――公園――

セイバー「やはり槍のサーヴァント。間合いを取りにくい」

ランサー「あいも変わらず武器を隠しやがって――。戦いにくいったらねえ」

セイバー「!?」

ランサー「気付いたか? 当然だ。お前はセイバーなんだからな」

セイバー「この局面で宝具!?」

ランサー「生憎、このままだとやられちまうんでね。さっさと使わせてもらう」

セイバー「……ならば」

セイバー(駄目だ。今、私の宝具は使えない――)

セイバー(魔力が、あまりにも足りなさすぎる)

ランサー「受けろ――!」

ランサー「刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!!」

セイバー「!?」

ランサー「……とったな」にやり


?「いやいや」

セイバー「ぐっ……」

ランサー「避けた!? 否、掠めただけか!」

セイバー「私には幸運が、味方してくれたようだ。因果律の逆転とは、さす
がはアイルランドの光の皇子だ」

ランサー「チィ!」

セイバー「これで、お前の正体は分かったぞ。クーフーリン」

?「……」

セイバー「しかし、私に返しの刃は――」

ランサー「やめだ」

セイバー「!?」

ランサー「自慢の、っていうか切り札で止めさせなかったんだ。俺の負けと
言ってもいい。だが、実際は俺のほうが優位にいる。セイバーよ。この勝負
は預けたぜ」

セイバー「な、情けをかけるというのか?」

ランサー「そうは言ってない。見たところ、おまえは事情を知らないみたい
だからな。今は倒さないというよりも、倒せない」ヒュン

セイバー「……」

セイバー「戻ろう。ユイとウイが心配している」

セイバー「事情……」

セイバー「私の知らないところで、聖杯戦争はどうなっている?」

セイバー「……わからない」

セイバー「とにかく、今は怪我の治療を……」

セイバー「霊体にもなれない」

セイバー「私は、出来そこないのサーヴァントだ」

セイバー「ユイ、ウイ……」

セイバー「大丈夫。帰るくらいはできる」

セイバー「そうだ。大丈……夫」



――次の日――

唯「ん……」

唯「セイバーちゃん?」

セイバー「は、はい?」

唯「うわ!」

セイバー「大声を、出さないでください」

唯「顔色、悪いよ? どうしたの?」

セイバー「問題ありません。少し、傷を負っただけですから」

唯「……見せて」

セイバー「?」

唯「セイバーちゃんの怪我、見せて」

セイバー「ですが――」

唯「いいから」ガバッ

セイバー「!?」

唯「ひどい傷……。病院に――」

セイバー「昨日も見たでしょう? 私は普通の人間じゃない。病院に連れて
いったところで無駄です」

唯「それじゃあ、どうすれば……」

セイバー「眠って、魔力を全て回復に回します。そうすれば、ある程度は回復
するでしょう」


唯「セイバーちゃん」

セイバー「?」

唯「なんで、我慢するの?」グスっ

セイバー「ユイ?」

唯「こんなに酷いのに、痛くないみたいな顔しないでよ。私、耐えられないよ」

セイバー「……痛みなんて、とうに慣れました」

唯「慣れたって痛いものは痛いよ! セイバーちゃん……」

セイバー「……」

セイバー「痛いですよ」

唯「うん……」

セイバー「今まで、そんなことを言ってきたマスターはいませんでした」

セイバー「私を道具のように扱い、私自身もそれでよかった」

セイバー「――ああ。でも」

セイバー「こんなにも、温かいのですね。人間というものは」

セイバー「貴女は、世界で一番優しい人だ。私のような存在に、気を使う」

唯「そんなことないよ」

セイバー「いいえ。だからこそ、私は話しておかなければなりません」

セイバー「私という存在を」

セイバー「聖杯戦争というものを」



唯「……そう、なんだ」

セイバー「これが、聖杯戦争です」

唯「7人の魔術師とサーヴァントの殺し合い……」

セイバー「その中の一人が私であり、昨日の男です」

唯「私が、マスターなの?」

セイバー「わかりません。少なくとも、ランサーにはマスターがいるのでしょ
う」

唯「どうして?」

セイバー「必殺の一撃。宝具を用いてきました。あれを放つということは、
魔力に余裕がある何よりの証拠」

唯「セイバーちゃんは?」

セイバー「魔力がありません。だから、宝具を使うこともできない」

唯「それって……」

セイバー「はい。私には切り札がありません。そのうえ、傷を負っても治り
ません」

唯「……」

セイバー「聖杯戦争始まって以来でしょうね。マスター不在のセイバーのクラ
スは」

唯「……セイバーちゃん」

セイバー「?」

唯「契約って、今からでもできる?」

セイバー「ユイ……?」

唯「セイバーちゃんが、こんなにつらそうなんだもん。私が力になりたい」

セイバー「そ、そんなつもりは――!」

唯「無理しないで。セイバーちゃんにも、叶えたい願いがあるんでしょう?」

セイバー「……はい。なんとしても、私は聖杯を手に入れなくてはならない」

唯「だったら!」

セイバー「それとこれとは話が違う! 私は、あなたたちに傷ついてほしく
ない」

唯「……だったら、なおさらだよ」

唯「セイバーちゃんが、私たちを守ってよ」

セイバー「あなたたちを、私が?」

唯「私を守るために、私はセイバーちゃんを守る!」

セイバー「ユ、ユイ」

唯「いいでしょ?」

唯「いいって言うまで、ここを動かないから」

セイバー「……困った人だ」

唯「……」

セイバー「痛みを、伴います」

唯「分かってる」

セイバー「命を、落すやもしれない」

唯「知ってる」

セイバー「それでも、なお?」

唯「セイバーちゃんが苦しむよりはいい」

セイバー「――承知しました。マスター」

セイバー「それでは、いきますよ」

唯「うん」

唯「――私、平沢唯はサーヴァントセイバーに、我が命運を捧げる」

セイバー「セイバーの名に懸け誓いを受ける。汝を、我が主として認めよう」

唯「――ッ!」

セイバー「ユイ!?」

唯「……ちくってした」

セイバー「左手を、見せてください」

唯「……あ」

セイバー「これが令呪です。3回のみ行える絶対命令権。いいですか、一つは
残してください。全て使ってしまうと、私は貴女を守れなくなる」

唯「わかった。でも、私がセイバーちゃんに命令することなんてないよ」

セイバー「もし、あなたが学校で襲われた時……。それを使えば、私を
呼びだすことができます。場所もなにも関係なく」

唯「……わかった。それじゃあ、憂に包帯もらってくるね」

セイバー「ええ。令呪は誰にも見せないでください」


憂「……お姉ちゃん」

唯「おはよ。憂」

憂「セイバーさん、血塗れで帰って来たの」

唯「知ってる」

憂「……」

唯「大丈夫だよ。セイバーちゃんは、私たちを守ってくれるよ」

憂「本当?」

唯「本当だよ。お姉ちゃんを信じなさい!」

憂「……うん。セイバーさんとお姉ちゃんを信じるよ」

唯「うん。セイバーちゃんにも朝ごはん運んであげてね」

憂「ご飯、食べられるかな」

唯「食べるよ。憂のご飯美味しいもん」



――3-2――

唯「おはよーございます!」

さわ子「平沢さん、遅刻っと」

唯「間に合ってるよー」

和「諦めなさいって」

姫子「おはよう、唯」

和「私の方がおはよう。唯」

唯「おはよう、姫ちゃん。和ちゃん」

和「あら、手怪我したの?」

唯「う、うん。コップ割っちゃって」

和「気をつけなさいよ。ドジなんだから」

唯「えへへー」

澪「……」

唯(セイバーちゃん、大人しくしてるかなー)

唯(テレビでも見てるのかな)

姫子「唯」

唯「姫ちゃん?」

姫子「澪から、手紙」

唯「ありがと。えーっと」

唯「昼休み、屋上?」

唯「了解っと。はい」

姫子「ん」

唯(澪ちゃん、どうしたんだろ。まさか、愛の告白!?)

唯(駄目だよ澪ちゃん! 澪ちゃんにはりっちゃんが!)

先生「平沢、なにをクネクネしているんだ?」

唯「!?」



――昼休み――

唯「澪ちゃん、先に行っちゃったみたい」

律「澪のやつ、どこ行ったんだー」

唯「りっちゃんごめん! 私、ちょっと用事!」

律「なんだなんだー」

紬「まさか、梓ちゃんとなにかあるのかしら」

和「ムギ、声に出てる」

紬「あらやだ」

唯「じゃあ、いってくるね!」

和「いってきなさい」

律「お土産お願いなー」

唯「あはは。期待しないで待っててねー」

ドア「ニコ」

唯「お待たせっ!」

澪「別に待ってもいないよ。ごめんな、呼びだしたりなんかして」

唯「ううん! 問題ないよ!」

澪「……そっか」

唯「?」

澪「唯、その手はどうしたんだ?」

唯「こ、コップ割っちゃったんだよ」

澪「その割には変なところを怪我してないか? 見せてみろ」

唯「な、なんか変だよ? 澪ちゃん」

澪「……令呪」

唯「え?」

澪「そうなんだろ。唯」

唯「どうして、それを知ってるの?」

唯「……あ」


澪「引っかかったな」

唯「うぅ~」

澪「ホントに知らなかったら、そんなふうには答えないよな」

唯「……澪ちゃん」

澪「安心しろ。私もだから」

唯「そうじゃなくって」

澪「それも平気。私だって戸惑ってるんだから」

唯「信じていいの?」

澪「信じてくれないか?」

唯「……信じるよ。澪ちゃんは親友だもん」

澪「ありがとう。――アーチャー」

アーチャー「やっぱりマスターだったんだ。ミオ」

唯「うわ!」

アーチャー「……」

唯「あれ? 女の人?」

アーチャー「サーヴァントに性別なんて、基本的には関係ないでしょ」

唯「セイバーちゃんはすごい可愛いもん!」

澪「セイバー!?」

アーチャー「ええー」

唯「しまった!」

澪「アーチャー、セイバーってことは――」

アーチャー「昨日、公園で戦ってたサーヴァントね。魔力がまるで感じられな
かった」

唯「……澪ちゃん」

澪「安心してくれ。アーチャーには令呪がかけてある。私の命令に背くと、
アーチャーは動けない。二つ使って行使させたんだぞ」

アーチャー「お陰で、私は朝から身体が重くて仕方がない」

澪「だって、起こしてくれなかったんだもん」

アーチャー「私は朝が弱いの」

澪「サーヴァントのくせに寝てるなよ」

アーチャー「はいはい」

澪「聞け」

唯「……」

アーチャー「あ、そうだ」

唯「え?」

アーチャー「ミオの命令で動けないだけで、ワタシはいつだって貴女を殺し
たくてしかたがない」

唯「!?」

アーチャー「だから、これからミオが貴女と交渉するけど、そこにワタシの
意思はまるでない」

唯「だ、だから?」

アーチャー「ただそれだけ。言葉以上のことを期待しないで」

唯(この人、嫌いだ……)

澪「アーチャー。ちょっと消えてろ」

アーチャー「はいはい」スゥ

唯(サーヴァントって、こんなこともできるんだ)

澪「ごめんな唯。アーチャーが変なこと言って」

唯「気にしてないよ。それで、交渉って何?」

澪「うん。それが大事なんだ。……唯、手を組もう」

唯「ふぇ?」

澪「私も唯も、聖杯戦争に関してはまるで知識がない。私も、昨日一日
使って、ようやくある程度は知ってるくらいだ。唯は、聖杯戦争について
なにか知ってるか?」

唯「セイバーちゃんに、ちょっと聞いたくらいかな」

澪「だろ。だったら、一緒に戦った方がいいんじゃないか?」

唯「でも――」

澪「唯の言いたいことわかる。でもさ、セイバーは魔力が殆どないっていう
じゃないか。その状態で戦うのは、かなり辛いというか無理だぞ」

唯「そ、そうだけど……」

澪「殺されてもいいのか?」

唯「そ、それは嫌だ!」

澪「憂ちゃんも、危険にさらされる」

唯「やだ!」

澪「なら簡単だろ。私たちと共同戦線を張ったほうがいい」

唯「でも……」

澪「――」

唯「帰って、セイバーちゃんと相談するね。私一人じゃなんとも言えないよ」

澪「そっか。そうだよな。ごめんな。急な話しちゃって」

唯「ううん。澪ちゃんだって大変なんだもん。仕方ないよ」

澪「昨日、散歩から帰ってきたら私の部屋で漫画読んでたんだぞ。アー
チャーのやつ」

唯「セイバーちゃんも、昼寝から起きたときら隣にいた」

澪「……そんなものなのかな。サーヴァントって」

唯「さあ……」


3
最終更新:2010年06月25日 21:19