「なぜ・・・何故そんなこというの!!」

いきなり豹変した私の態度に驚きを隠せない唯。

「唯の気持ちは分かってる!好きだなんて言わないで!余計・・・惨めになるじゃない・・・」

唯に向かって一気に私の気持ちを捲くし立てると抑えていた感情が爆発して涙が溢れた。

脅してるからって唯がそこまでする必要はないのに、嘘で言われるくらいなら嫌いだと言われた方がマシだわ・・・。

「のどかちゃん・・・」

「触らないで!」

唯の手を払いのける、自分でも支離滅裂なのは分かっているでも抑えきれない。

ぎゅっっ!

不意に唯が私を抱きしめた。

「さわらな・・・」

「嫌わないで!!」

えっ!?

嫌わないでって・・・。

嫌っているのは唯でしょ、ひどいことをしてる私に・・・。

「嫌わないで、許してくれるなら私なんでもするから。だから私のことを嫌わないで!!」

顔を上げると顔中をぐしゃぐしゃにして泣く唯の顔が目の前にあった。

どうして私が唯を嫌いになるの・・・そんなことありえないのに。

「ごめんね・・・私が突き飛ばしたから、だから・・・怒ったんだよね、私の事嫌いになっちゃったんだよね」

鼻をすすりながらたどたどしく唯が話す。

「びっ・・・びっくりして手が動いちゃったの、すごくうれしかったの・・・に・・・でもそれで私が和・・・ちゃんを傷つけたから・・・
それに私が好きって言ったからおこ・・・怒ったんだよね迷惑なのは分かってるけど・・・もう好きって言わないから、
私に出来ることなら何でもするから嫌わないで!・・・ううん、私の事は嫌ってもいいから死んじゃいやだ!お願い!のどかちゃん・・・」

私はやっと理解した、『勘違い』それもまるっきり逆の!!

唯が好きだと言ってくれたのは本当だったんだ、勝手に勘違いして思い込んで・・・。

そんな勘違いした私に言われた「嫌い」って言葉と「死ぬ」って言葉を唯は信じてしまっていたんだ・・・。

「唯・・・ごめんね、本当にごめんね!」

ぎゅっと唯を抱きしめる。

「・・・のどかちゃん?」

「嫌いになんてなってないよ全部私の勘違いだからごめんね唯!・・・嫌いって言ったのも死ぬって言ったのも全部嘘なの!」

「・・・嘘?」

「うん、私が勝手に唯に拒絶されたと思い込んでただけなの。それで、その・・・それが悔しくて嘘をついちゃったの・・・ごめんなさい」

ぽろぽろと涙が溢れる、そんな私の頭を唯が優しく撫でてくれた。

「ううん、私が悪いの。和ちゃんは何にも悪くないの!」

「唯・・・」

「私が和ちゃんを傷つけたから、だから私が悪いの!和ちゃんは悪くないの!」

「唯・・・ありがとう、ごめんね大好きだよ」

「私も、あっ・・・の、のどかちゃん・・・好きって言っても怒らない?」

「うん、唯から好きって聞きたい、いっぱいいっぱい聞きたい!」

「えへへ、私も和ちゃんが好き!だーいすき!」

ぎゅうっ。

私の勘違いで大きなまわり道をしてしまったが、今やっと唯と一つになれた事がうれしかった。

「唯、本当にごめんね、ひどいことして。痛かったでしょ?」

「ううん・・・私もごめんね、痛くてびっくりして泣いちゃったりして、でも和ちゃんだからうれしかったの、本当だよ。それに・・・んと・・・ちい・・・欲・・・」

「ん?なぁに、聞こえない?」

「その・・・和ちゃんに触られてるとすごく気持ちいいの・・・だからまたして欲しいの・・・」

顔を真っ赤にしながら私を恥ずかしそうに見つめてきた。

そのまま唇を重ね、その日はくたくたになるほど愛し合った。




  • 3日目-

昨日の疲れはあったけれどいつもより早めの時間に学校に着く、昨日サボって帰った分の雑務があるからだ。

「和さん」

下駄箱で憂ちゃんに呼び止められ、真剣な表情で人気がないところへ促された・・・もしかして。

「和さん・・・」

まさか唯・・・。

「お姉ちゃんをよろしくお願いします!!」

ぺこりと頭を下げる憂ちゃん・・・えぇ!?

「あの・・・憂ちゃん・・・」

「お姉ちゃんから全部聞きました」

ゆいー!あーーーっ・・・。

「でも、和さんだから許すんですよ!それに次にお姉ちゃんを泣かしたら・・・絶対許さないですよ?」

目が怖い・・・この子絶対本気だ・・・。

「うん、これからは絶対唯を泣かせたりしません、約束します!」

憂ちゃんは、私の返事を聞いて納得してくれたのかクスッと笑った。

「でも、よかった。お姉ちゃんずっと和さんのこと好きだったから」

「えっ?」

「お姉ちゃんから聞かなかったんですか?幼稚園のころからずーっと好きだったって」

ええっー!

「私なんて、和さんのお嫁さんになる!って何度聞かされたことか・・・」

そんな事、私は言われた事ない・・・いや、そう言えば子供のころ何度かお嫁さんにしてねって言われた覚えが・・・。

「あれって本気だったんだ・・・」

「もぅ、和さんだってお姉ちゃんの性格十分知ってるでしょ?」

ちょっとふくれっつらで指摘された。

確かに、あの子は思った事をそのまま口にするから・・・。

「!」

「どうしました?」

唯にそっくりのキョトンとした仕草で聞いてくる。

「憂ちゃんがきてるってことは、唯ももうきてるの!?」

「ええ、今日は朝練だからって・・・」

憂ちゃんの返事もそこそこに音楽準備室を目指す。

バタン!!

息を切らせて軽音部の部室の扉をくぐると・・・。

「おっ、唯!だんな様のお迎えだぞ!」

ニヤニヤとからかうように(間違いなくからかってるけど)話しかける律・・・。

「和ちゃんおめでとう~」

満面の笑みを湛えて祝福する紬・・・。

「そっ、その・・・おめでとう・・・」

何故か真っ赤になっている澪・・・。

「えっと・・・そ・・・その、お幸せに!」

こちらも真っ赤な顔の梓ちゃん・・・。

「えへへ~」

唯がテレつつも私の腕にしがみついてきた。


「ゆ・・・唯・・・」

「なぁに?和ちゃん?」

「だっ、誰にどこまで話した!?」

「えっと、まだ憂と律ちゃん、澪ちゃん、紬ちゃん、あずにゃんだけだよ」

どうして?って顔をしながら答える唯。

「でっ、ど・・・どこまで?」

そう聞いておきながら、真っ赤な顔でテレテレしまくる唯と四人の顔を見て私はすべてを悟っていた。

「ゆいーーー!!もう他の人に絶対喋っちゃだめだからね!!」

「えーーーっ!クラスのみんなにお祝いして貰おうと思ってたのにぃ!」

「お願い!それだけはお願いだから勘弁して!!」

真っ赤な顔だらけの中で、一番真っ赤な顔をして叫ぶ私だった。






【エピローグ】

私が恐れていた最悪の事態はなんとか回避された。

唯は約束通り憂ちゃんと軽音部メンバー以外に私達の関係を話すことはなく、私もやっと日常の日々を取り戻していた。

ただ、日常といっても今までの空虚な日常ではなく私の横には唯が居てくれた。

それに心強い仲間も出来た。

「でっ、ど・・・どこまで?」

そう聞いておきながら、真っ赤な顔でテレテレしまくる唯と四人の顔を見て私はすべてを悟っていた。

「ゆいーーー!!もう他の人に絶対喋っちゃだめだからね!!」

「えーーーっ!クラスのみんなにお祝いして貰おうと思ってたのにぃ!」

「お願い!それだけはお願いだから勘弁して!!」

真っ赤な顔で懇願する私に渋々といった感じで唯は了承した。


「まぁ、なんにしても良かったよな」

「うん、良かったね唯、和!」

「先輩、良かったですね!」

「うふふ、おしあわせに!」

軽音部のメンバーが再度お祝いの言葉をくれた。

「えへへ、ありがと~」

「みんな、ありがとう」

唯と二人で感謝の言葉を返した。

本当に感謝していた、普通ならこんなに暖かい反応は返ってこないだろう。

軽音部のメンバーと憂ちゃんに、もう一度心の中で感謝した。

「そっかーでもこれから先は二人に見せ付けられることになるのか・・・」

別に見せ付けるつもりはないが・・・多分そうなってしまうのかな。

今でさえうれしそうに唯が私の腕に絡まっているし・・・。

「うふふ、うらやましい限りね」

そう言う紬だが羨ましそうに見ている風には見えず、どちらかと言うと鑑賞されてるような気がする・・・。

「悔しいからこっちも見せ付けてやろうぜ、澪」

そう言った瞬間、律は隣に座る澪を引き寄せて・・・。

「んんっ!?」

もがく澪を押さえ込んで長々と唇を重ねる律。

「あらあらまぁまぁ♪」

うれしそうにそれを眺める紬。

ゴクリ。

両手で顔を覆ってはいるが、ちゃっかり指の隙間からのぞいて興味津々といった感じで眺める梓ちゃん。


「ねぇーねぇー、和ちゃん。私もしたくなっちゃった・・・」

「だっ、だめ・・・ここじゃ」

「えーっ、したいの・・・」

頬を高揚させ上目遣いに見てくる唯に欲求を抑えられなくなりそうだったがかろうじて我慢した。

「だめだって。・・・その・・・あとでしてあげるから、ねっ?」

最後は唯にだけ聞こえるように耳元でささやく。

「んっ、ちゅくっ・・・んふっ・・・」

澪は次第に抵抗をやめてぐったりとしてきた。

「ぷはっ・・・ってことで私たちのほうが先輩だからな!」

唇を離し、一息ついて律が自慢げに言い放った。

唇が離れたあとも、心ここにあらずといった感じだった澪の顔が徐々に紅く染まっていく。

「りっ・・・律!みんなのまえでその・・・するなんて、それにあれほど言っちゃダメだって!!」

「いーじゃん、唯達だって言ったんだし、ずっと黙ってるのって嘘ついてるみたいで嫌だったしさぁ・・・」

「そっ、それはそうだけど・・・でもはずかしい・・・じゃないか・・・」

「それで、それで!二人はいつからお付き合いしてたの!」

フンッ!と鼻息まで聞こえそうな勢いで紬が二人に詰め寄った。

「いや~、実は中学のときから」

若干照れた感じだが自慢げに律が話す。

「そっ、それでもちろんキスだけの関係じゃないわよね!」

紬の好奇心は留まるところを知らないようだ。

「それはもちろ・・・ムグゥ!?」

「わぁっっ!それ以上しゃべるなーー!」

両手で律の口を塞ぐ澪、もう遅い気もするけれど・・・。

「うふふふっ」

どんな妄想をしているのか、一人微笑む紬を見てこの子にだけは恋愛相談をしてはいけないと思った。


その後は、ところかまわず抱きついてくる唯の行動に当初は周りにバレてしまうのではないかと危惧していたが、唯の今までの性格や行動のためか気にしているのは私だけのようだった。

つまり、私たちの関係はこの上なく良好であり幸せな日々を送っている。

これからも色々な事があるだろう、楽しい事も辛い事も。

ただ、信頼できる仲間達が居てくれるから大丈夫だ、何があってもこの先ずっと唯と二人で進んでいく事を改めて心に誓った。

  • END-



最終更新:2010年06月28日 22:08