――琴吹邸・ホール――
律「……キャスターとアサシンを倒して、もう引き返せなくなったな」
律「なあバーサーカー。お前の所為なんだからな。私が戦わなければなら
なくなったのは」
律「――唯とも、戦うことになったのはさ」
律(一週間前の、あの日だ)
律(私が、お前と出会ったのは)
律(アイツの、残酷すぎる運命が始まったのは――)
律「聡……。お前は――」
バーサーカー「――――」
律「……」
律「もうすぐ、セイバーと唯がやってくるな」
律「アーチャーは来るだろうか」
律「……澪とは、戦いたくないな」
律「――いや、唯とも戦いたくない。ホントは、戦いなんて嫌いなんだ」
律「……怖いよ。聡……」
――律の回想――
聡「なー! ねーちゃーん!」ごろごろ
律「どうした? 私の部屋でゴロゴロしやがって」
聡「ひまー」
律「私も暇だが、この暇を有意義に無駄にしたいんだ。漫画なら貸してや
るから、さっさと出て行きなさい」
聡「姉ちゃんと遊びたーい」
律「中学生にもなって姉ちゃんと遊びたいだなんて、いくらなんでも子供
すぎないか?」
聡「いいじゃんいいじゃん。姉弟なんだから、仲良ししようぜ。唯さんたち
みたいにさ」
律「憂ちゃんみたいになりたいのなら家事をやりたまえ」
聡「ちぇー。休日に家にいてさ、姉ちゃん彼氏とかいないのかよ」
律「そんなもんは、いませんっと」ごちん
聡「このタイミングで暴力!?」
律「中学生のくせに、やらしいこと考えるからだぞ。しかも実の姉で」
聡「世界一面倒な冤罪キター!」
律「ほら、中学生は自分の部屋で秘め事でもしてなさい」
聡「直接的な表現じゃないだけ、まだ姉ちゃんに乙女心があるから安心した
よ」
律「――ば、馬鹿!」スパン
聡「いたっ! ジャンプで殴るな!」
律「うるせえ! ハンターハンターが休載してるジャンプなんか必要ない!」
聡「FF14が出るんだから仕方ないだろ!」
律「……よし、私の機嫌をとるため、ここは弟自らがアイスを買ってきなさい」
聡「これはまた脈絡がないな。姉ちゃんのそういうところ、ダイスキでござ
います」
律「そんな棒読みじゃあ機嫌良くならないぞー」
聡「でも、まあいいや。何がいい?」
律「モナカー」
聡「ん。それじゃあいってくるよ」
律「……」
律「確かに、暇だな」
律「――」ごろっ
律「今週のナルトはよくわかんねー」
律「やっぱ、いぬまるだしだよな。今のジャンプはこれを柱にするべきなん
だよ」
律「……ププッ」
律「――保健室がバトル展開かー。まあ、仕方ないよな」
律「めだかとロックオンはそろそろ打ち切られろよ……」
律「……」パタン
律「ひまー」
律「澪に電話しよっかなー」
律「でも、取り立てて話すこともないしなー」
律「……聡のやつ、遅いなー」
律「とはいっても、出て行ってまだ5分くらいか。まあ、そんなもんだよな」
律「……なにしよっかな」
律「……」
テレビ「ちゃうねん。それはな、深い話やねん。わかるか上地」
テレビ「はい! 僕も松坂の球――」ブツン
律「――つまんねー」
律「聡ー、さっさと帰ってこーい」
聡「そう言われるのを待っていた!」
律「うわ!」
聡「……というのは冗談で。ほい、アイス買ってきた」
律「さんきゅー」
聡「ちなみに俺はガリガリくん」
律「随分とやっすいの買ってきたなー」
聡「ガリガリくんは攻守最強だぞ。当たりがでたらもう一本だしな」
律「それもそうだな」
聡「……姉ちゃんって、可愛いよな」
律「は?」
聡「いやだから、姉ちゃんは可愛いなって思ったの」
律「わけがわからない」
聡「同じクラスに、まあそれなりに可愛い子がいるんだけどさ。その子が、体
育だったかの時間で、姉ちゃんみたいに前髪をカチューシャで止めてたん
だ。そうしたら、びっくりした」
律「なんで?」
聡「……かなり、アレになったんだよ」
律「ああ……」
聡「それを見て思ったんだ。姉ちゃんって、よくもまあそんな髪型でも可愛いよなって」
律「そんな髪型っておまえー」ぐりぐり
聡「いたたたたた! 褒めてるのに! 褒めているのに!!」
律「……私、可愛いか?」
聡「弟が言うのはどうかとは思うけど、可愛いよ。澪姉にも負けないくらいにさ」
律「――ばーか」
聡「とまあ、そういう褒めも入れたところで、釣りしに行かない?」
律「……最初っから、それが目的だっただろ」
――港――
聡「それにしても、姉ちゃんって穴場探すのうまいよなー」
律「目の付けどころがシャープだからな」
聡「この港だって、誰も人いないもんな」
律「昔はけっこう栄えてたらしいぞ。産業まつりとかもやってたしな」
聡「あー。なんか覚えてるかも」
律「おまえ、迷子になってびえんびえん泣いてたんだぞー」
聡「うう……」
律「私のこと見つけたら、おねえちゃーん! って言って走り寄ってきてさ。
可愛かったなー」ぷにぷに
聡「ほっぺ触るな!」
律「あれー? 顔が赤くなってるぞー?」
聡「――フン!」
律「可愛い弟め」
聡「さっさと釣ろうよ。まったくもう……」
聡「ほら、姉ちゃんの釣り竿」
律「さんきゅっ! 餌までつけてくれて申し訳ないねー」
聡「一応男だからさ。そらっ!」ちゃぽん
律「さっすが! たくましい!」ちゃぽん
聡「……いい天気だなぁ」
律「本当だな。いい天気だ」
律「こういう日に、大好きな姉ちゃんと釣りなんて幸せだなぁ」
聡「セリフの順番的に俺が言ったみたいになるだろ! ただでさえ名前が
漢字一文字同士でわかりにくいんだから!」
律「てへっ!」
聡「なんだそのむかつく笑顔!」
律「な! 姉を敬えー!」
聡「敬えるか、こんな姉」
律「へー」
聡「あっさりと引き下がるね」
律「いや、そんなこと言うなら唯たちに聡のアノ写真見せちゃおうかなって」
聡「申し訳ないです」
律「まさか、あの聡くんがあんなことしてるなんてなー」
聡「お願いだから、やめてください」
律「部活でもエースで、もはや学校内に知らぬものはいないであろう田井中
聡が、あーんなことするなんてなー」
聡「頼むから、唯さんたちに見せるのだけは勘弁して」
律「あははー! 冗談だよー!」
聡「それはよかった……」ハァ
律「……釣れないなぁ」
聡「姉ちゃんがうるさいからだよ」
律「飽きてきたなー」
聡「弟との会話を楽しめ。そんなんだからモテないんだぞ」
律「いや、一応モテるぞ」
聡「マジ!?」
律「……女にだけど」
聡「あー。なるほどね。……ちょっとジュース買ってくるよ」すくっ
律「あれ? このへんコンビニあったっけ?」
聡「あそこの倉庫前に自販機があるんだよ。姉ちゃんはなに飲む?」
律「そうだったっけ? まあいいや。私はコーラ」
聡「おっけ」
律「チョイ待ち……ほら」
聡「あれ? 300円?」
律「さっきアイスおごってもらっただろ? そのお返しだよ」
聡「へえ、ありがとう」
律「もっと感謝の意を前面に押し出せよ。姉ちゃんのほっぺにならキスして
いいんだぞ?」
聡「澪姉に怒られるから、そういうのはいいって」
律「そこでどうして澪が出てくるんだよー」
聡「さーて、どうしてかなっと」すたこらさっさ
律「なんだよあいつー」
律「――しまった。また暇になってしまった」
律「――」
律「あ、釣れた」ちゃぽん
律「まだ小さいな。よし、お前は海に帰りなさい」
律「おっきくなったら、また釣られに来いよー」
律「……」
律「餌、くっつけるの難しいな」
律「父さんに教わったけど、聡みたいにいかないな……」
律「うーん……」
律「私、こういう細かい作業苦手なんだよなー」
律「悪く言えば大雑把。よくいえば豪快?」
律「――聡のやつ、遅いな」
律「自販がある倉庫って、あそこだよな」トコトコ
律「……」
律「あれ? 聡のやつ、いないぞ」
律「聡? さとしー」
律「……?」
?「―――――――」
律「え? はい?」
律「なに、この馬鹿でかい塊……」
?「―――――――――!!!!!!!」
律「!?」
律「……まさかこれ、イキモノ?」
聡「――」
律「聡!」
聡「……あ」
律「あれ、一体なんだよ! どうしてこんなところに――え?」
聡「――ね、ちゃ」
律「お、お前……お前……顔が……」
律「うわああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああ!!!!!!!!」
――回想終わって――
律(聡は、バーサーカーに触れて瞬間に契約、全ての生命力を奪われた)
律(でも――お前にだけ負担を負わせない)
律(だから、私は戦う。聖杯戦争のことなら、偽臣の書に書いてあったからな)
律(全身が令呪に覆われた聡は、バーサーカーの動き一つ一つに激痛
が走る)
律(頑張ってきたが、もう限界だ。今日の朝日を見ることなく、聡は死ぬだろう)
律(だから――)
律「今日で全てを終わらせるぞ。聡」
律(聖杯で、おまえを回復させてやる。部活ができるようにしてやる)
律「だから、たとえ唯と澪が相手でも――私は勝つ」
律「そうだろう? バーサーカーよ」
~了~
※
聡が助かる方法は二つ。
朝日が昇る前にバーサーカーが死ぬか、律が聖杯を手に入れること。
後者は確実に回復するが、前者では障害が残ってしまい、聡はスポーツ
を断念せざるを得なくなってしまった。エピローグで澪が聡に食べられる
か聞いたのはそのため。
最終更新:2010年06月25日 21:42