」

デブ紬「お邪魔します、憂ちゃん」

池沼唯「あ!ういーうーいー!」

唯「あ、憂。あのね、今日泊まってもらうことになったんだ。憂も朝出会ったもう一人の私と、部室にいたもう一人のムギちゃんだよ」

憂(なんだか凄く濃いメンバーだなぁ…)

唯「お父さんとお母さんまだ出張中だから、他のみんなの家にお泊まりしたらちょっと厄介なことになりそうな二人を呼んだんだー」

デブ紬「突然ごめんね?家具を破壊しないように気をつけるから、今晩はよろしくね♪」

憂(破壊…?)



ムギの家

斉藤「お帰りなさいませ、紬お嬢様。いらっしゃいませ、律さん」

最高律「ど、どうも。すみません、急にお邪魔して」

斉藤「ご遠慮なさらず。お嬢様のお友達ならいつでも歓迎いたします。今日はごゆっくりくつろぎになってください」

ぺこりとお辞儀をして去っていく斉藤の後ろ姿を眺めながら、最高律ははーっと息を吐いた。

最高律「やっぱムギん家ってすげーよなぁ。めちゃくちゃ広いし、執事さんもお出迎えしてくれるし」

紬「そうかしら?」

最高律「私の世界のムギん家も凄かったからさ。家は見たことないけど、その、例の事件の時に犯人グループ捕まえるのに、ムギのお父さんがビックリするぐらい大勢の警備員さん連れて現れたらしいし」

紬「お、お父様…。でも、りっちゃんも凄い。澪ちゃんを救ったんだし」

最高律「澪は大切な親友だからな。守らないわけにはいかないだろ?」

紬(ちょっと不謹慎かもしれないけど…このりっちゃんのヒーローっぷりと向こうの澪ちゃんのヒロインっぷり…素敵だわぁ)ホゥ

最高律「ムギ?どした?なんか顔赤いぞ?」


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最終更新:2010年06月22日 02:22