――平沢宅――
憂「……」
唯「おーいしーい」パクパク
セイバー「ユイ、ご飯粒がついていますよ」モキュモキュ
憂「?」
セイバー「どうしました? ウイ」
憂「え? あ、はい」
唯「変な憂-」
憂「変なのはこの状況でしょ……」
セイバー「このハンバーグは、非常に美味だ。素晴らしいです」
憂「この金髪の人、誰?」
セイバー「え?」
唯「ん?」
憂「いやだから、この背筋ピンって張ってる女の人は誰なのって聞いてるの」
唯「いやだなー憂ったら。……あれ?」
唯「だれ!?」
セイバー「……あ」
セイバー「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私の名前はセイバー。
契約に基づいて参上いたしました」
憂「意味がわからないです」
セイバー「おや、聖杯戦争のために召喚されたのではないのですか?」
唯「せーはい?」
セイバー「この世全ての願望を叶えると言われている、聖なる杯のことです。
もしかして、知らないのですか?」
憂「おとぎ話ですよね。それって」
セイバー「困ったな……」
憂(うわぁ。変な人だったぁ)
セイバー「まず整理しましょう」
憂「はい」
セイバー「ユイ、ウイ。それで、あなたたちの名前はあってますね?」
唯「うん」
セイバー「それで、私を呼びだしたのは誰ですか?」
唯「私じゃないよー」
憂「召喚とか、そういうのは信じてないんで」
セイバー「あれ?」
セイバー「聖杯戦争を知らない。私を召喚した覚えもない。それじゃあ――」
唯「ねえ、憂」ひそひそ
憂「ん?」
唯「変な人だよ。この人」ひそひそ
憂「お姉ちゃんが気付くってことは相当だよね。警察呼ぼうか」
セイバー「ちょっと待ってください」
憂「なんですか? もう110押しちゃったんですけど」
セイバー「危ないですよ」
憂「あなたがね」
セイバー「いえ、警官だとか私の障害になる人間がです」
唯「?」
憂「あ、警察ですか? はい、私の家に変な――」ビュオン!
電話「こっぱーん!」
憂「!?」
セイバー「風王鉄槌(ストライク・エア)」
唯「あわわわわわ」
セイバー「……ものすごい魔力の消費を感じた」
憂「えー……」
――そうして――
セイバー「それでは話しあいましょう」
憂「不本意この上ないんですけどね」
セイバー「今のこの事態に納得なんてものは不純物です」
唯「正座、つらい」
セイバー「それではまず、私がどうしてここにいて、むしゃむしゃと食事を
していたかについて話し合いたいと思います」
憂「お姉ちゃん、知ってる?」
唯「うーん。なんか、お昼寝してて起きたら、もういたんだよ。えーっと」
セイバー「セイバーとお呼びください」
唯「セイバーちゃんが隣で寝てて、一緒にご飯食べようって」
憂「一つ解消されたね。とりあえず、お姉ちゃんの隣で寝てたセイバーさん
は悪ってことまでわかったよ」
セイバー「それはないです。私だって、いきなりユイの顔がすぐ側にあったの
には驚いたんですから」
唯「そういえば、なんで私の名前知ってるの?」
セイバー「わかりません。ただ、頭の中に浮かんだんです」
憂(不審者? まさか、レズストーカー? 女のくせに女の子が好きとか、キ
モっ)
唯「へえー」モゾモゾ
憂(お姉ちゃん、正座辛いのかな。かーわいいー!)
セイバー「それはそうと私は悪ではありません。むしろ正義です」
憂「正義って、人の家の電話吹き飛ばしておいて……」
唯「すごい手品だよね」
セイバー「ああ、あれは私の能力というか、武器というか、そういうものです」
憂「武器?」
セイバー「はい。……しかし、今の話の中で宝具の話は不要でしょう」
唯「宝具?」
セイバー「必要がないので、宝具の説明はしません。とにかく、今は私が
ここにいる理由と原因を突き止めなければなりません」
憂「うーん……。お姉ちゃん、覚えないよね」
唯「ないよー」
セイバー「ふう……。それじゃあ仕方ないですね。食事の続きといきましょう」
憂「ちょ! ちょっと待ってください!」
セイバー「なんですか? せっかくの食事が冷めてしまうじゃありませんか」
憂「なに普通にご飯食べようとしてるんですか!?」
セイバー「そこに料理があるからです」
憂「……」
セイバー「私が前回現世に来た時は、食事をする必要がなかったのです
が、今は魔力が死活問題なのです。故に、食事をとっておく必要があり――」
憂「魔力ってなんですか!」
セイバー「私の命です。それでは、再びいただきます」
セイバー「ユイも食事を再開するべきです。明日も学校なのでしょう?」モキュモキュ
――食事終わって――
セイバー「……」
テレビ「ちゃうねん。これはな、もっと深いもんやねん。わかるか? 上地」
テレビ「はい。僕も松坂の球を受けてた時、そう思ってました」
流し「ざー」
憂「……」かちゃかちゃ
テレビ「ホントに、素敵やん?」
唯「ごろごろー」
セイバー「ユイの髪は、綺麗ですね」
唯「ありがとー。でも、セイバーちゃんの髪のほうが綺麗だよー」
セイバー「私には、髪を気遣う時間なんてありませんでした」
唯「それでその髪って、反則だよー」
憂(お姉ちゃん、セイバーさんになじんでる……?)
セイバー「ウイ、お茶をいただきたいのですが」トコトコ
憂「ちょっと待っててください。もう少しで洗い物終わりますから」
セイバー「わかりました」
憂「……」
セイバー「ユイ、ここにアイスクリームが!」
唯「アイス! あーいーすー!!」
憂「しまった!」
セイバー「ちょうど二人分あります。分けて食べましょう。そういうことです
ので、お茶はいりません」
唯「わーい」
憂(あれは……お姉ちゃんと食べる筈だった数量限定アイス! 徹夜で
並んで買ったのに……!)ギリッ
セイバー「美味しいですね」
唯「ねー」
唯「セイバーちゃんって、変わった名前だよね」
セイバー「これは、クラスですから」
唯「?」
セイバー「……あだ名みたいなものですよ」
唯「へえー。ホントの名前はなんていうの?」
セイバー「答えられないのです」
唯「ふぇ?」
セイバー「私がここにいるということは、この街で聖杯戦争が行われる
ということに相違ない。そうすると、あなたたち二人のいずれかが私の
マスターだ。……だからこそ、教えられないのです」
唯「なんだか難しいけど、セイバーちゃんにも事情ってもんがあるんだね!」
セイバー「はい。申し訳ありません」
唯「いいよいいよ。セイバーっていうあだ名も可愛いもん!」
憂(やっぱり、お姉ちゃんの感性ってたまにわからないよ)
お風呂「ピピピピ! お風呂が、わきました!」
セイバー「!?」
憂「お風呂沸いたみたいだから、お姉ちゃん、入ってきて」
唯「はーい。セイバーちゃんも一緒に入ろう!」
セイバー「……その必要がどこに」
唯「セイバーちゃん歓迎ってことで!」
憂「え!?」
セイバー「しかしユイ――」
唯「うちのお風呂はおっきいんだから! いこいこー!」
憂「おねえちゃーん!」
セイバー「なんて強引な……。でも、女性のマスターは初めてですからね。
こういうのも、悪くない」
唯「決まりー!」
セイバー(アイリスフィールとは、一緒に入浴なんてしなかったから)
――お風呂――
唯「セイバーちゃん! 肌きれー!」
セイバー「唯の身体も、少女のもので美しい」
唯「セイバーちゃんが言うと、それが厭味に聞こえるよー」
セイバー「そうでしょうか。私の体は、少女のものでは……」
唯「えい!」ざばっ!
セイバー「うわ!」
唯「私が頭洗ったげるね!」
セイバー「……お願いします」
唯「お願いされます!」ゴシゴシ
セイバー(気持ちいい。こんなに気が休まる日を体験したのは、いつ振り
だろうか)
唯「おかゆいところありませんかー」
セイバー「いいえ。ユイは、すごく上手です」
唯「ホントに、綺麗な金髪だよね。ムギちゃんみたい」
セイバー「ムギ? それは敵ですか?」
唯「いやいや私、学校の軽音部に入ってて、そのお友達」
セイバー「軽音部、というとユイは楽器を弾くのですか?」
唯「そうだよー。ギターボーカルやってるんだよ。結構上手なんだから!」
セイバー「フフ。そうですか」
唯「信じてない?」
セイバー「信じてますよ。この手は、ギターの練習を頑張ってる手だ。毎日
鍛錬しているのですね」
唯「な、なんだか恥ずかしいなぁ」
セイバー「恥じることはありません。胸を張って、誇りに思うべきです」
唯「えへへー。ありがとね」
唯「おっけ。……それじゃあ、湯船浸かろうか」
セイバー「はい」
唯「あったかー」
セイバー「そうですね」
唯「……ていっ」ほよっ
セイバー「な、なにをするのです! 無礼者!」
唯「あべし!」
ドア「ニコ」
憂「お姉ちゃん!」
唯「大丈夫だよー」
憂「そう? よかったー」
ドア「ニコ」
セイバー「……ウイが待機してるのですか」
唯「なんでだろうね」
セイバー「それはそうと、なぜいきなり胸を触るのですか!」
唯「柔らかそうだったから」
セイバー「……貴女は、柔らかいものだったらなんでも触るのですか?」
唯「そこまでじゃないよー」
セイバー「まったく……」
唯「でも、セイバーちゃんの胸、ちっさいねー」
セイバー「小さくて結構、私は武人です。無駄に大きな胸など不要です」
唯「あずにゃんほどじゃないけど、りっちゃんくらいかな?」
セイバー「その人たちも、軽音部の部員なのですか?」
唯「うん! みんな可愛いんだから!」
セイバー「そうですか。一度会ってみたいものです」
唯「澪ちゃんを見ても、やきもちやかないでねー」
セイバー「なるほど。そのミオという子は、敵なのですね?」
唯「なんで!? 澪ちゃんはスタイルがすごくいいから、セイバーちゃん
が――」
セイバー「……」
唯「な、なんかごめんなさい」
セイバー「はい。わかればいいのです」
セイバー「……」
唯「?」
セイバー「そろそろあがりましょう。ウイも入りたいでしょうし」
唯「うん。わかった」ざばぁ
セイバー「……」
唯「ふう、良いお湯だったー」
セイバー「やはり……」
唯「え?」
セイバー「すいませんがユイ。どうやら、私はもう一度お湯に浸からなければ
ならないようです」
?「……」
セイバー「姿を現しなさい。英霊が出刃亀とは情けない」
ランサー「バレちまったか。気配遮断は不得手だな」
セイバー「……やりますか?」
ランサー「無論だ」
唯「?」
セイバー「ここでは被害が出る。場所を変えましょう」
ランサー「そのお嬢ちゃんが、おまえのマスターじゃないのかい? 『セイ
バー』よ」
セイバー「なぜ、私のクラスを知っている?」
ランサー「!」
ランサー「ほう」
ランサー「それはどうでもいい。兎角、俺たちの間に言葉は無用だ」
セイバー「私の提案は?」
ランサー「飲んだ。しばし待ってやるから、服を着替えて死に場所を選べ」
セイバー「感謝しますが、待つ必要はない――!」
ランサー「そういえばそうだったな。場所は?」
セイバー「付いてきなさい!」
ランサー「おうよ!」
唯「……あれ?」
――公園――
ランサー「これはまた、半端な場所を選んだもんだ」
セイバー「青い甲冑に赤い槍。聞くまでもなく、ランサーのクラスか」
ランサー「ご明察の通りだ。セイバーよ」
セイバー「やはり、聖杯戦争か」
ランサー「腑抜け。俺たちがここにいるということは、そうに決まってるだろう」
セイバー「……その通りだ。いくぞ!」
ランサー「きやがれ!」
?「……」
――平沢宅――
唯「……あれ、なんだったんだろ?」
憂「セイバーさんは?」
唯「どっか飛んで行っちゃった。青い服着た男の人と」
憂「?」
唯「私にもよくわからないの。でも、なんだか不安なんだ」
憂「お姉ちゃん?」
唯「セイバーちゃん、私と話すときは違う。すごく、怖かったの」
憂「……大丈夫だよ。状況はわからないけど、きっとセイバーさんは帰って
くるよ」
唯「……うん」
憂「もう寝ちゃお。朝起きたら、セイバーさん帰ってきてるからね」
唯「そうする。おやすみ、憂」
憂「うん。おやすみなさい」
最終更新:2010年06月25日 21:18