――次の日・3-2――

律「みおー!」

澪「り、律! おはよ!」

律「おはよう。それでさ、今日は部活なしだから梓にメールしといてくれな
い?」

澪「ああ。それくらいならいいけど。どうしたんだ?」

律「ちょっと家の用事があってさ」

澪「わかった。それじゃあ梓に伝えておくよ」

紬「……どうしたの?」

律「ムギか。今日は部活なし! おっけー?」

紬「ちょうどよかった! 今日は私もお出かけしなきゃいけなかったの!」

律「そうだったのか! ならちょうどよかったな」

澪「唯にも言っておかなきゃな」

唯「私はここにいるけどね」

澪「いつからいたんだよ」

唯「最初っからいたよ! だってここ、私の席だよ!?」

律「いけね」

和「ついついね」

唯「いじめだー。ムギちゃーん!」

紬「よしよし」なでなで

律「まあいいや。今日は部活なし! いいな!」

唯「うぅ~。セイバーちゃんに言いつけてやるー」

律「うう。それは勘弁。セイバーって、委員長タイプじゃん」

和「そうね。実に話しやすいわ」

唯「可愛いしねー」

アーチャー『サーヴァントを自慢する奴、初めて見た』



――放課後――

唯「りっちゃん、澪ちゃん! じゃあねー」

律「おー!」

澪(私の幸せな時間が始まったー)

アーチャー(ミオが浮ついている……)

澪「りーつー」

律「なんだよ。気色悪い」

澪「!?」

律「いや、悪い意味で言ったんじゃないからね。いつもの澪じゃないなって」

澪「いつもの私……」

律「こらー律ー! みたいな感じだよ」

アーチャー『やっぱり、そう見られてるみたいね』

澪「そんなに暴力振るってるかな。私って」

律「わりとね。でもまあ、澪はそれでいいんだよ」

律「私の隣で、ずっと笑っててくれよ」

澪「今のって、愛の告白だったりする?」

律「ちげーし」

澪「へー」

律「ちげーし!」

澪「りっちゃーん」

律「やめーい!」

アーチャー(リツは、ミオがマスターだって気がついてるのかな。どうなんだ
ろう)

律「みおー!」

澪「は、はい!」

律「大好きだぞー!!」

澪「ひゃ、ひゃい!!」

梓「……」



――夜・?――

バーサーカー「■■■――!!」

キャスター「バーサーカー! アサシンはどこに――」

律「あの侍だったら、もう消えちまったよ」

キャスター「!?」

律「バーサーカー。やっちまっていいぞ」

バーサーカー「■■■■■―――――――!!!!」

キャスター「そ、そんな……。斎藤――!」

斎藤「……ここまででしょう。キャスター」

キャスター「そんな――私は、戻らなきゃ――」

ぐしゃ

バーサーカー「■■■――――――!!!!」

律「おっと忘れてた。キャスターはまだ殺すなよー。防音の結界は維持して
おかないと」

律「――さあて、来いよ唯。セイバーとバーサーカーを戦わせようぜ」



セイバー「ユイ、アサシンが消えました」

唯「わかるの?」

セイバー「この街には、魔力が殆ど感じられない。その中で、魔力が大きい
ものは自ずと限られます」

唯「あ、それで大きな魔力がなくなったんだ」

セイバー「はい。相手は恐らくバーサーカーでしょう」

唯「……ちょっと待って」

セイバー「はい」

唯「アサシンって、あの侍さんだよね。佐々木小次郎っていう」

セイバー「そうですね。小次郎とは、一度戦ってみたかった」

唯「ってことは、ムギちゃんが危ない!!」

セイバー「い、今スグにミオとアーチャーを! ツムギの家に向かいます!」

唯「うん!」




――琴吹邸前――

澪「唯!」

唯「澪ちゃん!」

セイバー「ツムギは無事ですか!?」

アーチャー「ツムギなら無事よ。ただ、従者のほうは……」

澪「……入れるか? アーチャー」

アーチャー「もちろん可能。防音の結界は張ってあるけど、別に問題は
ないわ」

セイバー「キャスターの魔力はかなり弱まってますね」

アーチャー「バーサーカーに半死半生にされてるわね。あの狂戦士に、
よくもまあそこまで器用なことさせられるわ」

セイバー「ええ」

アーチャー「!?」

澪「アーチャー?」

アーチャー「ミオも入ってきて。この結界、魔力も遮断されてる」

セイバー「マスターとサーヴァントが離れると、魔力の供給が止まるというこ
とですか。ユイ、行きましょう」

床「カツーンカツーン」

澪「まったく人気がないな」

アーチャー「……どうやら、この建物に人間は一人しかいないみたいね」

唯「一人?」

アーチャー「バーサーカーのマスターに決まってるじゃない」

唯「うう……」

セイバー「私のマスターをいじめないでくれますか?」

アーチャー「はいはい。言っとくけど、足手まといにはならないでよね」

唯「わかってるよ」

セイバー「――アーチャー」

アーチャー「いるわね。近いわ」

唯「バーサーカー……」

セイバー「あのパーティ会場から、大きな魔力が一つ。微弱な魔力が一つ
あります。おそらく、あそこに」

律「――来たか」

アーチャー「罠かどうかは知らないけど、かかってやったよ」

セイバー「ここからは、そうはいきませんが」

律「罠ってわけじゃあないんだけどね」

バーサーカー「――■■■!!」

唯「……え?」

澪「うそ……」

律「唯、それとやっぱり、澪だったのか」

澪「――り、つ?」

律「律だよ。まごうことなく、田井中律。バーサーカーのマスターだ」

唯「あ、ああ……」

セイバー「ユイ、気をしっかり保ってください」

アーチャー「ミオも、この部屋から一歩でも出たら、魔力供給がなくなる」

澪「――」

律「いくぞバーサーカー。もしかすると、今日で終わるかもしれない。だから、
聖杯戦争は今日で終わらせる」

セイバー「……」

唯「りっちゃんが……」

律「唯ぃ。悪いけど、私は手加減できないんだ。必要とあれば、残念だけど
唯でも殺す。そして、今が必要な時だ」

唯「りっちゃん……」

澪「律! やめてくれ! 殺し合いなんだぞこれは!」

律「だったら澪が殺されてくれ! 私は、もう一歩も引けないんだ!」

律「殺れ! バーサーカー!!」

バーサーカー「―――――――――――――――!!!!!!!」

アーチャー「ぐっ!!」

澪「アーチャー!!」

セイバー(どういうことなんだ。バーサーカーのパワーが上がっている!?)

律「食え! 食え! 喰え! 喰らっちまえ!!」

アーチャー「そういう、ことね」


澪「どういうことなんだ? バーサーカーの力が上がってるなんて」

セイバー「命を、生命力を吸収しています。おそらくキャスターやアサシンの
魔力も」

唯「そんなことって――」

セイバー「今まで以上の力を手にしたことで、マスターに負担が重くなった
のでしょう。そして、リツは正規のマスターではない」

律「バーサーカー!!!」

アーチャー「あちゃー。ミオんちから持ってきた万年筆じゃあきついなー」

セイバー「当たり前です! なにを考えているのですか!」

アーチャー「仕方ないじゃない。ワタシには、あなたみたいな立派な宝具
はないんだから」

セイバー「……一体、貴女は何者なんですか」

アーチャー「私にもよくわかんない。ただ、ちょっと変えてもらいたい未来が
あるのよ」

セイバー「そのために、聖杯を?」

アーチャー「実現可能かはわからないけどね」


バーサーカー「――――■■■!!!」

アーチャー「はい、セイバーに質問。私は今、なにを考えているでしょ
う!」ギィン

セイバー「わかりません!」カン!

アーチャー「あなたたちは逃げなさいってこと!」

セイバー「アーチャー!?」

アーチャー「このバーサーカーには絶対に勝てない。だから、私が――」

セイバー「犠牲になる、というのですか?」

アーチャー「ふぅ……」スタっ

澪「アーチャー?」

アーチャー「ミオ、令呪は残しておきなさいね」

澪「アー……チャー?」

アーチャー「心配しないの。あなたの恋人は、絶対に殺さないから」

澪「でも、魔力が――」

アーチャー「単独行動のスキルで、一日くらいは平気なのよ。だから、行きな
さい」

セイバー「ユイ、ミオ。逃げますよ」

唯「セイバーでも、勝てないの?」

セイバー「はい。勝てません」

澪「アーチャー?」

アーチャー「ああ。そうだそうだ。セイバーに聞いとかなきゃいけないことが」

セイバー「なんですか?」

アーチャー「さっき足止めするって言ったけどさ。別段、アレを倒してしまって
も、構わないんでしょ?」

セイバー「――」

澪「倒しちゃってよ」

セイバー「ミオ?」

澪「りっちゃんが苦しんでる。その元凶を、倒して帰ってきなさい!」

アーチャー「――うん。令呪が効いてる効いてる。期待にお応えします。
マスター」

セイバー「さあ、二人とも私に掴まって」

アーチャー「せいやっ」ヒュッ! ガラガラガラー

セイバー「天井に穴が空きましたね。いきますよ――!」

アーチャー「ヒラサワユイ!」

唯「!?」

アーチャー「なにがなんでも、大切だと思った人間を守り抜きなさい!」

唯「……」

アーチャー「それが――甘ったれの貴女がこれから心に刻むことよ!」

唯「――わかった!」

律「……いいの? 一人でさ」

アーチャー「良いに決まってるじゃない」

律「瞬殺して、すぐにセイバーを殺しに行くから」

アーチャー「そうはいかないって。ミオがいなくなって、ようやく本気で、
残虐ファイトできるんだからさ」キュイイイン

律「!?」

アーチャー「――この宝具に見覚えある? そう、『ギー太』だよ」


律「うそだろ。おい」

アーチャー「うそではないよ。りっちゃん」

律「ゆ、唯。平沢唯なのか?」

アーチャー「そうだよ。ワタシは唯」

律「……英霊になったのか」

アーチャー「色々あってね。どうしてもやり直したいことがあるのよ」

律「訊いてやりたいところだけど、そういうわけにもいかないんだ。親友を
殺すのは気が引けるが、いけ、バーサーカー」

アーチャー「それじゃあ、私だって初めから全開でいくよ」

アーチャー「この私、英雄になりきれなかった『真鍋唯』が!」

バーサーカー「――――――!!!」

アーチャー「来なよ狂戦士。あなたのハートじゃあ、私は絶対に揺るがない!」

バーサーカー「――――――!!!?」

アーチャー「あれ? ヘラクレスの時代には音楽ってなかったっけ?」

律「それが音楽――?」

アーチャー「あれれ、違ったかな。一応生前はこれでご飯食べたんだけど」

律「不快音? ……いや、違うな。わからないぞ。これは一体――」

アーチャー「さあ? 私にもよくわからないよ。いつからか、私の音楽は
音楽ではなくなったんだから!!」

バーサーカー「―――――――――!!!!!!」

律「なに足止めてんだ!! バーサーカー!」

アーチャー「動けないよ。私の音楽はそれくらいファンキーなの」

律「なに、したんだ?」

アーチャー「別にー。ぺらぺらと自分の能力語るほど、私は馬鹿じゃない
もの」

律「大人になったってことかよ」

アーチャー「悲しいけどね」


律「バーサーカー!!!!」

バーサーカー「■■■!!!!」

アーチャー「しまった!」

アーチャー「いたたた……。でもまあ、ギー太は無事だから平気だね」

バーサーカー「――――――――!!!」

アーチャー「やっぱりやりにくいなぁ。防御できない音っていう概念が
いけないね。うん」

アーチャー「幻聴圧音(トレーニング・ワン)」

アーチャー「―――――――!!!!」

バーサーカー「!!!!!??????」

律「?」

アーチャー「解説すると、私の声を一点集中でバーサーカーに飛ばしたの。
もう、バーサーカーはりっちゃんの命令を耳で聞くことはないよ」

律「――」

アーチャー「耳を、というよりも三半器官を狂わせたから、バランス感覚も
失った。これで、戦闘面で私が有利になったわ」

律「バーサーカー!」

アーチャー「だから、聞こえないの。三半規管が壊れたサーヴァントを
倒すのなんて――」

バーサーカー「―――――――■■■!!!!」

アーチャー「ほうら簡単。グミャグミャの視界では、私が投げた石くれも
避けられないね」

アーチャー「……勝っちゃった」

バーサーカー「――」

律「よし」

バーサーカー「―――――――!!!!!!」

アーチャー「うわ!!」

律「バーサーカーは死なないんだ! むしろ、もうお前の声の攻撃は
通用しないぞ!!」

アーチャー「それは困った。トレーニング・ワンは結構な切り札だったのに」

アーチャー「――でも、まあいいや。何度でも蘇るなら、その度に殺しちゃう
んだから」

バーサーカー「―――――!!」

アーチャー「りっちゃんも焦ってきたね。でもまあ、私だって結構強いんだ
からね」シュタッ

律「飛んだ!?」


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最終更新:2010年06月25日 21:26