律の家

変態和「…」

律「テンション低いな」

変態和「当たり前じゃない…。唯の家に乗り込むチャンスだったのに…。履いていたパンツをいただいて、着ていたシャツをクンカクンカスーハーして、お風呂にry」

律「やめてくれ。私の中の和像が音を立てて崩れちゃうから」

玄関で靴を脱ぎながら会話を続ける律達。と、二階からドタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

律「…?聡、何暴れてんだー!?」

聡「ねーちゃーん!助けて-!!」

律「っ!?どうした!?」

急いで階段を駆け上がり、聡の部屋のドアを開ける。と、

聡「ね、姉ちゃん、これ、どういうことなの…?」

律「…マジかよ」

聡?「あっ姉ちゃんおっかえりー。うへへwwあれ?後ろの美人さん、お友達!?(今晩のおかずktkr!)」

変態和「まさかの展開ね」




澪の家

澪「そういえば、梓はどうして自分のことを私達に教えてくれないんだ?」

梓2号「え?あ、えーと…私、ちょっと異常なんです」

澪「異常?――それって、どういうことなんだ?」

梓2号「私、ちょっと特別なんです」

澪「いや、大して意味変わってないような気がするぞ」

梓2号「何でもないですよ、私達の世界は。この世界と同じぐらい平和です。でも、私はちょっと違うんです」

澪「梓だけが…?」

梓2号「あ、うーん…確か唯先輩も同じような感じでしたね」

澪「唯も?ますます意味がわかんなくなってきたぞ」

梓2号「まぁ、いずれお見せすると思いますから、そのときまで待ってください」


そのころ、薄暗い街中をふらふらと歩き回る、部室を追い出されてしまった澪は。

澪?「ちっ…なんだよみんな急にキレてさ。そんなに私を差別したいのかよ。これだからチョッパリは」

紬『みんなあなたと同じで平行世界からやってきたのよ』

澪?「…何意味わかんないこと言ってんだあの沢庵。前からずれたヤツだとは思ってたけど、とうとうおかしくなったのか?」

澪?(平行世界…?じゃあここは私の住んでた世界じゃないってことなのか…!?)

澪?「――ん?」

紬の言葉に思考を巡らせていた澪?の目に入ったのは、怪しげな路地裏へと入っていく律と紬の姿。

澪?(何やってるんだあの二人?また私を置いて何か楽しもうっていうのか?…つけてやれ)



二人が入っていったのは路地の奥にあった廃工場だった。澪?も二人に気付かれないように工場内に侵入すると、積まれたドラム缶の陰に身を隠す。

澪?(文句の一つや二つ言ってやろうと思ったけど…なんだこの雰囲気。す、少し様子を見てやることにするか)

紬?「…」

律?「梓が・・・いたな」

澪?がつけていたのは、この世界の唯達に同行するのを断った律と紬だった。無論、澪?はそんなこと知らないが。


律?「ムギ、顔色悪いぞ。大丈夫なのか?」

紬?「りっちゃんだって…ホントは気分悪いんでしょ?だって、私達の目の前で死んで、私達がこの手でバラして、挙げ句の果てには食――」

律?「やめてくれ。…やめて、それ以上…言わないで」

澪?には話の筋が全く見えなかった。ただ、恐ろしく物騒な言葉が飛び出したことには気が付いた。

紬?「…この世界のみんなは、もしかしたら平行世界の住民はもっと増えるかもしれないっていってたよね」

律?「…あぁ」

紬?「私達の世界の唯ちゃん…」

律?「あぁ、私も思ったよ。アイツがこの世界に来てるかどうかわかんないし、来てなかったとしてもこれから来るかもしれない。そうなったとき…梓――」

紬?「絶対に会わせられないわ。今の唯ちゃんにとって、梓ちゃんの姿は精神を破壊する爆弾でしかない。あれ以上壊れた唯ちゃんなんて…見たくない。何があっても絶対に、唯ちゃんと梓ちゃんは会わせちゃいけない…!」

律?「…それは…また、梓を処分しなくちゃいけないってことだよな?」


澪?「!?!?」

紬?「りっちゃん…」

律?「ダメだよな、私。もう疲れ果ててるんだよ。ずっと更生のために刑務所の中にいたってのに、やっぱりこんな選択しかできなくなってる」

紬?「私も、おんなじことを思ってた。ただ言葉にするのが恐ろしかったの…。ごめん、りっちゃんにばっかりこんな思いをさせて…」

律?「ムギが誤る必要ないよ。誰も悪くない。悪いのはこんな運命にしてくれた神さんだよ」

やつれた笑みを浮かべる律?の顔を見て、紬?は足下に置いていた袋から包みを取り出して開く。

中から出てきたのは立派なノコギリ。暗い工場の中でも鈍い光を放つそれは、澪?の目にもしっかりと焼き付いた。

澪?(ひ、ひいぃい!!)

律?「…もうこいつだけは目にしたくなかったな。いつの間に買ってたんだ?さっきトイレ探しに行ったときか」

紬?「――私ね、もう完全に麻痺しちゃってるみたい。もう一度梓ちゃんを殺さなきゃいけないっていうのに…何の罪悪感も感じないの」

律?「私は梓の死体をバラしたあの日からすでに壊れてるよ」


澪?(何こいつら何て話をしてるんだ!やばい逃げなきゃ…口封じに私まで殺される!う、動け私の足!!)ガクガク

律?「一本しかないのか?」

紬?「あの日の思いを生々しく思い出すのは私だけで十分よ」

律?「何言ってんだ。ムギだけにそんなことさせないぞ」

?「じゃあこれ使えば?」

突然聞こえてきた緊張感のない声とともに、一本のノコギリが律の足下へ放られた。

澪?「!!!!」

律?「誰だ!!」

?「そんな怖い顔しないでよりっちゃん。私だよわ・た・し」

紬?「唯ちゃん…?」

工場の入り口で、にやにやと笑みを浮かべているのは、まぎれもなく唯だった。

唯?「あぁ、心配しないでね。私、この世界の私でも二人の世界の私でもないからね」

紬?「今の話…聞いていたの?」

いぶかしげな表情をする二人。唯?は軽い足取りで廃工場へと足を踏み入れる。

唯?「うん。だから、二人に協力したいなぁと思って。だって、この世界のあずにゃんを二人の世界の私だけのために消しちゃおうっていうんでしょ?愛されてるよー私」

唯?「でもね、他の世界からもあずにゃんは来てるし、ここの世界の私達はきっと二人の計画の上では非常に面倒な存在になると思うんだよね。それを二人だけで対処できる自信はあるの?」

律?「…」

唯?「あぁわかるよ。覚悟なんかはもとからないんでしょ?二人はもう最初から人殺しに対して罪悪感はない。たとえ、今日会話して親近感を覚えた相手でも。ただ、明らかに力不足だよね、二人だけじゃ」

紬?「…えぇ」

唯?「だから、手伝ってあげようかなって話。――ねぇ、澪ちゃんはどうするの?」

澪?「――!!?」ドキィッ

律?・紬?「!?」


唯?「話聞いてたよね?」

ドラム缶の山に近づくとその裏をのぞき込みにっこり微笑む唯?。思わず澪?は後退りしてしまった。

律?「澪…?」

澪?「は、ははは…ち、違うんだ!わ、私も協力しようと思ってさ!でも、いつ話しかけたらいいのかわからなかったんだ!私も平行世界から来たんだけど、この世界のみんなにめちゃくちゃ酷い目に遭わされて…」

紬?「酷い目…?」

澪?「そうなんだよ!なんで私だけこんな目に遭ったんだろう…。私、何も悪いことしてないのにいきなり怒鳴られたり、出ていけって言われたり、除け者にされたり…」

律?「ひでぇ…ここのやつら、そんなやつらだったのか…」

澪?「だから、もう二人しかいないんだよぉ。お願い、私を見捨てないで…。血生臭いことでもなんでも手伝うから…」

紬?「わかったわ。大丈夫よ、澪ちゃん。私達は澪ちゃんの味方だから、ね?」


律?「――でも、澪に手伝わせるわけには…」

澪?「頼む、手伝わせてくれ律!私、二人の役に立ちたい!二人にだけは認めてもらいたい!」

律?「澪…。――わかった、好きにしろよ」

澪?「あ、ありがとう律!」
澪?(よ、よし!これで私の身は安全だ!絶対殺されなくてすむ!)

律?にすがりつく澪?を見て、唯?は小さくふーんと呟き、口を開いた。

唯?「…これでこっち側は四人になったね。まぁ、念には念を入れといた方が良いと思うから、もう一人助っ人を呼ぶことにするよ」

紬?「助っ人って?」

唯?「絶対役に立つと思うよ~。でも、こっちに呼ぶのちょっと時間かかるんだ。明日の放課後ぐらいになっちゃうかな?」

澪?「…こっち?」

唯?「あぁ、こっちの話。とにかく、その助っ人のことも考えて計画を立てよう」

生き生きとした笑顔で話す唯?を見て、律?は少し不快げに眉をひそめた。




翌日、梓達の教室。

律「失礼しまーす」

憂「おはようございます、律さん。珍しいですね、この教室に来るなんて」

律「おはよ憂ちゃん。ちょっと梓に用があってさ」

梓「あ、律先輩!言わなきゃいけないことがあるんです!」タタタ

律「おう梓。私もみんなに伝えて回ってることがあるんだ」

梓「じゃあ先にどうぞ…って、ここじゃまずいですよね。ちょっと出ましょうか」

純「梓ーどこ行くのー?」

梓「あ、えーっとちょっと大事な話があって」

憂「邪魔しちゃダメだよ純ちゃん。ほら、二人で待ってよ?」

純「むう…いいなぁ梓、あの格好いい先輩と二人きりなんてさ」


梓「で、何があったんですか?もうだいたい予想はつくんですけど…」

律「あぁ、また平行世界からのお客さんが現れた。今度は私の弟だったよ」

梓「ま、また微妙なところが来ましたね…。ってか、大丈夫だったんですか?親御さんとか」

律「一応大丈夫だったぜ。なんかもう一人の弟は自分のことをエネファーム聡とか名乗る変態野郎で、突然和の胸に触るもんだからさ――」


変態和『何をするだあああああああ!!!許さんっ!!!』ブンッ

変態聡『びゅおっ!!』ゴッ

どさっ

変態和『私の体に手を出して良いのは唯だけよ』ゴゴゴ…


律「っつー感じでぶちのめされて、一晩中気絶してたからな。和とこっちの世界の弟二人がかりで縛り上げて口ふさいでクローゼットに閉じ込めてたから、とりあえず見つからないだろ」

梓「なんていうか…お疲れ様です」

律「で、そっちは何だったんだ?」

梓「あ、そうでした。ホントは皆さんそろってからお話しようと思ってたんですけど…。朝さわ子先生に出会ったときに聞いた話なんですが、さわ子先生の家にも平行世界の人が出たそうです」

律「マジか…。こりゃ本当にやばくなってきたんじゃないか?」

梓「帰宅したさわ子先生を、唯先輩と澪先輩とムギ先輩が出迎えてくれたそうです。妙なテンションで」

律「妙なテンション?」

梓「えっと…ふうううううぅ!!って叫びながらズイズイと近寄ってきたそうです」

律「こえーよ」

梓「他にも仕方ないから一緒に夕食食べてたら――」


澪?『あ、ニンジン…。――…唯、パス!』コロン

唯?『ムギちゃんパス!』コロン

紬?『先生パス!』コロン

唯澪紬?『ナイイイイイシュウウウゥゥゥゥウウウウ!!』

さわ子『…うん』


梓「ずっとこんな感じだったそうですよ」

律「そりゃきついな…」

梓「三人を見た瞬間平行世界の人達だって気付いたので面倒見てくださったみたいですけど、正直頭おかしくなりそうだったって言ってました」

律「なんかさわちゃんに悪いことした感じがするよ」

梓「とりあえず家の外…というか、もう部屋の外に出ないようにガチガチに監禁してきたそうです」

律「…しっかしどうすっかな。みんなにはまた準備室に待機してもらってるけどさ、これ以上平行世界の私達が増えてくると、どうなるかわかったもんじゃないぞ」

うなる律を見て、梓はハッとしたように顔を上げた。

梓「…そういえば、昨日講堂にいた律先輩とムギ先輩は?」

律「それが、帰ってきてないんだ。準備室にいると思ったんだけどな…」

梓「ちょっと心配ですね。帰ってくるって言ってたのに」

律「あの二人だけもとの世界に戻れたっていう可能性はあんまりないだろうし…。まぁ、ちょっと様子を見ようぜ」




放課後、部室。

池沼唯「むにゃ…すーすー…」

変態和「ハァハァ…唯可愛いわハァハァ…」

梓2号「膝枕だけですよ。変なことしたら先輩方に言いつけますからね」

デブ紬「あらあらうふふ」ニヤニヤ

ガチャッ

唯「やっほー」

澪「うーん…やっぱりまだあの二人は来てないか…」

梓「変なことに巻き込まれたりしてないですよね?」

紬「何か用があるんじゃないのかな?あれほど二人きりになりたいっていってたし…」

椅子に座って黙っていた最高律が立ち上がる。


最高律「私、ちょっと探してくるよ」

律「手伝おうか?って、私が行っちゃまずいな」

和「じゃあ私が一緒に行くわ」

澪「わざわざ悪いな」

最高律「気にするなよ、ちょっと街を見て回りたかったんだ。ついカッとなって怒鳴っちゃったけど、出て行っちゃったもう一人の澪のことも気になるし」

澪「あー…アイツか…」

梓(あの人はいない方が話が進んでいい気がするんですけど…)

最高律「ほいじゃ行ってくる」

和「すぐ帰ってくるわ。何かあったら携帯に連絡お願いね」

二人が部室を出るのを見送り、残りのメンバーは手がかりのない所から戻る方法を考えるというもどかしい作業を続けることにした。

和と最高律の二人が、階段を下りている時だった。

最高律「ん…?なぁ和。あそこ…なんか人だかりできてないか?」

和「え?」

彼女が指さす先には、入り口に人混みができた自分たちの教室があった。

和「あそこ…私達の教室だわ」

最高律「なーんか嫌な予感しかしないぞ…」

和「私もよ。とりあえず様子を見に――っと…アンタ、クラスメイトの名前わからないわよね」

最高律「あ、あぁそうだな。話しかけられるとボロが出ちゃいそうだ」

和「…じゃあこうしましょう。私があの教室の様子見てくるから、律は先に捜索に行っててくれないかしら。何も問題なければ後から追いかけるから」

最高律「了解。じゃあ、そっち頼むな」

和「まかせといて」


最高律と別れ、和は人だかりへと足を運ぶ。

和「…何やってるの?」

慶子「あ!真鍋さん、ちょうど良かった!」

潮「軽音部のみんなと真鍋さん、HRが終わったらすぐ出て行っちゃったでしょ?でも、そのあとすぐに平沢さんが戻ってきてさ。でも・・・なんていうか、変、でさ」

和「…唯が?変?」

唯ならずっと自分たちと一緒にいた。つまり、やはり嫌な予感は的中したということだ。

和「ちょっとごめん。入らせて」

人混みを割って教室内へと入る和。そこにいた唯を見て、言葉を失った。


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最終更新:2010年06月22日 02:24