律「あたしもさ、唯ほどじゃなくても結構だらしなかったりするんだけどさ」
律「それでもいいなら、期間限定でも、憂ちゃんのお姉ちゃんになりたい」
憂「律さん・・・!」
結局勉強も手に付かず、その日あたしたちは寄り添うようにして眠った
律(ふう・・・事はそう簡単にはいかなかった)
律(憂ちゃんの隠していた願望・・・あたしじゃなくて唯に話せば一発で解決しそうな気がする)
律(唯が頼れる姉になって戻ってきたらそれでめでたしめでたしじゃないか)
律(あたしなんでここにいるんだっけ・・・?)
澪に連絡を入れる気にもなれず、あたしは眠れるまで延々これからのことに思いを馳せていた
翌朝!
憂「律さーん、起きて下さーい」
律「ん・・・?んー!おはよう憂ちゃん」
憂「さあ、朝ごはん作りましょう!」
律「おお、やったろうじゃないか!」
素直にあたしを頼ってくれるようになった・・・それは嬉しい
あの笑顔、唯に向けられていたそれが今あたしに向いている・・・望んだとおりのことだ
しかし何故だろう、こんなに胸がモヤモヤするのは
律憂「行ってきまーす」
二人で朝食をとった後、一緒に学校へ行く。といっても憂ちゃんは学校違うので途中までだが―
ギュッ
律「?」
憂「えへへ」
律「どうしたのさ、突然手なんて繋いで」
憂「何でもないでーす」
ドクン
まただ、また胸がおかしい
確かに好きな子と手を繋いで興奮はしてるけど、それだけじゃない
もっと別の――
憂「あっ、私こっちなので・・・」
律「あ、そそそそうか・・・」
憂「また後でね、お ね え ち ゃ ん」
律「!?」
爆弾を投下して憂ちゃんが去っていく
律(お姉ちゃん、か)
嬉しいはずのその言葉が、どこかに鋭く突き刺さった気がした
私と律のミッションの間は、部活は休止ということにしている
理由は律と憂ちゃんの時間を増やすためだ
唯はムギのお菓子が恋しいようだが・・・
澪「よしよし。帰ったらまずお茶にしような」
唯「よかったー。ティータイムがないと私死んじゃうとこだったよ」
澪「そして練習だからな」
唯「うっ・・・でもギー太のためなら私・・・」
澪「そして夕食の後宿題だ、分かってるな」
唯「見えない聞こえない見えない聞こえない」
澪「こらこら、人の持ちネタを・・・って違う!」
唯「ごめんごめん。そうだよね、一つ積んでは憂のため・・・」
澪(そして私とお前と律のため・・・)
澪「わかったら帰るぞ!」
唯「うん!」
紬「REC」
憂「律さーん!こっちこっちー!」
律「おー、憂ちゃん待ったー?」
憂「いいえ、今来たとこです」
律「なんだかデートみたいなやり取りだな!」
憂「デ、デート・・・!?」
何でだろう、律さんはお姉ちゃんのはずなのに
デートなんかじゃないのに
律「あれ?どうしたの憂ちゃん」
憂「え!?い、いいえ、何でもないですっ!」
律「それじゃーまず何買おうか」
憂「えっと・・・そもそも今晩の献立考えてからですね」
律「そういやそうか。憂ちゃんは何食べたい?」
憂「いえ、私より律さんが・・・って」
律「・・・・・」ジー
憂「わ、私はハンバーグが食べたいかなー、なんて」
危ない危ない。律さんは私のお姉ちゃんなんだ。律さんには本音をぶつけなきゃ
そう、私のお姉ちゃんなんだから・・・
律憂「ただいまー!」
律憂「おかえりー!」
律憂「プッ・・・」
何が楽しいのか、ケラケラと二人しばし笑い転げる。
律「はあ、はあ・・・とりあえず荷物なんとかしよう・・・」
憂「は、はい」
律「さて、平沢家三分クッキングのお時間です」
律「先生、本日もよろしくお願いします」
憂「はい、よろしくお願いします」
律「さっそくですが、今日のメニューは何ですか?」
憂「今日は平沢家特製ハンバーグです」
律「それは素晴らしい!
レシピはどのような・・・・・」
憂「隠し味は・・・・・」
昨日より楽しく作れた夕食は、とってもあたたかかった
律「で、今日もお風呂に入ろうと思うんだけど・・・」
憂「・・・・・」
律「い、一緒に入る?」
憂「・・・・・はい」
律「憂ちゃんって髪きれいだよなー」
憂「り、律さんこそ・・・髪下ろしててもいいのに」
律「・・・」
憂「・・・」
律「あ、ありがとう」
憂「い、いえ・・・こちらこそ」
昨日より早くあがったお風呂は、とってもぽかぽかした
憂「今日こそ勉強しましょう!」
律「おー!」
憂「・・・」サラサラ
律「・・・」カリカリ
憂「あのー律さん、ここがわかんないんですけど・・・」
律「憂ちゃんにわかんないものをあたしがわかるわけが・・・」
憂「・・・」ジー
律「わ、わーかったって!で、どこだって?」
憂「エヘヘ・・・えっと、ここなんですけど」
律「あれ、中学違うのに教科書同じの使ってんじゃん」
憂「えっ、そうなんですか?」
律「うん、うちも去年これだったな。さすがに細かいとこは違うとは思うけど」
憂「へー・・・」
昨日よりはかどった勉強は、とってもたのしかった
律「ん~っ!もうこんな時間か」
憂「ふわぁ~あ・・・もうそろそろ寝ましょうか」
律「そうしよっか」
憂「それじゃ・・・おやすみなさい」
律「おやすみ、憂ちゃん」
憂「・・・・・」
律「・・・・・」
律「いや、自分の部屋に戻らないと」
憂「そ、そうなんですけど・・・もうちょっとだけ」
律「仕方ないなぁ・・・ほら、こっちきなよ」
憂「エヘヘヘヘ、ありがとう、お姉ちゃん」
律「ッ~~~~!」
昨日より近づいた距離は、とってもおおきかった
でも。
律(お姉ちゃん・・・なんだよな)
憂(お姉ちゃん・・・なんだから)
その距離は、とってもとおかった
そして。
憂「律さーん、起きて・・・ってあれ?」
律「おはよう憂ちゃん」
憂「今日は早いんですね」
律「ああ、なにしろ今日は休日だからな!休日を満喫するためなら早起きなど朝飯前よ!」
憂「変わった考え方ですね・・・うちのお姉ちゃんは休日は昼まで寝てますよー」
律「さすが唯・・・さて、朝飯作ろっか」
憂「はーい」
律「さて、朝飯後なわけだが」
憂「これからどうしましょうか?」
律「憂ちゃんはどっか行きたいとかない?」
憂「うーん・・・律さんと一緒ならどこでも・・・」
律「ちょっ///そういうこと真顔で言わない///」
憂「あっ・・・すみません///」
律「あ、そうだっ!」
憂「ど、どうしたんですか!?」
律「澪んちに行こうぜ!」
憂「えっ・・・でも澪さんの家って今お姉ちゃんが・・・」
律「そう、唯がいるな。でも、来ちゃ駄目とは言われてない」
憂「そうなんですか・・・?」
律「そうなんだな。今気付いたんだけどさ。で、どうする?ここ数日で唯が変わったかどうか、見てみたくない?」
憂「そうですね・・・」
怖くはあった。もし仮に、お姉ちゃんが既に真面目人間さんになっていたら。その時私はどんな顔でお姉ちゃんに会えばいいのか?
律さんにしたように、甘えてみせればいいんだろうか。ん?律さんにしたように・・・?
律「で、結論は!?」
憂「ひゃい!い、行きます!」
確かめてみよう、この気持ちを。もし同じようにできてしまったら、その時は――
律「ぴんぽーん」
唯「はーい」
澪「開けるな唯!それは律の罠・・・」
唯「え?なに?」ガラガラ
律「おっじゃまっしまーす!」
澪「お、遅かったか・・・」
憂「こ、こんにちは・・・」
唯「おお憂ー!なんだか久しぶりー!」
憂「ほんとだねお姉ちゃん。たった数日なのに・・・」
律「はっはっは、あたしを止められるとでも思っていたのかい、
秋山澪ちゅわん?」
澪「くっ・・・!」
唯「まあまありっちゃん。憂も、ひとまず上がって話そうよ」
律「お、おう・・・」
憂「う、うん・・・」
お言葉に甘えて、上がらせてもらうことにした
お姉ちゃんがてきぱきとよく動く姿は、嘘のようだった
唯「どうぞ、粗茶ですが」
澪「ってうちのお茶だ!」
律「ほお、これはよいお手前で・・・」
唯「オホホ、恐縮でございますわ」
澪「・・・・・」
唯「こちら、手前が直々に焼きましてございます」
律「おおー、パンケーキとな!」
澪「たくさん練習した成果だ、味わって食べるんだぞ」
唯「な、なにもバラさなくても・・・憂もどうぞ~」
憂「う、うん、ありがとう・・・」
お姉ちゃんがそつなく接客をする様は、夢のようだった
唯「とりあえずここ数日の特訓の成果を見てよ!」
澪「ああ、唯のギターは本当にうまくなったよ」
律「へー、楽しみだな憂ちゃん」
憂「は、はい・・・」
人の気も知らないでこの人は・・・
これが終わったら、全部元通り・・・ううん、お姉ちゃんが今の律さんの立場に戻るだけ
でも・・・
『期間限定でも、憂ちゃんのお姉ちゃんになりたい』
―そう言って受け止めてくれた律さんを。そのままお姉ちゃんに挿げ変えるなんて真似、できるわけなかった
憂「・・・ッ!」ダッ
律「あ、憂ちゃん!?」
唯「え、え?何、どうしたの?」
澪「薬が効きすぎたか・・・どうするんだ、律?」
律「もちろん、追っかけるに決まってんだろ!」
澪「ああ、行って来い行って来い。やれやれ、とんだ茶番じゃないか」
唯「まあまあ澪ちゃん。私はけっこう楽しかったよ?」
澪「唯がそういうんならそれでいいか・・・」
唯「ふふっ、でもどうせ二人から連絡があるまでまだ時間あるでしょ」
澪「そうだな・・・せっかくだから寸止めされたセッションでもするか」
唯「イェーイ!私の歌を聞けー!」
律たちが来る少し前。
prrrrrrrr
澪『ん、律からメールだ・・・なになに?』
『これから第三段階に入ろうと思う。唯と準備して待っていてくれ』
澪『まだ早いだろ!って言って聞くような奴じゃないか・・・仕方ない』
澪『ゆいー、お茶の用意だー』
唯『はーい!』
ハァ、ハァ・・・
どこまで走ってったんだ、あの子は?
ん?あの後ろ姿は・・・
律「やっと見つけた!」
憂「ひゃっ!」
唯に似ている、だけど見間違えるはずもない背中
律「髪、解けてるよ」
憂「えっ・・・?夢中で走ってきたから気づきませんでした・・・って!」
律「へへー、捕まえたー」
憂「は、離して下さい!」
胸がズキッと痛んだ。そういや憂ちゃんに本気で拒絶されたのは初めてか・・・
律「なあ、もう終わりにしよう。唯がちゃんと進歩してたのは見ただろ?唯なら受け止めてくれる。あとは唯に―
憂「嫌です!」
律「なんで・・・!」
憂「それじゃ律さんがお姉ちゃんの代わりみたいじゃないですか!」
律「そう、代わりだったんだよ!」
律「今回の件は、ただ二人を姉離れ、妹離れさせるためだけのものじゃなかったのさ」
憂「どういう・・・ことですか?」
律「あたしが、姉離れした憂ちゃんの寂しさに付け込んで仲良くなろう、って・・・そんな計画だったんだ」
憂「嘘ですっ!」
律「嘘じゃない!」
律「この後、家に戻った唯の一人立ちした姿を見て、憂ちゃんは寂しさを覚えて」
律「そこをあたしが・・・って計画だったんだ」
憂「そ・・・んな・・・」
ああ、もう終わったな・・・
やっぱりこんなの最初からやめときゃよかったかなぁ・・・
でも、あたしはけじめをつけなきゃいけないんだ
律「ごめんね憂ちゃん・・・憂ちゃんの気持ちも考えないで」
律「でも、短い間だったけど、本当に妹ができてうれしかったなぁ」
律(本当はお姉ちゃんじゃなくて、ずっと一人の女の子として接したかったけど)
憂「本当ですよ・・私の気持ちも考えないで・・・」
律「ああ・・・どんなに謝っても足りないけど・・・ごめん」
憂「私がどんな思いで妹として接してきたか・・・」
律「本当にごめん・・・」
憂「勝手に私の中に入ってきて!勝手に作り変えていって!挙げ句勝手に出ていくつもりですか!」
憂「そんなの許しませんよ・・・」
律「ごめ・・・ん?」
憂「責任を取って下さい」
律「え?」
憂「お姉ちゃんとしての責任じゃありません」
憂「律さんとして責任を取って下さい」
これは・・・どういうことだ?憂ちゃんは何を言っている?
律「えーっと・・・それはどういう・・・?」
憂「わかりませんか?」
律「皆目」
しばし憂ちゃんはうーんと考えていたが、やがて。
憂「えいっ」チュッ
律「な!?」
律「な、何考えてるんだ!私は憂ちゃんに酷いことを・・・」
憂「確かにびっくりしましたけど・・・それ以上に嬉しかったですから」
律「嬉・・・しい?」
憂「はい!考えてみたんですけど、律さんが本当の計画をバラすメリットって無いですよね」
律「む・・・」
憂「私と仲良くしたいなら、黙って慰めればいい。違います?」
律「う・・・」
憂「そうしなかったのはどうしてかなー、って考えたんですけど」
憂「律さんは誠実でありたかった、んじゃないですか?」
参ったな・・・これは敵わないや
律「降参だよ、その通りだ。あたしは憂ちゃんに嘘をついていたくなかったんだ」
律「だから姉でいることが辛かった、もちろん嬉しくもあったけど」
律「やっぱり一人の女の子として付き合いたかったからさ」
憂「律さん・・・」
憂「私も、ですよ」
憂「私にとってお姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃんで、律さんは律さんだったんです」
憂「お姉ちゃんにはあんなふうに甘えられる気は・・・しないんですよね」
憂「結局、律さんはお姉ちゃんの代わりなんかじゃなかったんですよ」
律「憂ちゃん・・・ありがとう」
憂「お礼を言うのはこっちの方です。この数日、とっても楽しかったです」
ああ・・・確かにもう終わりだったみたいだ
律「それじゃ・・・帰ろうか」
憂「はい・・・」
憂「さようなら、お姉ちゃん」
憂「大好きです、律さん」
律「あたしも大好きだ、憂」
おしまい
最終更新:2010年06月28日 22:55