唯「りっちゃぁん……」

紬「りっちゃんどうしたのかしら……」

澪「私にもさっぱり……」

梓「こんにちは」ガチャ

律「うう……ぐすっ」シクシク

梓「なんですかこの状況……?」


6月。雨が止まない月。
外はざあざあ雨が降っていて、でも涼しいわけじゃなくてじめじめしている。
そんな梅雨の時期は気分もしっとりしがち。

いつもは明るい放課後の部室も、今日はしっとりじめじめしていた。
でもそれは雨のせいだけじゃない。


律「ぐすっぐすっ……ひっく」


軽音部で一番のムードメーカー、りっちゃんがずっと泣いているからだ。


梓「どうしたんですか律先輩……?まさかこれって……いわゆる……イジメってやつですか?」

澪「バカ言え。私が律をいじめるはずないだろ」

紬「りっちゃんね、朝からずっとこんな調子なの」

梓「あ、朝から……?」

唯「何しても泣き止まないんだよー」

梓「水分とか大丈夫なんですか?」

澪「ああ。私やムギがおでこに水をあげてるから大丈夫なはずだ」

律「ぐすっ」テカテカ


そう。りっちゃんは今朝から……正確には1時間目の講演会の後から、ずっと泣き続けている。
泣いたきっかけもよくわからない。
講演会だってただのガイダンスで、とくに感動するような演説とかじゃなかった。
2時間目の後、うつむいているりっちゃんに私たちが声をかけたら、すでに泣いていた。

澪ちゃんじゃあるまいし、りっちゃんが泣くなんて前代未聞だから、私たちはおろおろするばかり。
とりあえず授業中はあまり大っぴらに泣くのはひかえてたみたいだけど、放課後になったらこの通りぽろぽろ泣き続けている。


唯「りっちゃ~ん……おーよちよち」

律「うううう……びええ」

唯「ダメかぁ」

梓「澪先輩、解決策はわからないんですか?」

澪「ああ……律と出会ってからというものいつも律のことばかり見てきたが、こんなのは初めてだ」

紬「澪ちゃんにもわからないなんて……」

唯「ねーんねーんころーりよー」

律「ずびー」


りっちゃんはところどころ鼻をかみながら、それでも泣き続けることを止めない。
どうしたのかなりっちゃん……
今までで一番弱々しい。


澪「とりあえずとくに変わったことはなかったんだ。本当突然……」

紬「何か嫌なことでも思い出したのかしら?」

梓「でも、忘れてたようなことを思い出しただけでこんなに泣くでしょうか……」

唯「うーん、そういえばりっちゃんっていつも私たちの前では笑ってるからわからないよ……」


いつも笑顔のりっちゃん。風邪をひいたときですら、倒れるまで私たちに言わなかったりっちゃん。
2年あまり一緒にいるのに、こんな時どうすればいいのかわからなくて悔しい。


唯「こうなったら、一人ずつりっちゃんをなだめてみよう!」

澪「それはさっきやっただろ?」

唯「それは私だけだよ~。とりあえずいないいないばぁと子守唄はダメでした!」

梓「何やってるんですか……」

唯「でももしかしたら皆がそれぞれやってみたら何か変わるかもしれないよ!」

紬「一理あるわね」

梓「あるんですか!?」

これは我ながら名案だよ!私にはりっちゃんを救えなかったけど……
優しいムギちゃんや、幼馴染の澪ちゃん、可愛い後輩のあずにゃんならりっちゃんを救えるかもしれない!


唯「ってことで一番手は我らが自慢のムギちゃん!」

紬「あらあらうふふ」

律「ふぐぅ、むぐぅ」ズビズビ

澪「何をするつもりなんだムギ……」


澪ちゃんが心配そうに見守る中、ムギちゃんは笑顔でりっちゃんの元へ。


そして、優しげにりっちゃんの頭を撫で、


紬「りっちゃん」ふわっ

律「ムギ……?」ぐすぐす


やさーしく抱きしめた。
そう、これぞムギちゃんの十八番!その名も「ほうようりょく」だ。
ちょっとした背の差のためにすこし低い位置にあるりっちゃんの頭をなでなでし続ける。

りっちゃんは少し落ち着いたようで、鼻をすする音が弱くなった。
そしてついでに、泣き出してから初めてちゃんとした言葉を喋った。
これだけでも大きな進歩だ。


紬「何かあったなら、私に話してちょうだい?」なでなで

律「ムギぃ……」うるうる

唯「おっ?効いた?」

紬「ハァハァ」サスサス

澪「り、律」

梓「呆気なく解決っぽいですね」


こうかは ばつぐんだ!
やっぱりムギちゃんのほうようりょくは威力ばつぐんだね!


紬「よしよし」なでなで

律「ムギ……」


おや?りっちゃんのようすが……




律「ムギぃ……う……うう……うわーーーん!!!」ボロボロ

紬「!?どうしたの?」

律「うわあああん!!むぎー!」


なぜだかりっちゃんは更に泣き出しちゃった。これは逆効果だったのかな……


澪「おそらく、ムギに慰められて安心してさらに泣いてしまったんだな」

梓「意味分かりません」

唯「もう!あずにゃん真面目にやる気あるの?それじゃあ次はあずにゃんだよ!」

紬「ちょっと待って」

唯「ん?」

紬「りっちゃんね、ワケもなく泣いてるわけじゃないと思うの。何か訴えるような泣き方だもの」


おおっ、さすがムギちゃん……


そっか、そうだよね。私としたことが!
そりゃ無意味にびーびー泣いてるわけじゃないよね……
じゃありっちゃんは何が悲しいんだろう?

確かに、りっちゃんはさっきも言ったとおり何かあっても自分の中にしまいこみがちだ。
何か、心の奥に悲しいことや不安なことを抱えているのかもしれない……


梓「律先輩に悩みや不安……ですか。なるほど」

澪「梓、わかったのか?」

梓「恐らく、ですけど……信憑性はあります」


唯「さすがあずにゃんだよ!よしじゃあ次はあずにゃんのターン!」

紬「頑張ってね」


せっかくのムギちゃんハグを離れ、りっちゃんは机に突っ伏して泣いている。
あずにゃんはりっちゃんを驚かせないように揺り起こす。
ゆっくりとした動作でりっちゃんが顔を上げると、しゃがんで目線を合わせた。


梓「律先輩の言いたいことはわかります。先輩はきっと……これからのことで悩んでるんですよね」

律「!」がばっ

唯「お!あたり?」

澪「これからのこと……か」

紬「進路とかかしら……」


梓「この間先輩は進路について悩んでるって言ってました。まだ決まってない、みたいな事を言ってましたよね」

紬「そうね……」

唯「私とりっちゃんだけ怒られたんだよね~」テヘッ

澪「まったく……律はいいものの唯はどうするんだか」

梓「律先輩。大丈夫です。安心してください」


律「えっ」

梓「先輩なら大丈夫です。やってけると思います」

澪「おい梓、そんな無責任に……」


でもあずにゃんはしっかりとりっちゃんを見て言ってる。何も考えずに言ってるわけじゃなさそう。
まさかほんとにりっちゃんの悩みがわかったのかな?


梓「私も、憂も、純も、先輩が大好きですから。それに、他の2年の間でも律先輩が好きって子がたくさんいます」

律「……?」

梓「何しろ先輩は抱きたいランキングでも抱かれたいランキングでも上位です。きっとやってけます」

紬「あらぁ」ポゥ

澪「おい、なんだそれは」イライラ

梓「あ、澪先輩は意外と抱かれたいランキングでも人気ですよ」

唯「なにそれー、面白そう」

梓「と言うわけで、律先輩。いや、りっちゃん。留年しても大丈夫です!」

梓「むしろどんとこいです!一緒にもう一年高校生活やりましょう!」

紬「ちょ、私のセリフ」

唯「そんなまさか……りっちゃんが留年!?」

澪「おい律、どうして早く相談してくれなかったんだ!!」

紬「そういえば1時間目の前、さわ子先生と何か話していたわね……」

律「え、いや、それ違……」わたわた

梓「ね、私と一緒に卒業しよっ!」キラペカー


なんというはっちゃけたあずにゃん。
しかしこれが本当だとすると、りっちゃんは私たちと一緒に卒業できない……!?
そんなまさか……!
さすがの私でも留年警告きてないのに……


澪「律……本当なのか?」

律「う……うう」じわじわ

梓「同じクラスになるようさわ子先生に頼みましょう」

紬「私ももう一年居ようかしら」

唯「あームギちゃんずるーい!」

澪「じゃ、じゃあ私も……」


律「…………」

律「うわーーーーん私そんなバカじゃないよおおおおお」びーーーー

梓「違いましたか……」

紬「大変、更に悪化しちゃったわ」

澪「っていうか律ってそんなに頭悪くないぞ」

梓「やっぱりそうでしたか。でもキャラ的にてっきり」

唯「だよね!やっぱりキャラ的にそう思うよね!」

律「しっくしっくもうやだ……」


これで残る最後の希望は澪ちゃんだけになっちゃった。
澪ちゃんは「仕方ない、私の出番か」みたいな仕草でさらりと髪を後ろに流す。
そして、今や部室の隅で体育座りでしゃがみこむりっちゃんの元へ自信げに近寄った。

ていうか、もしかしてずっと自分の番を待ってたのかなぁ。


澪「おい、律」

律「澪……ひっくひっく」

澪「おい、泣き止め律」がしっ

梓「ちょ、澪先輩そんな強引に……」

紬「待って梓ちゃん!」


ムギちゃんの目がきらきらし始めた。
澪ちゃんは無理やりりっちゃんの顔を上げさせると、片手であごを掴んだ。


澪「いつまで泣いてるつもりだ。お前、泣き顔をそう簡単に曝していいと思ってるのか?」

律「!」びくっ

澪「もう我慢の限界だ。帰るぞ律」ぐいっ

律「や、やだよ!まだ帰りたくない!」

澪「あんまりワガママ言うなよ。おしおきされたいのか?」

律「っ……」がたがた


うわぁ。
私とあずにゃんがハモる。


おしおきなんて言う人現実にいたんだね。そういうの、漫画とかだけかと思ったよ!
見るとムギちゃんはうっとりしてて、あずにゃんは私と同じようにぼーぜんとしている。

なんだか澪ちゃんが抱かれたいランキングで人気なのも分かる気がするよ。


澪「ほら、律。泣くのは帰ってから私の前でだけにしろ」ぐいぐい

律「ふ……ふぇ……ふぇえええええええん澪のおしおきやだああああ」


これもダメかぁ。
ムギちゃんの優しい路線がダメ、あずにゃんの推測もハズレ。
澪ちゃんの俺様路線は結構いけそうだと思ったんだけどな。
もう、りっちゃん頑固すぎるよ!


澪「もう……何で更に泣くんだよ?ここはうっかりときめいて気がついたら涙が止まってた展開だろ?」

律「だって……だって澪のおしおきイヤなんだよ……」ひっくぐすっ

梓「過去すでに施行済みなんですか」

紬「りっちゃん詳しく!」

律「おしおきこわい……手とか足とか痛くなるし……へんなボールみたいのくわえさせられるし……へんなブルブル入れられるし……」

澪「ちょ、律ストップ!」

律「やめてって言ってもやめてくれないし写真撮るしへんなとこ舐めるし」

紬「あらぁ……」ニヤ

唯「澪ちゃんダメだよ!口にボールなんて汚いよ!」

梓「先輩はいつまでもそのままでいてください」


あずにゃんは優しい目をして私を見る。
なんだかよくわかんないけど、りっちゃんはおしおきを思い出したのか震えながら赤くなって泣き続けていて、
澪ちゃんは「ついにみんなにバレちゃったかぁ」と照れている。

見ればムギちゃんまで涙目になっていた。表情はりっちゃんと正反対だけど。


紬「澪ちゃんっ!無理やりなんてダメよっ!」

梓「先輩は黙っててください」

律「ふぇっぐすっもうやだ……学校出たくない」

梓「律先輩さらに暗くなっちゃったじゃないですか!もうどうするんですか?」

澪「そんなこと言われても、いつもは泣きながらも善がってたから……」

梓「そういう問題じゃなくて」

唯「あずにゃん忙しいね」


もう何がなにやら……
ん?でもちょっと待って。
さっきからのりっちゃんの様子、もしかして……?


唯「りっちゃんっ!」がしっ

澪「おい唯それ私がさっきやったって」

紬「今度は唯ちゃんね!」

梓「先輩……見損ないました」

唯「ちちち違うってー!まぁ見ててよ」


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最終更新:2010年06月24日 20:39