セイバー「ユイ!」

唯「セイバーちゃん!」

セイバー「今すぐおぶさって! 逃げます!」

澪「アーチャー、なにがあったんだ!」

アーチャー「説明は後でするから! ヒラサワユイの家に!」

セイバー「承知!」

唯「ふわああああああああああああああああああああ!!!」

澪「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!」

律「――あれは……?」

バーサーカー「――――」

律「唯と、澪じゃないか」

律「おいおい、まさか私たちが殺しあうなんて……」

律「困ったなぁ――」

律「――でもまあ、いっか」



――秋山宅――

澪「ママ、もう寝てるみたい」

セイバー「ママ?」

澪「お、おふくろ!」

アーチャー「それはそれでどうかと思うよ」

唯「……セイバーちゃん、それでどうだった?」

セイバー「――最悪のサーヴァントと出会いました」

アーチャー「バーサーカーのクラスね」

澪「バーサーカー?」

アーチャー「狂戦士っていうのかな。とにかく、こと戦闘に関しては私や
セイバーを軽く凌ぐわ」

唯「セイバーちゃんよりも強い……?」

セイバー「普通のバーサーカーならば打倒も出来ます。しかし、狂化させて
いる英霊はあの大英雄、ヘラクレスなのです」

澪「!?」

唯「ヘラクレスって、あの?」

アーチャー「ゼウス神の子供で、半神の英雄よ。はっきりいって、これ以上の
英雄は存在しないと言ってもいい」

セイバー「本来、バーサーカーのクラスはレベルの低い英霊を狂化させて、
戦闘力を増します。しかし、ヘラクレスを狂化させたとあれば、これはもう
戦闘に関しては手の着けようがない」

アーチャー「私、セイバー、それとランサーの3騎士でかかれば――或いは
ってくらいね」

澪「集めるか?」

アーチャー「無理ね。私たちはよくても、ランサーにはうまみがない。確実
に勝てるのならいいけど、可能性が出る程度ならランサーは協力しない」

セイバー「おそらく、これ以上味方を増やすのは難しいでしょう」

澪「そうか……。なら、どうすれば」

アーチャー「マスターの暗殺」

セイバー「アーチャー!!」

唯「それは駄目! マスターが誰かは知らないけど、殺すのは――」


アーチャー「甘すぎ。サーヴァントを殺れないのなら、マスターしかないじゃな
い。それともなに? こっちからは殺さないけど、殺されるのはいいわけ?」

唯「違う! 殺すのも、殺されるのもやだ!」

アーチャー「それが甘いって言うの。大人になりなさい」

唯「――子供でいい」

アーチャー「え?」

唯「この状況で、殺したりしなきゃいけないのなら、私は一生大人でいい」

アーチャー「――」

セイバー「ユイは頑固ですよ。一度決めたら、その決心は揺るがない」

澪「アーチャー。バーサーカーを斃す方法を考えよう。マスターを殺すのに
は、私も反対だ」

アーチャー「……もう!」

セイバー「――バーサーカーを倒すのには、宝具が必要です」

唯「宝具って、ランサーの槍みたいな?」

セイバー「ええ。宝具とはサーヴァント固有の奥義。究極の一です」

アーチャー「その宝具は英霊を英霊たらしめるシンボルみたいなもの。アイ
ルランドの光の皇子である、クーフーリンは、その赤い魔槍、ゲイ・ボルグ
をシンボルとしている」

セイバー「しかし、その宝具を発動するには真名を明かす必要がある。真名
が明らかになる、ということは弱点を晒すことになります」

澪「それはなんで?」

セイバー「クーフーリンは、生涯イヌを殺すことができませんし、カラドボルグ
に敗北しなければなりません」

唯「あ」

セイバー「わかりましたか? つまり、英霊の真名は、その者の伝説と弱点
を知られてしまうのです」

澪「だから、サーヴァントは真名と宝具を隠すのか」

アーチャー「本当なら、マスターには教えるものなんだけどね」

唯「じゃあ、セイバーちゃんの真名を教えてくれなかったのは――」

セイバー「ユイは魔術について知識が0だ。暗示などで、私の真名を他の
マスターに喋らされてしまう恐れがあったからです」

アーチャー「まあ、私も8割方そんな理由ね。ミオに真名教えないのは」

澪「そうだったのか」

セイバー「真名とは弱点です。そして、バーサーカーのマスターは敢えてそれ
を私たちに告げた。その意味がわかりますか?」

唯「トンデモない自信があるってこと?」

アーチャー「ヘラクレスじゃあ、弱点もなにもあったもんじゃないけどね」

セイバー「ヘラクレスの弱点を突くことができないのですから、真名を明かし
たところで、こちらには絶望しかありませんからね」

澪「絶望って……どうすればいいんだ!」

アーチャー「とりあえず、バーサーカーは後回しね。サーヴァントが減って、
真名がバレても問題なくなったら、全力で叩きましょう。今はそれしかない」

唯「……うん」

アーチャー「どこかの誰がか甘いから、長期戦になるわよ。今回の聖杯戦
争」

セイバー「――ユイ、気にする必要はありません。貴女は正しい」

唯「うん、ありがと。セイバーちゃん」


澪「泊っていかなくて大丈夫か?」

唯「うん。憂が心配するだろうからさ」

セイバー「ええ、ウイは私にとっても大事な人だ」

アーチャー「精々殺されないように気をつけて」

唯「……おやすみなさい。澪ちゃん」

澪「ああ、おやすみ」

ドア「ニコ」

唯「……ふう」

セイバー「どうしました?」

唯「なんか、いきなり色々ありすぎて疲れちゃったよ」

セイバー「ごめんなさい。巻き込んでしまって……」

唯「それはいいんだよ。私から巻き込まれたんだから」

セイバー「ですが――」

唯「セイバーちゃんは聖杯のことを考えてて。私は頑張るからさ」

セイバー「――はい。ありがとうございます」



――田井中宅――

律「あー疲れたー」

ベッド「ぼすっ」

律「バーサーカーは家に置いとけないし、あそこに置いとくと勝手に足りない
魔力吸い上げるからなー」

?「――!! ―――!!! ―――!! ■■―――!!!」

律「……と」

律「バーサーカーが動いたか」

律「ったく、狂戦士のマスターは大変だな」

律「サーヴァントが指先一つ動かすだけで、全身に激痛が走って、狂った
ようにのたうち回る」

律「どっちが『狂』戦士かわからないじゃないか」

律「ハハ。まあ、どうでもいいか」

律「――なあ。聡」



――次の日の朝――

憂「セイバーさん、今日もお留守番?」

唯「うん。セイバーちゃんって寝るのが仕事みたい」

憂(ニートが増えた……)

和「あ、唯と憂じゃない。おはよう」

唯「和ちゃーん!!」がば

和「よしなさい。朝から暑苦しい」

唯「えへへー」

憂「和ちゃん、今日は生徒会ないの?」

和「ええ。そろそろ引き継ぎだから、あまり忙しくないのよ」

憂「そうなんだー」

唯「和ちゃん、会長さんお疲れ様です!」

和「ありがとう。離れなさい」

唯「ぶー」




――3-2――

澪『アーチャー』

アーチャー『なに? 眠いんだけど』

澪『バーサーカーのマスターって、誰なんだ?』

アーチャー『見てないと言っても信じないだろうから、正直に言うよ。教えら
れない』

澪『どうして』

アーチャー『教えるメリットがない。この情報を、他のマスターにタダでやる
意味もない。なんなら交換条件ね』

澪『暗示をかけられてコロっと言われるより、他のマスターやサーヴァントと
情報や戦力の交換で教えるってことか』

アーチャー『その通りよ』

風子「秋山さん、今日、日直だけど日誌お願いね」

澪「うん。わかったよ」

アーチャー『……人が増えてきたな。この話はおしまいだ』

澪『ああ』

唯「ういー」

和「朝からだらけないの」ビシッ

唯「あうっ」

姫子「唯と和って、仲良いね。いつからの付き合いなの?」

唯「付き合いっていうのは、恋愛的な意味? それとも――」

和「幼稚園の頃から友達なのよ。それから、しばしば同じクラスになってね」

姫子「へえー。それじゃあ、腐れ縁ってやつ?」

和「そうね。そういうことになっちゃうのかな」

唯「ぶー」ごろごろ

姫子「あ、先生来た」

さわ子「それじゃあ出席とるわよー。秋山さん――」

姫子「……」

唯「あぅー」ごろごろ

姫子(可愛い……)




――部活――

紬「――ということで、今日は私の家でパーティーがあるのー」

梓「それに私たちが招待されたんですよね」

律「なにその説明口調」

紬「美味しい料理もたくさん出るみたいよ」

律「行く! 行かせて!!」

唯「私も!」

澪「唯!?」

唯「?」

澪「……いいの?」

唯「ねえ、ムギちゃん。憂も連れてきていい?」

紬「もちろんいいわよ。和ちゃんも招待してあるもの」

梓「でも、パーティ用の服なんて……」

紬「もちろん、私が用意するわ!」

律「変な服用意しないでくれよー」

紬「え? 駄目なの?」

律「逆にどうして良いのか」

アーチャー『いいの? ミオ』

澪『大丈夫だろ。お前もいるし』

アーチャー『過度の期待は身を滅ぼすよ』

澪『照れてるの?』

アーチャー『……馬鹿』

唯「楽しみー」

梓(唯先輩のドレス……)

律「梓ー、何想像してんだー?」

梓「な、なんでもないです!!」パカっ

律「いって! このやろー」ぐりぐりー

梓「にゃー!」

唯「りっちゃんとあずにゃんなかよしー」

アーチャー『……ま、いいか。たまにはこういうのも』




――琴吹邸――

唯「ふわぁ~」

和「……想像をはるかに超える大きさね」

呼び鈴「じゃららーじゃららあーん」

憂「呼び鈴がオーケストラ!」

セイバー「豪華絢爛ですね」

唯「だねー」

憂和「!?」

セイバー「どうしました? ノドカ、ウイ」

和「だれ!?」

セイバー「私はセイバー。ユイの家にお世話になっている留学生です」

憂「どうして連れてきたの?」ひそひそ

唯「豪華な料理って聞いた途端……」ひそひそ

和「そう。よろしくね、セイバーさん」

憂「適応した!」


紬「いらっしゃい!」トコトコ

セイバー「……」

紬「?」

唯「えと……ムギちゃん?」

紬「綺麗な人……。唯ちゃんのお友達?」

セイバー「はい。私はセイバー。ユイの家でお世話になっている留学生で
す」

紬「そうなんだぁ! いらっしゃい!」

和「セイバーさんって、日本語うまいわよね」

セイバー「祖母が日本贔屓だったもので」

憂(高校生って、なんだかすごい! って、私も高校生か)

唯「ムギちゃん、セイバーちゃんの分の服もある?」

紬「もちろん。セイバーさん綺麗だから、どんな服でも似合うわよ」

セイバー「そのような――」

唯「さあ、行こうじゃないかー」


紬「はい、これでおっけーよ」

セイバー「こ、このような動きずらい服装は――」

唯「可愛いー!」ぎゅっ

和「本当ね。やっぱり似合いすぎよ」

澪「お、唯たちも来てたのか――って、え!?」

セイバー「おや、ミオじゃありませんか。こんばんは」

律「澪、知り合い?」

澪「昨日唯の家に行ったときに会ったんだよ。セイバーも来てたのかー」

セイバー「はい。ユイが誘ってくれました。ツムギは本当に素晴らしい人物
です」

紬「照れちゃうわー」

律「……おい、梓」

梓「なんですか?」

律「相変わらず、胸がないな」

梓「むー」

律「しょげるなむくれるなよー」

梓「律先輩だって大して変わらないじゃないですか」

律「私はいいんだよ」

梓「どうしてですか?」

律「イケメンだから!」

梓「自分で言いますか。それ」

律「駄目なのか?」

梓「いえ、文句はありますが反論はありませんから」

律「へっへー」

澪『アーチャー』

アーチャー『まさかセイバーも来るなんて、少し驚いたよ』

アーチャー(これで完全にバーサーカーのマスターがセイバーのマスターを
把握したな)

澪「律、ごちゃごちゃ言ってると置いて行かれるぞ」

律「おっと、ごめんごめん」

紬「ここがパーティ会場よ。とりあえず、私の側にいてくれれば間違いはない
から」

和「わかったわ。唯と律ははぐれない様にね」

セイバー「ご安心を。ユイは私が監視します」

唯「ぶー」

紬「それじゃあ、開けるね」

扉「ギイイイ」

律「でっかい扉だなあ」

メイド「紬お嬢様!」

紬「この子たちが、私のお友達よ」

メイド「!?」

セイバー「!?」

執事「紬お嬢様とご友人の方ですか――」

セイバー「!?」

執事「!?」


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最終更新:2010年06月25日 21:23