翌日…。

?「…おい律、起きろ」

律「…んぁ…?」

心地良い眠りを妨げる知った声が聞えると共に身体を揺さぶられる。あれ?昨夜は部屋に鍵掛けたよな?

…って、そうか、夜明け前に一回目が覚めてトイレ行ったんだっけ…。そのままだったな…。

?「いい加減に起きろ!もう昼前だぞ!約束どうすんだよ!」

あまりのしつこさに薄く目を開けてみると、そこには怒った顔で私を覗き込んでいる澪の顔があった。

律「…あれ…?澪?こんな朝からどったの?」

すると澪は私の目の前に目覚まし時計を突きつけると。

澪「朝じゃない!もう昼前だ!買い物行く約束だろ!」

なんだっけ?そんな約束していたようなしなかったような…。だがそんな事よりも…。


律「澪~!とりゃー!」

澪「うわっ!」

私の身体を揺さぶる澪の手を掴むと、そのままベッドに引きずり込む。

律「み~お~、…お前が欲しい」(キリッ)

澪「なっ!寝ぼけてるのか律!って何だその格好は!殆ど半裸じゃないか!」

昨夜、汗やら何やらで汚れた衣類は全て洗濯機に投入済みである。今私が身に着けているものは下着に大き目のTシャツのみ。

律「セクシーだろ?澪も一緒にどうだ~?」

この瞬間、確かに私は半分寝ぼけていたのかも知れない…。寝ぼけていたからこそ悪ふざけのリミッターも外れていた。

律「ほら、澪も脱いじゃえ!」

澪「いい加減に…」

…あれ?怒らせたかな?

澪「起きろーっ!!」

澪の怒りゲージが振り切れると同時に、頭頂部にたんこぶを作ってベッドに崩れ落ちる私の姿がそこにあった…。



昼下がりの商店街…。

律「お~、痛ててて…。まだ痛いよ澪~」

頭頂部を擦りながら隣を歩く澪に話しかける。

澪「あれは律、お前が悪い。何をどうやったら目覚めて直ぐにセクハラ行動とれるんだ?」

律「いや~、面目ない…自分でも何したか記憶が曖昧なんだ、はっはっはっ!」

澪「笑い事で済ませれるその精神が凄いよ…」

お互い、目的の夏のバーゲンで買った服を持って商店街の他の店を見て回る。

そう言えば慌てて出て来たから昼ご飯すら食べてないや。

律「な~澪。どこかで何か食べない?」

澪「そうだな、もう昼も過ぎたし…。何食べるんだ?」


↓ハンバーガーorファミレス


※ファミレス



律「う~ん、お金もそんなに余裕無いし…、だけど色々食べたいし…」

澪「ならファミレスでいいだろ、ほら、私さっきの買い物で割引券とか貰ったし」

律「おお、澪ナイス!じゃあ行くぜ!」

いつも買い物帰りとかに立ち寄るファミレスに入り、私はピザとケーキを、澪はパスタを注文する。もちろん双方ドリンクバーでまったりする態勢だ。

律「ん~、空きっ腹に沁みるなぁ…」

澪「ちょ…!恥ずかしいぞ律!」

大きな口でピザにかぶりつく私を澪が制止する。だけどそんな事言われてもお腹空いてるのは事実だし…。

律「そんな事言うなよ澪ー、ほら、一口やるからさ」

そう言ってピザを一切れ手に取ると、澪に差し出した。

律「ほら、あーんしろ!あーん!」

澪「ちょ、だから…!」

律「え~?ほら、今は誰も見て無いからさ、ほれほれ」

口元に押し付けるようにピザを更に差し出す。

澪「~…」

やがて観念したのか、澪は小さく口を開けると私の差し出したピザを齧った。

澪「んむ…、ん~」

お約束のようにチーズが伸びて澪は少し困った顔をしたが、それでも何とか一切れを全て完食した。

澪「…おいしい…」

照れたように私にそう言う澪。

律「じゃあ澪、そのパスタ一口私に食べさせて!」

私は口を開けて澪のパスタをねだる。どんな反応するか楽しみだ。


澪「え…?むぅ…、仕方ないな…」

以外にも澪は素直に従ってくれた。手にしたフォークで器用にパスタを絡め取ると、そのまま私の口に入れてくれる。

律「ん~、美味しい!私もコレ頼めばよかった」

澪「同じもの頼んだらこんな事をする必要は無かったな」

律「ん~、それは違うぞ澪~!こうやってお互いの足りないモノを補ってこその友情だと思わんかね?」

澪「いや、訳が分からないし…」

律「ほほぅ?間接キッスすら済ませたこの友情が分からないと申すか」

私は意地悪な言動をする。勿論澪の真っ赤になった顔が見たいが為だ。

澪「なっ!何で間接キッスとか出て来るんだよ!」

案の定、澪は顔を真っ赤にして反論してきた。

律「そう、先程の澪が私に食べさせてくれたそのフォーク!それはさっきまで澪が使っていたモノ。違うかね?」

探偵モノのドラマのように、証拠となったフォークに指を突きつける。

澪「はっ!そういえばそうだった!」

脳内で効果音等を再生し、アリバイを崩されてショックの澪を演出しようとしたその時。

店員「お待たせしました~、ご注文のケーキです~」

律「おっと、ケーキはこっちね店員さん!」

脳内BGM再生はあっけなく中止になった。



夕方…。

駅前で澪と別れ、苛烈なバーゲンでの戦場で勝ち取った服を抱えながら帰宅する。

律「いやー、今日は大収穫だったなー」

自室の鏡の前で買ってきた服に着替え、既に持っていた他の衣裳と合わせながら昼間の事を思い出す。

律「あの時の澪の顔、間接キッスとか言ったら本当に…」

律「… … …」

思い出して、何だか急にこっちが恥ずかしくなってきた…。そしてさりげなく指で自分の唇に触れる。

律「な、何なんだよ…もう…」

ファーストキスですらまだ未経験なのに、間接とは言え意識したその相手が親友の澪。

律「む…、う~ん…」

だが、何となく悪くは無いとか思ってみたりした…。


鏡を見る…。

自分の唇。澪と間接…。

今まで意識などしてなかった分、澪との関係を改めて考えると凄い事だと思う。同性とは言え、家族以外で一番長く付き合ってきたのだ。

もし澪が男だったら、その関係はどうなっていたのだろう?

律「なんてなー、それを言ったら唯と和の関係なんか私達以上だよな!ははははー!」

鏡の前で笑う。

だが、その笑いは自分を納得させる為の無理やりな笑いであった。


…あと、部屋の前を通りかかった聡が『ねーちゃん、気持ち悪いぞ』とか言ったのでとりあえず殴っといた。



夜…。

家族揃って…と言いたいものの、今日は父親が残業で帰りが遅くなり、母親は町内会の行事で今は家に居ない。

律「聡、ねーちゃんご飯作るけど何か食べたい物あるかー?」

姉として弟の面倒は見る。だが当の聡は私の腕をあまり信用していないらしく、『インスタント』の何かでいいとか、チクショウ。

取り合えずレトルトのカレーを温めて食事を済ませ、先に聡を風呂に入れてその間洗い物を済ます。

そして洗い物が終わったと同時に、聡が風呂から上がった。

律「さてと、それじゃあ私も入ってサッパリするかー」


湯に浸かりながら鼻歌を歌い、今日一日の汗を流す。

そして何となく鼻歌を止めて耳を澄ますと、居間からそれなりの音量で聡がゲームを始めたのが分かった。

律(あーあ、こりゃ暫く熱中するな…)

ちょっとだけ観たい番組があったが、そうなると弟と居間の大画面を争う事になる。まぁ今回は聡の勝ちにしておくか…。

今度は鼻歌を混じりにスティックを操るように手を動かす。お風呂に入るときの日課だ。

律(そういえば合宿の時に見た澪の胸…、あれはまた育ったな)

どうでもいいことを思い出し、そして自分の胸と比較してみて少しへこんだ。

律(うう、唯もああ見えて私よりはあるし…、もう仲間は梓だけだ!)


律(揉めば大きくなるとか言うけど…あれマジなのか?)

さりげなく湯船の中で自分の胸を触ってみる。

律(あっはっはっは…、澪の半分ぐらいしかねーよ)

それでも多少は鯖を読んでみる。…悲しくなった。

律(まぁ、これでも一年の頃に比べたら多少は増量してるんだがなぁ…)

自分の胸を揉みながら一人思う。

律(やっぱエロくないと大きくならないのか?)

女性ホルモンとかそう言った話を思い出す。関係あるようなないようなレベルの話だが。

(さわさわ…もみもみ…)

律(何だか…、変な気持ちになってきた…)


↓もっと揉むor風呂から出る


※もむ



律(うん、やっぱ温めながらマッサージ…だよな)

強弱をつけて揉み始める…。

律(… …んっ…)

寄せて、上げて、下から掬い上げるように…。

律(んっ…、ふぅ…)

手の平で乳首が擦れて気持ちいい。

律(やっぱ、大きいのっていいよ…な)

脳裏には何時の間にか澪が浮かんでいた。


やがて胸を揉むその手が、そのまま下の方に移動しようとしたその時。

母「律ー?入ってるの?」

律「うわっ!…は、入ってるよ」

帰ってきた母の声によって現実に引き戻された。

律(…仕方ない…、続きは部屋で…)

そう思いつつ、湯船から出た瞬間…。

律「…あれ…?」

急に目が回り、足から力が抜けてそのまま床にへたり込んでしまった。

母「もう、一体どれだけお風呂に浸かってたのよ…」

湯当たりを起こして倒れた私は、部屋でデコにヒエピタ貼って寝かされていた。

律「うう~」

母「まぁ処置はしたし、暫くしたら復活できるわよ。それまで大人しく身体休めときなさい」

何してんだろ私…。それよりも明日は皆揃っての練習だし、しっかり回復させないとな…。


翌朝、しっかりと休息を取ったおかげか予想以上に早く目覚めてしまう。

おかげで午前中には家でやるべき事は全て終え、学校に行くまで暇を持て余す事になってしまった。

律「どうしようかな…、ちょっと早いけど部室に行ってみようか?」




コマンド

部室に行く

行かない




※行く!



律「…はぁ…」

やはりというか、流石に部室には誰も来ていなかった。

律「やぁ、トン」

あまりに静かで暇だったので、軽音部のマスコットであるスッポンモドキのトンちゃんに話しかける。

律「ほーら、餌だぞー、たんと食えー。それと私昨日湯当たりで倒れたんだぜー?」

だがトンは餌を食べるのに夢中で、律の事などこれっぽっちも眼中には無かった…。

律「べ、別に…、亀に分かってもらおうとは思ってないやい…」

そう言ってから律は何気なく部室を眺めた。

律「静かだな…」


校庭や中庭からは運動部や体育会系文化部の練習の声や音は聞こえるものの、この軽音部だけは限りなく無音に近かった。

律「そう言えば、最初は私と澪だけだったんだよな…」

懐かしい記憶が甦る。私が半ば無理やり澪を軽音部に誘ったんだよな…。

その後にムギが来て、そしてカスタネットしかやったことの無い唯が来て…、さわちゃんが顧問になってくれて、そして何とか形になって…。

長椅子に横たわる。

律「で、梓が入学してきて…」

だんだんと眠くなってくる…。そして静かに寝息を立て始めた…。



……

澪「… … …」

部室に行くと、珍しく律が一番最初に来ていた。しかも寝てるし…。

澪「おい律、起きろ」

揺さぶって起こそうとしたが、前回の事もあってか躊躇してしまう。

澪「律~、朝だぞ~起きろ~」

律「…ん~…」

澪(…流石に寝顔は可愛いな)

悪戯心が芽生えた私は、律の耳元でそっと囁いた。

澪「あんまり寝坊すると、悪戯しちゃうぞ~?」

軽くその頬を突付きながら、その寝顔を観察した。


律「…ぁぅぅ…、ゴメンよ澪~…」

澪(プッ…、寝言か?今の)

夢の中で私に説教でもされているのか、聞き取れないぐらいの声で情けない声を出す律。

澪(って、夢の中でも私の役どころって怒ってるのか)

律「…軽音部…、作ったのに…辞めないでょ~澪~」

どうやら、夢の中で私は軽音部を辞める事になっているようである。

澪(辞める訳ないだろ、私は皆の居るこの軽音部が大好きなんだから)

律の頬を突付くのを止め、その手で優しくその頭を撫でた。

律「澪の事…が…好きなのに…」

澪(…え?)


思わず聞き返そうかと思った。

律「… … …」

だけど、それ以降律は寝言を発する事なく寝息を立てるだけだった…。余程悪い夢だったのか、その目には薄っすらと涙が浮かんでる。

澪「…律…」

澪は寝ている律の頭の横に座ると、他の皆が来るまでその頭を撫で続けた…。

澪「…ずっと一緒だよ、律…」


何だか悪い夢を見ていたような気がした。夢の内容はもう思い出せない…。

だけどその悪夢は急に終わり、非常に穏やかなモノに変わったのだけは理解できた。まぁ気にはしないでおこう。夢だし…。

そしてゆっくりと、そして静かに目が覚めた…。

律(… … …)

はい、自分はまだ夢の中に居るようです。だって、澪が寝ている私の横に座って頭撫でてくれてるんだぜ?

律(絶対にこれ夢だろ?な?皆?)




コマンド

 うん、夢

 いやっ…これはっ…紛れも無いっ…現実っ!





※いちばち 夢



律(そうだよなー、澪が私にここまで優しいって無いよなー)

これは夢。そう結論付けた私は暫くこのまま澪の手の感触を感じる事にした。

律(うん、いい気持ち…)

時折鼻歌交じりに私の頭を撫でる澪。目を瞑っていてもその姿は想像出来るし、そしてその手からは澪の優しさが伝わってくる。

律(やっぱ、澪って可愛いよな…)

無意識に私の手が伸び、澪の手を掴もうと宙を彷徨う。

澪「…?」

そしてその手に気付いた澪は、優しくその手を握ってくれた。

澪「…起きたのか?」


↓まだ寝たふりor起きる


※寝たふり



律「… … …」

澪「まだ寝てるのか…」

澪はクスッと笑うと、私の手を握ったまま再び鼻歌を歌いだした。

律(こういうのって…、いいな)

凄い安心感。澪になら全てを委ねていいと思い始める。

律(流石は夢、現実ではこうはならないよな~)

目を瞑ったまま、ほんの少しだけ身体を動かして頭を澪の太ももの方へと移動させる。

澪「…もう…」

困ったような澪の声。だけど次の瞬間には私の頭を持ちあげ…、そして太ももの上へと…。

律(ふぉぉぉっ!まさかの膝枕…!)

何かもう…、妄想がそのまま具現化した夢すぎて、私実は死んでしまってるのか?とか思った。ほんと天国のような感触。

律(ああ、もう目覚めたくないよなー)


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最終更新:2010年07月05日 03:19