律「むぎ、やり過ぎだぞ!もうちょっとでとどめをさしちゃうとこだったじゃないか!」

紬「あら」

澪「いやお前がとどめさしてただろ!しかも自分でとどめって言ってたぞ!?」

律「てへ」

梓「――ていうか二人とも何でここに」

紬「そんな事より早くここから立ち去りましょう。留まると面倒だわ」

紬の提案で皆はハッとして慌ててその場から走り去った


バタバタバタ

梓「はぁ、はぁ…」

澪「こ、ここまで逃げてくれば大丈夫だろう」

絡まれた場所から離れた位置にある小さな公園までやって来た

梓(た…助かったぁ…良かった…)

澪「……それにしても、二人ともどうしてあそこにいたんだ?」


律「え?あーえっと」

律(尾行してたからなんて言えねーよなぁ…)

紬「たまたま通りかかったの」

律(!むぎ…)

紬「そしたら澪ちゃんと梓ちゃんが大変な目にあってるでしょ?私もうどうしていいか分からなくってつい…」

律(ついでアレなのか)

紬「とにかく、二人が無事で良かったわ」

梓(…さっきのむぎ先輩怖かったな…でも、)

梓「本当に有難う御座います。むぎ先輩、律先輩」

澪「うん……助かったよ。有難う律、むぎ」

澪(…………)

澪「……ハァッ…」

カクン

梓「み、澪先輩!?」

急にペタンとその場にへたり込んだ澪を見て梓は慌てて駆け寄る

梓「どうしたんですか!?もしかしてさっきの奴に何か…っ」

澪「違うよ…な、何か分かんないけど今更腰抜けちゃったみたいだ…」

梓(澪先輩…)

梓「やっぱり無理して私を庇ってくれてたんですね…先輩…」

澪「そ、そんな事っ」

梓「だって震えてたじゃないですか!」

澪「…っ」

梓「澪先輩怖がりなのにあんな事して無茶過ぎますよ…私……」

澪「あ…梓…?」

梓「私、本当に先輩が連れてかれちゃうと思って怖かったんですから…」

梓「それなのに逃げろなんて言うし、何で………もう二度と、あんな無茶しないで下さい」

澪(梓……)

澪「……ごめん梓、だけどもうしない…なんて言い切れないよ」

梓「どっ…どうしてですか!?」

澪「だって私は梓を守りたかったんだ。……はは、全然守れてなかったけどさ…」

梓「そんな事……」フルフル

澪「確かに私は怖がりかもしれない、けど」

澪「でも私は梓が傷付いちゃう事のほうが怖かったんだよ」

梓「先輩……でも…でもっ…」


言いながらだんだんと梓は涙声になっていく
それに気付いた紬は律の袖をツンツンと引っ張り、こっそりとその場を離れた

律も一度振り返り二人の姿を見つめていたが、踵を返して無言のまま歩き出した


澪「梓……何事もなく助かったんだからそんな顔するなよ…」

梓「…………」

澪「私は先輩なんだから梓を助けなくちゃいけないんだ…それに…」

澪「好きな子を守ろうとするのは当然だろ」

梓「澪せんぱい…!」

きっぱり言い切った澪の言葉と優しい笑顔に梓の目からじわりと涙が滲んだ
顔を隠すように俯いて肩を震わせる梓の頭を優しく胸元に引き寄せ、ぽんぽんと頭を撫でる澪
梓が落ち着くまでの間、二人はずっとそうして一緒に居た



……

律「なぁむぎ…あいつら放っておいてきちゃって良かったのか?」

紬「今、斉藤に電話してこの辺りの警備を強化して貰うように頼んでおいたから多分もう大丈夫よ」

律「ふーん、そっか…」

律「………」

紬(………)

紬「気になる?二人の…ううん、澪ちゃんの事が」

律「な、何でだよ。あはは、むぎはいっつも変な事ばっか言うなー…」

紬「寂しい?」

律「…!!」

穏やかに問い掛けてくる紬に律はパッと顔を向ける
にこにこと微笑む紬の前では何だか隠し事ができないような気がして、かりかりと頭を掻いた

律「んー、どうなんだろ…自分でもよく分かんねー…」

律「…私と澪って小さい頃からいつも一緒だったからさ。それが当たり前みたいになってたとこもあるし」

紬「うん」

律「だから梓を好きって言い出した時はびっくりしたよ。私以外に私以上に大切な奴ができたのかー!って」

紬「うん」

律「正直言ってさぁ、私最初は梓と恋人になるとか言ってもどうせ何にもできねーだろーって思っちゃってたんだよ」

紬「うん」

律「でもさっきの澪、一生懸命梓を守ろうとしてんだもんなぁ……あんな必死な澪の顔、初めて見たよ」

紬「…うん」

律「…だからま、寂しいっていうよりはあいつの成長が嬉しいかもな!あんなの昔の澪からは想像もできないぜぇ」

紬「そうね…うん、澪ちゃんには良かったね」

律「だろ?うん、いやぁー良かった良かった!!」

あははと笑ってみせる律に紬は穏やかに頷く
が、ゆっくりと顔を上げた紬は気遣うような表情で律をまっすぐ見つめた

紬「りっちゃん、無理しなくてもいいのよ?」

律「…は?べ、別に私は何も無理なんかしてないぞーははっ」

紬「…………」

紬(…でもりっちゃん……)

紬「りっちゃん、さっきからずっと辛そうな顔してるんだもの…」

律「!!」

律「は、ははは……何言ってんだよむぎ…誰もンな顔してないって…」

律「………は……」

律「………」

律「………う、うぇ……」

紬「りっちゃん」

律「うっ……うおぉぉぉん、やっぱりざみぢぃよぉぉ……うぇぇぇ」グズグズ

律「みぃおぉぉぉうう……うえーーーーーん!!」

律「…なんでっ、ほかのやづすきになっじゃうんだよぉぉぉぉ」

律「さびじぃよぅぅぅぅぅみおぉぉぉぅ………」


紬「うん、うん。そうだね、そうだね…」

紬の優しい声は余計に涙腺を刺激する
涙と鼻水を流し真っ赤な顔で泣きじゃくる律を励ますように紬は一緒に寄り添っていた


しばらくして

律「いやーーあっはっはっは!泣いた泣いたぁー」ズビビ

紬「落ち着いた?りっちゃん」

律「おうよ!律様をなめんなってぇ、一回泣いたらスッキリしちゃったよっ」

律「…まー、顔はひでぇ事になってるけどな…ははは」

紬(……)クス

紬「そんな事ないわ。りっちゃんはいつでも素敵よ」

律「いや流石にこれはねーだろぉ」ケラケラ

紬「あら、本当にそう思ってるのに」

律「そ……そっか、まぁそう言ってくれると気が楽だな」

紬「ふふふ」

律「っていうか、悪かったなむぎ。こんなのに誘っちゃってさ」

紬「どうして?」

律「いや…何かマジで色々あったし…私も泣いちゃったしさぁ…」

紬「………」

律「ぶっちゃけ今日は迷惑しかかけてねーもんなー、貴重な休みなのにホントごめんな!」

紬「謝らなくていいのよ。私、今日は本当に楽しかったし、嬉しかったんだから」

律「は…?…い、一体何をどーしたら楽しいと仰る……」

紬「だって、りっちゃんと一緒だったんですもの」

律「え…」

紬「じゃあ、また学校でねりっちゃん」

ぽかんとする律に紬はにこりと笑ってみせ、軽く挨拶を済ませると帰っていった
取り残された律はしばらくぽつんとその場に佇んだままでいた

律「…………………ん?」




……

と澪のほうもそろそろ落ち着いていた
というかいつの間にか二人を取り囲むように近所の子供達がじーっと見ていたので慌てて逃げ出したのだったが

タッタッタッ

梓「あわわわ……何かえらいとこ見られちゃいましたね」

澪「うん…子供の純真な目って結構刺さるんだな…」

梓「………」

澪「………」

梓「………」

澪「………」

梓「………」クス

澪「………」プッ

二人『―――あはははっ!』

澪「なっ、何笑ってるんだよ梓……ははっ」

梓「ふふ、先輩こそ笑ってるじゃ…フッ、ないですかっ」

澪「だって今日は何かもう色々あり過ぎて」

梓「ですよね。もうテンションがおかしくなっちゃってます」

二人は顔を見合わせて笑い合う

澪「ふふっ……なぁ梓」

梓「はい?」

澪「キスしていいか?」

梓「はい!?」

澪「テンションに任せてるみたいで悪いけど、今どうしても梓にキスしたいんだ」

梓「で、で、でもそんなの、うんなんて言えませ……///」

梓(――…って…)

梓の返事を聞くまでもなく、澪はゆっくり顔を近付けてきた
びっくりして目をぎゅっと閉じた梓の瞼の上に柔らかい感触がそっと触れた


チュ


梓(あ……)

梓「……///」

澪「……今日は手を繋いで帰ろう?」

梓「…はい」

澪「私の手、大きくてちょっと恥ずかしいんだけどさ」

梓「え。でも、私は澪先輩の手好きですっ」

澪「そっ、そうか…///」

澪「それじゃ……繋ぐからな」キュ

梓「はいっ」ギュッ

澪(幸せだぁ……)



9
最終更新:2010年07月03日 04:50