こんにちは、平沢唯です。

 突然ですが私、透明人間になれるようになりました。

 なんでなれたのかは長くなるので省きますが、とにかく好きな時に透明人間になれちゃいます。

 せっかくなれたからには何か有効活用したいものです。

 ということで、色んな人のところにいってイタズラでもしちゃいましょう。


憂「お姉ちゃん、ご飯食べないの?」

唯「ふぇ!?た、食べるよ!」

憂「大丈夫?さっきからボーっとしてるけど」

唯「大丈夫だよ!じゃあいただきます!」

憂「うん。いっぱい食べてね」

 この子は平沢憂

 容姿端麗、料理お掃除なんでもこいのよくできた自慢の妹。

 そして、イタズラの最初のターゲットです。

 普段は何でも笑って許してくれる憂ですが、透明になった私がイタズラしたらどんな反応するのでしょうか。



憂「それじゃ、おやすみお姉ちゃん」

唯「うん。おやすみ、憂」

 夜10時。

 私と憂は寝る前の挨拶を交わし、お互い自分の部屋へ入りました。

 さぁ、お楽しみのはじまりです。

唯「ちゃんとなるかなー」

 私は大きな鏡の前に立ち、透明になれと念じました。

 するとあら不思議、みるみるうちに身体が透けていきます。

 え?服はどうするんだって?

 やだなぁ、服ごと透明になるに決まってるじゃないですか。

 エッチぃこと考えないでください。


 そして透明になった私は気づかれないよう、慎重に憂の部屋のドアを開けます。

 さてさて、憂は何をしてるのでしょうかー。

憂「……」

 憂は勉強をしていました。

 机の上にノートと教科書を広げ、すらすらと問題をとく様子は、とても私の妹とは思えません。

憂「……あれ?ドアが開いてる」

憂「……風かな」

憂「……」

 憂の部屋はカリカリカリカリとノートに文字を書くシャーペンの音が静かに鳴り続けます。

 地味です。

 かつてこれほど地味な透明人間の物語があったでしょうか。


 さてさて、こんな地味な物語に終止符をうつためにどんなイタズラをしましょうか。

 そこで私が見つけたのが憂の手の近くにある消しゴム。

 私は憂に近づき、消しゴムをポトリと机の下に落としました。

憂「あ……」

 憂はそれに気づき、すぐに消しゴムを拾います。

憂「……」

 そして憂が再びノートを書き始めると、私はまたポトリと消しゴムを落としました。

憂「あ……」

 カリカリカリ。

 ポトリ。

憂「あれ?」

 カリカリカリ。

 ポトリ。

憂「……もう」


 今気づきました、このイタズラ地味すぎです。

 しかし、これを続ければいくら温厚な憂でもイライラするはず。

 さて、憂はどんな風に怒るのでしょうか。

憂「……」

 カリカリ。

 ポトリ。

憂「ん……」

 カリカリ。

 ポトリ。

憂「んん……」

 カリカリ。

 ポトリ。

憂「……」

 バンッ!



唯「ひっ」

 シャーペンの音しかしなかった憂の部屋の中に、大きな音が響き渡ります。

 蹴りました、この子思いっきり机を蹴りました。

 こんな陰湿な怒り方をする子だったとは姉の私も驚きです。

憂「だれ!?」

 おっと、私としたことが驚きのあまり声を出してしまったようです。

 憂はそれに気づいたようで、周りをキョロキョロと見回します。

憂「……気のせい、かな」

 憂はそういうと再び机に向かい勉強を始めました。


 憂がふたたび勉強に集中したこと確認すると私は口を憂の耳元に近づけ、優しく息を吹きかけました。

唯「……ふっ」

憂「ひや!?」

 すると憂はそれに驚き、耳をごしごしと拭くような動作をしました。

憂「なに!?なに!?」

 憂は周囲をキョロキョロと見回し、必死にその原因を探しています。

 おびえる憂もまたかわいいものです。

憂「なんなのもう……」

 憂は恐怖心が抜けないまま、勉強を再開します。

 明らかにノートに書いた文字が震えています。


 しかしここでやめてはつまらないというもの。

 私は憂の座っているイスを両手で持ち、軽く揺らしました。

 ガタガタ。

憂「いやぁぁぁぁ!」

 ガンッ。

唯「ふごっ!?」

 その直後憂が立ち上がり、憂の頭と私のおでこがごっつんこ。

 私は痛みのあまり、その場にうずくまりました。

憂「痛!?何!?何とぶつかったの!?」

 憂はすっかりおびえてしまい、目にはもう涙を浮かべています。

憂「やだ!やだぁ!」 

 そしてそのままベットに直行し布団にもぐってしまいました。

憂「こわいよぉぉぉ!お姉ちゃぁぁぁん!」

 少し、やりすぎてしまったようです。

 ここは姉として慰めるべきでしょうか。


 私は透明を解き、憂の元へ向かい優しく声をかけました。

唯「憂、どうしたの?」

憂「お姉ちゃぁぁん……」

 やばいです、マジ泣きしてます。

 鼻と目を真っ赤にして口はへの字。

憂「怖かったよぉぉぉ!うぇぇぇん!」

唯「よしよし」

 憂はそう言って顔ぐしゃぐしゃにしながら私の胸にとびつきわんわんと泣きました。

 私の心は罪悪感でいっぱいです。

 まさかここまで怖がりさんだとは思いませんでした。

憂「ひっく……ひっく……」

唯「怖かったね、もう大丈夫だよ。お姉ちゃんがいるからね」

 そのお姉ちゃんが怖がらせたんですけどね。


憂「……」

 それから少しして、憂はだいぶ落ち着いたようです。

唯「それじゃあお姉ちゃんは部屋に戻るね」

 そして私はその場を立ち、自分の部屋へ戻ろうと振り返り歩こうとすると憂が私の袖を強くつかんできました。

憂「やだぁ……」

唯「え?」

憂「今日は一緒に寝てよぉ……」

 憂は普段からは考えられないほどの甘えた声で私にお願いをしてきました。

唯「いやぁ……でもそれは、ねぇ?」

憂「一人じゃ怖いよぉ……」

 あらら、憂が軽くキャラ崩壊してます。


唯「うーん……」

憂「……お願い」

 憂は潤んだ目で私に頼んできました。

 きゅんっ。

 こんな顔で頼まれて断れる人類が存在するでしょうか。

 いやいない。

 私はその日、久しぶりに憂と一緒に寝ました。

 といっても憂が私を抱き枕のようにして抱きついて寝たせいで、私はほとんど寝れなかったんですけどね。




 憂にイタズラをして一日たった日のお昼。

 今日は土曜日なので学校はお休みです。

 今日は誰にイタズラしましょうか。


 きめた、りっちゃんにしよう。

 そうと決まれば膳は急げですね。

唯「憂ー!私ちょっと出かけてくるねー!」

憂「うん、気をつけてねー」

 憂にお出かけの許可をもらった私はすぐに着替え、りっちゃんの家へ向かいました。


唯「ふぅ……」

 着きました、りっちゃんの家です。

 私はまた透明人間になり、家のドアをそーっと開けました。

唯「……」

 どうやら一階には誰もいないようです。

 もしかしたら全員留守なのでしょうか。

 私はそんな心配をしながらゆっくりと二階への階段を昇っています。


 二階へ上がるといくつかドアがあり、そのうちにの二つに

 「りつのへや」、「さとしのへや」というプレートがかけられていました。

 さとしとは、りっちゃんの弟でしょうか。


 りっちゃんの弟に興味はありますが、今日のターゲットはあくまでりっちゃん。

 私は静かにりっちゃんの部屋のドアを開けました。

律「……」

 りっちゃんがいました。

 いやに静かだと思ったら漫画を読んでいます。

 ベッドの上で漫画を読む。

 いかにもりっちゃんらしい休日の過ごし方です。

 さてさて、どんなイタズラをしてあげましょうか。


律「ふぁぁ……」

 りっちゃんは飽きたのか、読んでいた漫画を棚にしまって立ち上がりました。

 するとそのままのタンスのほうへ歩いていきます、

唯「……?」

 何をするのかと見ていると、りっちゃんはタンスの上にあるくまのぬいぐるみを手に取り、またベッドに寝ました。

律「くまきちぃー!」

 くまきち?

 そのぬいぐるみの名前でしょうか。

律「お前はかわいいなー!」

 りっちゃんはその「くまきち」とやらを抱き、ベッドの上でゴロゴロとしています。

 意外なことに、りっちゃんはぬいぐるみが好きなようです。


律「んーやわらかい大好きだぞぉ、くまきち」

 ……イタズラが思いつきました。

唯「……ボクモダヨ、リッチャン」

律「ひぃ!?」

律「……気のせい?」

唯「キノセイジャナイヨ、リッチャン」

律「しゃべった!?」

唯「リッチャンガボクノコトアイシテクレタカラシャベレルヨウニナッタンダヨ」

 透明人間の私が言うのもなんですが、そんなファンタジーなことが起こるわけがありません。

 私だったらまず気持ち悪いので人形を捨ててしまうでしょう。

律「な、なるほど」

 すごい、この子信じました。


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最終更新:2010年06月28日 20:44